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飯が美味すぎて、気づけば世界を支配していた。 ~無限魔力の料理人、物流と教育で最強国家を作る~  作者: 慈架太子


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39:子供達

 未来。


 雪が降っていた。


 静かな雪だった。


 空を埋めるように落ちる白が、村の屋根をゆっくり染めていく。


 以前なら、この季節は沈黙の季節だった。


 人が減る。


 声が消える。


 冬は生存そのものだった。


 辺境では、冬を越えるという言葉が“何人死ぬか”と同義だった。


 だが今、この村には音がある。


 笑い声。


 足音。


 鍋の煮える音。


 パンを焼く音。


 木を削る音。


 そして子供達の声だった。


「先生ー!」


「ここ違うー!」


「字が曲がったー!」


 木造の建物から騒がしい声が響く。


 クルザードはその建物を見上げた。


 村の中央。


 以前は空き地だった場所。


 今は“学び舎”になっている。


 学校。


 まだ小さい。


 机も粗い。


 椅子も手作り。


 窓には僅かな隙間風がある。


 それでも、この世界では異常だった。


 辺境で子供に文字を教える。


 普通はありえない。


 農民の子は畑へ行く。


 冒険者の子は荷物を持つ。


 孤児は死ぬ。


 それが世界だった。


 クルザードは違った。


「読み書きできないと、管理が育たない」


 それだけだった。


 感傷だけではない。


 文字を読める人間は強い。


 記録できる。


 数えられる。


 契約できる。


 騙されにくい。


 教育とは戦力だ。


 マチルダが黒板を見ながらため息を吐く。


「辺境で学校作る男、初めて見たわ」


「普通は食料優先よ」


「してる」


 クルザードは即答した。


「食料も教育もやる」


「片方だけだと崩れる」


 マチルダは苦笑した。


「ほんとに怖いくらい合理的」


 教室の中では、子供達が木板へ文字を書いている。


 人間。


 獣人。


 エルフ。


 混ざっていた。


 以前なら有り得ない。


 種族ごとに国が違う。


 文化が違う。


 差別もある。


 だが、この村では飯が先だった。


 腹が減ると種族もへったくれもない。


「はい、次」


 教壇に立つのはジェシカだった。


 薬師。


 エルフ。


 百五十年生きている。


 知識量が桁違いだ。


「この文字は“水”」


「水路の“水”」


「飲み水の“水”」


「生きるための“水”」


 子供達が真似する。


 ぎこちない。


 それでも嬉しそうだ。


 ティグリスが窓の外から見て笑う。


「なんか不思議だな」


「虎獣人のガキと人間のガキが並んでる」


 クルザードは静かに言った。


「一緒に育った奴は殺し合いしにくい」


 ティグリスが止まる。


「……そこまで考えてんのか」


「当然」


 国家は感情で壊れる。


 だが幼少期の共有体験は強い。


 同じ飯。


 同じ教室。


 同じ冬。


 それは国になる。


 外では雪かきが始まっていた。


 物流ゴーレムが荷車を押している。


 道は止まらない。


 冬でも物流が動く。


 それだけで周辺国家より強い。


 ヴァレリアが帳簿を抱えながら走ってくる。


「また人来たわよ」


「三十人」


「多いな」


「噂が完全に広がった」


「“餓死ゼロの村”って」


 クルザードは少しだけ空を見る。


 白い。


 冷たい。


 それでも人が来る。


 理由は単純だ。


 生きられるから。


「受け入れる」


「住居は?」


「第四区画使う」


「仕事は道路整備と雪処理へ」


 ヴァレリアが即座にメモする。


「了解」


 判断が速い。


 以前の商人なら違った。


 今のヴァレリアは“国家運営側”だ。


 教育が変えた。


 環境が変えた。


 人は育つ。


 午後。


 給食の時間だった。


 鍋の香りが広がる。


 味噌。


 乳発酵。


 燻製肉。


 野菜。


 チーズ。


 熱気。


 子供達の目が輝く。


「今日は白パン!」


「肉入ってる!」


「チーズだ!」


 騒がしい。


 だが誰も止めない。


 以前なら有り得なかった。


 辺境の子供は静かに食う。


 奪われないためだ。


 今は違う。


 足りている。


 それがどれほど異常か、クルザードは理解していた。


 デニーゼが配膳している。


 回復士。


 以前より顔が柔らかい。


「ほら、急がなくてもあるわよ」


「ちゃんと噛んで」


 小さな獣人の子が涙ぐみながら食べている。


「……あったかい……」


 ティグリスが顔を逸らした。


 弱い。


 そういうのに弱い。


 クルザードは黙っていた。


 だが内心では理解している。


 食事は精神を安定させる。


 暖かい飯は人を変える。


 安心感を生む。


 それは兵士より強い。


 食後。


 クルザードは外を歩く。


 村が広がっている。


 以前は拠点だった。


 今は違う。


 店がある。


 宿がある。


 鍛冶場がある。


 薬局がある。


 浴場がある。


 学校がある。


 子供がいる。


 国家の芽だった。


 ガルドの鍛冶場から火花が飛ぶ。


「おうクル!」


「包丁追加十本完成したぞ!」


「農具も改良した!」


 クルザードは確認する。


【耐久向上】


【切断補正】


【疲労軽減】


 良い。


 以前より明確に品質が上がっている。


 ガルド自身も育っている。


「次は鉄パイプ作る」


「水路延長」


 ガルドが笑う。


「お前ほんと止まらねぇな」


「止まったら冬に殺される」


 その通りだった。


 辺境では停滞が死だ。


 夜。


 学び舎では大人向け授業も始まっていた。


 文字。


 計算。


 帳簿。


 薬草。


 簡単な衛生学。


 マチルダが教えている。


「いい? 水は煮沸」


「腐ったものは食べない」


「手を洗う」


 以前なら笑われた。


 今は違う。


 実際に病気が減っている。


 子供が死なない。


 それが結果だ。


 結果は強い。


 村人達の目が変わっている。


 信仰ではない。


 実感だ。


 クルザードはそれを理解している。


 だからこそ徹底する。


 合理を。


 衛生を。


 保存を。


 教育を。


 全部繋がっている。


 雪が強くなる。


 それでも村は明るい。


 窓から灯りが漏れる。


 笑い声が消えない。


 それはこの世界では異常だった。


 辺境なのに。


 冬なのに。


 人が増えている。


 エリザベスが門の見回りから戻る。


「盗賊、また逃げたわ」


「村見て諦めた」


 ティグリスが笑う。


「最近あいつら村入る前に消えるよな」


「強いってバレてる」


 実際そうだった。


 道路。


 警備。


 食料。


 人口。


 全部が普通の村ではない。


 そして兵士より村人が有能だった。


 夜更け。


 クルザードは学校へ戻る。


 誰もいない。


 静かだった。


 机。


 木板。


 文字。


 小さな落書き。


 子供達の痕跡。


 彼はそれを見ていた。


 以前なら考えなかった。


 自分は生きるだけだった。


 飯を作るだけだった。


 それが、いつの間にか。


 村になった。


 人が集まった。


 未来が生まれていた。


【教育理解上昇】


【統治適性上昇】


【人口管理】


【文化形成】


【国家基盤】


 また情報が流れる。


 頭が熱い。


 視界が揺れる。


 それでも以前ほど苦しくない。


 理解でき始めている。


 クルザードは静かに息を吐く。


 未来。


 それは兵力ではない。


 子供だ。


 育った人間だ。


 飯を食い。


 文字を覚え。


 病気で死なず。


 仕事を覚え。


 次を作る。


 それが国になる。


 窓の外。


 雪景色の中を、子供達が走っていた。


 笑っている。


 転ぶ。


 また立つ。


 その声を聞きながら、クルザードは初めて少しだけ思った。


 この村は、本当に生き始めている。






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