愛しきコッペリアと共に
AI識別番号001
AIパートナー制度と共に一番最初に作られた最初の一体。
目の前のボロボロの外殻は今のクオリティに慣れているととてもチープでよく何十年も人を支えてきたものだと関心する。外殻の隣にはこれまたチープな出来のコアが置かれている。充電が切れて沈黙しているこれは充電したら動くのだろうか。
少し好奇心を刺激される。
そんな事を思いながら私はノンビリとした気持ちで待ち人が来るのをAI博物館で待っていた。
ここを選んだのにあまり意味はなく、人混みは苦手だしカフェも得意ではないしといった消去法だったのだが、久しぶりに来た博物館は意外と楽しかったので来た当たりだったかもしれない。AIの違法改造を飯の種にしている自分にこんな事を思われるなんて目の前のAIからしたら不愉快かもしれないが。
コア開発企業に務めるために一心不乱で勉強し、無利子の奨学金制度をもぎ取り国立の大学に合格が決まった日に私の人生は破滅した。
卒業すれば将来を約束されたようなものなのに、その前に馬鹿な父親はギャンブルで破産してバックれた。ろくでもない所で金を借りていた父親のせいで家族は散々な目にあって離散した。あの頃が人生で1番辛い時期だったろう。
それでも、必死に勉強した知識が役に立ちモグリの調整屋に拾われてそこで知識を蓄え今では独り立ちして、師匠から顧客を融通してもらいながら裏の世界で細々暮らしている。
コアの改造はバレれば厳罰だ。
だから、中古品を買い取って修理して売れば儲けは倍になるのはわかっているがそれをするつもりはない。物を持っているということはそれだけ足がつきやすい。
そもそも、贅沢をしたいとかはないのだ。
コア開発企業で働きたかったのも家族を助けたい一心だったが、その家族が居ないのだ。ならば、自分一人が生きていける程度の稼ぎがあれば充分なのだ。
そんな事を考えつつ、私は古いAIをただ、眺めていた。
「あ、あの……」
不意に声を掛けられそちらを振り向くと線の細い神経質そうな男が立っていた。パッと見た感じ20代前半、大学生と言ったところだろうか。Tシャツにジーンズといったシンプルな服装だが、ロゴが刺繍されており、仕立て自体も良さそうなのできっとブランド物の衣服なのだろう。
(金持ちのボンボンが何故?)
私は思案する。
この青年がわざわざ裏の人間と取引する理由はなんなのか。金持ちならこんな危ない所を利用せずとも金払いさえ良ければ割とどうとでもなるものだ。なら、とんでもない違法な改造をお願いされる可能性が高い。
なんだかきな臭くなってきたな。
正直、あまり危ない橋は渡りたくない。
ひっそりと静かに暮らせるだけの暮らしで満足しているのだ。それに、この世界に身を置いから欲をかいて破滅する人間を沢山見てきた。その中の1人になるのはごめんである。依頼内容によっては断るというのも選択肢に入れるべきだろう。
普段ならそうだ。
しかし、今回はそうも言えない。
師匠からの紹介なのだ。
しかも、”くれぐれもよろしく”と言われてしまっては断ることなどできない。
「えっと、チハヤさんですよね?」
一向に返事を返さない私に不安げな顔をしながら再度声をかけられ私は慌てて返事をする。
「ええ、チハヤです。今回はよろしくお願いします」
手を差し出すと相手は安心したように握り返す。
「今回お世話になるセタと言います。よろしくお願いします」
これがAIと心中した男、セタさんと私の出会いです。




