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飯が美味すぎて、気づけば世界を支配していた。 ~無限魔力の料理人、物流と教育で最強国家を作る~  作者: 慈架太子


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41/106

41:病気減少

 死亡率低下。


 雪解けが始まっていた。


 朝。


 村の外縁を流れる水路から、冷たい水音が聞こえる。


 以前なら、この季節は最悪だった。


 冬を越えた者達の身体は弱る。


 保存食は尽きる。


 水は濁る。


 傷は腐る。


 咳が広がる。


 熱が出る。


 そして、子供が死ぬ。


 辺境では、それが毎年の“普通”だった。


 だが今年は違った。


 診療所。


 デニーゼは帳簿をめくる手を止めていた。


「……減ってる」


 隣でジェシカが薬草を乾燥させている。


「何が?」


「死者」


 静かな声だった。


 だが重い。


 冬を越えた直後。


 本来なら最も人が死ぬ時期。


 それなのに。


「熱病三件」


「重症ゼロ」


「肺病悪化なし」


「下痢激減」


「傷口化膿ほぼ無し」


 ジェシカが目を細める。


「異常ね」


「普通じゃない」


「普通じゃないことをやってる」


 デニーゼは苦笑した。


 それはそうだった。


 石鹸。


 風呂。


 煮沸。


 水路。


 保存食。


 発酵食品。


 塩管理。


 冷却庫。


 全部が繋がっている。


 しかもクルザードは止まらない。


 診療所の奥。


 クルザードは木板へ何かを書いていた。


 人口。


 食料。


 病気。


 年齢。


 労働率。


 死亡率。


 数字が並ぶ。


 マチルダが呆れた顔をする。


「あなた、本当に料理人?」


「料理人」


「でも国家運営してる」


「飯で全部変わる」


 クルザードは木板へ印を付ける。


「栄養不足減少」


「病気減少」


「労働力上昇」


「出生率上昇」


「人口安定」


 マチルダが息を吐いた。


「怖いくらい合理的ね」


「普通の領主は税しか見てないわよ」


「死なれたら税も消える」


 その通りだった。


 人が死ぬ。


 労働が減る。


 畑が荒れる。


 物流が止まる。


 治安が悪化する。


 国家が痩せる。


 辺境国家が弱い理由の大半はそこだった。


 人を使い潰す。


 だから育たない。


 クルザードは逆だった。


 人を生かす。


 だから増える。


 昼。


 共同食堂。


 湯気が立つ。


 肉と根菜の味噌鍋。


 焼きたてパン。


 発酵乳。


 燻製肉。


 子供達が並んでいた。


 以前は痩せていた顔が変わっている。


 頬に色がある。


 目が生きている。


「おかわり!」


「今日はパン多い!」


「肉入ってる!」


 ティグリスが豪快に笑う。


「よく食うようになったな!」


「前は遠慮してたのによ!」


 子供達が笑う。


 その光景を見ながら、ヴァレリアが呟いた。


「商売ってさ」


「結局、“人が生きる”ところに集まるのよね」


 村へ商人が増えていた。


 理由は単純。


 人が死なない。


 つまり市場が消えない。


 これは商人から見れば異常だった。


 辺境は不安定。


 疫病。


 飢餓。


 盗賊。


 冬。


 全部が物流を止める。


 だがこの村は違う。


 道路整備。


 水路。


 保存。


 警備。


 衛生。


 しかも飯が美味い。


 人が逃げない。


 むしろ集まる。


 だから商売になる。


 村外。


 新しい荷車が到着する。


 獣人。


 人間。


 痩せた親子。


 荷物は少ない。


 目だけが死んでいる。


 門番役のマルセルが止める。


「どこから来た」


「北の開拓村だ……」


「冬で三十人死んだ」


「子供も……」


 声が掠れていた。


 ティグリスが奥歯を噛む。


 珍しく怒っている。


 クルザードは静かに近付いた。


「働けるか」


 男が顔を上げる。


「……働く」


「何でもやる」


「食えるなら」


 クルザードは頷いた。


「住居出す」


「飯出す」


「仕事振る」


「子供は先に診療所」


 親が固まる。


「……え?」


「いいのか?」


「死なれる方が損」


 マチルダが苦笑する。


「この男、本当に人助けを損得でやるわね」


「効率良い」


「結果的に優しいからタチ悪いのよ」


 だが、その合理は確かだった。


 人口流入。


 労働増加。


 市場拡大。


 防衛力上昇。


 全部繋がる。


 しかも“生存率が高い”という噂は、辺境では何より強い。


 夕方。


 診療所。


 デニーゼが子供の胸へ手を当てる。


 咳。


 軽い熱。


 栄養不足。


 だが助かる。


 以前なら無理だった。


 発酵乳を飲ませる。


 温かいスープ。


 身体を洗う。


 清潔な布。


 薬草。


 暖房。


 それだけで変わる。


 子供が眠った。


 母親が泣き崩れる。


「ありがとう……」


「この子、もう駄目だと思って……」


 デニーゼは少し黙った。


「ここ、死ににくいから」


 その言葉は噂になった。


 死ににくい村。


 冬を越せる村。


 子供が生きる村。


 夜。


 会議所。


 クルザードはまた数字を見ている。


【人口増加】


【出生率安定】


【死亡率低下】


【感染抑制成功】


【食料安定域到達】


 頭へ情報が流れる。


 眩暈。


 熱。


 だが理解できる。


 以前は情報に潰されていた。


 今は違う。


 使えている。


 意味を持ち始めている。


 ガルドが酒を飲みながら笑う。


「お前さん、本当に変な奴だな」


「剣強ぇ」


「魔力化け物」


「料理上手ぇ」


「なのにやってることが便所掃除と石鹸作りだ」


 全員が笑った。


 クルザードも少しだけ笑う。


「そこ重要」


「病気減る」


「兵士増える」


「職人死なない」


「子供育つ」


「全部強さ」


 ガルドが黙る。


 そして低く呟いた。


「……ああ」


「確かにな」


 強い国とは何か。


 軍か。


 魔法か。


 違う。


 生き残ることだ。


 人が増えることだ。


 技術が継承されることだ。


 クルザードはそこを見ていた。


 夜更け。


 共同浴場。


 雪解け水の冷たい風。


 それでも浴場は暖かい。


 湯気。


 笑い声。


 石鹸の香り。


 ティグリスが子供達を洗っている。


「こら暴れるな!」


「泡入る!」


 子供達が笑う。


 以前の辺境では考えられない光景だった。


 汚れ。


 飢え。


 死。


 それが当たり前だった世界。


 そこへ“清潔”が来た。


 “安心”が来た。


 そして人は変わる。


 諦めなくなる。


 未来を考え始める。


 クルザードは湯を見つめる。


【国家基盤安定】


【人口維持成功】


【村発展補正】


【生活文明段階上昇】


 静かに情報が流れる。


 まだ始まりだ。


 だが確実に変わっている。


 この村はもう、“生き延びるだけの場所”ではない。


 人が未来を考え始める場所へ変わり始めていた。







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