貴族の娘とその手記
焼け焦げた邸宅に遺された煤けた手記。
リリウム・ファイルヘンブラフ
私はタークがすごく好き。お父様や屋敷の人達、騎士団の人達は無愛想だとか無口だとか偏屈とか言いたい放題。でも私だけがタークの本当の姿を知っているんだなと思うと少し嬉しい。
アンティウム暦1134周刻セケス。私が生まれる少し前、タークはお屋敷にやってきた。タークはその時10周を迎えたばかりで、私の友達になれるかも。とお母様が孤児院から屋敷に招いたんだって。タークに聞いたら、その時の記憶はありませんとか、自分は本当は誰なんでしょうね?なんてはぐらかしちゃう。そういう設定なのかな?たくさん本を読んでお勉強してるタークが思いついた物語なのかも。結局、私にはわからない。
タークがやって来た日はすごく変な天気で、雨季だから雨はもちろん降るんだけど、快晴だったらしい。雲一つ無くて、白いお屋敷が綺麗に洗われているような、すごくすっごく美しい光景だったって私が小さい頃にお母様が幸せそうに言っていた。庭園に咲いたバラや白百合や、王国じゃ珍しいサボテンも花を咲かせて喜んでいたって聞いてる。本当はお母様からタークの昔話も、お父様との馴れ初めも聞きたかったんだけど、もう天国に行ってしまった。
タークは屋敷に住むようになって、私が生まれるまでの少しのあいだにたくさんいたずらをして爺を困らせたみたい。でも私が生まれて、タークは大人しくなって、騎士の勉強や不思議な魔法についての本をたくさん読んだ。一人娘だった私のお兄さん代わりになってくれるつもりだったんだろうな。と私は考えてる。
昔の騎士団はすごく厳しかったらしい。従卒から見習いの騎士になるのに大体7周刻。そこから騎士になるには、みんなのお手本になるような忠誠心と武功を挙げて、心の清い人と周りに認めてもらえるまで正式な騎士にはなれないというし、それを示すのにかかる時間は何周刻、長い人で何十周刻とかかる。もしかしたら私が追いかけ回してひいきされちゃったのかもしれないけれど、タークは最短の7周刻で見習いを飛び級して騎士になった。タークはやればできる人なんだね!
うんうん
それからお屋敷から王都に派遣されたり、戦いに行ったりしてアルバみたいなお弟子さんをとるほど偉くなっちゃった!本当にすごいよ。私なんてこのお屋敷から出たこともない。どんどんタークが遠くに行って、いつか消えてしまいそうでつらいよ。傷だらけで帰って来た時も死んじゃうじゃないかって心配でつらかったけど、もう離れないで私と一緒にいてほしいよ。昔、リリウムが大きくなったらタークと結婚するんだって言ったけど女の子のプロポーズ忘れちゃったのかな……
うー!考えたらむしゃくしゃしてきた!
ほんと無口だからなんにもわからないよ!
もう!
アンティウム暦1152周刻 セケス




