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異世界アジト~辺境に秘密基地つくってみた~  作者: あいおいあおい


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228/229

第228話 本店建設中

 本店の建築がはじまってもう一月が過ぎた。

 工事は順調だ。

 いやむしろ順調すぎる。

 少し心配なほどの勢いで作業が進んでいくので不安になる。

 設計を細かい部分まで練り込んでおいて、本当によかった。

 俺はまだ洞穴族をなめていたようだ。

 ビビとガストがアジトを掘り散らかしているのを見て、もっと早く気が付くべきだった。

 確かにこれは各都市の領主たちが、洞穴族による地下掘削を禁止するわけだ。

 こいつら穴掘りも建築も好きすぎる。

 図面がなければ勢いのまま、場当たり的に巣を拡張しようとする。

 アリだってもう少し落ち着きがあるぞ。

 なんというやばい生き物なんだ。

 無限とも思えるような体力で、楽しそうに、寝ずに作業する。


「ボナス! ここ、ほらここ! まだ部屋作れるんじゃない? 良いよね?」

「ダメ! 寝ろ!」

「えぇ? なんでぇ?」

「お前、目が真っ赤だぞ! おーい、ラフィ! こいつももうダメだ、回収してくれ!」

「またぁ~?」


 俺の場合、自分で図面を描き、現場で直接舵取りしているからまだ何とか成立しているようなものだ。

 これが、遠くで指示だけ出していれば、あっという間に現場は混乱するだろう。

 それにしても、当初はただの改築を予定していたはずが、ほぼ立て直しに近いものになってしまった。

 洞穴族と鬼男たち、それに建築能力を異様に鍛えられたヴァインツ村の出稼ぎ組があまりに優秀過ぎた。

 さらにはピリ傭兵団やその家族、マーセラスの手下、ミシャール市場の暇人や、すっかり鬼男たちと仲良くなった護衛兵までが、建築を手伝ってくれることになったので、うっかり俺も夢が膨らんでしまったのだ。

 すでに二階部分までの構造躯体は完成している。

 ほとんどの部分が三階建てまでなので、完成は近い。

 ただ恐ろしいことに、それ以上の速度で地階が拡大しているんだよな……。

 すでに三階層相当まで掘ってある。

 地下でも構造的に触るとまずいところは、ラフィやビビ、ガストと共に何度も確認しているのでそれほど不安はない。

 だが、それ以外の部分は、あまりに複雑すぎて、俺もどうなっているのかいまいちわかっていない。

 半階層が混ざる程度ならまだいいほうだが、もう立体的に入り組みすぎていて、洞穴族でもない限り、頭の中で組み立て不可能な立体構成になっている。

 この街の洞穴族たちの半分くらいは、もうそこで暮らしているのではないだろうか。

 たまに洞穴族の小さな子供たちが間違って、ひょっこり顔を出しては慌てて引っ込んでいく。

 ちなみに、最近ラフィたち洞穴族の酒場は隔日営業に変えてしまった。

 ただ特にそれでも困ることはないようだ。

 かなり貯め込んでいるようで、金銭的には俺たちよりずっと余裕があるらしい。

 ただ、だからと言って一切金を受け取ろうとしないのも困りものだ。

 さすがにここまで大規模に協力してもらっていると、申し訳なくなってくる。

 まぁ貯め込み癖のある種族でもあるようなので、街全体のことを考えると、洞穴族への報酬は金銭より、もっと具体的なもので得てもらったほうが良いのかもしれない。

 ラフィたち的にも、今の環境にむしろ金を払ってもいいほどの魅力を感じてるようだ。

 ちなみに、他にも意外なところでラフィたち、それにマーセラスにも助けられた。

 実はサヴォイアのし尿処理については、洞穴族とマーセラスが大きくかかわっており、排水処理などの仕組みをかなり上手く、短期間で整えてくれたのだ。

 意外なことに、サヴォイアにはいくつかの浄化槽が設けられていた。

 どうやら王国では、その設置や維持管理を洞穴族へ、定期的な清掃作業を洞穴族に加えて一部の身寄りのない子供たちへ委託する、特権事業としているようだ。

 確かに洞穴族は当然穴を掘ることに関しては天才的だし手先も器用だ。

 工事や清掃を夜間にのみ行うのも種族特性に合っている。

 あまり楽しい仕事ではないだろうが、その分奪い合いになる程度には報酬がいいらしい。

 サヴォイアでも同様で、これまでラフィとマーセラスが頭に立ち、その仕事を按分していたようだ。

 二人の微妙な関係は、そのあたりが根っこにあったようだ。

 それはともかく、実際浄化槽の仕組みはかなり良くできたもので、俺の知るものとほぼ同じような仕組みの物だった。

 ちょうど一区画丸々うちの土地建物なので、古い浄化槽を解体して新しいものを設置することになったのだが、これは洞穴族がいなければ作業的にも技術的にもかなり難航したことだろう。

 換気設備などもそうだったが、洞穴族はこういうった環境設備はしっかりとした良いものを作る。

 厳しい環境で生き抜いてきた知恵が何らかの形で継承されているのだろう。


「ボナス! こっち来てくれ! ここの内装を――」

「先にこっちでしょう、ハジムラド?」

「マリー、お前がオスカーを捕まえているからこっちが進まんのだ!」

「あなたこそ昨日ガストをひとり占めして――」

「ああ……俺は部屋の配置を間違えてしまったのかもしれない」


 最近はマリーとハジムラドが毎日のように現場に居つくようになってしまった。

 マリーはアジトで、ハジムラドはヴァインツ村の保養所で、自分の趣味を炸裂させることに味を占めたのだ。

 趣味人の二人らしい、異様なこだわりを盛り込んだ注文を突っ込んでくる。

 ただそのおかげで、センスのいいオスカーやガストが延々二人から解放されない。

 しかも厄介なことに、マリーとハジムラドは二人とも微妙に趣味嗜好に似たところがあるので、部屋の場所も隣同士になってしまった。

 その結果、競うようにオスカーとガストを奪いあっている。

 お互いの施工状況が見えるのものだから、余計気になるのだろう。

 オスカーやガストも決してそういうことが嫌いなわけでも無いので、ブレーキ役がいない。

 さらには俺も巻き込まれることも多く、この二人には俺も何かと世話になっており、頭が上がらないので、なかなか大変だ。

 特にマリーはオスカーを気に入っているようで、最近では腕を組んで――というか確保していろいろ連れまわしているところを目撃されている。

 街の連中は二人の様子、特にマリーのそういった姿に意外そうな反応を見せていたが、実際は出会った当初からこの二人は良く喋っていた。

 それに、アジトでののびのびとしたマリーを見ていると特に違和感もない。


「マリー、そういえばさっきギゼラが新しい武器が出来たから暇になったら来いってさ」

「それを早く言いなさいよ。じゃあハジムラド、一旦オスカー貸してあげるわ」

「よし、オスカー、この飾り棚について少し話そう」

「なぁ、ボナス。俺、コーヒー飲みたい」

「なんだ、コーヒーか? それなら俺があとで淹れてやろう。さぁオスカーこっちだ」

「頑張れよ、オスカー!」


 同じくセンスの良いギゼラは、鍛冶場が洞穴族の建物のほうへ設けられたことで、この二人からうまく逃れられている。

 いや今回の場合は、単にそれ以上の熱意で自分の仕事に打ち込んでいるだけか。

 最近のギゼラは仕事場へ籠っていることが多い。

 食事時に見せる姿はまるで雨にでも打たれたかのように全身汗だくで、妙にギラギラした目をしている。

 最近覚えた新しい刃物の作り方が面白くて仕方ないらしい。

 まだまだマリーが満足のいくレベルのものはできないようだが、それでも日々上達しているようだ。

 実際マリーもその成長に期待を募らせている。

 単純な性能だけでなく、ギゼラの作る武器には何とも言えな色気のようなものがある。

 俺もギゼラからもらった杖を愛用しているからよくわかる。

 あれはマリーが期待するのも当然だろう。

 本人はただ自分の美意識に忠実に仕上げているだけだろうが、それがなんとも所有欲を刺激するものなのだ。

 俺に鑑定眼はないが、きっと工芸品としての価値も高いはずだ。

 鬼男たちは今でもギゼラを恐れていはいるが、その視線にはどこか憧れのようなものが混ざり始めた気がする。

 実際試作品として預かり受けた武器を、まるで家宝のように大切にしている。


「ボナスさん、新しい店の日除けはこれで良いですか?」

「父さん! こっちのほうが可愛いって!」

「ロミナ、テーブルクロスとのバランスを考えたらこっちだろう。元々ボナスさんの露店はこの緑が使われて――」

「そんなの……ぴんくちゃんのぴんくだって良いでしょう! 今じゃボナス商会といえばこの色だよ!」

「しかし……どうです、ボナスさん?」

「あぁ……確かにぴんくの色だし可愛い――けど、俺やトマス、ハジムラドやピリが薄っすらピンク色に染まるのは、お互い見たくないかもしれないなぁ」

「そ、それは……なるほど」

 ちなみに肝心のコーヒーを出す店舗部分の構造躯体はとっくに完成している。

 今はメラニーと仕立て屋の娘たち、さらにはトマス、他にはオスカーの同業者や常連の生地屋などが喧々諤々と店の内装について議論している。

 この場の仕切り役を任せているはずのメラニーは、母親のクララ、さらにはどこかで見たことのある老姉妹とテーブル配置について喧嘩している。

 なぜクララがここにいるのかとも思うが、彼女には土地の購入でも陰ながら世話になっているので、まさか来るなとも言えない。

 当時かなり怪しかった俺がミシャール市場で露店を始めることができた、隠れた恩人でもある。

 ただあの婆さんたち、嫌いじゃないが、苦手なんだよな……。

 横で目が死んでいる家具職人には、あとで少し多めに支払っておこう。 

 よし、あの場はメラニーに任せてとりあえず近寄らないようにしよう。

 最近気が付いたが、どうやらハジムラドも俺と同じように感じているようだ。

 あのこだわりの強い男が、本店の改装にあまり姿を見せようとしないのは、どうやらクララの存在が影響している気がする。


「まったく、クララは相変わらず……、いい加減あれじゃあ話が進みませんな。私が少し言って来ましょう。せっかくの機会だ、こういう事業はあくまで若い人間が先に立つべきだ」


 トマスは娘には滅法弱いが、クララとは対等にやり取りできる貴重な存在だったりする。

 ただ実際のところ、トマスはそれぽいことを言いつつも、その実やってることはクララとあまり変わらなかったりする。

 意外にしょっちゅう口を挟んでくる。

 しかもそれが的確なので、どうしようもない。

 俺の周りには無駄に優秀かつ、煩悩の塊みたいな老人しかいないようだ。


「はぁ……なんか疲れたな。――おや?」

「しーっ」

「あ~……危ないから、そんなところで遊んじゃだめだぞ?」

「え~……はぁ~い」

「うにゃうん……」

「こらぁ!」

「うわぁぁ! ラ、ラフィに怒らる! にっげろ~!」

「……なんでコハクも一緒に隠れてたんだ」


 足元の床板がふわふわと不自然に揺れているので持ち上げてみると、洞穴族の子供が隠れているのを見つけた。

 なぜかコハクも一緒だ。

 こちらをまぶしそうに見上げ、「しまった」見たいな顔をしている。

 さっそく目ざといラフィに見つかって、怒られている。

 しかし洞穴族の子供たちは比較的日差しにも耐性が強いようだ。

 眩しそうにはするが、その程度で、かなりの薄着で元気いっぱい走り回っており、やや大きめのローブを着たラフィが、難儀しながら追いかけているのをよく見かける。

 もしかしたら俺と出会ってから一番忙しくなったのは、ラフィかもしれないな。

 洞穴族で唯一洞穴族を何とか取りまとめようとしてくれるありがたい存在なので、彼女には長く元気でいてほしい。


「ほら、捕まえたよ!」

「ひえ~っ、つかまったぁ! ラフィにたべられる~! ボナス助けてぇ!」

「いまだ!」

「みんなにげろ!」

「うわぁああ~!」

「こらっ! も~ボナス! この子たち捕まえるの、手伝って!」

「いや、無理だって……」


 どうも隠れていたのは一人だけじゃなかったようだ。

 子供たちがいろいろな場所から一斉に駆けだしてくる。

 俺や鬼男たちの股の間を笑いながら駆け抜けていく。

 体が小さく素早いので、ある意味大人の洞穴族よりも捕まえにくい。

 あれを確実にどうにかできるのはクロくらいだろう。

 まぁ、現在施工中の三階であればそれなりに危ないが、それ以外であればそこまで危険でもない。

 子供たちもその辺はわきまえているようで、構造躯体を施工しているような場所には決して姿をあらわさない。

 しかも意外に細々とした仕事も、面白がって手伝ってくれるし、実際子供たちの貴重な学びの場にもなっているようで、頭ごなしに辞めさせづらいものがある。

 とりあえず洞穴族の子供たちはどうしても可愛すぎて、俺には怒る気になれない。


「そういやクロとシロは大丈夫かな――おぉ……」

「流石にあの様子を見ると……俺も自信を無くす」

「うん? ああ、ハジムラド。オスカーとの相談はもう――って、あいつも並んでるのか。しかし、ここからだと露店の様子がよく見えるなぁ」


 そして今露店にはクロとシロの二人が立っている。

 二人だけで露店に立っているのはかなり珍しい。

 二階から見ると驚くほど露店の様子が良く見える。

 クロはやはり器用で動きは素早いが、相変わらず謎に演出がかった様子でコーヒーを入れたがるので、意外と一杯入れるのに時間がかかっていたりする。

 シロも特別不器用というわけではないものの、大きな体を小さくして、慎重にコーヒーを入れているので、当然一杯入れるのもゆっくりだ。

 二人ともあまり効率よく客をさばけているようには見えない。

 ただそれでも客たちは大変満足なようだ。

 むしろハジムラドが露店に立っていた時以上に喜んでいる。

 提供速度が追いつかず、ちょっとした人だかりができてしまってはいるが、ほとんどの人はクロとシロの様子にむしろ頬を緩めている。

 最近では露店に立つ皆があまりにこなれてしまったので、クロとシロのマイペースに自分の仕事を楽しむ様子が新鮮で、特別魅力的に見えているのかもしれない。

 実際俺も上から見ていて、二人のつくりだす空気――たぶんそれは最もアジトのいつもの空気に近いものを感じて、思わずにやけてしまう。


「――なるほど。すっかり露店の仕事を自分のものにしたつもりでいたが……俺もまだまだ学ぶことはあるようだ」

「何を納得してるんだハジムラド。お前もさっさと自分の部屋の仕様を決めて、クララとやりあってこいよ」

「勘弁してくれ……」


 なんとなくその様子から目が離せず、ハジムラドとすこしの間二階の窓辺に座り、ぼんやりと露店の小さなやりとりを眺めていると、常連の一人が俺の存在に気付いたらしい。


「おーい、ボナス! そんなところで見てないで、お前もおりて来いよ!」

「たまには昔みたいに三人で並べばいいじゃないか!」


 実際俺もそうしたいと思いつつ、何となくクロとシロが作り出すあの空気感を壊したくなくて気が引けていたが、常連の声に引っ張られるようにこちらを見上げてきた連中の顔を見ると、何も迷うことはない気がしてきた。


「ああ……そうだな、まったくその通りだ! よし、行くかぴんく!」

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