11 ちょいお色気のポストだけで二、三桁万のインプレッションという、一般弱者アカウントが十年かけても出せない数字を朝食ついで程度の投稿で叩きだす
(1)
夜になって、綾羅木定祐と上市理可のふたりは、新宿は繫華街、歌舞伎町にいた。
“混沌事件”について、夜の、裏社会から情報を得ようと、すこし調べてみる。
眩い歌舞伎町の喧噪、カオスを眺めることのできる、すこし坂の上にて、ふたりは“情報筋”から話を聞くべく、缶コーヒーを飲みながら待っていた。
「ふぅ……。気になるのは、裏社会の者の関与かどうか――? か……」
綾羅木定祐が、ため息した。
いろいろ可能性を考えるのもよいが、絞れるなら、なるべく絞りたかった。
碇賀元たちからの話からすると、たぶん裏社会の者による犯行ではないと、自分たちも思うのだが、いまのところ、そう確信を持てる情報はなかった。
ゆえに、実際に、裏社会に通じている人間から、何かしら情報を得るわけだった。
「……」
上市理可が無言で、チラリと、綾羅木定祐を見ると、
「まあ、裏社会の者が関与してるにしろ、してないにしろ……、独自の情報を、得ることができたらいいな、ていどか……。まあ、知らんけど」
「出ました。必殺、知らんけど」
「おだ、まり」
と、綾羅木定祐が答える。
続けて、コーヒーに口をつけながら、
「――しかし、なぜに高身長なのだ? 理可氏?」
と、今さらながら、隣で、GUCCIの野球帽とノースリーブに厚底というコーディネートをした上市理可に気がついた。
「いま、SNSで話題の高身長女子ブームに――、でかい系女子ブームに、あやかりますた」
「ますた――、じゃないが」
綾羅木定祐は、つっこむ。
そうしながら、綾羅木定祐は、ふと見ていたスマホのSNSの画面の、“あるポスト”に気がついた。
「そう言えば、ちょうど高身長女子で出てきたんだが……、いちご湯浅っての、“いる”よな? ――てか、“いた”よな?」
と、訂正しながら、上市理可に画面を見せる。
確かに、高身長の――178センチと公表してある女の、グラドルというか、コスプレイヤーのような画像が映っていた。
実際にグラドル兼コスプレイヤー、またはインフルエンサーとして活動しており、いちご湯浅とは当然だが、その芸名だった。
「ん? いた、っけ……?」
上市理可は、首をかしげながら、
「……ああ? そう言えば……、なんか、いたような」
と、若干、思い出す。
それほど印象はないものの、SNSで、たまに流れてきた記憶はある。
「まあ、えなことか、伊織もえとかの有名どころとくらべると、ちょっと知名度は劣るからねー」
綾羅木定祐が言うと、
「うん。それは、そのとおりなのだ。彼女たち著名レイヤー兼インフルエンサーは、ちょいお色気のポストだけで二、三桁万のインプレッションという、一般弱者アカウントが十年かけても出せない数字を朝食ついでていどの投稿で叩きだすのだ。おっぱいの力には、勝てないのだ。世の、あわれなのだ」
「おい。そろそろ、ハム太郎しまっとけ、カス」
と、心の中のハム太郎に語らせる上市理可に、カス呼ばわりしてつっこんだ。
また、こんどは上市理可が、
「てか? いちご湯浅、って? 何で?」
「何か、越後湯沢の出身、だからじゃね? あと、語呂的に、とか」
綾羅木定祐が、答える。
確かに、公表してるプロフィールには、新潟県は越後湯沢の出身とあった。
東京から新幹線で一時間で、駅を出てすぐスキー場だの、バブル時代の不動産が安いだのと、微妙な知名度の越後湯沢である。
「越後湯沢の、いちご湯浅……。ぷっ、……」
上市理可が、ひとりで吹き出し、
「何が面白いんだ、おうコラ、ハム太郎」
と、綾羅木定祐がつっこむ。
また、上市理可が
「てか? “いた”――って、過去形?」
と、先の綾羅木定祐の言葉を思い出し、気になった。
「ああ……。あれから、見つかって、いないそうだからな」
綾羅木定祐は、ふたたびスマホの画面を上市理可に見せた。
いちご湯浅本人の、公式アカウント――
おおよそ、毎日のペースでしていた投稿が、数か月前から停止していた。
最後は、峰不二子のようにウェーブのかかったウィッグに、セクシーなアサシンキャラのコスプレという投稿を残して。
「ん、ん? 投稿が、止まってるね」
上市理可が言い、
「うん」
と、綾羅木定祐がうなづいた。
また、別のアカウントを開く。
ちょっと闇のありそうな時事ニュースなどを投稿しているアカウントで、そこに、いちご湯浅に関する記事が載っていた。
「失、踪――?」
と記事を見るなり、上市理可が、そう口にして、
「ああ……」
と、綾羅木定祐も、静かにうなづいた。
記事によると、最後の投稿から数日後、忽然として、音信不通になったとのことだった。
「はぁ……」
綾羅木定祐が、ため息しながら、
「“あいつら”の依頼を受けるくらいなら、湯浅たん、探してたほうがいいよな。特に、このスタイルのいい高身長に、でっかい尻には、ロマンがあるッ!」
「はぁ、」
と、上市理可は、気の抜けた相づちをする。
その時、
「というか、理可ァ氏ッ――!」
「――!?」
とここで、突然に指を刺され、上市理可がビクンッ となる。
続けて、
「何だ! その、ゆったりスカートは! やりなおしッ!」
「や、やりなおしッ――!?」
「ああっ、そうだぞぉ〜ん! 私は、ね? 常に言っているだろ! 尻の、フ・ォルムが出る、すこしタイトめなパンツスタイルこそ至高だと! 高身長女子コーデ以前の問題だぞォンッ――!」
「うっげぇ! キモすぎィッ!」
と、発作のように力説する綾羅木定祐に、上市理可がキモがる。
間をおいて、
「――とは言え……、はぁ……、まったく、いつ来るんだ? ヤツらは」
「そうだ、ねー」
とここで、ふたりは切り替える。
いちご湯浅と上市理可のスカートやり直しの件は、どうなったのか?
まるで、憑依していた霊が、突発的に飽きてしまったように。
そうして、
「やれやれ……」
と、綾羅木定祐は、残ったコーヒーを飲み切ろうとした。
その時、
「――!?」
と、突然に、綾羅木定祐は背後に気配を感じた。




