何もない日 (ジンジャーラテ)
本編の苦しさを紛らわせるのに、甘いのをどうぞ。
他の季節に比べると冬は時間を持て余すことが多い。
雪が降り始めてしまうと特に、だ。
そう知ったのはここモーゲンの村で生活するようになってから。
それまではそんなことを考える余裕なんてさっぱりなかったからね。
そんなわけで、私は絶賛暇持て余し中だった。
いや、やることは探せばいくらでもあるのだけども。気分的に、だね。
モーゲンの冬は寒く、雪もそれなりに降る。
他の季節は日に二、三回食堂に食事をしにきていた村人たちも、雪の移動しづらさを考えて今の時期は数日に一回取りに来て自宅で食べる。そもそも数人はこの時期は王都に行ってしまっていたりもして人も減ってる。
誰かと話すことが減ると、人ってのはやることがあっても退屈して暇を持て余すらしい。何とも我儘なもんだ。
「……うーん、どうしようか。」
厨房でとりあえず口に出してみる。
当然、返事はない。ここに私一人しかいないからね。
一人だからかちょっと寒い。一応暖炉には火が入っているしそこまで冷えてはいないはずなのだけど。
どうしようか、何か案を出すために周りを見渡してみる。
いっそ布団に入ってぬくぬくと惰眠を貪るのも良さげけど、少し口寂しい気がしてきた。
ならお茶でも飲むか、それもいいかもしれない。
「それにしてもよく降るねぇ……」
窓から見れば広場は真っ白。
生まれ故郷は雪の深い所だったけれど、育ったヴェルデアリアはあまり雪は降らなかった。
その滅多に降らないヴェルデアリアの養成校の中庭をふと思い出す。
珍しく雪が積もった時には雪だるまを作ったり雪合戦をしてはしゃいだっけね。
みんな揃って唇が青くなるまで冷えた頃、教官たちに見つかって……
「……。」
私はごそごそと食料の棚からいくつか取り出す。
乾かして寝かしておいた生姜は皮ごと薄切りにして、更に千切りに。
王都でかなり前に買ってしまっておいた黒糖と一緒に鍋に入れる。
お水も少し足して煮込み始めれば、鍋の中で大きな塊だった黒糖がゆっくり崩れていく。
「熱っ」
別の鍋で空いてた小瓶を煮て消毒し、取り出そうとしたらトングを伝った湯が指について慌てて調理台に置く羽目になった。
置いた後に手をぱたぱたと振って熱を逃がす。見た感じ冷やすところまでは必要なさそう。
そうしている間に黒糖がしっかり溶けたようだ。
ヘラでゆっくりかき混ぜながら更に暫く煮込んでおく。そうした方が生姜の風味がしっかり出るからね。
少しとろみが出た辺りで鍋を火からおろして、熱いうちにおたまで瓶へと移した。
しっかり蓋をして、ジンジャーシロップの出来上がり。
炭酸で割ればジンジャーエールになるし、温めて飲んでもいい。料理にも使える。なんて素敵な液体!
ふふーと私は一人で笑う。美味しいものが出来上がるとやっぱり嬉しい。
「……何を笑ってるんだ。」
「ひゃぁっ!!?」
いつの間にか来てたらしいリドルフィがカウンターの向こうから私を眺めてた。
思わず声が出たらそれが可笑しかったみたいでくつくつ笑っている。
「……いつの間に来たの?今日はごはん取りに来る日じゃないでしょ。」
「さっきだな。暇してるだろうから顔見に来た。」
「……物好きね。」
「そこは素直に喜べ。」
憎まれ口を叩く私にをあしらいつつ、くん、と、鼻を動かして匂いを嗅ぎ……
「なんか、懐かしい匂いだな。」
「せっかくだから出してあげる。ちょっと待ってて。」
「おう、ありがとう。」
私と違って素直よね、さりげなく。
だからと言って見習おうってなるかはまた別だけど。
私は貯蔵庫の方からミルクの瓶を持ってくる。
うちの村にはまだ酪農家はいないからミルクなどの乳製品は何日かに一度買ってくる。
ちょうど昨日リドルフィに王都で買って来てもらったところだから使ってあげよう。
鍋にカップ2杯分のミルクを入れて、静かに火にかける。
お鍋はあえてちょっと大きめのを選んでおく。
煮たってぐつぐつしちゃうと膜ができちゃうから、しっかり弱火だね。
温まるまでの間に、さっき作ったジンジャーシロップをカップに大さじ2杯分。
1杯でもいいけど今日は2杯な気分だから2杯。子どもの頃に飲んだのが甘かった記憶があるから。
そうしているうちに温まったミルクを火からおろして……
「よし。」
ミトンをした手でしっかり鍋を持ち、逆の手には泡だて器。
温かいミルクを泡立てている私を、リドルフィがカウンターの向こうから眺めてる。
ただ見てるだけの無精ひげ男のくせに、なんでそんなに良さげな雰囲気出してるの。
ちらりと見たら目があって、私はつい顔を伏せた。なんだろう、なんか恥ずかしいんだけど。
……ってまた笑っている。なんか悔しい。
その悔しさを込めてがしがしとミルクを泡立てていく。
これをやるのに飛び散らないように大きめのお鍋を選んだんだ。
ジンジャーシロップを入れておいたカップにミルクをゆっくり注いでいく。
混ぜなくてもいれたミルクの勢いだけで勝手にシロップが混ざってくれる。
最後にお鍋に残ったふわふわのミルクの泡をカップの上にスプーンでのせてやればジンジャーラテの出来上がりだ。
「はい、出来たよ。」
カウンター越しに手を伸ばして、カップの一つを手渡した。
「ありがとう。」
受け取った男が、まるでカップの上においたミルクの泡みたいに柔らかく笑うから……
私は、さりげなさを装ってぷいと横を向く。
……またくつくつ笑ってる。やっぱりなんか悔しい。
「あぁ、なんか懐かしい味だ。……美味いな。温まる。」
「そう?」
自分のカップを持って男の隣に行き座る。
わざと素っ気なく返事をしたら、ぬっと手が伸びてきた。いつものように頭を撫でられる。
撫でられながら私はカップを傾ける。
記憶の中のものと同じかを判断するには、もうあまりにも遠くなり過ぎていて。でも、まぁ彼も懐かしいって言うのだから似た味にはなっているのだろう。
「たまにはこっちに泊りに来るか?イーブン達が毎晩カードやってるぞ。」
賑やかだから混ざるか、という言葉に私は首を横に振る。
「楽しそうだけどカードはいいわ。ラムザが凹むし。」
「少し手加減してやればいいだろ。」
「手加減したら勝負にならないじゃない!」
それはダメ、と言い切ればまた笑ってる。この人は何がそんなに楽しいんだろうね。
飲み終わった彼の顔にミルクの泡が付いているのを見て、私は手を伸ばす。無精ひげについているのを指先で拭えば手を掴まれた。
「わっ、ちょっとっ!?」
ぐいと引かれて体勢を崩したところを男が器用に体重移動させて、気が付いたら膝に座らされていた。
押してみたけどしっかり抱きこまれてびくともしない。
諦めて私は体を預けたまま、カップに手を伸ばし膝の上でジンジャーラテを啜る。
なんだか懐かしさが増した気がした。そういえばあの頃も1人だけ小さかったからよく膝に乗せられていたっけ。
満足したらしい男が、ふむ、と頷く。
「俺がこっちに泊っていくってのもありだな。」
調子に乗った男の無精ひげを私は遠慮なくひっぱる。
温まった食堂に、いててと情けない悲鳴が響いた。
外は静かに雪が降り続けているけれど、少しだけ暖かくなった気がした。
反動で甘いのが書きたくなった&どうせなら第5話完結に合わせて番外も出すかということで。
まだまだ寒い日が続くので、良ければ身体温めレシピをどうぞ。
★ ジンジャーシロップ ★
材料:
生姜(好きなだけ)、黒糖もしくは蜂蜜か砂糖、水
作り方:
1.生姜を千切りにしておく。
2.鍋に材料を全て入れて、弱火でことこと煮込む。
3.煮沸消毒しておいた瓶に熱いうちに詰めて蓋をしたら出来上がり!
辛めが好きな人は生姜を多めに。苦手な方は少な目にして瓶に入れる時に生姜は出してください。
しっかり煮沸消毒して冷蔵庫に入れておけば半年ぐらいもちます。
牛乳で割ってラテにしてもいいし、炭酸で割ってジンジャーエールも美味しい。
料理に調味料代わりに入れても便利です。
ラテにする時は、作中のように牛乳を温めてから泡だて器でふんわり泡立てるとお店出てくるみたいなラテにする事もできます。
あるならジンジャーパウダーも振りかけると更にそれっぽくなります♪
おススメです!




