第73話 魔剣使いナーグ
〜視点:礼治〜
ギルドの中から外へ出るとギルド前の広場のど真ん中でナーグは自身の得物であろう、全体的に黒色の大剣を地面に突き刺し、手を添えた状態で立っていた。
「やっと来たか罪人」
相変わらず俺を悪者呼ばわりにするナーグには呆れるの一言に絶えなかった。
「二人はここで大人しく待っててね」
「はい礼治様。あんな奴サッサと片付けてきてくださいね」
「レイジ様頑張ってください!全力で応援しています‼︎」
「ありがとう二人共。じゃあ行ってくるよ」
二人に見送られながら俺は移動し、ナーグから八メートルぐらい離れた位置で立ち止まり、ナーグと向き合う。
「負ける準備は出来たか罪人?」
「はい。勝つ準備は出来てますよ」
「冗談はほどほどにしとけよ罪人」
「俺は本気ですよ」
会話が進むにつれナーグの睨みが増してきているがそれは無視し、今は敵だからいいだろうと思い睨むフリをして『ステータスチェック(自・相)』を使い、ナーグのステータスを確認してみた。
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ナーグ (17) ♂ 人間族
レベル:16
職業:魔剣士
筋力:235(555)
体力:243(443)
耐性:238(558)
敏捷:212(412)
魔力:203(403)
魔耐:199(399)
運 :132(332)
称号
魔剣の使い手(第一解放)
スキル
剣術、筋力・耐性強化:6、全強化:10(魔剣付加)
特有スキル
ステータスチェック(自)
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どうやらナーグが所持している得物は魔剣らしく、その魔剣は所有者のステータスを強化させるものだった。
ー称号ー
《魔剣の使い手(第一解放)》
魔剣の力を解放することができた者に贈られる称号
(第一解放:完全解放まで後四解放)
ースキルー
《全強化:10》
全ステータスを200アップ
ー特有スキルー
《ステータスチェック(自)》
自身のステータスを確認するスキル
「睨み合ってる途中だがちょっといいか?」
睨むフリをしてステータスを確認していた俺と本当に此方を睨みつけていたナーグがほぼ同時に声の聞こえた方向に振り向くとそこにはロイドさんがいた。
「お前ら二人の戦いの審判を務めるロイドだ」
取り敢えずは最初に自身が審判を務めることを宣言したロイドさんは話を続ける。
「俺が審判を務めるにあたって勝敗は俺が決着がついたと判断したらそこで試合を終了する。また、相手や周りに甚大な被害が出る攻撃は禁止とする。以上が俺の提示するルールだ。抗議は認めないからな」
「「ハイ‼︎」」
「よし。お互い得物を構えろ!」
ロイドさんはルールを提示した後、俺とナーグの返事で確認をとってから次の指示を出す。
「『タロットマジック』小アルカナ、剣」
異空間から『風の剣』を取り出し両手で持って構える。
「ふん。そんな細い剣じゃあ俺の魔剣の一撃を喰らっただけですぐに折れるぜ」
魔剣を両手で握り、数回素振りをしてから得物を構えたナーグは此方に皮肉な言い方で忠告をしてきた。
「御忠告ありがとうございます。そこに関しては技術で補うので御心配なく」
それに対し、俺は丁寧な言葉でサラッと返すと癇に障ったらしく、ナーグは無言のまま、眉間に更に皺を寄せて此方を睨みつけてくる。
「よし、準備はいいか二人共?」
俺達が得物を構えたところを確認したロイドさんが質問する。
「俺は大丈夫だから、早く罪人と戦わせてくれ」
「俺も大丈夫なので合図をお願いします」
ロイドさんは最後の確認をした後、右手を上げ、そして。
「始め‼︎」
腹からデカイ声を出すと同時に右手を勢いよく振り下ろし、試合開始の合図を出した。
「覚悟しやがれ罪人‼︎」
開始の合図が出て最初に動いてきたのはナーグだった。
ナーグは一直線に此方に向かって走り出し、自分の手前までくると。
「オラーー‼︎」
声を張り上げながら、魔剣を横向きで勢いよく振りかぶって攻撃を仕掛けてきた。
「『風鎧』」
それに対して自分は風魔法の『風鎧』を使って身体全体を風の鎧で覆ってから地面を軽く蹴り、その場から上に向かって2メートルぐらいのところまでジャンプして大振りの攻撃を避けた。
『何処が軽いジャンプだ』と言われそうだが、風の鎧を纏っている今の俺はフールが本来の姿、つまりは小人の状態の時の様にある程度の高さを自由に飛ぶことができないものの、地面を軽く蹴ることで通常の数倍の高さまでジャンプすることが可能なのだ。
ジャンプした後、後方に数メートル離れた地点に着地する。
「そんな攻撃じゃあ当たりませんよ」
何となく挑発してみた。
「煩えんだよ罪人が‼︎」
ナーグは簡単に挑発にのってくれ、挑発をした俺でも何でこうも簡単にのってくれるのかを不思議に思ってしまった。
「コレで俺の勝ちだぜ罪人!『一刀両断』‼︎」
そう思っているとナーグが再度、俺の目の前にまで迫ってくると、何を根拠にしてか?勝利予告をしながら魔剣を頭上に振り上げ、技名を言うと同時に勢いよく振り下ろす。
技名から察するに、触れたモノを両断する技なんだろうと察したが俺は剣先を魔剣に向ける。
そして、『風の剣』の剣先にナーグの魔剣が接するまで後数センチとなった次の瞬間。
「『風球』」
通常よりも魔力を消費し『風の剣』から風の球を放出した。
放出された直径約20センチの風の球はナーグの勢いよく振り下ろしてきた魔剣にゼロ距離で直撃し、次の瞬間に勢いよく破裂した。
その衝撃で破裂した風の球を中心に数メートルの範囲で風に煽られ砂埃が舞い上がり辺りを砂煙が覆う。
砂煙のせいで戦っていた俺とナーグの姿が見え無くなってしまったので、観戦者達の『どうなった?』や『結果は?』と言った声が木霊する。
砂煙が辺り一面を覆ってから十数秒後、徐々に収まり始め、砂煙には立った状態の人の形をしたシルエットと倒れ込んでいる状態の人の形をしたシルエットが浮かび上がり、フールとシルフィアの二人を含めた観戦者や審判を務めているロイドさんが固唾を飲んで見守る。
そして砂煙が収まり、観戦者達の視界が捉えたのは、俺が腰を地面に落として倒れ込んでいたナーグの首元に剣先を突きつけていた場面だった。
「試合はそこまで!勝者レイジ‼︎」
「「「「「ウオーーーーーー‼︎‼︎」」」」」
先程までの沈黙が嘘だったかのように、ロイドさんの試合終了の合図と共に、観戦者達の興奮した声が打ち破った。