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レジェンドガール  作者: 井村六郎
終章 伝説になれ
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第八十二話 魔王の庭で大乱闘

前回までのあらすじ



遂に魔王の領域へと足を踏み入れた杏利とエニマ。二人の行く手を、イノーザの兵とウルベロの策略が阻む。だがそこにキリエ達が到着し、杏利は彼女らに戦場を任せ、魔王城内部に侵入するのだった。

「はっ!! やぁぁぁっ!!」

 内部に潜入した杏利。しかし、だからといって敵の攻撃がやむ事はない。むしろ、逆だ。前からも後ろからも、造魔兵や超魔が殺到してくる。

「うぉらぁぁぁぁぁぁ!!!」

 杏利はそれらを、雄叫びを上げながら蹴散らしていく。

「!?」

 と、ある通路に差し掛かった時、造魔兵達の姿が消えた。いや、この通路には初めから、造魔兵がいない。

「思ったより早かったじゃねーの」

「ウルベロ!!」

 通路の一番奥の柱の陰から、ウルベロが出てきた。

「安心しな。ここには造魔兵が来ないよう指示してある。お前と一対一で話をする為にな」

 ずいぶんと騎士道精神溢れる行動だが、惑わされはしない。ウルベロの行動は、紳士的に見えても裏がある。恐ろしく狡猾な男なのだ。

「ラトーナとヴィガルダのクローンをぶつけて、あたしに憎しみを植え付けるつもりだったんでしょうけど、そうはいかないわ! あたしにあるのは、あんたへの怒りだけよ!!」

 ウルベロには、自分に憎悪を抱く相手から力を吸い取る能力、アヴェンジャーキラーがある。杏利は二人のクローンを見た時からそれを警戒し、憎しみではなく怒りを抱くよう注意していた。

「違う違う。お前の槍さ、倒した相手の能力を奪えるんだろ? だからお前にラトーナとヴィガルダの能力を奪わせて、強くなってもらおうと思ってよ」

 エニマの能力は、新しい能力なら自分の能力とし、既にある能力なら底上げ出来る。クローン達を倒せば、杏利はラトーナのマクスウェルを獲得し、ヴィガルダのストレングスを強化出来た。

「何の為に?」

 だが、なぜウルベロが自分に力を付けさせようとするのか、杏利には理解出来なかった。

「俺はイノーザが嫌いでな、お前に倒して欲しいんだ。だからお前に、少しでも強くなってもらいたかったんだよ。どうだ、俺と協力して、イノーザを倒さないか? それならここを通してやるぜ」

「あたしにイノーザを倒させて、自分が新しい魔王になるつもりかしら?」

 あまりにも容易く、ウルベロは自分の目的を見破られてしまった。だが、ウルベロはとぼける。

「なぜそう思う?」

「忠誠心とかなさそうだから。あんたみたいな卑怯で狡猾なやつはね、下克上を狙ってるって相場が決まってるのよ」

「……なるほど、相場が決まってるか」

 ウルベロは笑った。杏利はウルベロに、エニマを突きつける。

「あんたの望み通りにはならないわ。イノーザを倒すのは確かに最優先だけど、あんたを見逃すつもりもないの。いえ。今まであんたがやった事を思えば、あんたこそ真っ先に倒すべき相手かしらね」

 どうせイノーザとの戦いで消耗したところを狙って自分も殺すつもりだろう。杏利を生かして帰すとは言っていない。ウルベロの魂胆など、見え見えだ。

「そうかいそうかい。そりゃあ残念だ。それならお前は、今ここで死ぬしかない」

 全てを見破られたウルベロは、戦闘形態に変身しながら、二本のオルトロスを召喚した。

「死ぬのはあんたよ!! イノーザと戦う前の肩慣らしに、あんたを倒してあげるわ!!」

 杏利は駆け出す。音を、風を置き去りにする速度で、突きを繰り出す。もはや超魔であっても見切れぬ。杏利はそういう領域にいた。

 だがウルベロは、オルトロスを交差させてそれを受け止めた。

「この俺を肩慣らし扱いにした代償は高くつくぞ」

 そのままオルトロスを振り上げる事でエニマを跳ね上げ、杏利の腹に蹴りを入れる。

「ごっ……!?」

 あまりの威力に、杏利は少し下がった。

 オーディンアーマーを身に纏った杏利の攻撃を見切り、ダメージを与えた。ウルベロもまた、強くなっていたのだ。一体どれだけの復讐者を、アヴェンジャーキラーで吸い殺したのだろうか。

「俺はロイヤルサーバンツだ。今までお前が蹴散らしてきた造魔兵とは、あらゆる意味で違うんだよ!!」

 オルトロスを振るうウルベロ。オルトロスは四本の連結刃に別れて、四つの方向から同時に杏利を襲う。

「ストレングス!!」

 しかし、杏利はここで、ヴィガルダから譲り受けた能力を使う。ストレングスを使って防御力を高めた杏利には、ウルベロの攻撃は通じない。

「見くびったわね!!」

 ウルベロの攻撃をものともせず、杏利は突き進む。ウルベロは舌打ちして連結刃を戻し、杏利と斬り結ぶ。

 だが、ストレングスで強化されるのは、防御力だけではない。パワーも強化され、一撃打ち込む度にウルベロが後退する。

「ウソだろ!? 俺は魔王になって、この世界を支配するんだ!! お前みたいな小娘に、負けるわけにはいかねぇってのに……!!」

「あたしとエニマには、ヴィガルダから受け継いだ想いがある!! あんたみたいな支配欲の塊に、負けるわけがないわ!!」

 歴然たる力の差。確かにウルベロは強いが、この旅を通して真の強さを学んだ杏利は、もっと強くなっていたのだ。

「これで終わりよ!!」

 最後の一撃を、ウルベロの脳天目掛けて叩き込もうとする。


 だがその時、ウルベロはニヤリと笑って自分の左腕を見せた。


 その左腕には、以前戦った時には着けていなかった、ブレスレットが着いていた。ウルベロが見せるのに合わせて、ブレスレットの中央にあった四角いアクセサリが、上下に開く。


 そして、アクセサリの中に仕込まれていた青い宝石が光り輝いた瞬間、一瞬だが杏利の全身から力が抜けた。


「!?」

 同時に杏利の動きも、一瞬鈍る。その隙を狙って、ウルベロは右のオルトロスで刺突を繰り出した。驚いた杏利はそれを受け止め、受けた反動を利用して背後に飛ぶ。

(今のは何!? あたしの力が、あのブレスレットに吸われたの!?)

 状況が不透明だ。あのブレスレット、このタイミングで使ったという事は、どう考えてもただのアクセサリではない。

(様子見の一発!!)

「バニス!!」

 ブレスレットの正体を確かめる必要がある。杏利は下級火属性魔法バニスを唱え、ウルベロに飛ばした。だが炎はウルベロに当たらず、ブレスレットの青い宝石に吸い込まれた。

「やっぱり、そのブレスレット……!!」

「お察しの通りだ。俺達は以前、古代帝国ノアの王、アレクトラと組んでた事があってな。その時俺だけ、内緒でアレクトラから技術をもらったんだ。こいつはその技術を解析して作った、能力吸収装置だよ!」

 確かに、アレクトラが使っていたノアギガントは、魔力を吸収する装置を搭載していた。ウルベロはその技術をもらい、しかもイノーザにその装置の存在を知られないよう、アレクトラに秘匿させた。

 魔力吸収技術を独占したウルベロは、その技術を単なる魔力吸収から、相手の能力全てを吸収する技術へと昇華したのだ。それからその技術を備えた装置を小型化し、もしもの時の手段としてブレスレットに仕込み、身に付けた。

「ただ殺しはしねぇよ。俺がイノーザを倒す為に、役に立ってもらうぜ」

 ウルベロはゆっくりと近付いてくる。ノアギガントの魔力吸収装置と同じように、この能力吸収装置にも有効射程があるのだ。先程の杏利やバニスは、その有効射程に入ったから吸われたのである。ウルベロは杏利をもう一度射程に入れ、力を吸いながら殺すつもりだ。

「くっ……」

 あの装置の射程に入るわけにはいかない。杏利はウルベロが接近するのに合わせて、下がる。

「さっきまでの威勢はどうした? そっちが来ないなら、こっちから行くぜ!」

 能力吸収装置で吸収された力は、ウルベロの力に還元される。わずかであっても杏利の力を吸収したウルベロは、その行動速度を大幅に上げていた。

 不意を突かれた杏利はウルベロの接近を許してしまい、その瞬間また杏利の力が吸い取られた。

「うっ!!」

 床を転げ回り、どうにか吸収範囲から逃れる杏利。

「いかん!! こいつ、わしの加護まで……!!」

 エニマの加護があるのにずいぶん吸われると思っていたら、何とあの装置はエニマの力も吸収出来るらしい。加護ごと力を吸われていた為、吸収の軽減が出来なかったのだ。

 ストレングスもこの手の攻撃に対しては、無効化も軽減も出来ない。つまり、杏利にはあの装置を無効化しながら戦うという事が、出来ないのだ。

(……覚悟を決めるしかなさそうね)

 こうなったら、吸収されるのを覚悟で装置を集中攻撃し、破壊するしかない。それが出来ないなら、心想を使う。

「スキルアップ!!」

(一瞬で決める!!)

 スキルアップで能力を強化した杏利は、ウルベロの左腕へと迫る。

(もらった!!)

 脱力感が気持ち悪いが、左腕を射程に捉えた。杏利は全力でエニマを振るい、装置を破壊しようとする。

「見えてんだよ!!」

 だが、杏利がそういう手を取る事はわかりきっていた。ウルベロは自分の左腕とエニマの穂先の間に右のオルトロスを挟ませ、攻撃を防ぐ。さらに防御と同時に左のオルトロスを連結刃化させ、杏利の両腕を絡め取った。

(まずい!!)

 思ったより吸収の速度が早い。早く脱出しないと、反撃出来ないほど力を吸収されてしまう。

「はぁっ!!」

 ウルベロの顔面目掛けて、蹴りを放つ杏利。だが杏利の力を吸い、自身の力を高めたウルベロは、杏利の攻撃を完全に目で追っており、素早く右のオルトロスを連結刃化させて蹴りを防いだ後、両足も絡め取った。

(やばっ……!!)

 足まで捕らえられ、完全に拘束されてしまった。急速に力を吸われ、抵抗が弱まる。

「杏利!!」

 杏利は動けないが、エニマは動ける。力を吸われているのはエニマも同じだが、どうにか動き、杏利の手を離れてウルベロの左腕を攻撃した。

「ちっ……」

 その攻撃だけはかわし、仕方なく杏利の拘束を解いて、ウルベロは離れた。

「やっぱその槍だけは厄介だな。だが、今度は喰らわねぇぞ」

「しくじったか……」

「よくやったわエニマ。おかげで助かった」

 だが、正直打つ手がない。遠距離攻撃を使おうにも魔力を吸われ、魔力を使わない攻撃では手数が足りないのだ。

(こんなやつに使うのは滅茶苦茶不本意だけど、心想を使うしかなさそうね……)

 またゆっくり近付いてくるウルベロに対し、杏利は心想の使用を決意する。

 と、ウルベロが突然立ち止まった。

「お前、今心想を使おうとしてたろ。俺がお前の間合いに入った瞬間を狙って」

「!?」

 見破られた。恐らく今ウルベロが止まっている場所が、吸収範囲のギリギリ外だ。あと一歩踏み込めば、また杏利は吸収範囲に入る。その瞬間に杏利が心想を使い、自身を強化して一気に仕留めようとしていると、ウルベロは気付いた。

「まぁ使いたきゃ使えよ。こいつは心想も吸収出来るからな」

 何と、あの装置は心想も吸収出来るらしい。いよいよ以て、杏利にはウルベロを倒す手立てがなくなった。

「いい顔だぜお前! 追い詰めたと思ったら自分が追い詰められていた。そんな顔を見るのが大好きでよぉ!」

 ウルベロは杏利を小馬鹿にしながら、連結刃化したオルトロスで、杏利の全身を攻撃する。今の杏利の反応を見る為、わざと追い詰められたふりをしていたのだ。

「ああああっ!!」

 力を吸われて杏利の防御力は弱まり、杏利から吸った力でウルベロの攻撃力は強まった。その関係で大きなダメージを受けたオーディンアーマーは、強制解除されてしまう。オーディンアーマーはエニマの力の塊。ダメージを受けすぎれば力の結合が崩され、強制解除されるのだ。

(せめて、あいつが反応出来ないような速さで飛ばせる、飛び道具とかあったら……)

 どうすればウルベロを倒せるか、必死で考える杏利。とにかく、あの装置を破壊する事が最優先だ。それをするには、ウルベロをパワーアップさせる心配がなく、ウルベロが反応出来ない速さで飛ばせる飛び道具が必要だ。


 そう思っていた時、何かが飛んできて装置の、宝石部分の真ん中を貫通した。


「何!?」

 しかも、とんでもない速度だ。杏利の力を吸収して、大幅なパワーアップを遂げたウルベロが、全く反応出来ず、刺さってからようやく気付いたのである。


 装置を貫通し、ウルベロの左腕に刺さっていたものは、針だった。


 杏利もウルベロも、その針には見覚えがある。


 影鉄針。そして、それを使う者も。


 その者は、ゆっくりと歩いてきた。杏利は彼を見て、その名を呼ぶ。


「ゼド!!」


 魔法剣士、ゼド・エグザリオン。杏利が知る中で最強の戦士だ。

「ゼドだと!?」

 ウルベロは腕から影鉄針を抜きながら驚く。まさかこのタイミングで、ゼドまでが乗り込んでくるとは思っていなかった。

「遅くなってすまなかった。あの装置を破壊する為に、奴の隙を伺っていたんだ」

 ゼドは杏利に詫びを入れる。彼は途中からだが、杏利とウルベロの戦いを陰から見ていたのだ。そして装置の存在を知り、ウルベロの意識が完全に杏利だけに向く瞬間を待っていた。その意識の隙を突き、影鉄針を投げて装置を破壊したのだ。

「あ、う、うん……」

 杏利は助けに入るのが遅れた事への怒りよりも、ゼドの自分への対応に驚きの方が強く、生返事を返してしまった。

 あのゼドが、杏利に謝ったのだ。いつもの彼なら、陽動ご苦労と言うとか、無視するとか、杏利を怒らせる事をするはずである。それなのに言葉にも棘がなく、顔つきも穏やかだった。加えて、コートまで白いものに新調している。

「ちっ! 装置を壊しやがったか……だがお前が相手なら同じ事だぜ」

 装置が破壊され、もう杏利の力を吸収出来なくなった。だがウルベロにはまだ、アヴェンジャーキラーがある。自分に深い憎しみを抱いているゼドから、力を吸収出来るのだ。

「もう一度吸い尽くしてやる!!」

 本当は杏利の力も一緒に吸収して、万全な体勢を整えたかったが、こうなってしまった以上は仕方ない。ゼドの力だけでも奪っておく。そう思ってウルベロは、アヴェンジャーキラーを発動した。


 だが、ゼドの顔色は変わらない。


(な、何……?)


 反対に、ウルベロの顔色が、どんどん青くなっていった。


(力が……奪えねぇだと!?)


 いくら待っても、ゼドの力が流れ込んでこない。、アヴェンジャーキラーが、発動していないのだ。ウルベロは何度も発動を試みるが、何度やってもアヴェンジャーキラーは発動しなかった。

「どうした。顔色が悪いぞ?」

 ゼドはとぼけるように、ウルベロに訪ねる。言葉に詰まるウルベロ。ゼドはウルベロの返答を、待つ事はしなかった。

「言わなくてもわかる。アヴェンジャーキラーが発動しないんだろう?」

「……なぜだ……何でだ!! 何で俺のアヴェンジャーキラーが発動しねぇんだよ!?」

「えっ!?」

 これには杏利も驚く。ウルベロはアヴェンジャーキラーが発動出来ず、ゼドから力を奪えない。ゼドはその理由を教えた。

「簡単だ。俺はもう、お前を憎んでいない」



 城内部での激戦が続く中、外部でもまた、死闘が続いていた。

 まず、ルカイザーとロボット軍団の戦い。

 このロボット、最初に見た時に杏利が感じた通り、イノーザがアレクトラの技術を応用して造った、魔力吸収装置を搭載してある。

 本来こんな強力な兵器を使えば、一発でこの世界を滅ぼしてしまう。しかし、あくまでも杏利との決戦用に用意したのだ。それ以外の戦いには、まだ使うつもりはない。ルカイザーとそれを操る四人の魔法少女達は、不運にも杏利との戦いに巻き込まれてしまったのだ。

「マジックウィルス、生成開始」

 巻き込まれた事自体は確かに不運である。しかし、この場合本当に不運だったのは、ルカイザーを相手にする事になったロボット達の方だ。

 魔力吸収フィールドを発生させ、ルカイザーの魔力を吸収していたロボット達が、突如全身にスパークを纏い、爆散した。

 ルカイザーが生まれた時代には、魔力を奪う装置など腐るほど存在していたのだ。その時代の最終兵器であるルカイザーが、対抗兵器を搭載していないはずがない。

 今ルカイザーが発動したのは、マジックウィルス生成装置。この装置は特殊なウィルスを生成して、魔力の中に混入させる機能を持っており、このウィルスを吸った者は、生物無生物を問わず、内側から弾け飛ぶ。魔力吸収装置は一発で破壊され、空中に散布する事も出来るので、周囲の魔力を取り入れる技術を持っている魔法使いも倒せる。

 原理としては、ルカイザー以外の何かの内部に入り込むと、ウィルスが反応して自爆し、相手を分子レベルで破壊するというものだ。細菌というよりは超小型の爆弾に近く、この性質上一度爆発すればウィルスは死滅してしまう為、環境を汚染する事もない。もしもの時はルカイザーの意思でいつでも消滅させられるので、何も問題はない。爆発したロボットの残骸からマジックウィルスが検出されないか、一瞬で検査し、残っていれば味方の誤爆を避ける為、すぐ消していく。あくまでもルカイザーの体内で生成するだけに留め、散布はしない。

「しかしすごく強力で危ない兵器ねぇ……」

「無駄口を叩いている暇はないよ」

 アヤはルカイザーの力に軽い恐怖を抱きながらも、チェルシーによって現実に引き戻される。倒したそばからロボットは現れ、数が減らない。マジックウィルスを恐れてか、魔力吸収もしてこなかった。

「ここはもっと強力な兵器で、一気に減らしましょ!!」

「ルカイザー、お願い!!」

「了解しました」

 ティナとミーシャの命令を受けて、ルカイザーがさらなる兵器を使用する。

「スーパーポジトロンウェーブ、ハイパーヒートブラスター、発射」

 翼から青いエネルギー波を、三つの口から熱線を、同時に発射した。これで十二体のロボットが吹き飛ぶ。

「高周波クロー」

 遠距離攻撃をした後は、超高速震動する爪で、ロボットを引き裂いていく。ここで新たなロボットが召喚され、レーザーやミサイルでルカイザーを攻撃した。

「損傷なし。敵性体の攻撃力から危険度を判定。判定終了。危険度E。この敵性体に機体を破壊される可能性は、0%。戦闘を続行します」

 ルカイザーに搭載されたコンピューターに記録されている危険度は、S~Fまである。今ルカイザーが判定した危険度Eとは、戦闘力はなくもないが、こちらが敗れる可能性はないというレベルである。つまり、このロボット達の攻撃で、ルカイザーが破壊される可能性はないという事だ。




 ルカイザーがロボット相手に無双している間、サクヤのお供達もまた、造魔兵相手に無双していた。

 一体の造魔兵が、シンガに向けてショットガンを乱射するが、シンガには全く効いていない。リュウマもミサイルランチャーによる攻撃の直撃を受けていたが、全く構う事なく造魔兵や超魔を切り捨てていた。

「残念だったな。俺達の装備には、生まれ変わった六枚桜の加護が込められている」

「あんた達に遅れを取る事はないってわけさ!」

 シキジョウとアカガネも、次々に造魔兵を倒していた。

 彼の服や武器には、全て六枚桜の加護が込められている。今回の戦いを見越して、クニミツから特別に許しをもらったのだ。

 よって、彼らは全身に銃火器すら防ぐ防御力を持ち、装甲すら容易く切り裂く攻撃力を得ている。例え相手が造魔兵だろうと、互角以上に渡り合えるのた。



 キリエはラトーナクローンと戦っている。

「アクロディア!!」

 ラトーナの力は強く、接近戦は挑めない。だから魔法を使った、遠距離攻撃を主体とする戦い方でいく。

 だがラトーナクローンのオベロンが水流に触れた瞬間、水が高速で凍っていく。キリエは慌てて水流から離れ、ラトーナクローンは氷を砕いてから火球を飛ばした。

 迎撃が間に合わない。しかし、キリエの前に青い肌の女性が飛び出し、水の壁を出して火球を防いだ。

 この女性は、以前キリエと杏利が力を合わせて浄化した、水の精霊ウンディーネである。

 彼女は杏利に浄化してもらった後、ライズン教団の本部、シルムヘルトに行き、罪を償う為の修行を積んでいたのだ。今回ロージット達が魔王を討伐に行くという事で、同行させてもらった。

 ちなみにロージット達は、魔王軍相手に暴れ回っている。

「まさかあなたが助けに来てくれるなんてね。助かったわ」

 キリエが礼を言うと、ウンディーネは微笑んで頷く。

 だが、まだラトーナクローンを倒していない。

「にしても埒が開かないわね……こうなったら一気に決めるわ!!」

 元からキリエとラトーナクローンとでは、相性が悪い。クローンとはいえ、地力でもラトーナが上だ。ならば、長引くと不利になる。素早く一気に倒す事だ。

「あんたには、私の故郷で好き勝手してくれた借りがある!! その借りを、今ここで返させてもらうわ!!」

 ウンディーネが後ろに回ってキリエに抱き着き、消える。いや、消えたのではない。キリエと一体化したのだ。キリエの能力が、百倍近く強化される。

 精霊は人間に、加護を与える事が出来る。だが今回は、加護などという生易しいものではない。通常加護とは、精霊の力の一部だが、今ウンディーネは自分の力全てを、キリエに与えたのだ。強くなるのは当たり前である。

「アクロディア!!」

 再度アクロディアを唱えるキリエ。対するラトーナクローンは、目の前の空間を凍らせ、円形の氷を作る。触れたもの全てを凍らせる、氷の盾だ。

 しかし、キリエのアクロディアは氷の盾に触れても凍らず、逆に盾を粉砕してラトーナクローンを吹き飛ばした。

 ウンディーネと融合する事で、キリエはウンディーネが持つ、水を操る能力を使用出来るようになっている。この能力でアクロディアの水流の性質を、不凍液に変えたのだ。

 どれほどの低温でも凍る事のない不凍液の水流は、ウンディーネの力で強化された威力を落とす事なく、ラトーナクローンにダメージを与えた。

「終わりよ。スプラディアー!!」

 キリエはダメージを受けて動けないラトーナクローンを倒すべく、アクロディアとスパレイズを同時に唱える。水の中に雷が混じった複合魔法、スプラディアー。打ち付ける水流と引き裂く雷撃を同時に受けたラトーナクローンは、成す術もなく砕け散った。キリエは自分の妹を危険に巻き込んだラトーナの、その落とし前を付けさせたのである。



 サクヤはヴィガルダクローンが振るうデュランダルをかわしながら、拳や蹴りを打ち込んでいく。だが劣化コピーといっても、ストレングスによる防御力はやはり硬い。

(まともに打ち込んで駄目なら!!)

 ヴィガルダクローンはサクヤの心臓目掛けて、刺突を放つ。サクヤはその一撃をギリギリまで引き付け、紙一重で右に身体を捻ってかわす。

(今!!)

 サクヤは駆け出し、デュランダルの柄を掴むと、

「はぁぁぁぁっ!!」

 全力で持ち上げた。六枚桜の加護によって怪力を得ているサクヤは、そのままヴィガルダクローンを脳天から地面に叩きつけた。

「やぁぁぁぁぁっ!!!」

 もう一度持ち上げ、もう一度地面に叩きつける。さらにもう一度持ち上げ、

「はっ!!」

 投げ飛ばしながら、ヴィガルダクローンの腹に蹴りを浴びせる。

 それでもなお、ヴィガルダクローンは止まらない。動作はダメージを受けたせいで緩慢だが、倒れた状態から起き上がり、サクヤに挑もうとする。

「姫様!!」

 それに気付いたシンガとリュウマが、目の前の造魔兵を倒し、走る。

「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」」

 一気呵成。二人は同時に斬りつけ、ヴィガルダクローンの動きが止まった。

「やぁっ!!」

 そこで、サクヤが加護の力を最大に込めた拳を、ヴィガルダクローンの胸板に叩き込んだ。ヴィガルダクローンは口から血を吐き、遂に沈黙する。

「姫様。大丈夫ですか?」

「ありがとう。私は大丈夫です」

 リュウマはサクヤに尋ね、サクヤは大事ないと答えた。

「さすがですね、サクヤ姫様」

「パラディンロージット」

 ロージットも一旦戦いの手を止め、サクヤの様子を見に戻ってきた。一応二人も、重役同士という事で面識がある。

「杏利、大丈夫でしょうか?」

 その近くでは、ウンディーネと分離したキリエが、二人で協力して戦っていた。

「心配ありません。ゼドがいますから」

「彼もずいぶんと変わりました。今の彼なら、例え魔王が相手でも、いい戦いが出来るでしょう。ましてや魔王の手先などに負けるはずがない」

 サクヤは信頼から、ロージットは修行に付き合った身として、安心するよう言う。

 とにかく今は、彼らが心配しないよう、造魔兵を少しでも減らさなければならない。一同は、再び戦いに戻った。

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