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一陽来復 (冬至)

冬至ですね。


冬も深まり、少し前から雪が積もるようになった。

王都から馬を走らせれば1時間ほど。さほど遠い距離ではない。

だが、山が近いことや間に川があることなどからか気候は違う。王都に比べるとこちらの方が寒いし雪も多く積もる。

村を作ると決めて1年目はまだ蓄えが出来ていなくて冬の間は皆で王都に仮住まいをした。

今年は2年目。初めての村での冬越しになる。

まだ一番初めに作った村長宅となる1軒しか家はなくこの状態で村と呼べるかも怪しいし、この冬ここで過ごすのは私とリドルフィだけという有様だけども。

誰かが実際に過ごしてみないと他の皆を呼ぶのには何が足らないか、何を用意しなければなんてことは分からないからね。

幸い私もリドルフィも多少なりとも魔法は使えるし、何か起きても大抵のことは解決できる。

多分、解決できないことがあるとしたら、二人で喧嘩した場合だろうか。まぁ、付き合いも長いしなんとかなるだろう、なんて思っていたのだけども。


「だからっ!どうして人の話を聞いてくれないの!」

「俺はこれでいいって言ってる。」


喧嘩中である。

原因はなんてことはない、現在この家に二人しかいないことについて。

二人だけで一冬ここで過ごすのは誤解を受けるからイーブンやラムザにも付き合ってもらうべきだったが私の意見。

誤解が何だ、問題ない、今回はこれでいい、が、リドルフィの意見。

切欠がなんだったかは忘れたけれど、そんな訳で喧嘩真っ盛りである。

今後を考えて大きな家にしたのだから、何も言い合いをしながら同じ部屋に居なくてもいいのだろうが……そこは薪の節約、というやつだ。

大きな暖炉がある居間でそれぞれお互いに手仕事をしている。

私の方は編み物。ここの冬は寒いと聞いていたし、雪で外に出られなくなるならと王都で確保してきた毛糸がたくさんある。この冬の間にセーターやら靴下やらたくさん編むつもりだ。

リドルフィの方は今は器用に木彫りで何か作っている。彼は用意しておいた木材で家具を作ってみたり、何か書類をまとめていたり、村の今後の計画をあれこれ考えていたりとその時によって様々だ。


「それに、もう決めてこの状態になってるのに今更言ってどうする。」

「……。夕食を作るわ。」

「そうしてくれ。」


ここに居ても延々平行線で言い合いを続けることになりそうだから、私はキッチンに逃げることにした。編み棒と毛糸を籠に戻しひざ掛けを畳んでその上に置くと、暖炉近くのソファから立ち上がる。この家の中で一番温かい所から離れることには多少後ろ髪を引かれたが、私が作らないと夕食にはありつけない。

すぐ隣のキッチンに行く途中、ふとカレンダーが目に入る。

日付感覚がなくならないように、朝起きると先に起きた方が必ずその日に印をつけるのがお約束になっている。今朝はリドルフィが先に起きて丸を付けていた。


「……冬至、なのね、今日。」


すっかり忘れていた。ぽそっと呟いた私に、ん、とリドルフィが返事をした。喧嘩してるはずなのに返事してくるあたり、律儀だなと思う。

私がキッチンではなく貯蔵室の扉に手を掛けたら、それまで座っていた男が立ち上がった。何?と見上げたら無言のまま着ていたカーディガンを脱ぎ、私の肩にかけてくる。サイズ差が大きいため彼にとっては腰ぐらいまでの長さが私にとっては膝近くまでになった。ひざ掛けがなくなったことで冷え始めていた太もものあたりがふんわり温かくなる。ついたった今まで彼が着ていたカーディガンは、その体温で温められていた。


「……ありがと。」


ん、とまた不愛想な感じに返事してリドルフィが自分の座ってた所に帰っていった。

私は今度こそ貯蔵室の方に入ってお目当ての食材を探す。一冬ここで過ごすつもりだったので貯蔵室にはたくさんの食品が並んでいる。悪くならないようにとこちらの部屋には暖炉の熱が入らないようにしてあるため貯蔵室の中は外に近い寒さだけど、大きなカーディガンのおかげでさほど凍えずに済んだ。




「リド、そろそろ夕食にするよ。」

「わかった。」


こちらが声をかければ、さっきまでの言い合いがなかったかのようにすんなりといつも通りの口調で返事が返ってきた。テーブルで作っていた作りかけの木彫り作品と道具を退かし、木くずを片付けている。テーブルを拭く布巾を渡してから、私はもう一度キッチンに戻って料理の盆を持ってきた。

拭いて貰ったテーブルに二人分の夕食を並べる。

焼きしめた保存用の硬いパンを薄くスライスしてチーズをのせて炙ったものと、塩漬け肉とカボチャ、それに豆で作った熱々のシチュー。付け合わせでピクルスが何種類か。

まだ湯気の立っているシチューの匂いを嗅いでリドルフィの表情が柔らかくなった。


「美味しそうだ。ありがとう。」


向かいの席に腰を下ろし、その表情を見た私はちょっとだけ気持ちを整理するために目を伏せる。

考えてみると誤解云々は今更でもあるのだ。ただ、本来なら貴族の令嬢でも誰でも望めば嫁にもらえそうなのに、その機会を潰してしまいそうで私の良心が痛むというだけで。

謝ろう。

今日は冬至だ。喧嘩したままは良くない。冬至だと気が付かずに喧嘩を始めてしまったけれど、これまでの悪いことが終わり良きことが始まるとされている日なのだから、せめて今日のうちに仲直りしてスッキリ寝よう。


「……さっきは声を荒げて悪かった。」

「……さっきはごめん。」


ほぼ同時になった言葉に、思わず顔を上げる。

真直ぐこちらを見ている男と見つめ合うことになって。

どっちが先だったか分からないけれど、気が付いたら笑い合っていた。




後日、この話をラムザとイーブンにしたらやれやれと言う顔をされた。

イーブン曰く「そんなのに俺らを巻き込まないでくれ。」

犬も食わぬなんとかとか言い出しているのを聞いて、私はきっちりそれは誤解だと主張したけれど二人ともあまり分かってくれなかった。

だから言ったのよ、リドルフィが婚期逃したらどうするのよ。既にもうギリギリな年齢なのに。

絶対いい旦那になるのは私が保証する、だからちゃんとお嫁さんになってくれる人を探そう!という私の意見はまた却下された。





なんとかギリギリ、冬至当日に投稿出来ました。

カボチャのレシピを載せようと思っていたのですが、考えてみるとグレンダ達はお醤油って使ってないよなぁと、かぼちゃの煮つけを作ってしまってから我に返りました。(汗)

そんなわけで、諦めていちゃついてるだけの番外編です。

時間軸的には、グレンダが29歳、リドルフィが33歳かな。


後日クリスマスネタも書く予定です。冬はネタが多くて番外編が捗ります。(笑)

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