俺視点(後半)
嫁がこの世界でレモンサワーを爆誕させてくれた。
今度は俺がこのレモンサワーに合うおつまみを用意したいと思ったのだが。
「レモンサワーに合うおつまみと言えば……やっぱり唐揚げだよな。焼き鳥にも合う。ぼんじりや皮を塩で焼いてレモンサワーと合わせたら……。最高だ。あとは餃子もたまらないよな。焼き立ての餃子をはふはふ言いながら食べて、レモンサワーをぐびっと飲む。ああ、想像するだけで涎がでそうだ」
とりあえず食べたいつまみは沢山ある。問題は……。
「元の世界で学生だった頃は一人暮らしをして自炊をしていた時期もある。だから料理が全然できない……わけではない。でも……」
餃子は正直、ちゃんと作ったことは数回しかない。その時も餃子のあんと皮を買い、ちょちょっと包んで焼いたぐらいだった。あとは蓋いらずだったり、水も油もなしでOKの冷凍餃子をフライパンで焼くだけ。あんを自分で用意したことも、皮を作ったこともなかった。
「餃子……食べたい。でもレシピが分からないし、この世界で材料が揃うのか……?」
餃子といえば醤油に酢、そしてラー油であるが、酢はワインビネガーがあることは嫁が教えてくれた。でも醤油とラー油は……。
ないな。でもタレなんて、最悪、ワインビネガーでもいい気がする。あんの方に味をしっかりつけておけばいいわけで。
でもその餃子のあん自体、何が使われているのか。
ひき肉とキャベツ。味付けは……ごま油だろう。あとは……塩・胡椒かな。
あんは何となく想像がついたが、皮は……。
あの薄っぺらい皮は何で出来ているんだ……?
結論として俺では餃子を作るのは無理だった。
じゃあ、唐揚げはどうだ!?
唐揚げなんて、鶏もも肉を油で揚げればいいんだよな……?
唐揚げ粉にまぶして。
よし! これなら楽勝! 俺は嫁とレモンサワーを楽しむために唐揚げを作るぞ!
そこで気が付く。
唐揚げ粉なんてこの世界にないことに。
えっ、唐揚げ粉の成分って何なんだ!?
悶々と考え、思いついたのは……。
多分、白っぽい粉と言えば小麦粉だ。だから小麦粉をまぶして揚げればいい!
ということで脳裏にはアツアツの唐揚げが浮かび、生唾を飲む。
でも揚げ物だけだと、嫁は「ダメよ、涼ちゃん。野菜も食べないと!」と言い出しそうだ。そこで俺は聖女宮の厨房へと向かう。
今日は日曜日で、嫁は大聖堂のミサに参加している。俺も誘われたが辞退して、代わりにレモンサワーのつまみについて探求していた。
「おや、聖女様の旦那。どうされましたか?」
聖女宮の厨房を任されている料理長が俺に尋ねた。厨房は朝食の片づけをする料理人で、そこそこ賑わっている。
「実は酒のつまみになる野菜は何があるのかと気になって」
「酒のつまみになる野菜? そりゃロースト・ポテトがいいんじゃないですか? ざく切りにしたポテトをオーブンで焼いてオリーブオイルに塩ひとつまみ。ご婦人向けにローズマリーを散らしてもいい」
「……それはうまそうだ。でももう少し、青々とした野菜を食べたいんだけど……」
「青々とした野菜? 貴族様は青々とした野菜は食べないですよね?」
「あ、そうなの!?」
料理長は不思議そうな顔をする。
「……聖女様の旦那は貴族ですよね?」
「そうです……。あ、でも俺は割と食については寛容で。ビールも好きだし、野菜も食べたい派です!」
「ほお。聖女様の旦那は変わった御仁だ。なら特別に酒に合うつまみを教えて差し上げます。ロースト・オニオンです!」
「ロースト・オニオン?」
「そう。オーブンでカットしたオニオンを焼いて、バターと塩をぱらっとふりかけていただくんさ。ちょいと贅沢するならブラックペッパーも振りかける。酒も進みますぞ~」
「オニオンか……それはいいかもしれない。綾香も喜びそうだ!」
「え、聖女様がオニオンを召し上がるのですか!?」
「ああ、食べる!」
料理長は「さすが聖女様。庶民の食べ物だと敬遠することもないと」としみじみと頷く。そして尋ねる。
「今晩、召し上がりますか? 酒は何を用意しましょう?」
「あ、実は……」
そこで嫁が考案したお酒……レモンサワーを飲むのに俺がつまみを用意するのだと話すと……。
「なっ、聖女様の旦那、なんてお優しい! その唐揚げなるもの、フリットとはまた違うようですが、レモンサワーというお酒に合わせたらとにかく旨そうです! 協力しますよ! 美味しい鶏もも肉とシャキッと歯応えのオニオンの用意は任せてください!」
かくして料理長の協力を得て、俺はつまみを用意できることになった。
◇
俺が嫁のために酒のつまみを作るらしい……という噂はあっという間に広まった。そして夕方、俺と嫁で厨房に向かうと──
「あらあら、今日は夕食の用意はなしでとお伝えしていたはずですが……」
「はい、聖女様! 確かに夕食の用意は必要なしと伺っています。ただ、お二人がこれからレモンサワーなるお酒だけではなく、おつまみも作るとお聞きしました。何かお手伝いできることがないかと思い、集結した次第です!」
料理長のこの言葉に、俺は嫁と顔を見合わせてビックリした。しかも――
「鶏もも肉、こんなに!? 玉ねぎも大量!」
「レモンもこんなに用意いただいたんですね~」
作業台には山盛りの食材。それを見た嫁は……。
「今日は……みんなでレモンサワー・パーティーね!」
つまりせっかくみんな集まってくれたので、みんなで料理を作り、レモンサワーを飲もうとなったのだ。これには料理長を始めとした料理人や炊事係の使用人は大喜び。
「聖女様、旦那が旨い野菜のつまみが欲しいと言っていたので、ロースト・オニオンを提案したんですよ」
「料理長、ロースト・オニオンって!? なんだか美味しそうだわ」
「簡単に作れますよ。こうやってオニオンをざくっ、ざくっと切って……」
嫁が料理長とロースト・オニオンを作り始めるのに合わせ、俺は唐揚げ作りに挑戦する。
「油でこのもも肉を揚げたいんだ」
俺はその場にいる料理人に希望を告げる。
「分かりました。ではラードを温めておきますよ」
「フリットみたいなものですよね? だったら衣は小麦粉をつけて、卵をつけて、小麦粉。用意しておきます!」
プロの料理人は俺が説明しなくても、いろいろ汲んでくれる。
これなら何とかなりそうだぞ!
「レモンサワーには大量にレモンを使うので、レモンを絞って、レモン果汁の準備をお願いします!」
「聖女様、炭酸水も用意できました!」
同時進行で嫁オリジナルレシピの白ワインを使ったレモンサワーの準備も進む。
「聖女様の旦那、その鶏もも肉、揚げるんですよね?」
「そう」
「だったら塩を振っておくといいですよ」
料理長に言われ、ぶつ切りにした鶏もも肉に塩をまぶす。
確かになんか下味をつけていた気がする……から、塩をまぶすのは正しい気がする。
「聖女様の旦那様、衣の用意ができました!」
「ありがとう! よし、こうやってまぶして、溶き卵をつけて、もう一度小麦粉で……」
「ラード、いい温度になっていますよ」
料理人の声がけに、俺は堂々と宣言する。
「よし! 揚げるぞ!」
油に衣をまとわせた鶏もも肉をいれると「ジュワワワワワッ」と豪快な音がする。ぶわっと香ばしい匂いが広がるが、オーブンではオニオンもローストされているのだ。そちらからの良き香りも漂い……。さらに爽快なレモンの匂いも相まって、この場にいる全員がこう願うことになる。
「なんだか食欲がそそられる!」
「豪快な作り方だけど、とにかく旨そうだ」
「早くレモンサワーなるお酒とつまみを食べてみたい!」
もうみんな大いに盛り上がる。
「よし。ロースト・オニオン、第一弾、焼けたぞ!」と料理人が声を上げる。
「皿に盛り付け、ダイニングルームへ運べ!」と料理長が命じる。
「氷室から氷を持ってきました!」と炊事係が嫁に告げる。
「あ、その氷を砕いて、グラスにいれてください!」と嫁が応じる。
ロースト・オニオンが出来上がる中、レモンサワーの準備も着々と進む。俺の豪快唐揚げも、油がパチパチと爆ぜて、いい感じに揚がっている。
「なんかもう食べられそうに思えるけど……」
「聖女様の旦那、ここが堪え時ですよ。このまま油の泡がさらに細かくなり、衣もこんがりキツネ色になります。パチパチする音も聞こえなくなったら、いよいよ完成ですよ」
さすが料理長! 俺が一人で揚げていたら、生焼けを出すところだった。
「そうだ。この唐揚げはレモンを絞って食べると最高なんだ」
「なるほど。では添えられるように、レモンをカットしておきましょう」
「料理長、頼む!」
こうして俺の唐揚げも無事、第一弾は完成。その場にいた料理長と料理人と共にレモンを絞り、味見をすると……。
「うわあ、この外側のカリカリとした歯ごたえ、中のジューシーさ、なんて旨いんだ!」
料理長が叫び、料理人も同意を示す。
「普段、食べるフリットとは全然違いますね!」
「この歯応えは最高だ!」
「レモンがいい仕事しているよな? レモンが合う!」
俺の豪快唐揚げは、この世界の人々の口に合ったようだ。
「うわぁ、涼ちゃん、唐揚げ作ってくれたの!?」
「そう。下味なしで、塩とレモンだけ……なんだけど、かなり旨い!」
「めちゃくちゃ食べたい~! でもレモンサワーをぐびっと飲んで、その後にかぶりつきたいから、今はまだ我慢する!」
「ああ、確かに。その瞬間が最高なんだよな~」
味見のため、先に食べてしまったが、レモンサワーで喉を潤し、そこではふはふと唐揚げに食らいつく瞬間を想像するだけで、涎が垂れそうになる。
「聖女様、レモンサワーはこんな感じでどうですか? 言われた割合で配合してみました!」
「どれどれ、味見を。……うん、正解! 大丈夫です。ではこれをグラスあるだけ用意して、ダイニングルームへ運んでください!」
こうして大量にあった鶏もも肉は唐揚げになり、ロースト・オニオンも次々と完成し、レモンサワーもダイニングルームへ運ばれた。
「では皆さん。今日は私の考案したレモンサワーを楽しむ会にお集まりいただき、ありがとうございました! 美味しいお酒と美味しい料理。これを楽しめるのは健康の証です。日々、楽しく食べて飲んで笑えるように。皆さんの健康を祝福して、乾杯です!」
「「「乾杯!」」」
グラスを掲げ、レモンサワーを飲んだみんなは「うわあ、旨い!」「なんだこの爽快な酒は!」「さっぱりしてレモンが効いている!」と大喜び。そして各自、ロースト・オニオンや唐揚げを頬張り……。
「合う、これ、合う!」
「こりゃ堪らん! 最高!」
「これはまさに飲んで、食ってが止まらんぞ!」
もう大盛り上がり。そして――
「はぁ~っ! もう、この瞬間のために生きていたと思える! 涼ちゃん、唐揚げ、懐かしい! ああ、本当に美味しい! 幸せ!」
元の世界の嫁の最期を知っているから、今、レモンサワーを片手に目を細める姿を見ていると……。胸が熱くなる。
同時に思うことは……。
湊、陽菜、こっちの世界で俺たちは幸せにやっている。お前たちも自身の最愛と共に幸せな家庭を築いてくれ――
レモンサワーのグラスを見つめながら、俺はここではない世界で今日も元気に生きているだろう子どもたちにエールを送った。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
唐揚げとレモンサワーなんて最高の組み合わせ~
そして最後の俺の想いがあのスマホの奇跡につながったのかもしれないです……!




















