独占欲(キスの日)
キスの日らしいので小ネタを。
本編後日談途中の、聖杯が出てきちゃったすぐ後のお話です。
サイドテーブルに無造作に置かれた聖杯が気にはなるが、それをどうこう言っても仕方がない。
正直、どこかにしまうなり隠すなりした方がいいのではないかと言ったのだが、リドルフィの「大丈夫だ。俺が見とく」という言葉で、今夜はそのまま放置決定だ。
彼自身は、その後ふわぁぁと一つ欠伸をすると、先にベッドに上がった。
「よし、寝ようか」
そう言って、上掛けをあげた姿勢でぽんぽんと自分の隣を軽く叩く。
少し前から私の魔力を補うために彼と同じ布団で眠るようになったが、何度やっても照れは残る。
物心ついた頃から一緒にいて家族同然だったのが、夫婦になる事が決まって……言うのも恥ずかしいが、今、彼は私の婚約者……恋人ってことになるわけで。
なんだか無性に恥ずかしいし照れくさいしで、こちらは悶えたくなっているのに、当のリドルフィはごく当たり前のように甘やかしに来る。
「……うん」
ここで恥じらっていたりしても寝る時間が遅くなるだけで、どうやっても最終的には、そこ……彼の腕の中で眠ることになるのは、すでに学習済みだ。
目が合うと微妙に気まずいので、顔を反らしながら何食わぬ風にベッドに上がり込む。
すると、嬉しそうにリドルフィは私を引き寄せて……
「あっ!」
私は慌てて自分の口を両手で隠す。
「おっ?!」
ごく自然な流れのように、おやすみの口付けをしようとしていたリドルフィが目を丸くする。
私は両手で口を覆ったまま、もごもごと言う。
「……あれがあるってことは、私、まだ聖女なわけでしょ! 神樹はもうないとしても、あなたに何か影響が出ちゃったら困るしっ」
あれ。もちろんサイドテーブルにちょんと無造作に置かれた聖杯である。
「……すでに何回キスしたと思ってるんだ」
「え、何回って……」
思わず私は、指折り数える。リドルフィを祝福した日以降、なんだかんだと毎日のように……
赤面しつつ数える私の、何度も指を折ったり伸ばしたりしている手を、大きな手がつかまえる。
そのまま手を退かされて、びっくりしている間にゆっくりと唇を重ねられる。
「……ちょ、ちょっと、リドっ!!?」
「ほら、なんともない」
そう言えば、彼は、今度は私の鼻の頭にキスを落とした。
「……俺は、お前から祝福を貰っている。言ってみれば既に完全にお前に染まった後だから、この先何度キスしようがその先もしようがこれ以上の影響なんぞ出ないさ」
「……そ、そういうものなの?」
「さぁな。とりあえず大丈夫だって分かってる俺以外にはしなければいいんじゃないか?」
「それは、あなた以外とはするつもりないけども……」
「なら何も問題ないだろ。……ほら、おいで」
未だ、微妙に困惑……というより混乱しているままの私を抱き込んで、彼は子どもにするように私の背中をぽんぽんと叩き始める。
「……そう、俺以外となんてするな。俺だけにしたらいい」
「……」
なんだろう、すごく嬉しそうな響きだ。
私は染められてるのは彼じゃなくて私の方じゃないかと思いつつも、これ以上食いつかれないよう彼の厚い胸に顔をうずめて、大人しく寝ることにしたのだった。
えーーっと、バケツ置いておきますね(汗)
捻りも何もなく、ただただ甘いだけのお話を失礼いたしました。




