12 やっとこさの戦闘シーンで出てきたお相手が、ラブホでローション塗れの大男とか
それとほぼ同時、
――ザ、シュッ――!!
と、居合のごとく――、凄まじい速さの斬撃が襲ってくる。
その、刺客と思しき者の影が少し見える中、
「おわっちッ!!」
と、綾羅木定祐は変な声を出しつつも、寸でのところでかわした。
しかし、少し体勢がくずれたところへ、
「うっ、しゃァァッー!!」
と、襲撃者の気合の声とともに、またしても日本刀のように鋭い攻撃が――、手刀に、蹴りの連撃が繰り出される。
それらは速く、正確かつ時に変則も交えて急所を突こうとしてくるもので、なおかつ、絶妙に間を潰して反撃の機会も与えないというものであり、プロの格闘家をも凌駕する。
「う、うわぁぁん!!」
綾羅木定祐は攻撃をさばき続けるも、奇襲をされたことにより後手であり、少しばかり分が悪い。
そこへ、
「もらった!!」
と、影の襲撃者が叫び、勢いのまま綾羅木定祐を組み伏せようとしてくる。
そんな、普通であれば、そのまま崩れ落とされるような劣勢――
しかし、
「ふ、んぬッ――!」
と、綾羅木定祐は寸でのところで、踏ん張りを効かせつつ、
「こちとら、毎日ラジオ体操で鍛えてんだッ! パワー・オブ・ラジ体ッ!!」
「うおぉッ――!?」
と、何か意味の分からぬことを宣いながらも、“それ”が相気なのか柔道の要領なのか定かでないが、優勢だった襲撃者の体勢をひねり返して驚かせて、投げ落とす。
「はーいッ!! 制圧ゥッ!!」
「ぐふぅッー!!」
綾羅木定祐の勝利の声と、地に伏せられた襲撃者の敗北の声が上がる。
短時間だが、ハイレベルな戦闘――
いうて、この綾羅木定祐だが、ふざけているように見えても、対邪神戦闘術、対魔術戦闘術の特級検定を含め、その戦闘技術はそこそこ高い。
さらに、そもそも非異能力戦闘であっても、そのレベルはかなりで、単独でも猛獣界最強クラスのカバに勝てるという、尋常でない戦闘力の持ち主である。
「やれやれ……。まったく、普通に登場してこいっての」
綾羅木定祐が。制圧した襲撃者に言った。
その様子から、相手は顔見知りのようであり、手を差し伸べていた。
「いやぁ……、すみませんねぇ、旦那。せっかくの機会なので、手合わせ願いたいと思いましてね」
襲撃者の男が、詫びながら起き上がる。
ウェーブがかった少し長い髪に、インテリメガネに細目、それからブランド物のようで少しヤクザじみたスーツ姿――
異能力“任侠集団”の一員の、餅月三平太だった。
「せっかくの機会じゃないが。そんな理由で、奇襲してくんなっての」
「まあまあ、そう言わずに。これで、今回初めての、戦闘シーンっぽい戦闘シーンになったじゃないですか」
嫌そうな綾羅木定祐に、餅月が言う。
「いらん気遣いするなよ。何だよ、戦闘シーンって?」
「いや、だって、せっかく戦闘力高い旦那なのに、なかなか戦闘シーンが出てこないのはもったいないじゃないですか? この前なんて、やっとこさの戦闘シーンで出てきたお相手が、ラブホでローション塗れの大男とかだったじゃないですか」
「おい、人のトラウマを思い出させるな。殺すぞ」
綾羅木定祐が言った。
少し前のことだが、屋根裏に関する殺人事件の調査においてラブホテルを調べている最中、全身にローションを滴ったスキンヘッドに刺青の大男と戦闘になったのは確かだ。
ローションによって打撃を無効化する男に苦戦しつつも、綾羅木定祐は最終的に男をバスマットに崩し落とす。
だが、その刹那――
綾羅木定祐も巻き込まれる形でローションによって滑ってしまい、男の“おいなり”へ――、すなわち、股間へと顔をダイブさせてしまったわけだった。
まあ、戦いに勝ったとはいえ、トラウマものといえばトラウマものに違いない。




