73:温泉
観光。
冬。
クルザード都市北部。
山沿い。
白い湯気が森の中から立ち昇っていた。
熱。
硫黄の香り。
蒸気。
雪景色の中。
大量の人間が並んでいる。
「……本当に湧いてる」
「しかも熱い!」
「広っ!」
移民達が驚いていた。
その中央。
巨大露天風呂。
石造り。
湯気。
木製通路。
雪。
灯り。
静かに流れる温泉水。
クルザードは岩場に腰を下ろしながら温度を確認した。
「ちょうどいいな」
横。
ティグリスが肩まで浸かりながら笑う。
「最高だなこれ……」
「身体軽い」
獣人は寒さに強い。
でも。
温泉は別。
筋肉疲労が抜ける。
血流が良くなる。
つまり。
戦士向け。
そこへ。
ジェシカが湯気越しに呟く。
「薬効もあるわね」
「皮膚治療にも使える」
クルザードは頷いた。
「観光だけじゃない」
「医療も兼ねる」
それだった。
この都市。
全部が合理。
温泉も同じ。
ただの娯楽じゃない。
疲労回復。
治療。
定住促進。
経済。
全部繋がっている。
三日前。
クルザードは山脈地下を鑑定していた。
情報量。
膨大。
頭痛。
吐き気。
視界が歪む。
でも。
その中に。
『高熱地下水脈』
を見つけた。
つまり。
温泉。
そこで。
土魔法。
石魔法。
水操作。
全部使った。
地下水脈制御。
湯量固定。
温度安定。
さらに。
水路接続。
結果。
巨大温泉街完成。
しかも。
無料区域あり。
安価宿あり。
高級旅館あり。
全部分けた。
だから。
客層が広い。
夕方。
温泉街。
完全に別世界だった。
木造旅館。
提灯。
湯気。
酒。
焼き魚。
味噌鍋。
雪景色。
観光客が笑っている。
「やばい……」
「王都より楽しいぞここ」
「飯うめぇ……」
それ。
最大の強み。
温泉だけでは弱い。
でも。
食がある。
つまり。
滞在時間が伸びる。
宿泊費。
飲食費。
土産。
全部落ちる。
経済が回る。
ヴァレリアが帳簿を抱えながら青ざめていた。
「おかしい……」
「利益率がおかしい……」
理由。
物流。
保存。
供給。
全部クルザード都市側で完結している。
だから。
材料費が異常に安い。
つまり。
利益が爆発する。
旅館街。
獣人の女将が笑っている。
「満室です!」
「三日先まで!」
横。
エルフの薬湯施設も混んでいた。
回復効果。
筋肉疲労。
怪我治療。
冒険者達が並んでいる。
「ダンジョン帰りに最高だ……」
「傷治るの早ぇ」
そこへ。
デニーゼが静かに言った。
「医療費も減る」
「衛生状態も改善する」
その通り。
温泉文化。
つまり。
身体を洗う文化。
この世界。
風呂文化が弱い。
だから。
病気が広がる。
臭う。
不衛生。
でも。
クルザード都市は違う。
風呂がある。
温泉がある。
つまり。
清潔。
結果。
子供死亡率が下がる。
病気減る。
寿命伸びる。
人口増える。
国家強化。
全部繋がっている。
夜。
温泉街中央。
食堂。
巨大囲炉裏。
干物が焼ける。
脂。
香り。
酒。
味噌。
完全に暴力。
ドワーフ達が騒いでいる。
「酒追加!」
「鍋も!」
「肉も!」
横。
商人達が真顔だった。
「……終わったな」
「何がだ?」
「他国の宿場町」
実際。
そう。
普通。
宿場町は通過点。
寝るだけ。
でも。
ここは違う。
目的地。
つまり。
観光地。
そこが強い。
さらに。
物流。
道路。
治安。
全部強い。
だから。
貴族まで来る。
その夜。
高級旅館。
伯爵家の一団が静かに温泉へ入っていた。
年老いた貴族が目を閉じる。
「……身体が軽い」
側近が驚く。
「本当に効いております」
「しかも飯が美味い」
それ。
決定打。
快適。
美味い。
安全。
つまり。
戻りたくなくなる。
マチルダが静かに呟いた。
「これ、外交にも使えるわね」
クルザードは頷く。
「戦争より安い」
その通り。
敵を殴るより。
快適を与える方が強い。
理由。
人は戻れなくなる。
王都の硬いパン。
臭い宿。
汚い風呂。
戻れる訳がない。
深夜。
露天風呂。
雪。
静寂。
クルザードが空を見上げていた。
湯気。
星。
遠くで笑い声。
ティグリスが隣に座る。
「……街、変わったな」
「ああ」
「ここまで来ると思ったか?」
「思ってない」
クルザードは静かに言う。
「でも、人は快適を求める」
「だから作った」
それだけ。
単純。
でも。
強い。
翌朝。
さらに馬車が来る。
観光客。
冒険者。
商人。
移民。
全部増える。
理由。
『温泉がある』
しかも。
『飯が美味い』
それが国家規模で広がり始めていた。
そして。
温泉街完成により。
クルザード都市は。
『住む街』から。
『来たい街』へ変わり始めていた。




