71:冒険者学校
供給。
朝。
クルザード都市。
以前は土と木しかなかった辺境が、今では完全に別物になっていた。
石畳。
整備された水路。
蒸気を上げる食堂。
焼きたてパンの香り。
物流ゴーレムが荷を運び、子供達が笑いながら学校へ向かう。
人がいる。
仕事がある。
飯がある。
だから。
さらに人が集まる。
都市の外周。
巨大な建築物が完成しつつあった。
三階建て。
訓練場付き。
宿舎付き。
医療棟付き。
さらに。
食堂まである。
入口には巨大な看板。
『冒険者学校』
その文字を見上げながら、ヴァレリアが苦笑した。
「本当に作ったのね」
「普通、冒険者って現場叩き上げでしょう?」
クルザードは図面を見ながら答える。
「効率が悪い」
「死にすぎる」
「才能が埋もれる」
正論だった。
この世界の冒険者は雑だった。
強い奴だけ生き残る。
つまり。
大量に死ぬ。
教育がない。
知識共有がない。
だから。
再現性がない。
クルザードはそれを嫌った。
「供給を安定させる」
「前衛」
「斥候」
「回復士」
「魔法使い」
「全部不足してる」
「育てる」
マチルダが腕を組む。
「軍学校に近いわね」
「違う」
クルザードは首を振る。
「生活も教える」
「読み書き」
「衛生」
「料理」
「保存食」
「地図」
「応急処置」
「全部必要だ」
冒険者。
つまり。
移動職。
物流。
治安。
ダンジョン。
全部に関わる。
なら。
雑に扱う方が損だった。
訓練場。
木剣の音が響く。
マティルデが新入り達を叩き直していた。
「足を止めるな!」
「止まった瞬間に死ぬ!」
獣人の少年が吹き飛ばされる。
でも。
以前の世界と違う。
治療がある。
デニーゼが即座に回復。
「次!」
死なない。
つまり。
学習効率が高い。
エリザベスは騎士剣を肩に担ぎながら笑う。
「ここ、普通の騎士学校より厳しいわよ」
「でも飯が美味い」
そこだった。
昼。
食堂。
巨大鍋。
肉。
野菜。
味噌。
湯気。
焼きたてパン。
香草焼き。
スープ。
全員が目を輝かせる。
「……うま」
「肉入ってる……」
「毎日?」
「本当に?」
辺境では普通。
肉なんて滅多に出ない。
でも。
ここでは出る。
理由は簡単。
物流。
保存食。
農地改善。
家畜管理。
全部成功している。
つまり。
供給できる。
クルザードは厨房に立ちながら鍋を混ぜる。
「ちゃんと食え」
「動けなくなる」
新人達が慌てて頷く。
ジェシカが薬草箱を整理しながら笑った。
「完全に餌付けね」
「効率的だ」
否定しない。
飯は強い。
安心感になる。
居場所になる。
だから。
人が残る。
午後。
座学。
地図。
魔物。
解体。
毒草。
水源。
輸送。
さらに。
ダンジョン講義。
ドロテアが黒板へ魔法陣を書く。
「魔力は流れで扱う」
「無理に押すと暴走する」
真剣。
以前の冒険者達にはなかった光景。
つまり。
知識共有。
再現。
教育。
これが革命だった。
ステファンが新人達の前に立つ。
「拳は感覚じゃない」
「重心だ」
「腰を使え」
獣人。
人間。
エルフ。
混ざっている。
差別がないわけではない。
でも。
ここでは。
役割が優先される。
つまり。
能力主義。
だから機能する。
夕方。
実戦訓練。
模擬ダンジョン。
土魔法で形成された人工迷路。
カタリナが新人達へ指示する。
「音を聞け」
「前だけ見るな」
「罠を見落とす」
新人達が進む。
焦る。
止まる。
失敗する。
でも。
死なない。
学べる。
これが大きかった。
クルザードは上階から見下ろしていた。
マチルダが隣へ来る。
「恐ろしいわね」
「何がだ」
「人材供給を始めた」
それだった。
国は。
結局。
人。
食料だけでは回らない。
技術だけでも足りない。
人材。
それが必要。
クルザードはそこに手をつけた。
「冒険者が増える」
「物流が増える」
「護衛が増える」
「交易が増える」
「街が増える」
全部繋がる。
マチルダは静かに息を吐く。
「周辺国家、終わるわよ」
事実だった。
辺境国家クルザード。
今。
最も危険なのは軍事力ではない。
再現性。
教育。
つまり。
“増殖”。
夜。
酒場。
新人達が笑っている。
「俺、絶対ここ残る」
「飯うまいし」
「風呂あるし」
「給料出るし」
「死ににくい」
普通なら当たり前。
でも。
この世界では違う。
だから。
強い。
ティグリスが肉を噛みながら笑う。
「完全に定住コースだな」
「いいことだ」
クルザードは酒を飲みながら答えた。
窓の外。
灯り。
道路。
巡回。
物流ゴーレム。
人。
止まらない。
さらに。
翌朝。
長蛇の列。
冒険者学校入学希望者。
数百。
ヴァレリアが頭を抱えた。
「増えすぎ!」
「宿舎足りない!」
ドワーフ。
獣人。
流民。
没落貴族。
全部来る。
理由。
簡単。
ここなら生きられる。
それが広がった。
クルザードは鑑定を発動する。
情報。
大量。
以前なら潰れていた。
でも。
今は違う。
必要人材。
適正。
危険性。
分類。
整理。
意味を持つ。
「木工職人、左」
「薬草知識あり、医療棟」
「剣経験者、実技へ」
「犯罪歴持ちは別室」
流れる。
止まらない。
完全合理。
だから速い。
ティグリスが笑う。
「お前、人間やめてるな」
「効率化しただけだ」
クルザードは平然としていた。
でも。
周囲は理解し始めていた。
この男。
戦闘だけじゃない。
国家運営そのものが異常。
昼。
新校舎建築。
土魔法。
石魔法。
ガルドの鍛冶。
アランの金属制御。
全部同時進行。
建築速度がおかしい。
さらに。
水路も伸びる。
農地も増える。
物流も止まらない。
つまり。
都市成長速度が異常。
夜。
屋上。
マチルダが街を見下ろしていた。
「もう都市国家ね」
「まだ小さい」
「感覚壊れてるわよ」
笑う。
でも。
事実。
普通の国家なら数十年。
クルザードは数年でやっている。
理由。
全部繋げているから。
食。
教育。
物流。
戦闘。
治安。
全部別々じゃない。
一つの流れ。
だから。
強い。
クルザードは街を見下ろす。
灯り。
笑い声。
湯気。
生きている。
そして。
さらに人が来る。
冒険者学校。
それは単なる施設ではなかった。
“人材生産装置”。
国家拡大の心臓。
つまり。
供給革命だった。




