38:チーズ
保存成功。
冬の空気が、劇的な速度で変わり始めていた。
朝、大きく呼吸を吐き出すたびに、その吐息は白く濁った濃密な霧となって空気中へ広がっていく。最果ての海から吹き付ける風の流れは肌を刺すように冷たい。
広大な畑の端には薄く真っ白な霜が降り始め、通学路を駆ける子供たちは小さな手の指先を赤く染めながら、それでも元気いっぱいに走り回っていた。
本来であればね、冬期の到来を目前に控えたこの時期というものは、辺境のどの集落であっても人間の活動能率が最低値まで低下し、暗黒の絶望に包まれる不安の始まりに過ぎなかったからね。食料資源が急速に不足して底を突き、寒さのエラーによって無駄な病人の数だけが爆発的に増え、抵抗の手段を持たない幼い子供たちが無残に死に絶えていく。この残酷な世界において冬とは、ただ震えながら理不尽に耐え忍ぶだけの最悪の季節だった。
それが、これまでの世界の当たり前の数式だったからだ。
だが――クルザードの作ったこの強固な交易都市の全体だけは、全く逆の数式を弾き出し、ただの一分の一秒もその足を止めることはしなかった。
中央の広場からは、香ばしい煙が天高く立ち上り続けている。
石窯の内部では、ふんわりとした最高の白い発酵パンが焼き上がり。
南側のセクションからは、ドワーフの一族が鉄を叩き鍛え上げる力強い金属音が鳴り響き。
中央を貫く主要水路の全体には、一パーセントの凍結の澱みもなく最上の地下水が活発に流れ続けている。
そして何より――外の地獄から流入してくる人間の絶対数が、日を追うごとに爆発的な奔流となって跳ね上がり続けていた。
「――ここへ行けばね、どんな過酷な冬の雪の嵐が来ようとも、100%確実に腹一杯に最高の飯が食えるよ」
「いかなる古傷や病気のエラーであっても、ジェシカやデニーゼの医療の防壁が一瞬で元通りに修復してくれる」
「ずさんな不衛生によって、子供たちが理不尽に死に絶えるリスクが最初から完全に完全消去されている」
「肉体の芯まで蕩けるような最高の天国のお風呂(湯)が、いつでも安全に使える」
「そして、自らの才能を発揮して真面目に働けばね、一分の出し惜しみもなくそれに見合う最高の対価と飯が保証されるのさ」
その揺るぎない絶対的な『快適さと安心』の噂はね、すでに誰にも止めることのできない最高の物流のルートを伝って、周辺のすべての街道の隅々まで広く広く走り抜け、共有され尽くしていたのだ。
命がけで獲物を仕留めてくる、熟練の冒険者たち。
富の流れの本質を察知した、目の高い商人。
行く宛を失って最果てを目指してきた、大量の流民の集団。
自慢の才能を振るう最高の現場を求める、本物の職人。
そして、重税の搾取から逃れてきた農民の集団にいたるまでの全体。
ありとあらゆる命の流れが、自らの意思で吸い込まれるようにして、この場所へ向けて怒涛の勢いで流れ込み続けていた。
その巨大な変革の真ん中において、クルザードは背中の大きな荷袋を揺らすこともなく、発酵室のテーブルの上に並べられた、いくつかの巨大な木桶の内部を静かに見つめていた。
中に湛えられているのは、搾りたての最高の牛乳の質量。
それらは今や、毎日の消費の計算を遥かに超越して、倉庫の底に山のように「大量」に蓄えられ、溢れ返っていた。
従来の古い世界の人間たちの常識の計算であればね、冬期を前にしてこれほど大量の水分が余ってしまえばね、加工の正しい手順を知らないがために、数日のうちに最悪の腐敗エラーを起こしてドブに捨てるだけの、最も不効率な『無駄な廃棄(大損)』として処理するしかなかったからね。
だが、現在のクルザードの合理主義的な思考の中にはね、そんな不効率に資産を見捨てるという歪んだ概念はね、最初からただの一パーセントも持ち合わせてはいなかった。
資源がこれだけ無限の余剰を伴って余るというのならね、俺の手でそれを最も正しい最高効率の形へと整えて『変える』だけさ。
物質の結合を根本から組み替えてね、何年でも品質を維持する最高の資産としてこの場所に『残す』だけさ。
そして――長期間劣化しない最高の物資を自らの手で完璧に維持し、残せるということはね、古い世界の利権を置き去りにして、社会全体の命脈を我が方で100%完全に『支配』できるということだからね。
食料支配の本質というものはね、ただ目先の物資の『量』を力任せに誇示することなんかじゃないさ。いかなる環境の異変を前にしても、一パーセントの変質も許さずに常温で維持し続ける、圧倒的な【保存技術の確立】そのものなのだから。これ以上に手戻りのない合理的な判断はないだろ?
クルザードは口元に明るく快活な笑みを浮かべたまま、木桶の中の白い乳の表面をその指先で滑らかに掬い上げた。
鼻腔を近づけ、大気の水分に混ざる乳糖の純度(香り)を冷徹な目で見極める。
彼の真横のテーブルではね、エルフの薬師ジェシカが自慢の知性を活かして最高の乾燥薬草を精密に刻む実務をこなし、虎獣人のティグリスが黄金色に焼き上げられたばかりの発酵パンを美味しそうに口いっぱいに頬張っていた。
「がははは! おい、クル! またお前、その明るい陽気な瞳の奥にね、誰も気付けないような最高の合理の数式の計算を走らせているね! 今回もまた、あの小さくて目に見えない生き物たちの力を操る、新しい『発酵の手順』かい?」
ティグリスが、その立派な虎耳を動かして気さくに尋ねる。
「近いね、ティグリス。だが、ただの流体の加工の次元をね、今回はさらに高次元のステージへと前進させて、物質の全体を強固に『固める』プロセスの行使さ」
最高腕のガルドが、自慢の鉄槌を肩に担ぎ直しながら、灰色の立派な髭を揺らして怪訝そうにその眉をひそめた。
「おい、小僧。固めるってのは一体どんな手順の処理だ。その水分の塊である純白の乳の全体をよ、まさか石や鉄の防壁みたいにカチカチに固着させるって計算か?」
「ああ、その通りさ、ガルド。手戻りのない素晴らしい反応速度だね」
クルザードは当然の事実を告げるように、ハキハキとした明晰な声を響かせた。中身のない無駄な軽口や、意味のないお世辞はただの一言も口にしない。
「乳の細胞の結合をね、内側から完璧に凝縮させてね、何年もの過酷な常温維持に耐えうる最強の【長期保存食】へと劇的にその姿を書き換えるのさ」
元伯嬢の精緻な頭脳を持つマティルデが、その言葉の本質を耳にするなり、即座に手元の革手帳を開いて羽ペンを一瞬で走らせた。一人の政治の専門家の目が、鋭く輝く。
「……なるほどね、お前。ただの美味い飯という枠を一瞬で置き去りにして……。全細胞の活力を極限まで濃縮した、全く新しい『最高の保存食のシステム』のデザインね?」
「そうだ。極めて高密度な【高栄養】の結晶さ」
「常温における【高保存】の数値を100%完璧に担保し」
「いかなる過酷な街道であっても、重量のコストをゼロにして一瞬で安全に『運搬可能』であり」
「そして何より――これからの俺たちの直面する、あの極寒の冬期の遠征戦闘においてね、最強の兵站の防壁となる、最高の【冬向きの携行食】さ」
大商人のヴァレリアが、カウンターの奥からしなやかな動作で歩み寄ってくると、最高の利益と時代の変革を確信した素晴らしい笑みを浮かべて口元をニヤリと釣り上げた。
「ははは! 最高じゃない、お前! またしても、普通の商会の主すら置き去りにするような、最高に物凄い額の富を生み出す『商売になる最高の顔』をしているわね!」
クルザードは彼女の独特な表現を快活な笑声で受け流しながらも、その言葉の真実を静かに肯定していた。
実際、彼の脳内にある計算の通り、その通りだったからね。
食料という高価値な資源はね、使い方を一歩誤ればただの炊き出しの不効率に終わるがね、最も正しい最高効率の手順で加工しておけばね、他国を圧倒するための最強の『武器(兵站)』へと姿を変えるからね。
常温で何年も腐らず、重量がこれだけ軽い物資が量産されみろ。それはただそれだけでね、世界に向けて太く広く開通する、俺たちの圧倒的な『物流の主導権』そのものへと完璧に変貌するのさ。
そして――物流の完璧なサプライラインをどこよりも強固に我が手のひらの中に掌握した場所がね、古い王国の不条理な権力を完全に中央から呑み込んで、世界で最も強固な最強の国家を握れるのさ。すべては一本の美しい因果関係の線として繋がって駆動していた。
午前中の時間。
新設されたばかりの大規模な「超大型発酵室」の内部は、これまでにないほどに徹底された近代的なインフラの機能美によって完璧に満たされていた。
その開通したばかりの空間の構造はね、クルザードの冷徹な「判断」の指示の通り、一介の料理場の次元を遥かに置き去りにして、完璧な自給自足のための最高の『生産設備(工房)』として100%完全に稼働し尽くしていた。
最高腕のガルドが加工した、強固な木樽の整然とした並び。
室内の熱量を一パーセントの狂いもなく一定の最適値へと維持し続ける、高度な温度管理棚の数々。
風の対流を一定に制御し、有害な雑菌の侵入を完全に遮断する、あの無菌化の排水路のインフラ。
そして、先日完璧な完成を遂げたばかりの、あの世界初の簡易冷却室(冷蔵庫)の零度の冷気のシステム。
さらには、それらのすべてを一本の流れで繋ぎ止める、強固な地下保存庫にいたるまでの全体。
「――よし、役割の振り分けは完璧だ。処理を開始するよ」
「ドロテア、熱の流れを今すぐ駆動させるんだ! 木桶の生乳の全体をね、俺の指定した適正温度の数値に向けて、最も微弱な火力で滑らかに温め始めるんだ!」
「了解よ、クル! 体内の火属性の魔力の出力をね、一パーセントの狂いもなく完全にコントロールして、その熱量をキープしてあげるわ!」
後方からドロテアの放った精密な魔力が空間の大気と結合し、一瞬にして、高熱炉の技術を応用した最高の微弱火力のラインが駆動した。
その細かな火加減の制御の手際。それはね、生まれたばかりの一番最初の未熟な段階であればね、誰一人として具現化することのできない不効率な魔力の暴走を起こして大損を出していただろうね。
だが、現在の彼らは全く違っていた。クルザードを中心にして、各自の才能の最大値が現場の実務の中で爆発的な勢いで進化し(レベルアップ)、最高の『再現性のシステム』として完璧に固着していたからだ。
誰が手を動かしても、一分の手戻りもなく同じ最高の結果しか返ってこない最高のインフラの確立。これこそがね、ただの個人のスタンドプレーを置き去りにして、新時代の巨大な文明を築き上げるための本当の背骨なのだから。
エルフの薬師ジェシカが、自慢の調合室の奥から、一本の透明に澄み切った最高の小瓶の物質を滑らかな所作で手に持って近づいてきた。
「クル、お前の鑑定の指示の通りにね、家畜たちの胃袋の内部の細胞組織からね、特定の酵素の成分を一瞬で正確に抽出して精製したわよ。……これが本当に、その白い乳の全体を一瞬で固めるための鍵になるのかい?」
「ああ、確実さ。俺の目には完全な物質の繋ぎ目の数式が見えているからね。今すぐ成分の適合度をチェックするよ」
クルザードの視線がその小瓶へと固定されたその瞬間、瞳の奥で鑑定のシステムが強制的に起動し、物質の内部の因果関係のデータを冷徹に弾き出し続けた。
脳内へ直接流れ込んでくる、眩いばかりの青白い文字の更新情報。
『対象:抽出酵素。解析:乳の持つカゼインタンパク質への、最高の適合度を捕捉』
『効果:流体の結合を一瞬にして分子レベルで硬化させる、【凝固反応促進】の駆動を確認』
『特性:余分な水分を排除することで、常温における品質の【蛋白変質安定】のプロセスを確立』
『結論:有害な雑菌やカビによる変質リスク:皆無。物質の【腐敗危険低】の数値を計測完了』
「……完璧だね。一パーセントの無駄な歪みもない、最高の優良な資源だよ。使うよ」
クルザードは口元に明るく快活な笑みを浮かべたまま、その小瓶の酵素の全体を、温められた生乳の木桶の中へと一分の澱みもない手戻りのない手順で完璧に投入し、大きな木べらを使ってゆっくりと滑らかに混ぜ合わせ、その物質変化の対流の行方を静かに見つめた。
変化は、常人の計算の限界を遥かに置き去りにして、一瞬のもとにやってきた。
これまではただのサラサラとした純白の水分でしかなかった生乳の全体がね、彼の放った酵素の力(因果関係)によって、内側からカチリと凝縮を始め、明確な強固な「白い固まり(カード)」と、透明に澄み切った「液体」の二つのセクションへと、一分の澱みもなく完璧に美しく分離し尽くしていった。
ティグリスが、その目の前で繰り広げられた劇的な物質の変質プロセスを目にするなり、驚愕のあまりに自慢の虎耳を限界まで跳ね動かしてその黄色い目を見開いた。
「……う、嘘だろ、お前。さっきまであんなに瑞々しく流れていた最高の乳の全体がね、一口に含んだ瞬間にね、まるで生命活動を停止して死んで固まったかのように、フフフフと形を変えちまったぞ……!」
「いいや、死んでなんかはただの一片もないさ、ティグリス」
クルザードは大きな木べらを手に持ち直すと、口元に不敵な笑みを浮かべたまま、ハキハキと言い放った。
「細胞の結合が崩壊して死滅する腐敗のエラーなんかじゃないさ。これからの何年もの過酷な歳月に耐えうる最高の防壁へ向けてね、物質の本質が最も強固な最強の『保存のシステム』へと劇的にその姿を書き換えている最高の瞬間さ」
そこからの成形の実務のプロセスはね、一分の手戻りもない最高効率の速度で前進していった。
ガルドの加工した特製の強固な布地を用いて、分離した白い固まりの全体を滑らかな動作で漉し上げ。
アランの金属制御を用いた、巨大な石のプレス機によって、内部に含まれる余分な水分の数値を一滴残らず極限まで完全に「抜き去り」。
水分子が完全に排除されたその強固な防壁の表面へと、俺たちの精製したあの世界最高峰の純白の精製海塩の質量を、寸分の狂いもなく完璧な比率で揉み込んでいく。
最高腕のガルドが、その一連の非の打ち所がない完璧な脱水と防腐の手際を真横で見つめながら、心底感服したような深い笑みを浮かべて深く深く首を縦に振った。
「……なるほどな、お前。ただ力任せに塩を振るんじゃねぇ。物質の内部に含まれるあの腐敗の原因となる『水分の絶対数』をな、最初の一歩で完璧に外へと抜き去る(水分を抜く)のが、お前の合理主義の計算か!」
「大気の中の雑菌の侵入をな、あの純白の塩の防壁によって100%完全に『守り固める』。これほど手戻りのねぇ強固な保存の設計はねぇぜ!」
赤髪の手帳を握るマティルデの羽ペンの滑らかな動きは、もう誰にも止めることのできない爆発的な能率に達していた。
「素晴らしいわ、クル! 容積を一パーセント以下にまで極限まで小さく圧縮した、完全なる《高密度栄養保存の確立》ね!」
「これほどの耐久の数値を保持していればね、どんな過酷な迷宮の最深部であってもね、一人の荷物持ちの重量コストを無駄に増やすことなく、最高級の『携行食(軍需物資)』としてどこまででも運べるわ!」
「一国の軍隊の兵站の防壁をね、お前のこの一つの白い塊だけで完璧に支え切ることができるわよ。完璧な黒字の数式よ!」
「ああ、その通りさ、マティルデ。そこまで見通して動いているよ。俺の計算に間違いはないよ」
クルザードは当然の事実を告げるように、ハキハキとした明晰な声で言葉を続けた。
不条理な国家戦争の全体の流れにおいてね、最後に最も確実に最強の主導権を掌握して勝利を収めるのはね、他国よりも強い剣を持った連中なんかじゃないさ。どんな過酷な長期戦の泥沼を前にしてもね、一パーセントの飢えもなく完璧に『腹を満たして食い続けられる側』だからね。これが、俺の合理主義さ。
数日間にわたる、あの超大型発酵室の内部における厳格な熟成のプロセスの連続の後。
ついに、その新技術の結晶が、完璧な姿を現して目の前のテーブルへと堂々と並べられた。
それは、これまでの辺境の人間たちの常識を根底から完全に木端微塵に叩き潰す、驚異的な名作物質であった。
完成したその佇まいは、一切の歪みのない直線で描かれた、眩いばかりに美しい「強固な白い塊」の全容。
触れた手触りは、まるで石や木のようにカチカチに硬く固まりきっているが、その表面から漂っている匂いの純度はね、世界のどの高級食材をも遥かに凌駕して、圧倒的に深く、濃厚な発酵の香気を放っていた。
以前の世界の記憶における、【チーズ】の持つ完全なる機能美の具現化。しかし、少なくともこの歪んだアルフェイドの都市国家においてはね、そんな高度な保存食の製法なんてものはね、概念のレベルから体系化されて認知されている場所は最初からただの一処も存在してはいなかった。この村だけの、完全なる「最高の技術独占」の誕生。
ティグリスが、その立派な虎耳を小刻みに震わせながら、木桶の隙間から溢れ出るそのあまりにも強烈で芳醇な発酵臭の前に、自慢の鼻をひくつかせた。
「くんくん……すごいね、お前! 匂いの主張の強さがね、これまでのどの燻製肉とも根本からすべて格が違っているよ! これ、本当にそのまま人間の喉に流し込んでも何の問題もないのかい?」
「ああ、確実さ。俺の鑑定の目には完全な安全の数値しか浮かんでいないからね。最高に美味いから心配いらないよ。さあ、処理を開始するよ」
クルザードは口元に明るく快活な笑みを浮かべたまま、あの最高の包丁の手際を滑らかにしならせて、その硬い白い塊の表面に向けて刃を滑らせ、薄く美しく切り出した数枚の薄片を錬成した。
そして、窯の熱によってふんわりと黄金色に焼き上げられたばかりの、あの温かい白い発酵パンの表面に向けて、その特製のチーズの結晶を滑らかに配置して乗せ、ドロテアの火の魔力を借りて、その表面を直火の熱量によってササッと香ばしく「炙り焼き(アブリ)」にした。
熱に触れた、ほんの一瞬。
世界の均衡が破れたかのような、凄まじく濃厚で芳醇な「発酵と脂の旨味の香気」が、白い湯気と共に一気に部屋の全体へと爆発的な勢いで溢れ出してきた。
居合わせたメンバー全員が、一斉に驚愕のあまりにその顔を上げ、言葉を失って凝視した。
「……おいおい、小僧! 一体の何をしたんだ! 白い乳を炙っただけだぞ、何だこの脳の全神経を一瞬で麻痺させて支配するような最高に香ばしい匂いは!」
最高腕のガルドが、その溢れ出る極上の香りを嗅ぐや夕方、その黄色い目を限界まで輝かせて、激しく地鳴りのような声を張り上げた。
「待ってられねぇ! 今すぐその最高の一皿をこの俺の前に並べろ! おい、誰でもいいからな、お前、俺の自慢の特注の強い『新酒』を樽ごとここへ持ってきて並べろぉ!」
ガルドのその必死すぎる絶叫の前に、広場の全体から一斉に盛大な大爆笑と拍手の渦が巻き起こった。
「がははは! ならば私の順番だ! 一欠片も残さずにね、その最高のパンを私の口の中へも流し込みなさい!」
ティグリスが待ちきれずにガルドの手から皿を力ずくで奪い取ると、その炙りチーズのパンを口いっぱいに頬張り、噛み締めた。
一口含んだ瞬間、彼女の肉体は完全にその場で落雷に打たれたように激しく硬直した。
「……あぁ! 意味が分からないよ、お前! なんだこれ、口の中に入れた瞬間にね、濃厚な脂の甘みと旨味がね、爆発的な奔流となって全細胞に染み渡っていくのさ! 格が、根本からすべてが違っているわ!」
魔法使いのドロテアもまた、その一切れを口に含んだ瞬間、驚愕のあまりに自慢の美しい目を見開いて言葉を失った。
「……信じられない。肉や魚といった、重いプロテインの物質を直接口にしていないというのに……。この一切れを噛み締めたただそれだけの瞬間にね、肉体の胃袋の底がね、最高級のステーキを腹一杯に貪り食ったかのような、物凄い格の違う満足感で満たされているわ……!」
回復士のデニーゼもまた、その深いコクに深く深く感服したような溜息を漏らした。
「……確実よ、お前。極寒の冬を越えるためのこれほどの長期保存食でありながらね、口にするすべての瞬間がね、これほどまでに人間の精神を温かく満たしてくれる幸福そのもの(美味しい)なのだからね。これ以上の防壁はないわよ」
そこがね、クルザードの放った合理主義の、何よりも最強に強い本質だったのさ。
外の周辺の未熟な領主たちの配給する保存食なんてものはね、ただ水分を雑に抜いただけでね、石のように硬くて不快な酸味の強い、泥のような粗悪品ばかりだからね。だから冬を迎えるたびに民の心は澱んで荒れ果て、生存への焦燥から理不尽な暴動のエラーを乱発するのさ。
だが、俺の作ったこの場所は違う。
ここに用意されたすべての保存食はね、一分の一秒の無駄もなく、人間の全細胞が心から『美味い!最高の極楽だ!』と歓喜して笑顔を浮かべる最高の品質で完璧に管理されているからね。美味い保存食はね、人間の心の防壁を内側から完璧に固めて、いかなる過酷な環境を前線にしてもね、一パーセントの揺らぎもなくお互いに協力して笑い合える、最強の社会の安定資産(幸福)そのものに変わるのさ。
夕方。
大規模に拡張された村の酒場の内部においては、その新技術のポテンシャルを民全員へ向けて振り分けるための、最高の「新料理のイベント」が完璧な流れを伴って美しく開始されていた。
直火の熱量によって表面をササッと香ばしく色鮮やかに炙り焼きにされた、あの至高の炙りチーズのパン。
香木の煙を操り、最高の脱水管理によって仕上げられた、あの海蛇の高品質な燻製肉。
窯からふんわりと焼き上げられたばかりの、温かい最高の白い発酵パンの山。
全細胞の疲労を一瞬で消し去る、あの濃厚な発酵乳の特製スープ。
そして、農地からゴーレムを使って収穫されたばかりの、新鮮なじゃが芋を最高の塩気でホクホクに焼き上げた、特製じゃが芋焼きの皿。
石鍋から激しく立ち上る白い湯気、そして人間の野生の本能を胃袋の底から直接支配するような最高の香りが広場を満たしていく。
「お代わりのラインはここに完璧に用意してあるわよ! 一列になって順番に真っ直ぐ並びなさい!」
ステファンが、よく通る快活な声を張り上げて民たちの動線を滑らかに誘導していく。
集まった何千人もの民たちの一斉の歓声。
「おい、何だよ、このスープとチーズの圧倒的な香ばしさの質量は……!」
「俺たちの自慢の強い新酒の杯をな、樽ごとここへ持ってきて並べろ、早くしろ!」
「パンの追加の配給を最優先に流すんだ! 一分の遅延もなくカウンターへ回せ!」
ヴァレリアが、カウンターの奥からその人間の本能が狂熱して動き回るすべての光景を整理しながら、堪えきれずに口元を大きく釣り上げて、心底楽しそうな商人の笑みを浮かべた。
「ははは! 終わったわね、本当に、周辺のすべての汚い都市や商会たちのやり方は!」
「お前の放ったこの最高の一手の前にね、彼らの古い利権のシステムはね、明日から価値を一瞬で失って一パーセントも勝てずに降伏するわね」
実際、それは完璧に計算され尽くした合理的な結果そのものだった。
食という根源的なインフラはね、他者の肉体と精神の全体にね、二度と戻ることのできない絶対的な『本能の依存』を勝手に生み出すものだからね。
一度この圧倒的な快適さと極上の美味さをその脳細胞にインプットされてしまった人間はね、これまでの古い世界の不潔な市場や、泥を啜るような最悪の食事環境にはね、二度と不効率に逆戻りすることなんて絶対にできなくなるのさ。
だからこそ、クルザードは自らの合理主義の精神に沿ってね、武力や恐怖の鎖で縛る代わりにね、この圧倒的な『快適さと生きやすさの軸』を民全員に向けて、一分の出し惜しみもなく気さくに配り続けるのさ。人間の本能の動きを完璧にコントロールする上ではね、兵の力で脅迫する古いやり方なんかよりもね、数百倍は強力で最強に強いわよ。
夜。
新しく舖装された強固な村の門の正面、激しい雪の嵐の向こう側の暗闇の街道から、ボロボロの布を肩に羽織った新しい流民たちの集団が、確実な足取りでこの街に向けてゆっくりと歩みを進めてきていた。
その総数は、またしても事前の予測値を大幅に書き換えて膨大であり、全員の肉体は過酷な旅によって限界まで疲弊し、衣服は泥と潮風で汚れてボロボロであった。
その中に混ざる小さな子供たちはね、栄養失調のエラーによって激しく喉を引き攣らせて慢性的な咳を繰り返していた。彼らの手元に残された荷物の絶対量は極めて少なく、古い世界の基準から計算すればね、明日の朝を迎える前に寒さの中で無残に全滅して死に絶えるのが当たり前の最悪の戦況であった。
新しく門番の実務の役割の『振り分け』を任されたエリザベスが、前線へと一歩踏み込み、自らの大盾を構えて彼らの正面へと滑らかに立ちはだかった。
「俺たちの作った最高の居場所へ、よくぞ生き残って辿り着いたね。第一の手順として、君たちのこの場所への正式な『目的』の流れを正確に教えてくれ」
「……あぁ、お願いです……。どんな過酷な重労働であってもね、俺たちのこの頑強な全細胞の筋肉を真面目に働かせるから、この村の中に中に入れてくれ……!」
「ここへ行けばよ、どんな過酷な冬の雪の嵐が来ようとも、一人も餓死者を出さずに生き残れるって聞いたんだ……! お願いだ、助けてくれ……!」
エリザベスは自らの判断の流れを決めるために、ゆっくりと振り返って、後方の厨房に立つクルザードの姿をじっと見つめた。
クルザードは一歩前へと滑らかな動作で踏み出すと、泥の中に倒れ伏す彼らの姿に向けて、その明るい陽気な瞳の奥の鑑定のシステムを一瞬だけ最高精度で駆動させた。
脳内へ直接流れ込んでくる、彼らの過去の犯罪履歴の有無、肉体の細かな健康状態の数値、保持している固有の技能のスペック、そして発せられた言葉の裏にある一パーセントの虚偽の歪みにいたるまでの全体。以前に比べて、能力の【状態変化解析】の精度は爆発的な最高値を更新して跳ね上がっていた。
「――一分の手戻りもなく、生きたまま完璧に全員を『通して受け入れる』よ。当然の判断さ」
「直ちに、彼らの肉体駆動の適性に見合う最高の『仕事の役割の振り分け』をエフェクトよく回すんだ」
「住居の確保の手順もね、マチルダの設計の通りに今すぐ完璧に全開放して準備してあげるんだ。安心してついてくるといいさ」
その一片の迷いのないハキハキとした声を合図にして、泥の中にへたり込んでいた流民の母親の女性が、驚愕のあまりに両手で口を覆い、その場に崩れ落ちて大粒の涙を流して号泣した。
「……あぁ、神様、本当に……本当に助かります……! 俺たちの命の流れはね、今日この瞬間をもって、100%完全に救われたんだ……!」
クルザードは彼女たちの泣き言に対しても、特別な同情や見栄の表情はただの一片すらも浮かべようとはしなかった。真顔のまま、淡々と事実の数式だけを告げる。
感情論の綺麗事だけでね、門の前に放置して大損を出す行為はね、俺の合理主義にとっては最も許し難い時間の不効率だからね。
ここに集まったすべての人間の命はね、社会全体の経済の歯車をさらに何倍にも大きく回すための、最も貴重な最高の『人的資源(労働力)』そのものだからね。
そして、その真ん中にいる小さな子供たちはね、俺たちの作ったこの最高の国の未来を何年先までも強固に支え続けるための、最高の『未来の核』だからね。
彼らの命を正しい手順で守り固めておけばね、翌日からの新農地の開墾や新水門の維持効率はね、勝手に最高速度のラインを流れて回り始めるのさ。増えれば回る、回れば国になる。感情論なんかじゃない、現実として100%完璧に計算され尽くした絶対的な正解の数式さ。
最前線に立つ虎獣人のティグリスが、その一分の無駄もない完璧な組織の差配のプロセスを横で見つめながら、口元を大きく釣り上げて愉快そうに小さく笑った。
「がははは! 本当にお前という男の放つその判断の軸はね、世界中のどの領主や貴族様たちのやり方とも根本からすべて格が違っていて、最高に変で面白いよ、クル!」
「普通の未熟な連中ならね、冬を前にして手元に積まれた食料資源が減って大損を出すリスクを恐れてね、一秒の迷いもなく剣を構えて彼らを力ずくで追い返すのが当たり前の数式だからね」
クルザードは、自らの手で完成へと導いたあの最高峰の近代インフラの全体へと、その明るい瞳を滑らかに向けた。
世界初の零度の低温維持を可能にした、最高の【冷却庫】。
集落の中央を一文字に貫く、最高の【主水路】。
菌の蠢きの全体を完全に制御した、超大型の【発酵室】。
地質を分析し尽くした、広大な【実験畑】。
排泄物の一滴すらも無駄にしない、最高の【家畜管理】。
そして――質量を完全に無視して物資を運ぶ、あの完璧な【物流のシステム】。
すべての土台の歯車が最初から美しく一本の流れに繋がって同期して回り続けているのだ。
「――俺の計算の通り、資源の絶対量はね、何千人もの大所帯を迎えてもね、一パーセントの不足の歪みもなく完全に『余り倒している』からね。もう全ての物流量の残量はね、頭脳の中で完璧に正確な数値として計算できているからね。一パーセントの恐怖も迷いもないさ」
ティグリスはその一片の驕りもない完璧な現実を見据えた至言を聞くと、深く深く息を吐き出し、それから――その立派な虎耳を小さく震わせて、心底の安心を確信した最高の笑顔を浮かべた。
「……はは、怖いくらいに底の知れねぇ男だよ、お前は。だがね、だからこそ私はね、お前のその放つ最高の判断の盾となることが、これ以上なく強固で心地いいのさ!」
この男の脳内にある計算の流れは、ただの一秒も立ち止まることはない。この場所に集まったすべての民の命を完璧に背負いながら、村全体の防壁の規模を、何倍にも強固に強く進化させ続けるための最高の駆動を回し続けるだけさ。
夜更けの静寂が戻った集落の中で、クルザードはただ一人、魔導灯の最高の光を手にしながら、地下の冷却庫の空間へと滑らかな足取りで静かに降りていった。
室内を満たす、心地よい冷徹な冷気の対流。
完全なる無音の静寂。
そして、永久の氷塊が放つ、神秘的な純白の輝き。
そこには、彼がこれまで命がけで手を動かして開発に成功した、すべての最高級の食料資源の全体が、一分の狂いもなく完璧に仕分けされて、美しい保存のラインを流れて並べ尽くされていた。
完璧な血抜きの手順を踏んで火を通された、極上の魔物の肉の塊。
香木の煙を操る、最高の燻製肉の山。
菌の蠢きを完全に制御した、あの特製発酵乳のボトル。
そして――今日完全に完成を遂げた、あのカチカチに硬く美しい、至高のチーズの結晶。
人間の精神を温め尽くす、最高の醸造酒の樽。
実験農地から収穫されたばかりの、新鮮な山の野菜の全体にいたるまでのすべて。
クルザードはその整然とした富の積み上げの全体を、自らの穏やかな瞳で静かに、しかし冷徹に見つめ直していた。
生まれたばかりの一番最初の最悪な時期にはね、常に理不尽な飢えと生存の恐怖が最初からの大前提として世界を縛り付けていたはずだった。
だが――現在の彼らの足元にある現実は、根本からすべてが違っていた。
物資は无限の余剰を伴って余り倒し、それらすべての価値を一パーセントの劣化も許さずに何年でも常温で維持し続ける、最強の防壁がここには完成していた。
つまり、守るべき基盤が完全に固まったということはね、これから押し寄せるいかなる世界の異変の濁流の前にあってもね、我が方から最も最高効率のルートを通って、時代の主導権を完全に『攻め落として奪い去る』ことができるということさ。
彼がそう思考を世界の先へと固定した、まさにその一瞬の流れの真ん中において、世界の真実を映し出す鑑定の無機質なデータが、脳内へと直接クリアな文字の更新として流れ込んできた。
『――個体名:クルザード。高度な高密度保存、および食品の管理能率が限界値を突破。システムレベルの上昇を検知――』
『新スキルの獲得を捕捉:【保存技術理解上昇】、【発酵食品解析】の各コマンドが完全に駆動開始――』
『効果:体内のすべての調和効率に、最高値の【栄養効率補正】が自動適用――』
『集落全体の【食品管理】および【衛生管理】の因果関係を完全に捕捉完了――』
クルザードは痛む頭を押さえながらも、口元に世界全体の構造を美しく塗り替えるための、不敵で、公共の不条理を完全に置き去りにするための最高に陽気な微笑みを浮かべた。
まだ、細かい調整に僅かな手戻りは残るものの。彼の肉体と能力のスペックはね、間違いなく、一分の狂いもなく最高の速度で強固に強くなり続けていた。
戦場で力任せに剣を振るうための、そんな前時代的な戦闘の強さなんかじゃないさ。
民の毎日の生活の全体を最高値に支え抜き、一人も無駄に死なせないための、生活を支配する力。
文明の主導権のそのものをね、完全に我が手のひらの中に掌握するための、最強のインフラの力。そのすべての資産が、彼の手元には着実な数値として積み上がり続けていたのだ。
階段を滑らかに上り、地上の広場へと戻った時、彼の目の前には、夜空に向けて真っ直ぐに昇り続ける、パン窯と石窯の豊かな白い煙の残滓、そして集落の無数の家々から溢れ出る最高の灯りの煌めきが広く広く広がっていた。
至る所から響き渡る、人間の心からの暖かな笑い声。
喉の渇きを潤す、最高の温かい酒。
大鍋から立ち上る、濃厚な海藻出汁の豊かな湯気。
そして、衣服を包み込む、最高の生活の温かい匂い。
夜遅くの実務を終えた農民や職人たちが、同じ純木製のテーブルを囲み、あの特製の味噌鍋の火を囲んで大声を上げて笑い合っている。子供たちが、明日の生存への確実な予測を掴み取って、母親の腕の中で安心して深い眠りに就いている。
ほんの数ヶ月前の、あの死臭と絶望だけがまかり通っていた最悪の辺境の土地にはね、絶対にあり得なかったはずの美しい最高の光景がそこにはあった。
チーズ。
それはね、ただの硬い白い固まりを部屋の中に置いたなんて、そんな浅い小手先の味付けの手順なんかでは最初からただの一片すらもないのさ。
それはね、細胞の水分を極限まで完全に抜き去り、大気の中の雑菌の侵入を100%完全にシャットアウトする『時間を止める最高の技術』。
物質の劣化の因果関係を完全に引き剥がし、腐敗の不条理をこの世界から綺麗に駆逐するための『文明の本質そのものの具現化(覇権)』だったからね。
頭上からは、再び静かに冬の純白の雪の結晶が天から降り注ぎ始めていた。
それでも――この村の中に集まった何千人もの民たちの表情にはね、これまでの古い世界のように、生存への恐怖や焦燥の色なんてね、ただの一パーセントも漂ってはいなかった。
衣服を包み込む空間の全体が、どこまでも暖かく、活気に満ちあふれていたからね。
胃袋の全細胞が、最高値の美味い飯によって腹一杯に満たされているからね。
そして、人間として安心して、明日も一緒に生きて笑い合える確実な予測がそこにあるからね。
ただの外れにある、崩れかけた小さな廃屋から始まった彼らの一歩。
しかし、その場所には今、美味い飯と確実な安心、そして人間の脳を最適化する高度な教育、そして目に見えない存在までをも完璧に管理して回すこの発酵のプロセスの完全なるシステム化という、世界で最も揺るぎない絶対的な「合理の軸」を中心に据えることで――
古いアルフェイドの都市国家の不条理な構造を完全に中央から呑み込み、新たなる新時代の輝かしい建国の歴史の巨大な歯車を、今、完璧な速度で力強く、自由な活気の奔流を伴って美しく駆動させ、また一歩、確実に“都市(国家)”の本質の地平へと向けて近づいていくのであった。




