第87回 ターバス要塞戦
<登場人物>
グノー (勾陳星 エピストローペの)主人公の兄弟子 魔法使い
メディカス (太常星 酔遊仙の)僧侶防御魔法、治療魔法、躰術
ホーネス (玄武星 神槍の)スカラ国戦士槍の使い手
レピダス (青龍星 銀弓の)黒虎騎士弓、双頭槍の使い手
デュック (貴人星 斜行陣の)元宰相の子参謀、双鞭の使い手
アスペル (太陰星 黒豹の)女盗賊スリング、手裏剣、メイスの使い手
ストレニウス (白虎星 重戦車の)赤鬼騎士双手剣の使い手
ソシウス (六合星 旋風の)斧使いの大男バトルアックスの使い手
エコー (天空星 鎚人馬の)ヘテロ青竜騎士風の魔法使い、ヴォーハンマー
フィディア (天后星 譚詩曲の)芙蓉記伝承者竪琴
グレーティア 主人公
プエラ 主人公の幼なじみの娘
ホスティス ヘテロ国魔法宰相
ベロックス 青竜騎士団長
ローサ ホスティスの養女
チューバ 白狼騎士(ローサの警護係)
シャヘル 冥界の王 十人の妖魔の主
ウーマー 妖魔一位(抽腸獄 月光の)宰相の配下
コスタ 妖魔二位(穿肋獄 ミトラの)死者を甦らす
ハスタ 妖魔三位(針山獄 一角獣の)ホーネスの宿敵
アエヌス 妖魔四位(焼手足獄 セルヌノスの)ローサ陣営の妖魔
ラング 妖魔五位(抜舌獄 魚色の)大蛇に乗る
ベネノ 妖魔六位(毒蛇獄 美粧蓮歩の)女性、二匹の獣を連れる
カーサー 妖魔七位(鋸解獄 紅蓮刀の)巨像に乗る
カスピス 妖魔八位(尖剪獄 ヒュブリスの)
グラッシス 妖魔九位(寒氷獄 黒海馬の)怪鳥に乗る
ベナ 妖魔十位(血汚獄 サキュバスの)意馬心猿の術使い
次の日の夜となりました。
冥王城は平原を前進し、王都近郊まで迫りました。
巨大な都の近くに、一夜にして山城が現れたような感じでした。
突如、冥王城から閃光が走り、ターバスの東面を突き刺しました。
大きな衝撃が大地を揺らし、空気を振動させました。
都は強烈な一撃を受けたのでしたが、舞い上がる煙が引くと、建物には損害も無く、何事もないかのようでした。
すると、再び冥王城より閃光が走り、都を直撃しましたが、同様の結果に終わりました。
攻撃は五度繰り返され、沈黙が訪れました。
「堅い。打ち破れない」
操舵室にいた妖魔ラングは舌を巻きました。
「この硬度、ワルコの城以上だな。強力な力によって作られた魔法によって守られているに違いない」
ウーマーは、かなり困難な闘いになる予感がしました。
「あいつ等の口ぷりから見ると、冥王を封じるだけで無く、そこからの力を使っているようだ」
ソシウスが、私見を述べるとウーマーも同意しました。
「冥王様の力と考えれば、納得いく。ガードの上から強引にパンチをお見舞いして、腕を降ろさせるつもりだったが、かなり手強い。どうしたものか」
ウーマーが思案していると、ソシウスがなにか閃いたのか、叫んだのでした。
「やばい気がする。城を動かせ!」
言われて、ングは操舵輪を握ると、一気に城をスピンさせました。
その刹那、冥王城の側面を閃光が突き抜け、ヘテロの山々を吹き飛ばしたのでした。
「ワルコの将は、予知能力があるのか」
ウーマーは冷や汗をかき、ソシウスに尋ねました。
「そんな能力はない。殴られぱなしの奴はいないと思ってね」
「冥王城に照準を合わせられないように、動き回れ。奴らは動けない」
とウーマーが指示を出すと、カスピスは承知し操舵すると、何かを提案したのでした。
「あれを、投入すべきではないか」
「まだ、最終決戦ではない」
ウーマーは否定的でした。
「軽いパンチを繰り出していては、いつまで経っても終わらない。ここは複数門で一点集中攻撃で打開しないと」
「何を話しているんだ」
ソシウスは妖魔達の顔を見つめました。ウーマーの眉間に筋が走ると、意を決したように彼は言ったのでした。
「三基全ての城を、呼び寄せろ」
「まさか、冥王城が他にもあるというのか!」
ソシウスは吃驚しました。
「決戦の為の、予備選力だった。こんなところで使いたくはなかったがな」
ウーマーは隠し球を見られて、悔しそうでした。
ソシウスは、複数の冥王城で攻められたときのことを考えると、身震いしました。そして心の中で、ここで妖魔達のをヘテロの宰相と泥仕合をさせ、戦力を削いでおこうと思ったのでした。
ヘテロの地に冥界の門が開き、中から三基の冥王城が現れてきました。
これらの城は蛇行しながら、ターバスへ向かい、合流したのでした。
「四基の城の制御を、一本化した。これで四基が連携して動くことが出来る」
ラングはウーマーの指示を待ちました。
「お前達が潜入した場所は何処だ」
ウーマーはグラッシスに尋ねました。
「神社の森だが、もう結界が張られて、弱点とは言えなくなっている」
「だがやってみるとしよう」
平原を四基の冥王城が連なって動き、一斉に主砲が火を吹きました。
ヘテロ王都に振動が走り、閃光が飛び散りました。
「どうだ。風穴は開いたか?」
「駄目だ。完全に弾かれた」
冥王城四基をもってしても、崩せなかったことにグラッシスは地団駄を踏みました。
「仕方ない。再度砲撃を仕掛ける」
そう言うやいなや、冥王城二番基がヘテロからの攻撃を受けて、左後方を被弾しました。
大きな煙が立ち上がり、甚大な被害をだしました。
冥王城の防御力を吹き消すかのように、ヘテロ側は強力な砲撃をしてきたのでした。
攻撃の手を緩めて、傍観すれば、被害を大きくするのは冥王側でした。
ウーマーは次の行動にでようとしましたが、ソシウスが口を挟んだのでした。
「神社でなく。宮殿を狙ったらどうだろう」
「明後日の方向だが。意味はあるのか?」
不愉快に感じたカスピスは尋ねました。
「今の状況は、鍛えた筋肉の男の腹を殴って居るみたいなもんだ。相手は腹を引き締め打撃を待っている。それじゃ効果が無い。一回上を攻撃し、注意を向けさせたら、ゆるんだ腹に一発お見舞いすれば良い」
「もう少し、詳しく説明しろ」
ウーマーは興味を示しました。
「我々ワルコ陣営の魔法城の防御壁は、都全体を覆うくらい大きなものだった。だからこの冥王城の砲撃を何度も受けていれば崩れる。しかしヘテロの防御は神社周辺に限られ、魔法の密度が高い状態のある。そこで王宮を攻撃し。その防衛エリアを拡大させ、濃度を薄くし、そこに一斉攻撃をしかける。もちろん牽制のの一撃は市街地でもいいが、民てのは簡単に見捨てやすいから、王宮のほうが宜しいだろう」
「その案は面白い。ラング。王宮を攻撃し相手が結界を拡大したら、一気に神社に集中攻撃をかけろ!」
ラングは副砲を王宮に向けると、主砲は神社に固定しました。副砲が火を噴くと、5秒後に、ヘテロの結界がターバス全体に広がると、間髪を入れずに、冥王城4基から一斉に轟音がとどろいたのでした。
けたたましい音を立てて、神社が揺れました。
「成功だ、貫いたぞ」
ラングは躍り上がりました。
「砲撃を続けろ、ダメージを与える」
ウーマーは、敵の油断に付けいりました。
連続砲撃を繰り返し、やっとヘテロの結界を打ち破りました。
「よし。敵陣に乗り込むぞ。敵の結界が修復される前に、冥王様を救出するのだ」
ウーマー、カスピス、グラッシスそしてソシウスの四人は、この機を逃さずに、神社に突撃したのでした。
神社には風穴が空き、地下が姿を現していました。
四人は地下道を走り、深層部を目指しました。進んでいくと、程なく待ち構える者達と遭遇してのでした。
妖魔アエヌス、エコー、デュック、騎士ベロックスでした。
「アエヌスお前を誅殺する」
ウーマーは怒っていました。いきなり魔法を繰り出すと、アエヌスを消し去ろうとしたのでした。しかし彼の魔法はアエヌスによって受け流されたのでした。
「なるほど、私の魔法が効かないとすると、よほど強力な結界があるのだな」
「最高位のあんたに褒めてもらうと、嬉しいぜ」
アエヌスは余裕でした。
するとソシウスは叫ぶと、大斧を振り回し、デュックめがけて突進してきたのでした。デュックは思わず怯み、道を開けたのでした。ソシウスが突き抜けたので、他の妖魔達も従うように、その隙をついて駆け抜けました。アエヌス達はほころびを慌てて塞ごうとしましたが、間に合わず、侵入を許したのでした。
「無念だ」
ウーマーが呟きました。
「結界を解除すれば、いくらでもチャンスはあるさ」
ソシウスは慰めました。
「お前は良く飛び込んだな」
「デュックてやつは口は達者だが、腕がからっきしでね。脅せば崩れるとふんだんだ」
「なるほど、仲間であれば分かることだな」
「これから、冥王の所に案内する。俺には助け出す方法が分からなかったが、お前達は分かるかもな」
「いいのか冥王様の在処を教えて、そこでお前は用済みになるのだが」
「まあ、それでも構わないのだが、この強い結界の中、味方は多い方が良いはずだがな」
ウーマーは笑いました。
「ワルコの将は抜け目ない」
ソシウスは妖魔達を伴って、大きな吹き抜けの穴に来ました。
「こいつの一番下の階層に、冥王はいる。しかし、この真下は虚空の海が広がっているから、危険だ。左壁面に流されたほうがいい。他にも下に降りるルートはあるのだが、これが最短だ」
「これは何かが落ちた跡だな。お前は此所を飛び降りたのか?」
「そうだ。見本をみせよう」
そう言うと、ソシウスは穴に飛び込んだのでした。以前は落ちた先が分からなかったので不安でしたが、今度は行く先をイメージできました。バッジの力を借りて、彼は無事着地したのでした。
ほどなくして、妖魔達も無事穴の底に着地して、虚空に落ちる者など居ませんでした。
地獄に暮らしていた妖魔にとって、この様な暗がりは故郷のようなものでした。彼らは落ち着いて、周囲を観察しました。
「ここで、大きな爆破が起こり、虚空の海へ繋がったという訳か。落ちてきたのは一つ。しかし、ここで二つに分裂したようだな」
ウーマーは小首を傾げ、岩石を探りました。
「石が結晶化している。何が落ちたというのだ」
構わす、ソシウスが手招きすると、妖魔達は思索を止めて、後を追いかけたのでした。
冥王のいる洞窟までやってくると、妖魔達は冥王の前に跪き、悲しんでいました。
ソシウスは、妖魔を連れてきたものの、どう行動するか迷っていました。
「俺たちは、共通の仕打ちを受けた訳だが、この拘束は解除できるのだろうか?」
ソシウスが尋ねると、ウーマーが答えました。
「冥王様がこの様な封印を受けてしまうなど、ありえないことだ。敵ながらあっぱれというしかない。恐らく、冥王様とワルコの意識が相手に向かった瞬間に、封じ込めたのだろう。しかし、普通の魔力では封印など出来ようも無い。なんらかの力を利用したのだろう。冥王様は眠りにはいっておいでのようだ。封印の石は強度な魔法がかかっていて我々では解除できない。これは冥王様とワルコの魔力を利用して、自らを捕縛する形にしているのだ」
「どうすればいい?」
「目覚めていただければよいのだが」
ウーマーは思案し、冥王の封じられた姿を眺めました。
「上に伸びたパイプは冥王様とワルコの力を吸い上げるためのものか。だから結界が強烈なのか」
ウーマーは何かに気がつきました。
「あの上に突き刺さっているのは、聖剣グラディウス。なるほどあの剣の力を借りたのか」
「そうだ、それは俺も気がついたが。なにか関係があるのか」
「あの剣は、千年前の戦いにおいて冥王様が敗退する原因となった剣だ。膨大な魔力を持つ。この力を利用したのだな」
「それでは、この剣を引っこ抜けば、解放されるのだな」
「無理だ。この剣はワルコのみしか使えない」
ここまで言ったとき、ウーマーは何かに気がつきました。
「聖剣グラディウスはワルコしか使えない。しかし、何故ワルコが封印されている?矛盾しているではないか。される側が、する当人だなんて」
再び、二つの剣をみて、ウーマーは閃きました。
「ワルコは二人居たのだ。一方の剣でワルコを封じ、ワルコの剣で冥王様を封じ込めたのだ」
自問自答するように話していたウーマーは、確信しました。
「もう一人のワルコに聖剣を抜かせるしかない」
ソシウスは解除の手段が分かって、危険ながらも妖魔をここに引き入れたことを成功だったと思ったのでした。
「相棒の。ワルコである、グレーティアは、実は先の国王の姫御子だったという。であれば王族の者だったのだろうか」
「確か、王女は双子だったな。しかし一方は皇子だったはず。ワルコにはなれないはず。なにか秘密がありそうだな」
「そう言えば。宰相ホスティスには娘がいた。あれではないのだろうか」
「ワルコが二人居ることは想定外だったが、この強固な力を見る限り信じるしか無い。その宰相の娘は怪しいな」
ここでグラッシスが口を挟んできました。
「では、その娘を始末するばいいのだな」
「殺しては駄目だ。それでは冥王様が目覚められない。剣を抜かせないと」
グラッシスは悔しくて膝を叩きました。
すると、ソシウスがアイデアを出したのでした。
「宰相を誘拐するというのはどうだろう。城外に連れ去れば、此所みたいに結界で動きを封じられることもないし、父親が危なくなれば、彼女は聖剣を使う」
「良い作戦だ。強固の封印のおかげで誰も、冥王様への危害を与えることは出来ないし。ここは離れて良いだろう。ただ、その娘がワルコである確証は無いので、誘拐が成功しても安心はするな」
ウーマーは慎重でした。
「グレーティアは攻撃魔法が使えたので、ワルコではないかということになった。普通の娘が攻撃魔法を使うと気が触れてしまうということらしい。宰相の娘に魔法を使わせれば、その可能性が高くなる」
「それは、良い指標だ。では我々はこの宰相誘拐作戦を実行する」
青竜騎士のベロックスから敵の侵入を許したという報を聞き、宰相ホステスは冥王城からの攻撃と、内部からの攪乱工作の対策に頭を痛めていました。
冥王とワルコの作り出す防御は強力なものでしたが、冥王城は城を増やし戦力を増強し、攻撃を仕掛けてきました。しかも全く関係ない宮殿に攻撃を仕掛け、この防御に力を回さなくてはならず。状況を簡単には打開できないでいました。
削り合いを繰り返し、冥王城の一基は沈黙させ、相手戦力を低下させることは出来ましたが、残り三基とはいえ、自分たちの被害も大きくなっていました。上層部の神社は完全に消し飛び、えぐられた地下基地の姿が表に現れていました。
娘ローサに命じて、聖剣の一振りで、冥王城を沈黙させることは可能でしたが、聖剣は冥王を封じる手段としていたので、それは出来ませんでした。
それに心配なのが、潜入した妖魔達を見失っていることでした。
各通路には罠をしかけており、それが全く反応が無いのは気がかりでした。
「ワルコの僕と妖魔が手を結ぶとは意外だった」
宰相ホスティスは、騎士ベロックスに語りかけました。
「主を攫われていることで、利害が一致したのでしょう」
「奴らは、自分たちが消滅していく存在であることに何故気がつかないのだろう」
「溺れる者は、逆に助けるの邪魔をします。賢き者は少ないかと」
「魔法の力が消えゆくのを抑え、魔法の根源を管理していこう、と言う事とだけなんだがな」
宰相はため息をつきました。そして昔のことを思い起こしました。
それはパテリアの反乱の時の事でした。宰相は、隣国パテリアの先王の皇子を手に入れ、これを政治の道具として利用しようと、画策しました。
そのため皇子は大事に乳母に世話をさせていました。あるとき宰相ホスティスは皇子に変わりはないか、確かめに来て、子供の異常に気がついたのでした。
赤ん坊には、見たこともない魔法が絡みつき、何にかを封印していたのです。宰相は怪しみその文法を紐解きました。まことに高度な魔法文であり、このような術を使うものが存在するのかと関心したのでした。しかし、その魔法がなんであるか彼には分からず、好奇心から、それを解除してみることにしたのです。
魔法を分解してみると、それは何かを反転させるものでした。男子と思っていた赤ん坊は女子だったのです。彼も驚きましたが乳母も腰をぬかしました。
何故、女児を男児に変化させていたのだと。疑問がのしかかりました。
宰相は術を解いたものの、同様のものを掛けることがことが出来ませんでした。政治的な道具として価値を失ったものの、この赤ん坊には秘密があると感じた宰相は、自分の娘として育てることにしたのでした。
実の娘として育ててたものの、宰相としての仕事が忙しく、親らしい愛情も注ぐことも無く、日々は過ぎ、生長したとき、その子が魔法に秀でたことに気がついたのでした。
注意深く観察し、この子はワルコの要素を持つことに気がつきました。
しかし、ワルコと断定もできず。その扱いは微妙なもとのなりました。
親の愛情に飢えていた娘は、宰相には従順で、道具としては都合の良いものでした。
普通の娘として誰かに嫁がせるか、このまま謎の存在として自分の手元に置き終わらせるか、宰相も悩んでいました。
この娘はワルコではない。しかしワルコの権能をもつ。何故なのだ。
その答えはで出ぬまま、今に至ったのです。
「ベロックス。娘は大役を果たし、もう用が無いと思うのだが」
おもむろに、宰相は言いました。
「大きな働きをしたのは確かですが、ローサ様が閣下を慕われているのは変わりないかと」
「我々は、妖魔の攻撃を受け、これから幾度となく魔法の源泉を守り通さなくてはならない。そこから娘を遠ざけたいと思うのだ」
意を察したベロックスは、言いました。
「ヘテロ国の山脈を越えた、東の国に、知り合いがおります。ここに預け置かれたらどでしょう」
「遠くもないか。それが良かろう。困らぬように十分な財貨を持たせ、送り届けてくれ」
「では騎士のチューバに同行させましょう。かの者なら安心できます」
ベロックスは下がると、ローサの元に赴いたのでした。
「お父様が、去れと」
妖魔達の攻撃を受けている真っ最中に、命令を受けてローサは納得いきませんでした。
「お父上の御心をご察し下さい」
「魔法世界を守ろうとする志が、成就し、始まったばかりではありませんか、ここで娘たる私が逃げてどうします」
ローサは憤慨しました。父に自分が役に立つ存在だと、思わせたかったのです。
「閣下の足を引っ張られるつもりですか」
「私が、父の邪魔をするとでも」
「ローサ様がそのつもりではなくても、閣下は心配なのです」
尚も、食い下がるローサにベロックスは言いました。
「閣下の命令です。ローサ様」
厳しい言葉に、ローサはうなだれ、支度を始めたのでした。
突然、基地内で妖魔が暴れているとの連絡があり、宰相は兵員をそちらに向かわせました。そのまま結界の中で、妖魔達を始末するつもりでした。
ですが、妖魔達も結界の中で、抵抗を見せたので簡単に事は運びませんでした。
ソシウスとグラッシスは地下基地の中で、大暴れを見せていました。魔法攻撃は大きく封じられ、それは肉弾戦のような格好でした。
但し、妖魔の心理攻撃は雑兵には有効で、グラッシスが饑餓の幻影を繰り出し、苦しみで動けなくなったところを、ソシウスが仕留めるといった案配でした。
彼らが大立ち回りをしているのも、宰相の在処を探し出して、いよいよ誘拐の機が熟していたからでした。
地下通路で大立ち回りを繰り広げ、注意をそちらに向け、ウーマー達に攫わせる予定です。
彼らは、鬼ごっこの様に逃げ回り、大勢の雑兵を背中に負っていました。
すると、運悪く、通路を曲がった先で、アエヌスとエコーに遭遇したのでした。
「今度はデュックは無しか。左の奴は水系魔法を得意とする。右の奴はお仲間だから分かるな」
ソシウスはグラッシスに呼びかけました。
「ああ、彼奴は物欲を支配する」
二人は飛び込んだのでしが、雑兵のようには行きませんでした。簡単に交わされ、空を切りました。
「アウェーは厳しいな。彼奴等が攻撃できないように雑兵の中で乱戦するか」
ソシウスが想定案しましたが、グラッシスは潔しとぜす、再度攻撃をしかけました。
エコーよりの水魔法の攻撃を受けましたが耐え抜き、エコーを負傷させました。
これを見ていたソシウスも負けてはならないと、斧を旋風のように振り回し、アエヌスめがけて突進したのでした。ソシウスとアエヌスは両者傷を負い、離れました。
「ここは禁断魔法を使って逃げ切るか」
ソシウスは削り合うことより、逃げ負せることを選びました。
「この結界の中では、それは無理だ。俺が肉弾戦を挑んでいることでも分かるだろう」
ですが、相手は違っていました。魔法は使い放題でした。
アエヌスの背後に運命の車輪が現れたので、グラッシスは敵が禁断魔法のラ・ルオータを使ったことに気がつき「逃げろ!」叫んだのでした。しかし、彼自身は待避が間に合わず、ラ・テンペランツァを繰り出す間もなく、消し飛んだのでした。
一方ソシウスは、咄嗟にバッチの力で、ジャンプしたのでした。
その衝撃は、基地全体に響き、宰相の部屋でも揺れを感じていました。
「地下からの衝撃。妖魔達は冥王を求めて深層部へ向かっているな」
それが宰相の見解でした。地下へ向かえば向かうほど結界は強くなり、こちらにとっても好都合と、地下の妖魔は配下にまかせ、自分は要塞の攻略に意識を向けました。
宰相は冥王城の一つに狙いを定め、要塞砲を放そうとすると、アエヌスとデュックは慌ててやってきたのでした。宰相は何事が起きたのだろうと、入り口を開くと、二人は飛び込んできたのでした。
宰相は車椅子の向きを彼らに向けると、何事が起きたのだろうかと思ったのでした。
「大変だ。お嬢さんが攫われた。妖魔は上に逃げたようだ」
デュックはまくし立てました。
宰相は、ローサが殺されては、封印の使っている聖剣にもなんらかの支障が出るかも知れないという危惧をいだきました。
彼女には都を退去するように、ベロックスに命じたはずでしたが、娘が抵抗を見せ手間取ったのであろうかと、思ったのでした。早速、外の様子を映し出してみると、ローサの姿はありませんでした。
「それは本当か。外には妖魔の姿は無いが」
「妖魔はこの様な投影の技など誤魔化せます。直に肉眼で見ないと」
アエヌスが説明すると、宰相は納得したように、二人と衛兵を連れて地上の上がっていったのでした。
「娘の姿は見えるか!」
車椅子から乗り出して、宰相は周囲を見渡しましたが、瓦礫の山しか見えませんた。
「あんた、娘思いの良い親だよ」
デュックが素っ気なく言うと、宰相は何か可笑しいと気がつきました。そして振り向くと連れてきた衛兵の首が吹き飛んでいました。
「貴様何者!」
宰相はアエヌスとデュックに技を掛けました。
二人の影が吹き飛んだと思いきや、変わってそこに立っていたのは、ウーマーとカスピスでした。
「動向願おうか」
ウーマーが言うと、宰相は瓦礫を宙に浮かせると妖魔にぶつけたのでした。宰相から多彩な技が繰り出され、妖魔達は手こずりました。
「もう、結界も切れたこの地上でそれだけの技を繰り出しとは、感心した。さすが頭を務めるだけのことがある。だがその不自由な体でどこまで抵抗できるかな」
妖魔二体を相手に果敢に攻めていたホスティスですが、やはり車椅子という弱点は克服できず、椅子から落ちると、身動きが取れなくなりました。
「人間のくせにたいした奴だ。さあ、冥王城に来てもらうぜ」
そう言うと、二人は魔術で宰相を動けなくすると、連れ去ったのでした。
アエヌスとエコーは地下で、グラッシスとソシウスを仕留め(ソシウスは逃れたが)ほかの妖魔を探し出せず、仕方なく戦況を確かめるべく、宰相を訪ねたのでした。
ところがアエヌスの顔をみると、衛兵が怪訝な顔をするではないですか。それでエコーが尋ねると、宰相はアエヌスとデュックと共に攫われたご息女を、探して上に向かったとのことでした。
アエヌスは、妖魔の変化の術であると、直ぐに見破り、急いで上に登っていったのでした。
すると地上には、宰相の車椅子が転がっており、近くに衛兵の死体が転がっていたのでした。ここで彼らは宰相が敵の手にあることを、悟ったのでした。
そこで、姿を見せない。ローサ、ベロックス、チューバを除く四人にて今後について話し合いました。
アエヌスは冥王軍との優位性はこの基地にあるとして、冥王城に救出に出るのは反対で、ベナはウーマーを恐れていました。エコーは救出を試みるべきとの意見で、デュックはベロックスやチューバそれにローサが来れば、宰相救出に意見が傾くと判断し、救出に賛成したのでした。しかし、内心わざと失敗し、宰相を妖魔の手に掛けさせ、実権を握ろうと画策してました。
ローサ達を送り出したベロックスは、戻ってみると宰相が攫われ、それを救出するかどうかで意見が割れていることを知りました。彼が力説して、宰相救出ということで、話はまとまり、妖魔のベナだけは基地に留まることになったのでした。
ウーマーは冥王城に帰り着くと、宰相を門の前に吊しました。宰相は魔法できつく締められ身動きが出来ないでいました。
「餌は吊したが、かかるかどうかだな」
妖魔達が様子を伺っていると、最初に姿を表したのはソシウスでした。
「グラッシスはどうした?」
「殺られたよ。男の妖魔の奴が放った魔法でな。おれは間一髪逃れたが」
「アエヌスの奴だな。あれは俺が直に始末してやる」
ウーマーは怒りに燃えました。
すると、ターバス要塞より、砲撃が放されれ、左側面のかすって行きました。
「俺たちの注意を向けさせるために、砲撃を仕掛けてきた、奴らが来るぞ」
ウーマーは仲間に、指示を出すと、高台に立ちました。
戦闘はカスピスの持ち場で始まりました。ベロックス、エコー、デュックが襲いかかり三人を相手にカスピスは奮戦しました。繰り広げられる戦いに、魔法城は傷つき、止まることを知りませんでした。敵の攻めコースが分かるとソシウスもカスピスの救援に向かい、激烈な戦いを繰り広げました。
この状態に、ウーマーは動きませんでした。アエヌスの姿が見受けられず、宰相奪還の機会をうかがっているのが分かったからでした。
デュックがカスピスの魔法に苦戦し、殺されそうになると、ベロックスは彼を援護したのでした。その隙を狙ってソシウスは旋風のように斧を振り回し、ベロックスを銅から二つに切り裂いたのでした。これに驚いたエコーはソシウスに向かって魔法を放そうとしましたが、カスピスへの注意が疎かになり、彼は魔法攻撃を受けて肉片となって散ったのでした。
状況不利を悟ったデュックは一目散に、冥王城から飛び降り、逃げさったのでした。
「隠れているんだろう。アエヌス」
ウーマーは城壁の影に声をかけると、妖魔が姿を出したのでした。
「妖魔第一位の実力か、よく見破った」
「アエヌス。俺はお前に失望している。グラッシスを殺してくれたそうだな」
ウーマーが禁断の魔法イル・パーパをいきなり放してきたので、アエヌスは彼は全力で始末に来ているのを察しました、素早く彼も禁断魔法るル・オータを放し、打ち消しました。
荘厳な法衣と運命の輪は、ぶつかり、魔法は消し飛んだのでした。
「さーて。おれは退散だ」
アエヌスがそう言うと、「貴様、仲間は助けないのか!」とウーマーは責めたのでした。
「おれは奪還作戦には反対だったのだ。地の利がないところで戦うのは自殺行為だ。その様になってしまったが」
アエヌスは姿を消すと、ウーマーは歯ぎしりしたのでした。
ソシウスとカスピスはウーマーの所に、集合すると話し合いました。
「結論からいうと、戦術では勝ち、戦略で負けたということだな」
ウーマーは、宰相を餌に娘をつり出すつもりだったのが、果たせず、手詰まりになってしまったことを言ったのでした。するとソシウスは反論したのでした。
「確かに戦術では勝ち、戦略で負けたと結論付けるのは早計ではないかな。肝心の娘が戦いに参加してなかっただけだ」
「俺もそう思う、この度の戦いで二人始末した、次は娘がやってくるに違いない」
カスピスも賛同しました。
すると、吊された宰相ホスティスは大笑いしたのでした。
「なるほど、お前達は娘をおびき寄せるつもりだったのか。残念だが、娘はやって来ない」
「なんだと!」
「あの娘は、私の子ではない。他人のために、命を落としにくると思うのか」
ソシウスは動揺しました。
「上手い心理操作をするものだな。私がパテリアで役人に化けて過ごしていたのは、無駄ではなかったようだな。人間は妖魔のように、そこまで冷徹に成れない」
ウーマーは見透かしたように、宰相に言いました。
「それはどうかな。お前達はここで、兎が切り株に当たって死ぬのを待つのかね」
宰相は皮肉ってみました。
ウーマーは宰相を魔法で眠らせると、ソシウス達に言ったのでした。
「宰相は娘が来ないと自信を持っているようだ。それは心情的なものでなく。何処かに封じているかもしれない」
「まさか。娘をか」
「自分の娘が鍵であることは分かって居るはずだ。ほとぼりが冷めるまで眠らせるのも考えられないこともない。眠っているのなら父親の危機など知りようも無いからな」
「そこで、使い魔によって首都ターバスを探査させようと思う」
「探すといっても、大都市だぞ」
「もちろん、要塞内、宰相宅、宰相府は優先して探させるが」
こうしてローサへの追跡は始まったのでした
ヘテロの要塞にたどり着いた。アエヌスとデュックはベナと話し合っていました。
「攫われた宰相をどうするかだが」
デュックが切り出しました。
「奪還推進のベロックスが亡き今、こちらから敵地に乗り込む愚はしたくない」
要塞堅持派が大勢となった今では、反論するものはいませんでした。
「宰相を攫ってなにをするつもりだったのかしら」
ベナはウーマーの計画が分からないでいました。
「冥王様の在処か。場所が分かって居れば、解除方法だろうな」
「知られてしまうと不味いな」
アエヌスは再び、不利な冥王城に忍び込むのを嫌がりました。
「良い考えがある。要塞の膨大な魔力で、宰相を呪い殺すてのはどうだ」
デュックが提案すると、アエヌスが膝を叩きました。
「その案には賛成だ。呪いの文を作製するのに時間がかかるが価値はある」
「それと宰相の娘も始末しよう。あとあと面倒なことになっては大変だ」
「そう言えば、宰相の娘と騎士のチューバが見当たらないが」
アエヌスが、思い出したように言うと、ベナが答えました。
「あら、あの二人、ターバスを出ていったわよ。愛の逃避行ね。愛の伝道師の私には分かったわ。チューバて娘に夢中なのよ」
「冥王陣営が、娘を捕らえ、それを餌に宰相に解除方法を聞き出したらどうする?」
「ターバスを去ったのなら好都合。宰相はその前に消せばいい」
三人はあくまでも要塞内で、勝負をするつもりでした。
妖魔達が宰相の娘を使い魔で探索している間、暇になったソシウスは馬に跨がり王都ターバスの周囲を視察していました。
冥王城とターバス要塞との戦闘が始まると、住民は郊外へと待避し、周囲は避難民で溢れていました。
戦いが都の東で行われていたので、住民は西側に逃れ、荷馬車や難民テントで溢れていました。時折、東側で轟音が響き渡り、人々は恐怖を覚えたのでした。
ソシウスは、協同戦線をとっているものの、妖魔が住人を餌に、宰相を脅迫した時は反対をしなければならないと決意したのでした。
ソシウスは、西の逃れた人々が、ユンクタス河まで至っていたので、その先まで馬を走らせてみたのでした。河を下りトモ山脈を抜け、海に逃れようとしているのでしょうか。
ここまで行くと国外退去をしているのでは、と思えたのでした。
暫く、眺めていると、男女二人組が旅をしている姿を見かけたのですが、すぐに群衆に紛れて分からなくなりました。
冥王城に帰還してみると、ウーマー達が協議していました。
どうやら、都の中で宰相の娘の姿を探し出すことは出来なかったようで、住民を殺害し娘の所在と、解除方法を聞き出そうとしてました。
ソシウスは慌てて、確証がありませんでしたが、西でそれらしい姿を見かけたとの報告をし、住民惨殺を思いとどまらせました。
騎士チューバは宰相の娘ローサが落ち込んでいるので大変心を痛めていました。
ヘテロの皇族や貴族は、冥王城からの攻撃を受けると、近くの第一砦に非難し、精鋭軍はそこに集まり、守っていました。ほかの正規軍は他の砦に移動し、住民の近くにいるのはわずかな兵で、略奪をしていました。
「チューバ。お父様が心配です。此所で様子をみましょう」
ローサが、足を止めたので。仕方なく彼は従いました。
「お父様が、魔法の未来を守っているのは分かっています。でもお一人で頑張ることはないでしょうに」
「お嬢さま。宰相閣下には仲間が居ますよ」
「私を逃がすのは、負けそうだからでしょう」
「まさか。危険だからではないでしょうか」
チューバは宥めるのに必死でした。
すると避難民の中からざわめきは広がってきたのです。ローサ達は怪しみ、みんなが見つめる方を向くと、空に大きな映像が映し出されたのでした。
これは都の西側一帯に広範囲に多数の映像として映し出され、多くの避難民が見たのでした。
チューバが映像を見ると、吊されむち打たれて、ボロボロになった宰相の姿がありました。
これを見たローサは気も狂うほどに怒りだし、近くで避難民を脅して金を無心していた兵士を魔法で焼き殺すと、兵士の馬にまたがり、王都に引き返したのでした。
慌てて、チューバは他の震え上がった兵士の馬を、ぶんどるとその後を追いかけたのでした。
「お嬢様、お戻りください」
「お父様を救い出さなくては」
「仲間がいます。彼らがなんとかしてくれます」
「信用出来ないわ。ベロックス団長は信用おけるけど、特にデュックのいう人物は最悪だわ。お父様に取って代わる野心をもっているから」
「お父上の命令ですよ」
「救出したら。国外に去るわ」
チューバが何度説得しても、ローサは聞く耳を持ちませんでした。
冥王城めがけ、草原を走り抜けると、冥王城は目の前にそそり立っていました。
冥王城は宙に浮いているらしく、そのまま馬から城の中には入れませんでした。
「お嬢様、これでは中には入れません。一度要塞の仲間と合流し、力を借りましょう」
術がないことに痛感した彼女は、チューバの意見に従い、行動しようとしました、しかし、こともあろうか、逆に要塞側から攻撃を受けたのでした。
咄嗟にチューバはローサを掴みかかり、草原に逃れたのでした。馬は焼け焦げになり、二人は草地に転げました。
「要塞側からなのか?」
チューバはローサの手をとり岩陰を目指しました。
「どうやら、お父様は見捨てられた様です」
「どうして、こうなんるんだ」
チューバは地団駄ふみました。
「ベロックス団長は亡くなったのよ。だから私達が邪魔になった」
「どうします」
「無論、お父様の救出よ」
冥王城へ登る方法を探していると、上に上がる階段が降りて来ました。
罠とは分かっていましたが、ローサ達は階段を登って行ったのでした。
城の中は行く手を阻む者はなにも居ませんでした。ただターバス要塞からの砲撃を受けて、冥王城に被弾の音がしていました。
もう誰が味方で、誰が敵か分からなくなりました。
二人が城内を進んでいくと、開けた場所に出て、宰相が吊されていました。
チューバは急いで宰相を救いだそうとしましたが、隠れていたソシウスに阻止されて、近づけませんでした。両者は何合か打ち合い、にらみ合った状態で止まりました。
すると妖魔ウーマーが現れ、念動の力でナイフを宰相の体に突き刺したのです。
自分の父が的にされて、たまらなくなったローサは、魔法でウーマーに挑みかかったのでした。炎の魔法が打ち出され、城内は業火に襲われたものの、軽々とウーマーによって打ち消されていったのでした。そしてローサは、ウーマーの魔法の一撃を受けて、壁に叩きつけられたられたのでした。チューバはローサの身の危険を感じ、ソシウスから離れ、今度はウーマーに襲いかかったのでした。ウーマーはそれを五月蝿く感じたのか、魔法の見えない剣で一刀に切り伏せたのでした。チューバの体は二つに分かれ、床に倒れたのでした。
体が痺れうずくまったいたローサは、この光景を目の前にして怒り、魔法を妖魔に放しましたが、簡単に交わされ力の差に絶望しました。
すると、彼女の目の前で、宰相の体が中から弾け飛び、血が辺りに吹き出したのでした。みるみるうちに宰相の体は炸裂し、やがて下半身が床に落ち、その後バランスを無くして上半身も床に転げたのでした。
「宰相まで殺したのか」
ソシウスが詰め寄ると、
「違う、私ではない。おそらく要塞にいるアエヌスが要塞の強力な魔力を使って、呪い殺したのだ」とウーマーが答えました。
しかし、目の前に起こった衝撃にローサは二人の会話は耳に入らず、ウーマーへの復讐の炎が燃え上がったのでした。普通の方法でこの妖魔を殺せないと判断したローサは、意を決して、聖剣を使うことにしました。
「我が元へ、出よ。聖剣グラディウス!」
そう彼女が唱えると、ターバス要塞の地の底から天井を突き破り、ローサの元へと聖剣はやって来たのでした。
突如現れた聖剣にウーマーは驚きましたが、娘が地下の聖剣を抜いたと知り、作戦が成功したと喜びました。
しかし、目の前の娘は厄介でした。魔法が使えたこと、さらに聖剣を呼び寄せたことでワルコであることは確定しましたが、怒り狂っているのを鎮めるのは難問でした。
ウーマーはジャンプして、冥王城から逃れました。しかし、ローサも聖剣の力を得て、彼を追いかけてきたのでした。
聖剣の一振りで、大地は二つに割れ、その威力を見せました。ウーマーはたまりかねて、魔法防御の強い、他の冥王城に逃げ込みましたが、その冥王城でさえ、聖剣の一振りで真っ二つにされ、陥落したのでした。二つの冥王城は聖剣によって容易く落とされ、冥王を退けた剣の威力にウーマーは舌を巻き、なにか逃れる方法はないかと考え、そろそろ冥王様が目を覚ます頃と判断し、ターバスの要塞へと向かったのでした。
ウーマーがターバスの地に着くと、はたして怒り狂ったローサも追いかけて来ました。そしてウーマーが地下に逃げると、聖剣の一閃で地下基地を砕いたのでした。
強力な結界で守られていた地下要塞も聖剣の威力の前には敵わず、無残な姿となりました。そのままローサは地下に下り、ウーマーを追い求めたのでした。
一撃で冥王城が落ちた光景を見ていたデュックは、歯車が狂い初めたのを感じました。
ローサ達を攻撃したことで、見捨てたことは知られ、弁解の余地もありませんでした。
デュックは荷物をまとめて逃げだそうとしましたが、地下からウーマーを狙ったはずの聖剣の一撃が飛んできて、彼は粉々に吹き飛んだのでした。
一方、要塞がどんどん破壊され怯えていた妖魔ベナは、恐ろしくて身を縮めていたのでしたが、偶然ウーマーと出会い、恐怖で震い上がりました。
口が震え弁解も出来ないまま、髪をウーマーに鷲づかみにされると、一気に穴の底の虚空の海に放り込まれたのでした。ベナは海の潮流に流され消えていってしまったのでした。
この海に落ちれば、戻ることは不可能でした。
アエヌスはデュックの余計な攻撃で、ローサを味方に付けることが困難になったことを怒りました、妖魔一位のウーマーも厄介でしたが、怒り狂ったローサはもっと厄介でした。かれは、呪いにてローサを殺そうとしましたが、要塞の魔法の力が落ちているのを感じました。冥王の復活は近いのです。
残った要塞の魔力で呪いを掛けてみたものの、簡単に聖剣によって弾かれたのでした。
この要塞も終わりだと思った瞬間、地下の深淵部でなにか巨大な力がぶつかり合う振動をうけました。
まさか、と思い。破壊された基地の地下を見下ろすと、二つの巨大な力が舞い上がってきたのでした。
地面に降り立ったのは、冥王シャヘルとローサでした。
この両者が地下で、ぶつかり合っていたのです。
空を見上げると、冥王が復活したためか、昼なのに空は暗く、熱も奪われていました。
大男の冥王を相手にしているのは、人の大きさのローサでした。大きさは違いましたが、ローサの動きは俊敏で、聖剣が、一撃一撃に威力を与えていました。
あの娘は人間ではなかったのか?両者の戦いを見てアエヌスは思ったのでした。
「強い。こっちの方がワルコらしい」
そう言って、近づいてきたのはウーマーでした。
「聖剣に追っかけられ、冥王様に泣きついたか」
アエヌスは侮蔑しました。
「言ってくれるな。お前達の計画はこれで頓挫した。制裁を受けてもらうぞ」
「面白い。勝負だ」
冥王とローサの戦いを後ろに、両者はにらみ合って動きませんでした。
次の瞬間、アエヌスが禁断魔法ラ・ルオータを繰り出すと、ウーマーは禁断魔法イル・パーパを繰り出しました。
アエヌスの上半身が吹き飛びました。
静かに、姿勢を戻したウーマーは、アエヌスの遺体に背を向けたのでした。
ローサの動きは素早く、冥王に手傷を負わせていました。しかし、疲れが出てきたのか、次第に息遣いが荒くなって行きました。しかし冥王の22の禁断魔法をことごとく跳ね返し、塩化攻撃、石化攻撃をはじき返していたのでした。
両者は首都ターバスの町並みを破壊しながら、平原へとなだれ込んだのでした。
裏切り者を排除したウーマーは、地下で眠っているもう一人のワルコを始末しようと、降りようとしました。しかし、そこから顔を覗かせたのはソシウスでした。
「あの娘に追いかけられ難儀だったな」
にこやかに話しかける彼の背中には、ワルコがいました。
まだ、眠りから覚めていないようで、懐には聖剣グラディウスの片割れを持っていました。
聖剣をもったローサに追いかけられた記憶が蘇ったウーマーは、険しい顔をしました。
「待て、その娘はここで始末する」
「休戦状態でなかったのかい?」
「冥王様が目覚められて以上、終わりだ」
ウーマーはいきなり攻撃を仕掛けてくると、ソシウスは飛び下がりました。そして、グレーティアを背中から降ろしたのでした。
「さあ、勝負といこうかね」
そういうと、ソシウスは猛然と、ウーマーに勝負を挑んで行きました。
人の動きなどと、軽くみていたウーマーは、一撃で仕留めようとしてましたが、我が目を疑いました。旋風のように斧を振り回す姿が、風になって消えていくように見えたのでした。
見えない風が、彼の体を切り刻んでいくのでした。
ソシウスはバッジの力を借りて、目くらましをしていたのですが、ウーマーはなにをされているのか分からないようでした。
そうこうするうちに、グレーティアは意識を取り戻し、近くで戦う、ソシウスに気がついたのでした。
「グレーティア。今、冥王を倒すチャンスだ。あそこで冥王と戦っている娘と共に戦え!」
ソシウスに促されて、平原をみると、冥王と誰かが戦っていました。
状況が飲み込まない状態でしたが、眠る前の記憶が冥王を仕留める瞬間でしたので、すぐさま向かったのでした。
さすがのローサも怒りの力だけでは気力が持たず、冥王の力を交わすだけで一杯一杯でした。
すると、そこからとも無く援軍が来て、戦いを始めたのでした。
その娘は、自分の父が、待ち焦がれた者でした。
安堵とともに、嫉妬の火が再び沸き起こりました。
この娘より、私は優れている。負けたくないという気持ちが彼女を動かしました。
二振りの聖剣の波状攻撃を受けて、冥王の傷は深くなりました。巨漢といえど、その力に抗しえず、後ろに押され始めたのでした。
この状況に、ソシウスを相手していたウーマーは、戦いを投げ捨て、救援に向かいました。また冥王城に残っていた、ラング、カスピスも出撃して参戦しました。
妖魔達は救援にむかったのですが、ワルコ達の聖剣から繰り出す力は脅威で、禁断魔法と言えども一撃で粉砕されるのでした。しかし、背後からワルコを脅かすことは攻撃を鈍らせ、冥王の助けになっていたのでした。
すると、その妖魔の背後からソシウスが参戦し、大混乱となりました。
戦い続けると、ワルコの攻撃は連携が取れ始め、冥王といえど抗しがたいものになっていきました。ソシウスがここで冥王を仕留められるかもしれないと思った瞬間、ローサの動きが止まってしまったのでした。
絶え間なく動き回り、肉体の限界に到達したのでした。彼女の手から聖剣が落ち地面に突き刺さりました。
崩れ行くローサを掴んだのは、冥王でした。
彼はローサを鷲づかみにすると、胸に押しつけたのでした。グレーティアは驚き、その手を切り落とそうとしましたが、妖魔の妨害に遭い救えませんでした。
ローサは海に沈んでいくかのように、冥王の体内へと吸収されたのでした。
異様な出来事を目の当たりにして、グレーティアは動揺したものの、気持ちを立て直しました。この怪物は人を吸収する。そして目に付いたのがローサが落とした、聖剣でした。
彼女は素早く近づくと、剣を持ち、二刀をかざして攻撃を仕掛けました。
二刀同時に使えば威力が増すのではないかと考えたのですが、以前より冥王に傷が付かなくなっていることに気がつきました。
何故、こうなったのだろうと怪しんでいると、どことなく冥王が大きくなっている気がするのです。しかも、前より遙かに威力も増し、聖剣といえど抵抗できないものとなり始めたのです。彼女は冥王の魔力が増大したのを感じました。
冥王は、あの娘を食べ、強力になったのだと、悟りました。
二人ががかりで倒せそうだったものが、全く太刀打ちできないものと変わってしまいました。
背後に妖魔、正面は冥王と挟まれ、力を集中出来ないまま、グレーティアは一気に打ち上げられ、地面に叩きつけられそうになりました。
猛烈な勢いで空に舞い、落ちたところを踏みつけられそうでしたが、グレーティアが最期を覚悟していると、空に浮いたままになったのでした。
驚き、周囲を見渡すと大きな鷲の背中の上でした。
背後をみると、ソシウスが訳が分からず、周囲を見渡しています。
風が強く、気温が下がっていました。
相当な高さまで登ったのでしょう、首都ターバスが小さく見えます。
鷲の頭の方には、見知らぬ男の人が座っていました。
男の人はグレーティアの方を向くと、笑顔を見せて言ったのです。
「始めまして。私は貴女の兄弟子グノーだ」
初めて出会った人に、彼女は狼狽えました。
彼らを乗せた鷲は、危機を脱し、空高く舞い上がり、西をめざしたのでした。
お城の数の数え方で悩みました。一城二城なんでしょうが、機械的イメージを出したくて、一基、二基みたいな数え方にしました。しかし基てのは据え付けて動かないものの数え方なんで、違うのでしょうね。冥王城は移動要塞ですから。
ついに、ここま来ました。兄弟子のグノーは第48回に登場して以来です。岩に挟まれて動けなくなったままで、終わるはずはありません。
兄弟子も集合し、いよいよ最終決戦となります。
これも、骨折して暇だったおかげでしょうか。




