第八十一話 始まる決戦と集う者達
前回までのあらすじ
幼女組のターン。
エビルフロンティア。存在そのものがAランクダンジョンに指定されている、世界の中心にある地域。
この世界で最も危険な場所と言われており、強力なモンスターや過酷な環境が、来る者全てを拒む魔境。
世界最強の竜と言われる、マドネスドラゴン。山の化身と呼ばれるゾウ、マウントエレファント。遭遇したら死を覚悟しなければならないという群れで動く蜘蛛、レギオンスパイダー。いずれも倒すのに軍隊が必要になる、強力なモンスターだ。
それらのモンスターを瞬殺しながら、杏利とエニマはエビルフロンティアを進んでいた。今はエビルフロンティアの中にある森の中にいたので、スレイプニルは使えないが、それでもその進行速度は驚異的である。
「悪魔が開拓した土地とはよく言ったものだけど、はっきり言って肩慣らしにもならないわね」
「この程度のモンスターに苦戦しておるようでは、イノーザを倒すなど無理じゃよ。それにしても、またここに来る事になるとはな……」
エニマは懐かしい気持ちに浸っていた。
エビルフロンティアは、魔王グライズが居を構えていた土地でもある。そこに今再び、魔王を倒す為に赴くというのは、なんという運命の廻り合わせだろうか。
「もうすぐグライズの城の跡地に着く。イノーザのアジトがあるとすればそこじゃな」
最終決戦の時、和美とエニマはグライズごと彼の城を消し飛ばした。とても大きな城だったので、消えた跡には超広大な荒野が出来た。
エビルフロンティアは人間が滅多に立ち入らない場所なので、例え七百年経とうが荒野のままである。しかし、イノーザの力は恐ろしく強大なので、エビルフロンティアのモンスターすら物の数ではないだろう。彼女ならここを自分のアジトに選んでもおかしくないし、アジトを作るなら城跡地の荒野だ。
「ここが、あたしのご先祖様が魔王と戦った場所……」
そうこうしている間に、杏利達は森を抜け、荒野にたどり着いた。
何もない。だだっ広い荒野が広がっている。ただそれだけの場所。建造物など、どこにもない。しかし、杏利はウルベロが、アジトは迷彩結界を張って隠してあると言っていたのを思い出した。つまり、見えないが確かにそこに、イノーザ達のアジトはあるのだ。
「ついに、来たのね……」
杏利は感慨深そうに呟く。ここが、二人の旅の終着点。最終決戦の場所だ。
「怖いか?」
エニマは、自身を持つ杏利の手が震えているのに気付き、尋ねる。
「ちょっとね」
やはり杏利は恐れていた。無理もない。以前彼女はイノーザと戦い、完膚なきまでに叩きのめされている。
心想を会得し、修行を重ね、様々な強敵を倒し、困難を乗り越え、あの時とは比較にならないくらい強くなった。だがそれでも、イノーザとの力の差がどこまで縮まったかわからない。今度こそ自分は、イノーザの命にガンゴニールストライクを届かせる事が出来るのかと、杏利は不安に思っていた。
「恐らく今のお前とイノーザの間に、単純な能力での差はさほどない。じゃが、奴はいくつもの特殊や武器を用意しておるじゃろう」
以前の戦いでは、杏利とエニマはイノーザから、本気を引き出す事が出来なかった。今の二人なら、イノーザを本気にさせる事が出来るだろう。だが、イノーザも伊達に魔王を名乗ってはいないはずだ。同格の相手と戦った時、勝つ為の能力や策を、いくつも用意しているはずである。
「鍵を握るのはお前の心想じゃ。そして心想が全ての力を発揮する為には、お前自身の心の強さが必要になる」
「わかってるわよ。ヴィガルダとの戦いで、それはよくわかった」
「わかっているなら、自信を持て」
そう言うと、エニマは杏利の手を離れ、人化した。それから、杏利の両手を握る。
「お前は最高の勇者じゃ。魔王に負けるわけがない。そしてわしは、お前の槍じゃ。わしが武器では不足か?」
ウインクするエニマ。同性だというのに、虜になってしまいそうな、魅力的な仕草だ。
それには力強い笑みで返す。
「まさか! あんたは最高の槍よ。あんたが一緒なら、今度こそ勝てるわ!」
エニマも強くなった。二人の力が合わされば、イノーザに今度こそ勝てる。
「よろしい。その意気じゃ。お前がわしの勇者になってくれて、本当によかった」
エニマは杏利が自信を取り戻したのを確認し、また槍化した。
さて、どうやって攻め込もうかと考える杏利。迷彩結界は、ただ見えなくするだけではないはずだ。敵の攻撃を防いだりとか、そもそも身内以外には触る事も出来ないとか、そういう仕組みがあったとしても不思議はない。
だがこちらには、バリア破壊能力がある。この能力を付加したエニマで結界を切り裂き、一気に強襲してやろうと考えた。
「エニマ!! バリア破壊能力で、迷彩結界の中に切り込むわよ!!」
「うむ!!」
バリア破壊能力を付加するエニマ。
だが杏利が切り込もうとした瞬間、視界に異常が発生した。
突然周囲の風景が歪んだかと思うと、数十キロはあるのではないかという、巨大な城が現れたのだ。
「こ、これは……まさか、迷彩結界を解いたのか!?」
エニマは驚く。だが、間違いない。イノーザは自分の意思で、城の迷彩結界を解いたのだ。
「なるほど、お見通しってわけね」
イノーザは杏利達が、城のすぐ近くまで来ていた事に、気付いていたのである。杏利とエニマの先程のやり取りも、きっと見ていたのだろう。杏利側の準備が整ったと判断したイノーザは、迎撃を決意してその為に結界を解いたのだ。
「準備は出来たかね? 一之瀬杏利。そして、エニマ・ガンゴニール」
その予想は当たっている。モニターで杏利達の状態を、イノーザは見ていた。
「さぁ、まずは前哨戦と行こう。最後の小手調べだ」
イノーザは玉座についていたスイッチを押す。これは通信装置だ。
「全軍に告ぐ。待機状態を解除し、全兵力を以て一之瀬杏利を撃破せよ。繰り返す。待機状態を解除し、全兵力を以て一之瀬杏利を撃破せよ」
そう命じてから、通信装置のスイッチから手を離し、通信を終わる。今までは造魔兵達を待機させており、杏利側の準備が終わったと判断した為、迎撃体勢に移らせたのだ。
「この日の為に、造魔兵の生産レベルも、武装レベルも急遽最大にした。最強状態の造魔兵達だ。この軍勢を突破し、私の前にたどり着けたら戦ってやろう」
これがイノーザが、魔王軍が杏利に与える、最後の試練だ。殲滅してもいいし、消耗を抑える為に一点突破しても、逃げ回ってもいい。とにかくイノーザの前にたどり着く事、それがイノーザと戦う為の、最大最後の条件だ。
「お前はラトーナとヴィガルダに勝ったんだ。軽いものだろう?」
最強状態ではあるが、それでもロイヤルサーバンツに比べると、一体あたりの実力は見劣りする。数は凄まじいが、いずれにせよこの程度の事はやってもらわなければ、話にならない。
「ヴィガルダが見出だした私の希望。今度は私自ら確かめてやる」
ほんの少しだけ憎しみを込めながら、イノーザはモニターを見ていた。
城のあちこちのシャッターが開き、海戦以外の全ての造魔兵、超魔が、様々な武器を手に飛び出してくる。たちまち大地は、空は、イノーザの兵士達に覆われて、見えなくなってしまった。
「大歓迎してくれておるようじゃな。主の前まで通すつもりはなさそうじゃが」
「冗談言ってる場合じゃないでしょ。とはいえ、湿っぽいのはあたしに合わないわ。だから……バニドライグ!!!」
杏利はバニドライグを唱える。すると、杏利の周囲に四つの火球が出現した。
「どでかい花火を上げましょうか!! これが開戦の号砲よ!!」
続いて、四つの火球を同時に飛ばす。火球は途中で爆裂し、巨大な火炎放射となって天地を焼きながら、イノーザの城に直撃した。
一発一発が、魔王軍の飛行戦艦二隻を、一撃で落とせる威力にまで上がっている。しかも、消費魔力はあの時の五分の一以下だ。威力も精度も、格段に向上している。
だが、イノーザの城には焦げ跡一つ付いていなかった。かなりの数の造魔兵を倒したが、倒したそばから新しい造魔兵が排出されている。
全てを相手にする余裕はない。城を攻撃しても、無駄。ならば、正面の入り口から内部に乗り込み、イノーザを倒す。それしかない。
「行くわよ、エニマ!!」
「うむ!!」
杏利は駆け出し、荒野に踏み込んだ。そして、エニマを突き上げる。
杏利とエニマは一瞬光に包まれ、光が消えた時、杏利はオーディンアーマーを纏い、スレイプニルに騎乗していた。
「はっ!!」
杏利は手綱を操り、スレイプニルを走らせる。風を切って走る、杏利の馬。
対する造魔兵側は、バイクやジープに乗り、ショットガンやガトリングガン、レーザーガンやレールガンを乱射しながら、杏利達に襲い掛かる。
杏利はスレイプニルを操りながらそれをかわす。尋常ではない弾幕の厚さに、かわしきれず何発か喰らってしまうが、オーディンアーマーには傷一つ付かない。またスレイプニルにもエニマの加護は適応されており、ダメージを受けない。
造魔兵だけでなく、城自体も攻撃してくる。城のあちこちに機銃や砲塔が出現し、銃弾やミサイルを発射してきた。
杏利は巧みにスレイプニルを操りながら、銃弾もミサイルもかわし、接敵して、エニマの一撃でジープを一台潰した。
銃は遠距離で使ってこそ威力を発揮する武器。近距離で使えば相手に反撃を許し、乱戦に持ち込まれれば同士討ちになる可能性が高い。だが造魔兵達はそれに構わず、杏利に懐に飛び込まれてなお、撃ってきた。
しかし、相手が銃を使おうと使うまいと、杏利の戦い方は変わらない。しつこく撃ち続ける一体を斬り、次の一体を串刺しにして持ち上げ、バイクで二人乗りして撃ってくる造魔兵に投げつけて爆破した。
少し味方を倒された程度で、造魔兵の攻撃は止まらない。だが杏利はそんな歩兵を斬り、突き、刺し、一体、また一体、三体と、どんどん倒しながら進んでいく。イノーザを倒すまではいくら倒しても無駄なので、消耗を抑えなければならない。
ふと杏利は、自分に向かって飛んでくるミサイルに気付いた。
「ふっ!」
杏利は穂先と柄の間を鎖に変え、振りかぶって伸ばす。一撃で大量のミサイルが爆発し、それだけでは足らずすかさず二撃目を繰り出して、ミサイルを全て迎撃した。
続いて、もう一度鎖を伸ばす。だが、これは攻撃目的ではない。伸びた鎖は、一体の空戦型造魔兵に巻き付く。捕らえたのを確認した杏利は、スレイプニルの上から跳躍しながら、鎖を巻き取る。巻き取りながら造魔兵に急速接近した杏利は、拳一発で造魔兵を粉砕し、エニマを元に戻した。
そこに、武器をマチェーテやレーザーブレードに持ち変えた空戦型造魔兵達が殺到し、杏利を覆い尽くす。
だが杏利は一瞬で造魔兵達を全滅させ、後から来た一体を蹴り砕き、再度鎖を伸ばして空中や地面を薙ぎ払いながら、スレイプニルに乗り、エニマを戻して駆け抜ける。
「はぁっ!!」
エニマの穂先から光線を飛ばし、爆発させ、入り口への道を切り開いた。
「おーおー、すげぇじゃねぇか」
ウルベロは出撃せず、城の窓から、杏利の戦いぶりを見ていた。造魔兵や超魔をものともせずに突き進んでおり、もう少しでたどり着きそうだ。
「だが、今のお前じゃまだイノーザに勝てるかわからねぇ。最後にもう一度だけ、お前に塩を送ってやるよ」
そう言うとウルベロは、通信機を取り出して連絡する。
「出撃しろ。一之瀬杏利を倒せ」
「「了解しました。ウルベロ様」」
通信機から二つ、彼がよく知る声が響き、通信が切れる。
「俺からのプレゼント、気に入ってくれるといいなぁ~」
ウルベロはヘラヘラと笑いながら、窓の外を見ていた。
杏利はスレイプニルを走らせ、城の入り口を目指す。
「もう少しじゃぞ杏利!! 頑張れ!!」
「うん!!」
杏利の鬼神のごとき強さと、スレイプニルのスピードが合わさって、城への入り口は、もう目と鼻の先まで迫っていた。
だが、ここは既に魔王の庭。簡単に城までたどり着けるわけがない。
空から突然炎と氷が降ってきて、杏利が城に入るのを妨害した。
杏利は驚いてバランスを崩し、スレイプニルから落ちてしまう。スレイプニルは周囲の造魔兵を近付けない為に、単独で暴れ回って踏み潰したり体当たりしたり、蹴り飛ばしたりしている。
「い、今のは!?」
そして杏利の目の前に、その者達は飛び降りてきた。杏利はその二人を見て、目を疑う。
「ラトーナ!? それにヴィガルダまで!?」
杏利の前に現れたのは、戦闘形態に変身した、ラトーナとヴィガルダだったのだ。二人はかつて、杏利が倒したはずである。
ラトーナとヴィガルダの姿をした超魔は、杏利に言う。
「私達はウルベロ様に造られた、ラトーナとヴィガルダのクローンです」
「ウルベロ様からあなたを倒すよう命令を受けました」
「クローン!?」
この二人は、本物のラトーナとヴィガルダではない。こっそり二人のデータを漁ったウルベロが、杏利にぶつける為に造ったクローン造魔兵なのだ。
「ついこの前思い付いた事だったから、オリジナルと同じレベルの強さには出来なかったし、二体しか造れなかったが、お前の強化には役立つだろ?」
ウルベロはニヤニヤ笑いながら、驚く杏利を見ていた。
しかしまぁ当然の事だが、杏利の表情は一瞬で驚愕から怒りへと変わる。
「ウルベロ……あのクソ野郎、本当に人の神経を逆撫でするのが得意ね!!」
イノーザへの愛を守る為、自ら命を断ったラトーナ。
イノーザの望みを叶える為、杏利に全てを託したヴィガルダ。
そんな彼らの尊い姿を、侮辱し踏みにじる行為。ウルベロがやったのは、まさにそれだ。杏利はウルベロへの怒りを燃やした。
「ウルベロめ……余計な事を……」
それにはイノーザも怒りを感じているようで、今にも玉座から立ち上がりそうだった。
「……いや、お前への処罰は後回しだ」
しかし、今はそれを抑え、また玉座のスイッチを押した。
イノーザがスイッチを押すのと同時に、城の周囲に巨大なロボットが瞬間移動で現れた。それは以前杏利が死闘の末破壊した、ノアギガントに似ている。
ノアギガントに似たロボット達は、ミサイルやレーザーを発射し、スレイプニルを攻撃。かわしきれなかったスレイプニルは、消えてしまう。
「スレイプニル!!」
「スレイプニルはわしの力そのものじゃ。わしが破壊されん限りは何度でも出せる。それより……!!」
難易度が一気に跳ね上がった。正面はラトーナとヴィガルダのクローンに阻まれ、周囲はイノーザの兵士に包囲されている。城に入るには二人のクローンを倒すのが一番早いが、仮にも元ロイヤルサーバンツである。簡単に勝てるとは思えない。
(心想は……駄目!!)
心想を使えば確実に消耗する。イノーザとの決戦に備え、今使うわけにはいかない。
消耗を最小限に抑えた上でイノーザの前にたどり着き、イノーザを倒す方法を必死で考える杏利。その間にも、造魔兵達は包囲を狭めてくる。
だがその時、造魔兵が多数倒され、包囲の一部が崩れた。続いて野球ボールぐらいの大きさの玉が飛んできて、クローン達の前で爆発し、二人を煙で包んだ。
「杏利様!!」
包囲を崩したのは、サクヤ姫とその従者達だった。
「サクヤさん!?」
サクヤは杏利と合流し、二人をシンガ、リュウマ、シキジョウ、アカガネの四人が、造魔兵を倒しながら守る。
「サクヤさん、どうしてここに!?」
「我々は世直しをするより、やはり元凶を叩くべきだと考えました。そしてまだ探していない場所が、このエビルフロンティアだったのです」
イノーザになびく者を成敗するよりも、イノーザを倒す事を優先すべきだと考えたサクヤは、危険を承知でエビルフロンティアにやってきた。そしてたどり着いてみれば、杏利が既に始めていたというわけである。
「我々も加勢します!!」
「ありがとう!! じゃあ、あたしがあの二人を倒すのに手を貸して!!」
これは心強い味方が来た。これなら、消耗を抑えて戦う事が出来る。
だが援軍に来たのは、彼女らだけではなかった。
「サンダーストームブラスター、発射」
突如として空から現れた三つ首の竜が、口から雷を含んだ竜巻を吐き出し、ロボット五体を撃破したのだ。
「杏利!!」
続いて、竜の背中から光に包まれたキリエが降りてきた。光はキリエが杏利の前に降り立つと消える。
「キリエ!!」
「杏利!! エニマ!! アヤ達が竜帝ルカイザーを復活させてくれたの!! そのおかげでここまで来れたわ!!」
「なんじゃと!? では、あれがルカイザーか!!」
「うん。アヤ達はルカイザーと一つになって、ルカイザーを操ってるわ!!」
ルカイザーの攻撃で、ロボットは五体も撃破されたが、まだ五体いる。それに、倒した分もすぐにまた、瞬間移動で補充されてしまった。瞬間移動というよりは、イノーザ達が物質転送装置で送ってきているのだが。
「杏利お姉ちゃん!!」
「こいつらは私達が引き受ける!!」
「だから杏利お姉ちゃんは、さっさとイノーザをやっつけちゃって!!」
「頑張って!! キリエお姉ちゃんも!!」
アヤ達はルカイザーの通信機でそう伝えると、ロボットの掃討に入る。
「じゃあ悪いけどキリエ、サクヤさん。あたしは今から、イノーザを倒しに行くわ。だから、あの超魔二人をお願い!!」
「わかった!!」
「ビルツジライガ!!!」
杏利はラトーナクローンとヴィガルダクローンに、ビルツジライガを叩き込む。もちろん、この程度で倒せる相手ではない。あくまでも、牽制だ。
「はっ!!」
杏利は跳躍して二人を飛び越えると、城の中に駆け抜けていった。
「……サクヤさんって事は、もしかしてヒノト国のサクヤ姫様ですか?」
「よしなに。あなたは杏利様のお友達のようですが、話はこの超魔達を倒した後でしましょう」
それなりにダメージは負ったはずだ。勝てるかもしれない。いや、勝てなければ、この世界に未来はない。
「行きましょう、サクヤ姫!!」
「はい、キリエさん!!」
キリエとサクヤは、二人のクローンに挑んだ。
「あらあら無視されちゃった。そんなに気に入らなかったかなぁ?」
ウルベロは杏利がラトーナクローンとヴィガルダクローンを無視し、中に侵入したのを見ていた。
「ウルベロ。一之瀬杏利の迎撃に当たれ。無視すれば私がお前を殺す」
すると、通信機にイノーザからの連絡が入った。ウルベロは軽口を叩きながら、イノーザに返す。
「やだなぁイノーザ様。何をそんなに怒ってるんですか? 俺はイノーザ様の為を思って」
「私の為だと? よくもまぁそんな思ってもいない事が口から出てくるな? お前が私を倒し、新たな魔王の座に就こうと考えている事、気付かないとでも思ったか」
「……さすがにあれは怒っちゃいました? だが今さら俺にそれを言っても手遅れだぜ」
ウルベロは本性を現した。まぁ、彼らも滅ぶか滅ばないかの瀬戸際にあるので、隠す必要もないが。
「これから俺は最後の仕上げをしに行く。一之瀬杏利とは戦ってやるから安心しな。その後はお前をぶち殺してやるよ」
通信を終え、杏利に会いに行くウルベロ。
(本当はあいつとイノーザをぶつけて、消耗させてからどっちも殺すつもりだったが、力の差を見せつけて殺すのも面白い。一之瀬杏利。お前の力は俺のモノになるんだよ)
「クククッ……ハハハハハハハ!!」
ウルベロは装置で杏利の居場所を確認しながら、彼女が通る通路に先回りした。
エビルフロンティアの荒野の端。
「おやおや、一足遅かったようですね」
ロージットはずれた眼鏡を直しながら言った。
「師匠。早く私達も加勢しなければ」
「彼らを死なせてはなりません」
マリーナとジェイクが、早くキリエ達を助けに入るよう促す。
「もちろんです。では、お二方もよろしいですね? 生まれ変わったあなた方の力、見せる時ですよ」
「……ああ」
ロージットに言われ、純白のコートを着て刀を携えた男は返事をし、青い肌の女性は笑顔で頷いた。




