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四章

 夜の体育館、そこで足音を響かせる凛渡。靴を踏み鳴らせば、きゅっきゅっと高い音がこだまする。凛渡の左手に握られるのは鞘に納められた一本の日本刀。バスケットボールを跳ね、バレーボールを天高く打つこの空間には、とても縁のないものだ。体育館のステージの上には一人の男。凛渡の今夜の標的である。

 「君は誰だい?」

 暗闇の中、中年の痩せ型の男がぼそりと呟く。口元の青髭がいやらしく歪む。

 「若いね、僕のところに遊びにきたんだ。最近は誰も来ないから、少し寂しく思っていたんだ」

 男の笑みを見据え、凛渡は言葉を発する。

 「そうか」

短くそう言う。男は気に食わない顔をして、頭を掻き毟るとステージから飛び降りた。

 「なんなんだよ、僕のことを知っていてきたんだろ」

 「ああ、そうだ。大坪克己、38歳。この小学校の五年二組の担任であり……

ヨロイの感染者だ」

 男は嬉しそうに手を叩く。

 「よく調べたね、もしかして噂の管理局てやつかな。僕はネットとか見るのが好きだから知ってるんだ。……人知れず、僕のようなヨロイ使いを同じヨロイ使いで管理し、狩り続ける悪の組織」

 凛渡はその言葉に答えない、大坪はイラつき足元に転がるバスケットボールを蹴飛ばす。体育館の隅の暗黒へとボールは吸い込まれる。その転がり続ける音が大坪の神経を逆撫でした。

 「おい、しゃべれしゃべれしゃべれよ。なんで、黙るんだよ。俺は化け物だぞ、お前らの恐怖の対象だぞ」

 もう子供だ、凛渡は心の中でため息をついた。男は先ほどよりも強く頭を掻く。

 「よしお前ぶっころ」

 大坪は子供染みた口調でそう言うと凛渡へ向けて地面を蹴った。血に飢えた悪鬼のように。

 



                  ※



 ――ヨロイ。突如として流行病のように現れた。ヨロイの姿は様々である。甲冑の姿をした騎士もいれば、四足のおぞましい獣だったり、巨大な鳥であったり、竜であったり。

 しかし、ヨロイはただの怪物やUMAなんかとは違う。その姿を見ることができるのは、ヨロイと契約した人間のみ。契約することで、特殊の力を手に入れる恩恵を受ける。契約後は、ヨロイと共に生涯を生きていかなければいけない。ヨロイはそれ以上のことは望まない。ただ宿主に力を与え続ける。

 ヨロイの生態は謎が多く、人間に力を与えることがはっきりと分かる事実だ。ここまでの情報を知っているのも政府の一部の人間かヨロイの契約者のみ。ただ、ヨロイの力を使うことで心の消費を伴う。

 例をあげるのならば、どうしても足の速くなりたい陸上部の男子生徒がいた。どれだけ努力しても、どんなに必死に足掻いても超えることのできない壁が見えた。彼は自分の限界に気づいていた。そんな時、彼の前にヨロイが現れたのだ。彼にこう言う。

 ――足が速くなりたいか、なら俺と生きろ。

 少年は藁にもすがる思いで頷く、少年はそれからというもの様々な大会で賞を総なめにした。世界の切符も目の前に見えるようになっていた。最初は恐怖したヨロイも次第に神のように崇めるようになった。この世の天国を味わい続けた。

 事件は起こる。少年は自分の力を制御できなくなったのだ。ヨロイを抑えていた気持ちが次第に薄れ、力に溺れる内に自我が崩壊し力が溢れ、少年は紫色のトラの獣へ変化を遂げた。それがヨロイの姿、そしてそれがヨロイに喰われるということ。そして、そんな彼を仕留めたのも一人の少年だった。

 僅か十年間の間に多発するようになったヨロイの事件をヨロイの力で解決し管理する組織--管理局。そこに大羽凛渡は所属する。

 陸上への夢を追いかけヨロイに食われた友人の命、これまでもたくさん奪った命や夢と希望、大切な妹への思いを背負い左手の日本刀を抜刀。右手に持つ刀が青く暗闇を藍に染めるように輝く。

 「いくぞ」

 凛渡の呟きが眼前に迫る男、大坪との開戦の合図になった。



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