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祈りの食事 (丸鶏のロースト)

クリスマスネタになります。

イメージは日本と西洋のをミックスした緩い感じです。


グラーシア王国には聖夜というお祭りがある。

年の暮れの決まった日に、この一年間を振り返りながら日々の感謝を込めて祈りを捧げるのだ。

元は初代大司教の生誕祭だったらしいのだが、いつの間にかその要素は薄れ、ある者は家族みんなでご馳走を食べ、ある者は飾りつけされた街に繰り出し、またある者は恋人と共に過ごし。

祝い方は人それぞれ。聖夜という名と飾りつけをしてご馳走を食べる日という風習だけが残った。


今年は初めてモーゲンの村で聖夜を過ごすという事もあって、みんな楽しみにしている。

去年は冬の間ここには私とリドルフィしかいなかったからね。

今年は子ども二人も含めて11人もいる。

まだ村の開墾が最優先だから日々の食事も全員分まとめて私が作って一緒に食べているから、食卓を皆で囲うという意味では聖夜も他の日もあまり変わらないけれど、それでも少しだけ奮発してご馳走を用意するし、食堂も飾りつけをしようなんて話になった。


「お外、すっかり雪だねぇ。」

「いっぱいつもる?」

「リンの背丈より積もるかもな!」


日暮れの少し前、食堂の方でハンナが子どもたちと飾りつけをしてくれている。

まだ雪が積もり始める前に私がリンとジョイスを連れて森で拾ってきた松ぼっくりやシダーローズ、イーブンが見つけて来てくれたヤドリギ、リドルフィが王都で買ってきてくれた赤いリボン。

そんなものを組み合わせて、窓やテーブルが中々洒落た感じにデコレーションされている。

残念ながらお皿とかはまだ普段使いの物しか揃えられていないからいつもと同じだけど、テーブルの真ん中に太い蝋燭と一緒に飾られたそれらのおかげでいつもと違った感じになりそうだ。

私はと言うと……朝から延々厨房でくるくると働いている。

みんな期待しているからね、ご馳走を。

それを誰が作るかと言えば、私になるわけで。


「そろそろ鶏を焼き始めるかね。」


私は下味をつけていた丸鶏を貯蔵室に取りに行く。

今朝、羽をむしり頭を落として内臓も抜いた状態で低温保管していた丸鶏を、しっかり洗ってから水気を拭き、皮に金属のフォークで沢山の穴をあけた。こうすると味がしっかりしみるからね。

そこに砂糖と塩、胡椒を満遍なくまぶして、空っぽのお腹に切った玉葱とハーブなどを詰め込んだ状態で容器に入れ、白ワインをしっかりかけて漬け込んでおいたのだ。

この日のためにとっておいた大きな鶏が入った容器を、貯蔵室から両手で抱えて持ってくる。


「さてさて……」

「グレンダさん、何作ってるの?」


オーブンを熱し始めながら、天板を用意していたらリンがカウンターの椅子の上に立って、厨房を覗き込んでいた。今日は忙しいから厨房に入ってきてはダメだよと言い含めていたので入ってくるに入ってこれず、結果カウンター越しに覗き込むことにしたらしい。


「丸鶏のグリル焼きだよ。」

「あ、そろそろ焼くのね~」

「こら、リン、靴は脱いで!」


母親のハンナじゃなく兄のジョイスの方がリンの世話を焼いている。

リンの靴を脱がしておいて、ジョイスも気になったのかその横でこちらを覗き込み始めた。


「……見られているとなんだか照れるのだけど。」

「気にしない気にしない。見てるだけだから。」


ハンナが言うのに合わせて子供二人がうんうんと頷く。……多分気にしてると夕食の時間に間に合わなくなるね、これは。

私はやれやれと肩を竦めてから料理を再開する。

漬け込んでいた丸鶏を容器から出して、一緒に漬けていた玉葱やハーブ類を取り除き、清潔な布巾でしっかりと拭った。ハーブ類は軽く絞って鶏のお腹に全部詰め込んでしまう。


「……にわとりさん?」

「うん。にわとりさん。」


しっかり拭いた後の鶏の表面に手で撫でるようにしてオリーブ油を塗っていく。こうしておくと皮がぱりっと焼きあがるからね。

用意しておいた天板に鶏を移し、軽く塩と胡椒を振りかけて、ローズマリーを上に置いた。

オーブンの様子を確かめて、しっかり温まっているのを確認し天板ごと鶏をオーブンの中に入れる。

まずは30分ぐらいこの状態で焼くのだ。

今のうちに付け合わせの野菜を、と、顔を上げたら目がうるうるしているリンがいた。


「……にわとりさん、焼いちゃうの?」

「うん、みんなでこの後食べるからね。」


声が湿ってる。今にも泣きだしそうな様子に、つい助けを求めるようにハンナの方を見たら、母親のハンナまで同じような顔をしていた。……ジョイスは、大丈夫そうだね。少し困ったような顔はしているけれども。

私はジャガイモと人参、玉ねぎを洗いながら少し考えて、口を開く。


「……リン、丸ごとの鶏さんはこわいかい?」

「うん。にわとりさんしんじゃってる。かわいそう。」

「うん、そうだね。」


洗った野菜を一口大に切りながら私は言う。包丁を使っているから目は手元だ。その代わりできるだけ穏やかな声を意識してみる。


「でもね、いつも食べてるハムやソーセージだって、元は生きてた豚さんとか鶏さんとかなんだよ。それをラムザとかが捌いてくれて、食べやすい形にしてくれたものをおばちゃんが料理しているの。」

「そうなの?」

「うん、そうだよ。」


他の料理も仕上げを少しずつ進めながら、うんと頷いて見せた。

リンは暫く考えているようだった。ハンナはそんな様子を見守っていて、ジョイスはラムザに自分も解体教わろうかな、なんて言っている。

さて、そろそろオーブンの方が良さげな頃合いか。

私は両手にミトンをしてオーブンの蓋を開ける。ふわっと中から湯気が立ち上り一瞬遅れて美味しそうないい香りが漂った。そこから天板を一気に引き出してオーブンの蓋を閉め、天板は調理台に持って行く。鍋敷きの上に天板を置き、手早く先ほど用意していた野菜を鶏の周りに散らしていく。全部置き終わったところに、少し高い位置から塩と胡椒を振りかけて……

オーブンのところまで行き再び蓋を開けると、慌てて調理台に戻って天板をオーブンに戻し、蓋を閉めた。

この状態でまたもう少し焼く。人参やジャガイモは火が通るのに少し時間がかかるからね。


「リンはハムがは好きだよね。ソーセージも。」

「うん。おいしいもん。」

「今日の鶏さんも美味しく食べられるかな。」

「……。」


悩みこんでいるようだ。確かに普段は見ないものね、丸ごとの姿なんて。

オーブンが鶏と野菜を焼いている間に、私はサラダやチーズの盛り合わせ等を用意する。


「ハムやソーセージになった豚さんも、今日の鶏さんもね。みんな、命をくれているんだよ。自身がお肉になって食べられてくれることで、私たちに生きる力をくれている。」

「……。」

「いつも食べてるようなお肉だとね、そのままの姿じゃないから、誰が命をくれているのかなんて大事なことを私たちは忘れちゃうことがあるんだ。……だから、聖夜ぐらいは誰が私たちに命をくれているのかしっかり見て、ありがとうって気持ちを込めて大事に食べて欲しいって、おばちゃんは思うんだよ。」

「うん……」


6歳のリンにはまだ早かったかな。……ってハンナ、あなたがうんうんって涙目で頷いててどうするの。

食堂の扉が開いて、外に行っていた何人かが帰ってきた。そろそろ頃合いだね。

時計をちらりと見る。オーブンの方もそろそろいいだろう。

再びミトンを手に付けて、オーブンの蓋を開ける。ふわぁと香ばしく焼けた肉の香りが辺りに広がった。天板を引っ張り出せば、皮はパリッと、中はふっくらと焼けた丸鶏のローストがそこに鎮座している。


「ほら、美味しそうに焼きあがった。しっかり、全部残さずみんなで食べようね。」

「うんっ」


どこまで伝わったのか分からないけれど、リンが大きく頷いた。

集まってきた村人の中に大きな背中を見つければ、私は声をかける。


「リド、焼けたからそろそろ食事にするよ!」

「おぅ!美味そうな匂いだな!準備ありがとう。」

「みんな、並べるの手伝ってちょうだい!」


その言葉を合図にみんな動き出す。リンもジョイスもしっかり手伝ってお皿を並べたり料理をもって行ってくれた。

やがて全部の料理がテーブルに並び、村にいる者全員が席に着いた。


「では、祈ろう。……日々の糧を与えてくれる全ての者に感謝を。その命に報いるよう私たちは生きていきます。いただきます。」

「いただきます!」


村長のリドルフィが祈りの形に手を組み、みんながそれに倣った。

低く穏やかな声が祈りの言葉を捧げ、それにみんなの声も続く。


「よし、みんなはしっかり食べててくれ。……グレンダ、肉を切り分けよう。」

「えぇ、お願い。」


丸鶏はそのままだと、みんな食べにくいからね。昨日のうちに相談してリドルフィに切り分けてもらおうって事になってたのだ。ここの長が切り分けたものを、みんなで分け合い食べる。出来たらこの先毎年そんな風にしてみんなで聖夜を過ごせたらいいと思う。

丸鶏の皿をリドルフィが持ち厨房に入っていく。私もついて行って手伝いだ。

元々鶏の解体もできるリドルフィは私が説明しなくても綺麗に切り分けてくれて、私はそれを皿に付け合わせの野菜と共に盛って、みんなに配った。

全員行き渡ったところで二人で席に戻ると、リンがお肉に齧りつくところだった。……しっかり食べてくれそうだね。よかった。


「いい夜だな。」

「そうだね。」


ぽそっと横で言ったリドルフィに私は相槌を打つ。

この先、少しずつこの村にいる人たちも増えたり変わったりしていくだろう。

それでも、何年経ってもこんな風にみんなで美味しい食事を出来たら良いと思う。

その為に、私は子どもたちに伝えていこう。

私たちを生かしてくれている全てのものへの感謝を。






実は20年以上前に別の作品で書こうとしていたネタだったりします。

今回、おばちゃんの口を借りてやっと文章にする事が出来ました。


家族に食事を作ることは祈ることに似ている、なんて私は思います。



★ 丸鶏のグリル焼き ★

材料:

丸鶏(中抜き)

塩、砂糖、胡椒、玉葱、セロリの葉、ハーブ(オレガノ、ローズマリー、ローリエなど)、白ワイン

サラダ油

ジャガイモ、ニンジン、玉葱など


作り方:

1.丸鶏を洗って水気を拭く

2.全体をフォークで刺して穴あけする

3.満遍なく砂糖塩胡椒を塗り込む

4.玉葱スライス、セロリの葉、ハーブを鶏のお腹に詰めたり脇にはさむ

5.4をビニール袋に入れ、ワインをかけて袋を閉じる。

   ~ 冷蔵庫で半日ほど漬けておく ~

6.オーブンを230℃に予熱しておく

7.鶏を袋から出し、玉葱等を退かして水気を拭く

8.鶏全体にサラダ油を塗る。

9.7で退かした玉葱等はお腹に詰める

10.天板にアルミホイルを敷いて鶏を置く

11.ハーブを載せてオーブンへ。70分でスタート!

12.付け合わせの野菜を用意する

   ジャガイモ、ニンジン、玉葱は一口大に切る

   ミニトマトは切り込みを入れる、芽キャベツはしっかり洗う

13.オーブン開始から30分経過したらニンジンなど硬い野菜を天板に追加する

14.さらに15分ほどしたらミニトマトなども追加する

15.70分経過で出来上がり!


※焼き時間は鶏のサイズやオーブンの性能で変わります。様子を見ながら調整してみてください。

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