- 7 -
「こうくん、起きなさい! 遅刻するわよ!」
次の朝、こうくんはママに起こされて目が覚めました。
「わあ、こんな時間!」
「早く着替えてご飯食べちゃいなさい」
いつもなら、とっくにごはんを食べている時間です。こうくんは、あわただしく着替えて顔を洗うと、テーブルに座りました。今日はお豆腐のお味噌汁と卵焼きです。
「急いで食べちゃって!」
パパはもう会社に行ってしまいました。ママも、洗濯をしたりお仕事に行く用意をしたりしていて忙しそうです。
「こうくん、昨日は遅くなってごめんね。今日は昨日ほどは遅くならないと思うけど、それでも4時までだから、少しだけ一人でお留守番していてね」
ママは、スーパーでパートとして働いています。こうくんの帰る時間に合わせて仕事を終わらせますが、忙しいときはちょっと遅れることもあります。
「うん。ねえママ、今日帰ったらりゅうくんと遊んでもいい?」
「いいわよ。でも、暗くなる前に帰ってくるのよ」
「わかった」
りゅうくんはきっと、今朝もえらそうにいつものところで待っているでしょう。でもこうくんは、早くりゅうくんに会いたいと思いました。
りゅうくんに大きな声で、おはよう、と言うんだと、こうくんは決めていました。
「ごちそうさま。行ってきます!」
こうくんは、青いランドセルを背負います。白い翼はついていません。
「気をつけてね。忘れ物はない?」
「うん! あ、おばあちゃんに行ってきます、するの忘れた」
あわてて玄関から戻ってくるこうくんを見て、ママが笑いました。
「本当にこうくんは、おばあちゃんっ子ね」
こうくんは、窓辺に近づくと二つの写真の前でにっこりと笑いました。
「おばあちゃん、行ってきます」
写真の中のおばあちゃんも、にっこり笑っています。隣にはおじいちゃんの写真もありますが、おじいちゃんはこうくんが生まれる前に亡くなってしまったので、こうくんは会ったことがありません。
「じゃあね、ママ。今度こそ行ってきまーす!」
「いってらっしゃい!」
『いってらっしゃい』
二人の声に送られて、こうくんは元気に登校していきました。
ランドセルの翼は、こうくんとおばあちゃんだけの、秘密です。