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第85回 永遠の魔法の世界へ

<登場人物>


グノー    (勾陳星 エピストローペの)主人公の兄弟子 魔法使い

メディカス  (太常星 酔遊仙の)僧侶防御魔法、治療魔法、躰術

ホーネス   (玄武星 神槍の)スカラ国戦士槍の使い手

レピダス   (青龍星 銀弓の)黒虎騎士弓、双頭槍の使い手

デュック   (貴人星 斜行陣の)元宰相の子参謀、双鞭の使い手

アスペル   (太陰星 黒豹の)女盗賊スリング、手裏剣、メイスの使い手

ストレニウス (白虎星 重戦車の)赤鬼騎士双手剣の使い手

ソシウス   (六合星 旋風の)斧使いの大男バトルアックスの使い手

エコー    (天空星 鎚人馬の)ヘテロ青竜騎士風の魔法使い、ヴォーハンマー

フィディア  (天后星 譚詩曲の)芙蓉記伝承者竪琴


グレーティア 主人公

プエラ    主人公の幼なじみの娘



ホスティス  ヘテロ国魔法宰相

ベロックス  青竜騎士団長

ローサ    ホスティスの養女

チューバ   白狼騎士(ローサの警護係)


アミコス   反乱軍参謀、竪琴の使い手、元魔法省官吏

ドクトリ   オリムメガラの魔法使い、古代魔法を復活させようとしている


シャヘル   冥界の王 十人の妖魔の主


ウーマー   妖魔一位(抽腸獄 月光の)宰相の配下

コスタ  妖魔二位(穿肋獄 ミトラの)死者を甦らす

ハスタ    妖魔三位(針山獄 一角獣の)ホーネスの宿敵

アエヌス   妖魔四位(焼手足獄 セルヌノスの)ローサ陣営の妖魔

ラング    妖魔五位(抜舌獄 魚色の)大蛇に乗る

ベネノ    妖魔六位(毒蛇獄 美粧蓮歩の)女性、二匹の獣を連れる

カーサー   妖魔七位(鋸解獄 紅蓮刀の)巨像に乗る

カスピス   妖魔八位(尖剪獄 ヒュブリスの)

グラッシス  妖魔九位(寒氷獄 黒海馬の)怪鳥に乗る

ベナ     妖魔十位(血汚獄 サキュバスの)意馬心猿の術使い

 冥王城がナティビタスの魔法城に横付けしたとき、城全体に軽い衝撃を与えたので、王宮にいるグレーティア達も、冥王が城内に入ったのだと感じました。

ナティビタスの上空は黒く塗りつぶされ、闇の霧が広がっていました。壁に点された灯も、近場しか照らすことがでず、そこに冷気がどこからか流れ込んできました。

「羽根が戻ってきました」

グレーティアは舞い降りた羽根を手に受け取ると、悲しい顔をしました。

「それは、ホーネスのものじゃないか」

ソシウスが声を上げると、メディカス老師も目を向けました。

「どうやら、あの戦士も旅立ったか」

老師は、感慨の言葉を発しました。

「ホーネスが殺されるだなんて、彼は俺たちで一番の強さを誇ったはずじゃ。だったら、誘い込んで全員で叩くべきだったかもしれない」

「そうだとしても、儂たち同様、冥王には妖魔がいる。容易には冥王を倒せなかったであろう。しかし儂は少し楽観見しておるよ」

「老師、冗談じゃないですよ。相手は冥王ですよ。すでに我々はストレニウスにホーネスを失っている。楽観だなんて」

すると、老師は漆黒の闇が広がる大空を指さしました。ソシウスは訝り空を見上げました。

空は真っ黒でしたが、そのなかに燦然と輝く六つの星を見つけたのでした。

「あれがヘプタト、次にヘクサド、ペンダト、テトラド、トリアドの星。そして今し方ドゥアドが登った」

「何故、あの星ばかりが空にあるのだろう。しかも、目映いばかりの光を放っている」

「これらの星は、あなた方が旅を始めた頃から、少しずつ天空に登って行った。覚えているかな?」

「言われれば、輝いていたような・・・」

地上の怪物ばかりに目の行っていたソシウスにとって、空の変化は興味のないものでした。

「かつて儂は、別の宗教の僧侶から聴いたことがあるのじゃ。これらの星は神々の星。天空から私たちを見守ってくれていると。炎王の時代にも天空に現れたというのじゃ」

「俺たちの戦いに関係があるのですか」

「関係は分からぬが。神々の星は全部で七つあるそうだ」

「七つ?今ので六つですが」

「未だ最後の星モナドが集まっていない。この戦いがここで終わらないということじゃよ」

その言葉にソシウスの顔が明るくなりました。

「なら俺たちに勝機はあるというわけだ」

「そうだ。グレーティアの兄弟子のグノーが来たら渡してほしいものがある」

メディカス老師は懐からクリスタルを取り出しました。

「あんたが直接渡せば良いではないですか」

「儂は生き残れないだろう」

「だったら、俺も同じだ」

老師は首を振りました。

「ソシウス、胸に付けているものはなにかな?」

「それは・・・」

ソシウスは口ごもりました。

「それは、先の戦いでカドモスが身につけていたものじゃ。そなたは十将の内特別なのじゃよ。そして最後の星モナドを見るのじゃ」

そういうと、老師はソシウスにクリスタルを手渡しました。

ソシウスが浮け取るやいなや、強力な魔法が三人を襲い、王宮の部屋を吹き飛ばしました。

禁断魔法ラッペーソが放されたのでした。

しかし、その技はメディカスの防御魔法によって防がれたのでした。

「俺の渾身の一撃を防ぐとは、たいした坊主だ。三人とともと欲張ったのが不味かったのかな。ワルコのみを狙えばよかった」

拍手しながら、建物の陰から現れたのは、妖魔第八位、尖剪刀獄、ヒュブリスのカスピスでした。

怒ったソシウスは、一気に飛び込み、カスピスにバトルアックスを振り抜いたのでした。

旋風の動きにカスピスは対応し、ことごとく交わすと、魔法の技で攻撃を仕掛けてきました。ソシウスは、逆にそれより早く右に左に動くと、カスピスを追い詰めたのでした。

「貴様の動きは人間とは思えないな」

そういうとカスピスは薄ら笑いをしました。

ソシウスは何かあるなと、周囲を見渡しましたが、なにもありません。しかし異様な倦怠感が彼を襲ってきたのでした。

「体が重い。まるで鉛を下げているようだ」

ソシウスの息が次第に荒くなってきました。

「妖魔の精神攻撃じゃ。意識をしっかりと保て。術中にはまるな!」

老師が声を掛けると、ソシウスは意識を統一し、精神攻撃をはじき返しました。そうして、大斧を全力で振り回し、カスピスに迫ってきたのでした。

竜巻のように、動き回るソシウスに、侮り難いと感じたカスピスは退却を考えたとき、別の妖魔が現れたのでした。

彼はソシウスの背後から、攻撃を仕掛けてきました。ソシウスは殺気がしたので、飛び跳ねて避け、背後を確かめると妖魔が立っていました。

妖魔第九位、寒氷獄、黒海馬のグラッシスでした。

「建物が破壊される音がしたので来てみれば、露払いどころか撃退されてるんじゃないのか」

序列が一つ下なのに不満があったグラッシスは、カスピスが苦戦しているのを見て、愉快そうにしました。

「五月蝿い。こいつを侮ると痛い目に遭うぞ」

「仕方ないな。手伝うとするか」

妖魔は二人係でソシウスを襲いかかりました。それに気がついてメディカスは救援に向かおうとしましたが、彼は押しとどめました。

「老師、ここは俺一人でくい止めます。相棒を冥王から守ってください」

メディカスは頷くと、グレーティアの手を取ると、王宮の奧に消えたのでした。

残ったソシウスは、胸のバッチの力を借りて、仕留めることにしました。二人を生かしておけば、バッチの秘密も知られることになります。

ソシウスがグラッシスに襲いかかろうとすると、カスピスが背後に回って彼を脅かします。

ソシウスの斧の回転が収まった瞬間をねらって、カスピスが襲いかかりました。

しかし、カスピスの攻撃は寸前で阻止されました。誰かが邪魔をしたのです。

建物の陰から姿を現したのは攻撃魔法使い手でした。

「お前はエコー。ヘテロ国に帰ったのではないのか?」

戦場に新たな者が現れて、妖魔と思いきやかつての仲間であったので、ソシウスは安堵しました。

「冥王軍が攻めてきたとの報を受け、宰相閣下がワルコ達の戦いに邪魔が入らないように、命じられたのです」

「ん?そうか」

言葉の意味が良く理解できなかったのですが、ソシウスはエコーが味方になってくれるので、頼もしく感じました。

彼が旋風のごとく走り抜けると。エコーは背後を魔法で守りました。

こうして妖魔とワルコの将の戦いは膠着状態となったのでした。


 逃げながらレピダスは、冥王の攻略法を考えていました。過去の歴史からワルコの剣グラディウスが唯一の方法である事は分かっていました。

他に考えられるとするれば、魔法城の転送機能を使って、冥王を郊外に送り出した後、城の主砲をもって、叩くということでした。

冥王が黙って転送されるとも思えませんでした。何らかの方法で意識を向かせ、油断したところを外に放逐するしかありませんでした。

しかし、あのホーネスをもってしても、歯が立ちませんでした。あの巨人とも言う大男に相対するには、何らかの魔法の力に守られた大きなものが必要だ。そう考えたとき、レピダスは閃いたのでした。

王宮の宝物殿になにかあるに違いない。彼は全速力で宝物殿に向かうと、制御室にいるアミコスに語りかけてのでした。

「一部始終はそちらの画像で分かっていると思うが、俺は冥王を外に転送し、主砲の全門攻撃をするつもりだ。冥王と相対するために魔法具が必要だ。ミュージカの魔法具の在処は分かるか?」

「分かった。調べてみよう」

アミコスが竪琴で探査すると、宝物殿の隠し扉の向こうにそれは、格納されていました。

レピダスはミュージカの遺産を前に、立っていました。

「前大戦の異物ばかりだが、それから多少改造が加えられている。ありがたいことに千年の時を感じさせないほど、保存状態が良い。直ぐに使えるだろう」

「この大きな乗り物は何だ?」

「ミュージカが”亀さん”と名付けた戦車だ。そしてその隣にあるのが”射的くん”で機械の乗り物に砲を積んだもの」

「ネーミングがなあ」

「この魔法城も本当の名は”お菓子の家”だ」

「まあいい。この大きい乗り物は市街地では動けない。冥王は王宮に近づいているので、もう少し小ぶりでないと」

そういったレビダスは、人型の大きいな乗り物を目にしたのでした。

「これはなんだ?」

「”熊さん”だな。人型戦車と言ったところか。関節部分が弱そうに見えるが、魔法防御が堅い。加えて、手があるので、多種多様な武器を装備できる」

レピダスは気に入りました。

「右隣にあるのが”バターナイフ”と呼ばれる魔法の剣に、左隣のものが”クッキー”という名の魔法の盾だ。背中に小型の”燕さん”を装着すれば良い。そいつは空を飛んで敵を何処まで追っかけ爆発するしろものだ」

「この熊さんは、冥王の塩化攻撃は防げると思うか?」

「この城全体も抗塩化魔法がかかっているが、ホーネスの最期を見る限り、冥王本体の近くは力不足だ。ただし、熊さんの防御力が加算されるとすると、防ぐことは可能かもしれない」

「石化はどうか?」

「未知数だ」

しばし、レピダスは思案して、熊さんを使った作戦を決行することにしました。

ただし、”熊さん”の名称を”アトラス”と改名して。


 妖魔から逃れたグレーティアとメディカスは、王宮の中庭まで逃れて来ました。暗闇の中、花咲き乱れる庭園の姿はなく、静まりかえった庭があるだけでした。

二人は手探りで逃れる道を探していましたが、そこに女性の歌声が聞こえて来るではないですか。二人怪しみ近づいてみると、女の妖魔がこちらに微笑んでいました。

「いけませんよ、逃げてばかりでは。冥王に逢って頂かなくては」

そこに居たのは、妖魔第十位、地汚池獄、サキュバスのベナでした。

攻撃するでも無く、優しく語りかける妖魔に、異様なものを感じました。

「冥王が話し合いをしようとでも」

グレーティアは尋ねました。

「それは分からないわ。でも私は貴方が冥王と向かい合うことを望んでいるわ」

「一対一の戦いを望みと?」

「そう、だからお坊さんは邪魔なの」

そう言うやいなや、ベナは攻撃を仕掛けてきました。メディカスは咄嗟に防御魔法を繰り出し、防ぎました。

「やだ。防がれちゃった。昔から、愛の妖魔は坊さんと相性が悪いのよね」

「グレーティア。この妖魔は儂が相手をする。ここは逃れなさい」

「しかし、逃げてばかりは」

「今は逃れなさい」

彼女は仕方なく、老師の指示に従いその場を後にしました。

「さて、私はこんどこそ僧侶を落としてみせるわ。おすまし顔の奥深くには絶対愛欲が渦巻いているに違いないわ」

ベナは渾身の愛欲による精神攻撃を、メディカスに仕掛けてきました。しかし老師はそれに動じること無く、清らかな心のままでした。

「駄目だ−。プライド傷つく。きっと老人だから性欲もないのね」

可笑しな妖魔だと、メディカスは苦笑しました。

「あんた、こんなところで何しているの?」

声を掛けてきたのは、別の女妖魔。第六位のベネノでした。

ベナは顔を背けると知らんぷりをしました。

メディカスは、妖魔がまた一人増えたので、様子を見守りました。

「あんた聴いてるの!ウーマーは激怒してるわよ。どこを遊んでいたのさ。今、ワルコとの戦いの真っ最中なんだから。分かっているの。それからアエヌスも行方不明なんだけど知らない?」

「知っていても。知らない」

「何が不満だっての。私が嫌いだとでも!」

「大い嫌いです。何かというと上から目線だし。だいたいあんたの愛憎なんて偽物じゃない。そこに愛があるの?」

「そうだったわね。私たちは愛を語る妖魔同士。まったく意見が噛み合わなかったわよね。でもね愛憎の愛は偉大なの、二つが絡み合って世界は動くの」

「違いまーす。愛は肉欲の愛だわ。男女が引かれあって、家庭を作り、社会を作るの。そんな抽象的なものではないわ」

「あんたのは単なるセックス好きだわ。私のは離合集散の原理なの分かる?」

「頭痛くなるのよ。あんたの。男女が居る、愛がある。これが全てでしょう」

「この馬鹿!」

ベネノがベナのほっぺたを叩くと、ベナはお冠。お返しの渾身の平手打ちを返したのでした。こうなると、ベネノも黙っていられません。勝手に遊びほうけていたベナ制裁を加えなくてはと、拳骨で頭を叩きました。ベナはますます怒って、拳でベネノの胸を打つと、二人は殴り合い、終いにはとっくみあいになってしまいました。

中庭には魔法が飛び交い、庭園を破壊してしまいました。

この様子を見ていたメディカスは妖魔の喧嘩に呆れ、グレーティアの後を追いかけたのでした。


「今、アトラスの内部に入った。こいつに命を吹き込んでくれ」

熊さんの操縦席に就いたレビダスは、制御室のアミコスに語りかけました。

「魔法城の動力部から、それに力を注入する。動くようになるには、そう時間がかからないはずだ」

「操作盤が多く、どう動かしたら良いか皆目見当がつかない」

運転席の周囲を見渡していた、レピダスが困惑した様子で言いました。

「それらは全て予備操作盤だ。アトラスは思考を受信しながら、変換し、自動で動くのが基本だ。それらの装置は、思考とのリンクが切れた場合の非常措置のためにあるようだ」「それで安心した」

レピダスは、右手を動かそうと考えると、呼応するようにアトラスの腕が動き始めました。だいたいの感じをつかめたレピダスは魔法の盾と剣を装備すると、宝物庫から出撃したのでした。

「アミコス殿、今回の作戦は、冥王に考える暇も無く一気呵成にしなくてはならない。先ず、主砲の全門の照準をセットし、直ぐにその地点に冥王を転送できるようにしてください。私を転送にて、冥王の眼前に送り出し、そのあと直ぐに冥王をその地点に転送するのです。その間に少しでも時間の余裕があってはいけません」

「分かった。しかし、冥王を転送するさい、貴方も巻き込まれれる可能性がある」

「その時は、かまわず飛ばしてください」

「覚悟のほど分かったが、そのまま冥王を転送しては駄目なのか?」

「魔法城の転送など冥王は簡単に破ってしまうでしょう。簡単な手に引っかけるには考える時間を与えないことです。私は冥王の前に現れたら、魔法の剣で攻撃します。冥王はその攻撃に気をとられるでしょう。そのときがチャンスです」

レビダスの捨て身に、アミコスはそれ以上返す言葉を見つけられずに、従うことにしました。

 レピダスは、アトラスの中で転送を待ちました。次の瞬間に冥王の前にあるでしょう。現れ出ると共に冥王に剣を振り降ろすつもりです。

やがて、アトラスの機体が揺れたと思った瞬間、眼前に冥王の姿がありました。レピダスは大きく振りかぶった剣を機体の全体重をのせて振り落としました。読み通りに冥王の手が伸び、空中で剣を防いだのでした。

冥王の意識は剣に注がれ、まもなくジャンプが始まると期待したレピダスは、押し負けしにように、踏ん張りました。

しかし、何事もなく時が過ぎ、これ以上剣で押し続けるのは不可能と悟ったレピダスは、盾を取り出し、防御態勢を整えたのでした。

冥王の近くに控えていた、妖魔ウーマーが攻撃を仕掛けて来て、レピダスは盾で防御をしました。

「アミコスどうした。なにかあったか!」

レピダスの問いかけに、制御室からの返答は無く、なにかあったのだと彼は察しました。

このまま、冥王を仕留めるしかないと思ったレピダスは、アトラスの機動力を生かして、背後から襲うことにしたのでした。

アトラスの足にローラがせり出し、床を高速で動き回れるようになりました。レピダスはアトラスを高速で横に滑らせ、攻撃を絞らせないよう動き回りました。

妖魔のウーマーも機体をおっかけましたが、後手に回り、攻撃も空回りしました。そうする内に、冥王の背後に回り込めたレピダスは、一気に背後から冥王に剣を突き出したのでした。しかし、剣は何かの圧力に止められ傷一つ負わせることは出来ませんでした。

それと同時にアトラスの一部が塩化を始めたので、これ以上の戦闘は不可能と感じたレピダスは離脱することを選択しました。

彼が一気に退却すると、ウーマーは怒り後を追いかけましたが、背中に装着していた、自動追尾の”燕さん”を放すと、妖魔はそれに背後を脅かされ、レピダスを取り逃がしてしまいました。


 さて、制御室ではアミコスがレピダスを転送したあと、一気に冥王を城外の地点に送り込もうとしていたのですが、それを邪魔した者がありました。

竪琴を制されて、その手のをたどって、見上げると、見知らぬ男が立っていました。

「なにをする!」

アミコスは怒って、その手を払い再び竪琴を構えようしましたが、男は手に変えて剣を首元に置いたのでした。

「デュックなにをする。剣を収めろ」

叫んだのはドクトリでした。

「それは出来ない。今冥王を転送するわけにはいかないんだ」

ドクトリの知り合いなのか?アミコスは男を見つめました。

「邪魔をするのか。味方の足を引っ張ってどうする」

「俺は、お前達の仲間でない。アスペルの死によって繋がりは断ち切られた」

「では何だというのだ。冥王がそこにいるのだぞ」

怒りをドクトリはぶちまけました。

「この冥王とワルコの戦いに終止符を打つのさ。この二人が争わなければアスペルも死ぬことは無かった」

「ワルコの勝利なくして、地上の平和はないのだぞ」

「どうかな」

デュックは冷淡でした。

「デュックそれでは亡くなったアスペルが悲しむぞ。彼女はこの計画を成就させたがっただろう。何故障害となる」

「なにもわからん爺が。貴様等は亡者のビルトスに付き従っているだけだ。意味も無く戦い合っているではないか。パテリア国宰相は正しかったのだよ。全ての災いはワルコ。こいつが居なければ平和なんだよ」

「違う、ワルコこそ最後の希望なんじゃ」

ドクトリはデュックに掴みかかろうとしましたが、彼は蹴飛ばされ床に転がりました。

ドクトリが腹を押さえ立ち上がると、そこに立っていたのは妖魔でした。

「妖魔だと。デュックお主、冥王に付いたのか?」

驚いて、ドクトリは目を丸くしました。

「こいつは妖魔だが。冥王配下ではない。俺の同士だ」

「何を言っているんだ。どうかしてるぞ」

「デュックこいつは五月蝿いな。始末していいか?」

ドクトリの前に立つ妖魔は、妖魔第三位、焼手足獄、セルヌスのアエヌスでした。

「まあ待て。まだ使い道がある。制御室の異変に気がつきレピダスがやってくるその時の人質になる」

「面倒だな。来るなら始末するだけのこと」

デュックはそれにかまわず、アミコスに話しかけました。

「俺たちは、あんた達に害を加えるつもりはない。ちょっと手伝いをして欲しいだけだ。協力してくれるな」

「何をしろと」

「冥王とワルコの二人をここに送って欲しい。後は我々が始末する」

指し示された場所を見て、アミコスは意外そうな顔をしました。

「何故、ここへ?」

「彼奴等の生まれ故郷だ。俺たちはその地で、この戦いに終止符を打つ」


 作戦が失敗したレピダスは、制御室に異変が発生したので、救援に向かおうとしましたが、王宮内で妖魔と将の戦いが続行中で、建物が破壊されていく姿を見て、グレーティアが襲われては不味いと、そちらを優先しました。

宮殿内をアトラスで高速移動していたレピダスは、宮殿内を逃れているグレーティアとメディカス老師と出会ったのでした。

「老師ご無事でしたか」

アトラスから姿を現すと、レピダスは挨拶をしました。

「その乗り物は?」

「ミュージカの遺産です」

老師は納得した様子でした。

「すまんが、妖魔の女同士の内輪もめが終わったようじゃ。グレーティアを連れて逃げてくれぬか」

霧の向こうから、追いかけてくる妖魔の姿がありました。

「老師私が相手をしましょう」

レピダスが降りようとしましたが、老師は止めました。

「あの妖魔は私がよかろう」

そういうと老師は、グレーティアをアトラスに同乗させると、語りかけたのでした。

「グレーティア。人は人生の目的を与えられたものとして、捉えたがる。どうして生まれてきたのか、どこに行こうとしてるのか。しかし、その答えはもたらされることはない。人生で迷う、ということは選択肢があるということじゃ。人生には無数の選択が有り、無数の道がある。故に迷う。だから人間は自由なのじゃ。自らが自らの意思によって決着を付けなければならない。この戦いを貴女の手で終わらせるもよく、継続するも良し。全てが己の思いのままじゃ。その聖剣グラディウスを携えて、己が道を選ぶのじゃ」

老師はアトラス見送ると、妖魔を待ち受けたのでした。

「もう一人の妖魔はどうしたのかの」

老師が尋ねると、妖魔ベネノは不機嫌そうに、答えました。

「あんなのどうでもいいわよ」

「どうやら、痛み分けのようじゃな」

図星だったベネノは、老師を睨み付けました。

「私て坊主で大嫌いなの」

「嫌われた者じゃの」

老師はベナに続いてベネノにも嫌われたので愉快になりました。

ベネノの目が妖しく光ると、老師の前に人の姿が現れました。それはかつてメディカスが出会った者達でした。

一番最初に現れたのは、かつての家族でした。

若き日、メディカスは家庭をもっていましたが、人生について悩み、妻子を捨て僧門にはいったのでした。夜逃げ同様に家を離れ、家族に迷惑を掛けていたのです。その忘れていた心残りが姿として表に現れたのです。妻と子供は恨めしそうに彼を見つめていました。

修行を重ねた老師だとしても、家族の絆は断ち切りがたく、煩悩として残って居たのです。

しかし、老師はその炎を吹き消し、いかなる現象にも心惹かれないように精神を統一したのでした。

すると、家族の姿は消え、今度はビルトスが登場したのでした。

ビルトスは赤ん坊を抱え、老師にこの子を頼みますと、必死に訴えかけていました。赤ん坊は後のグレーティアであることは分かりました。かつての記憶が蘇り、ビルトスがいかに赤ん坊を大切にしていたか、痛いほど分かりました。

しかし、この感情も捕らわれによるものと切り捨てたのでした。

「本当に、坊主て血も涙もない連中なのね。もっと感情に震えなさいよ」

術が効かなかったことに、ベネノはため息をつき、いらつきました。

「妖魔よ。僧侶は日々心の修行を行っているのじゃ。愛憎の沼に陥ることはないのじゃ」

涼やかに答える老師に、ベネノじゃ苛立ちました。

「なんなのよ坊主て。偽善者の集まりじゃない。もっと本能に素直になりなさいよ。人間らしくないじゃないの。まるで枯れた草木だわ」

ベネノは不満をぶちまけます。

「妖魔よ。そなたの姿はなにものかの陰に過ぎない。その陰の発生する元を見るが良い。さすればその苛立ちも収まるであろう」

「もう何を言っているのか分からない。面倒な心理操作はやめだわ。今度は力ずくで排除してみせるわ」

妖魔は魔法を繰り出し、老師を倒そうとします。

しかし、老師も防御魔法を繰り出し、彼女の技は防がれ、ビルトスの回りを渦巻いただけでした。

老師の強力な防御魔法の前に、ベネノはなす術がありませんでした。地団駄踏んだ彼女は禁断魔法で仕留めることにしました。

「止めるのじゃ。その術は自らを滅ぼす」

老師は忠告しましたが、ベネノはお構いなしに禁断魔法リンペラトリーチェを繰り出したのでした。仕方なくメディカスは防御魔法に禁断魔法イル・モンドを同時発動させました。黄金の曼荼羅が広がり、ベネノのリンペラトリーチェは防御魔法の罠にかかり、金剛の世界に取り込まれてしまいました。ベネノの姿は、曼荼羅の中で姿を消しました。

辺りに静寂が戻ると、ビルトスはベネノの為に祈ったのでした。


 冥王に従い王宮の、門前に至ったウーマーは逃げ回るワルコとその将に憤慨してました。特に自分を射た男と、冥王をいきなり襲った人物に、それ相応のお返しをしなければ気が済みませんでした。

配下の妖魔を、広い魔法城内に探査を放しましたが、その後の連絡も途絶え、ワルコの所在を掴めずにいました。どこかでワルコノの将と交戦をしているのは、確かで、建物の破壊音でわかりました。

ウーマーは冥王の懐に簡単に入られたことを反省し、冥王城の守備のために残してきた、妖魔第五位の漁色のラングを呼ぶかで悩んでいました。

すると、王宮の建物の陰から滑るように、人型の機械が飛び出してきたので、意識をそちらに向けました。

見覚えにある機体でした。冥王様に剣を振り、逃げ去った乗り物でした。

咄嗟に、ウーマーは飛び出し、迎え撃とうとしましたが、冥王が撃退しようとしていたので、止めました。妖魔だったとしても冥王の攻撃は脅威で、前にいるのは危険だったからです。

アトラスは全速力で、冥王に迫り、冥王を仕留めるつもりでしたが、前回と違い、移動の時間があったので、近づくまでが困難を極めました。

早速、冥王の塩化攻撃は始まり、魔法の盾で防ぎながら近づいて見たもの、やっと冥王にどり着いた頃には、魔法の盾は腐食され穴だらけになっていました。

「グレーティア。俺がアトラスの剣で冥王を攻撃したら、間髪を入れず聖剣グラディウスでやつを突き刺せ」

レピダスの合図とともに、アトラスは突進の勢いそのままに、魔法の剣を冥王の腹めがけて突き出したのでした。そして、アトラスの突進の勢いをもってグレーティアは飛び出すと、冥王の額めがけて聖剣をふり下ろしたのでした。

この攻撃は一瞬の物でしたが、二つの攻撃は同時に防がれたのでした。

グレーティアの一撃は、冥王に手によって防がれ、アトラスの攻撃は妖魔ウーマーの禁断魔法イル・パーパによって防がれたのでした。魔法の剣は禁断魔法によって粉々に砕かれてしまいました。

失敗を悟ったレピダスは、そのままアトラスを冥王に組み付かせ、釘付けにすると、グレーティアに冥王の首を狙わせました。しかし、妖魔ウーマーがアトラスに狙いを定め、再び禁断魔法でアトラスに攻撃をしかけようとしているのが分かったので、グレーティアは剣先を禁断魔法に向けて攻撃を放ったのでした。

聖剣の威力は高く、禁断魔法とて勝てず、妖魔ウーマーもその威力に吹き飛ばされ、気を失ったのでした。

 冥王暗殺の二度のチャンスを失ったレピダスは、組み付いていた冥王の体を解放すると、グレーティアをアトラスの背に乗せ、冥王の回りを高速で回り始めました。

冥王の隙を狙うつもりでしたが、彼らを襲って来る二つの禁断魔法が、冥王から放されました。一つはストレニウスのイル・カッロ、もう一つはホーネスのラ・ジュスティッツアでした。戦車が空を翔け、天秤が迫ってきました。

「何故、彼奴等の術が冥王は使えるのだ」

迫り来る脅威に、レピダスは冷や汗をかきました。

すると、アトラスの背に乗っていたグレーティアが聖剣を振り抜くと、二つの魔法は跡形も無く消し飛んだのでした。

「これなら、仕留められる」と感じたレピダスは高速で冥王の背後に回り込み、グレーティアを送り出しました。

 しかし、飛んだ彼女は空間で釘付けにされ、動けなくなりました。冥王は振り返るとグレーティアを掴むと、胸に押しつけようしました。

「冥王は何をしているのだ」

レピダスは冥王の奇行に、怪しみました。

すると、グレーティアは必死に腕で抵抗し、その腕が冥王の体と一体化している様子を見て、レピダスは状況を理解しました。

「こいつ、グレーティアを食っているな」

このままでは完全に吸収されてしまうと感じたレピダスは、慌ててアトラスを動かそうとしましたが、叶いませんでした。冥王の塩化の攻撃にさらされた機体は、限界に達したのでした。

レピダスが捨て身の、救出を試みようとした瞬間、冥王と彼女の間に入ってくる存在がありました。

「老師!」

メディカス老師は防御魔法でグレーティアを包み、彼女が捕食されるのを防いだのでした。

そして、塩化の攻撃を受けた老師は、塩として砕け散ったのでした。

老師最期最大の魔法防御でした。

そして、持ち直した彼女は、再び聖剣を掴むと、精神を統一し喉めがけて突き刺したのでした。


 彼女が剣を突き刺した瞬間、異変は起きました。ワルコと冥王を包み込むように、網状の光るものが囲むと、冥王とグレーティアは忽然と姿を消したのでした。レピダスは対象物が消えたことに驚き、周囲を見渡しましたがどこに二人の姿はありませんでした。

まさか、自分の命じた転送作戦が、今行われたのであろうかと推測もしましたが、郊外で魔法城の砲撃が行われた様子も無く、それはなさそうでした。

戦いの結果両者消滅し、世界に平和が訪れたのだろうか。レピダスは自問自答して、別世界で両者は戦っている可能性もあるなと思索しました。

すると、魔法城の上空の闇が溶け始め、次第に明るくなって来ていました。

ここにすでに冥王は居ないとレピダスは確信しました。

 すると、瓦礫の中から聖剣の風圧を受け気を失っていたウーマーが意識を取り戻し、立ち上がって来ました。妖魔が回復しては不味いと感じたレピダスは、弓を取り出すと、三本の矢でウーマーの体を貫いたのでした。

「あの機械を操って居た奴と、矢の男は同一人物であったか」

ウーマーは毒の塗られた矢を胸に挿したまま、恨めしそうにしています。そして主であれる冥王を探し始めました。

「お前たちの主は消えた。何処かにな」

「なに。何処にやった」

ウーマーは睨み付けました。

「知らぬ。ともかくお前達の地上支配は失敗した」

「どうやら、今回はそのようだな。だが冥王様は生きておられるようだ」

空を見上げ、状況を理解したウーマーは、そう言うとレピダスの前から姿を消したのでした。

 一段落したレピダスは、制御室のアミコスやドクトリが気になって行ってみると、制御室は血まみれでした。

床にはドクトリが横たわり、アミコスも怪我をしています。

レピダスは驚きドクトリに近づいてみると息は無く、腹に大きな穴が開いていました。

アミコスは背中に傷を負っているものの、間に合いそうでした。

「アミコス殿、気を確かに、今止血します」

「謝らなくてはならない。私は貴方たちのワルコと冥王を転送させてしまった」

「どう言うことなのです?」

苦痛をこらえながら、アミコスは話を続けました。

「打ち合わせ通りに、転送の準備をして待ち構えていたところ、あいつらが侵入してきたのだ」

「あいつらとは妖魔ですか?」

「それがなんというか、一人は妖魔だったのだが、もう一人はドクトリの知り合いのデュックという人物だったようだ」

「デュックなのですか!」

「その人物が、転送を阻止したのだ」

「分からぬ。何故」

「奴らは、あなたと同じ事を考えていた。冥王とワルコを何処かに転送しようとしていた」

「デュックは昔我々の仲間だった人物です。此所の場所が分かったのも当然のことです。しかし、何故そのようなことを」

「ドクトリは密かに私に近づき、転送で二人を外に放逐しようと提案し、私も賛同した。彼らが気を抜いた瞬間、転送しようとしたが、妖魔の方が気がついて、ドクトリを殺してしまった。私は怖くなって実行を止めたが、彼らの怒りは収まらず。ワルコと冥王の転送の際は脅されて仕方なくすることとなった。まことに申し訳ない」

「謝ることはありません。そうしなければ貴方は殺されていた。それで冥王とワルコは何処に転送したのです?」

「それが、訳が分からないのだが、ここだ」

アミコスが指し示した先は、ヘテロ国の王都ターバスでした。


 王宮でエコーと共に妖魔二人と戦っていたソシウスは、戦いが長引き焦っていました。老師達が心配でしたし、レピダスとも合流できていませんでした。

しかし、暗闇が解けていったのに気がつくと、冥王が敗退したのではと思ったのでした。

敵の二人の妖魔も異変に気がつき、戦いを止めるとその場を去ってしまったのでした。

「俺たちは勝利したのか?」

ソシウスはやれやれと腰を下ろすと、疲れた様子でした。

エコーは隣で誰かを待ち受けているようで、ソシウスはかまわず体を休めていました。

程なくして見覚えのある姿が、現れたのでした。

「デュックじゃないか」

と声を掛けようとした瞬間、その隣の男が妖魔だったので、アスペルの件を思い出しました。さらに女妖魔ベナが集まって、その集まりにエコーが交わっていたので、ソシウスは目を丸くしました。

「どう言うことなんだ。冥王の僕とワルコの将が仲良くしてるだなんて、なにかあったのか?」

ソシウスはエコーに尋ねました。

「我々はヘテロ国宰相ホスティス様に仕える者達です。宰相閣下は新しい魔法の世界をお創りになるのです」

「ワルコと冥王の戦いはどうなったんだ。なにか知っているんだろう」

「その戦いは永遠に終息しました。地上を巡る両者の戦いはないでしょう」

「まて、相棒は元気なんだろうな」

「残念ながら、ワルコには永遠の眠りに入ってもらいます」

 そう言うと四人はソシウスの前から、姿を消したのでした。


 ソシウスはグレーティアの行方を捜し、制御室に着きました。部屋では床の血が拭き取られている最中でした。

「ドクトリ、老師、ホーネスが亡くなった 」

レピダスが言うと、

「それとストレニウスか」

ソシウスが、寂しそうにいいました。

「どうやら、グレーティアはヘテロ国に攫われたらしい」

「わかっている。宰相の部下がこの城にごまんと居た」

「デュックと逢ったのか?」

「ああ」

そういった瞬間、魔法城に軽い振動が走りました。

「城に接岸していた冥王城が動き始めた。北に発生させた冥界の門を目指しているようだ」

アミコスは画面をのぞき込みました。

「冥王の行き先が分かっているのか?」

「あいつらのことだ、追尾はしているさ。それよりグレーティアの救援だが。不味いことが起こった」

「どんな?」

「転送の制御装置を壊わされた」

驚いて、ソシウスが歩み寄ってみると、計器の一角が破壊されていました。

「あいつら、時を稼ぐつもりだな」

ソシウスは憤慨しました。

「修理に一週間はかかる」

アミコスは”伝説の番頭さん”を壊されしょげていました。

「普通に旅をして1ヶ月はかかる。これは待つしか無いか」

ソシウスは呟いたものの、バッジのことを思い起こしました。

「レピダス俺は相棒のことが心配だ。すまんが、抜け駆けさせてもらう」

言われてレピダスは、救出劇のことを思い出しました。

「お前には、不思議な力があったなあ」

 ソシウスは制御室を飛び出すと、バッチの力を解放しました。一気にジャンプすると、体は宙を飛び、ヘテロ国に着地したのでした。

平原に着地したソシウスは、初めて見る異国の地に興味津々で、辺りを見渡します。

その地では遊牧が営まれているのか、草を食む牛の姿がありました。

また一つ飛ぶと、農耕地に降りました。麦の耕作地が広がり、農道を馬車で揺られていく農民の姿が見られました。

町らしきものを探すと、その方向に飛ぶと。大きな都市に出くわしたのでした。

ヘテロ国の王都ターバスでした。

「こんな、大都にグレーティアと冥王は転送されたのか?」

賑やかな都だったので、ソシウスは怪しみました。

古都ナティビタスに勝るとも劣らない町でした。人通りも多く、品々で溢れていました。

ソシウスは自分が敵地に乗り込んでいるのも忘れ、街をを楽しんでいました。

しばらく歩いていると、奇妙なものに気がつきました。街の一角が妙に新しいのです。建物だけでなく城壁も白く輝いてます。大工が家を造っているようすが見受けられ、この一帯だけがそうなのです。何か事件でもあったのだろうかと、ソシウスが首を傾げ中心に向けて歩き続けました。

ほどなく、王城に到着したのでしたが、警備は厳重でした。

警備兵を横目に、この中にいるのか不明だし、どうしたものかと思案中でした。

潜入とかはストレニウスが得意でしたが、今は居ません。

彼が悩んでいると、街の住人が世間話をしているのが、聞こえてきました。

「パテリア国では南の反乱軍は鎮圧されたらしい。残るは北の反乱軍てところだ」

二人の男が広場で、将棋に興じていました。

「その他にも、東の反乱もあるがな。しかし北は古都だけで満足してるから、パテリアも安泰という訳か。出来損ないの皇子は実はやり手だったようだな」

ナティビタスの情勢は、ヘテロの住人まで正確に知られているようすでした。

「その皇子だが、北の反乱軍の姫君にぞっこんらしい。どうやって落とすか見物だな」

「北では、パテリア軍は痛い目をあったそうじゃないか。振られちゃだめだろう」

「馬鹿野郎、嫌がる女を落としてこそ男てもんだろうが」

男は、愉快そうに駒を撃ちました。

「ところで、地震があったのは気がついたか?」

「ああ、そのとき俺は、酒代ほしさに金をくすねていたら、かかあに怒られた」

「またか。まあ、賭将棋の好きな俺も同じみたいなもんだがな」

「あの地震のおかげで難を逃れることができた。地震さまさまだね」

「そんなのんきな事を言って、あの地震は社殿の地下からしてきた、なにかあるぜ」

「そうだな。直ぐに止んだが。ここじゃ地震は珍しい。なにかあるな」

「あの神社は、何の神を祭っているんだっけ」

「なんか偉い神みたいだが、なんでも、あの神社の所に天から降り立ったのだとか」

「なんか思い出した。あそこの神主が、この神社は最古の神社と自慢していた。始まりの神社とか」

「手前味噌だねえ」

男は大笑いました。

男達の何気ない話を聴いたソシウスは、天の囁きにも聞こえました。

彼は、グレーティアは神社に捕らわれていると閃いたのでした。

王宮でなければ、俺でも潜入は可能だと彼は思い、神社を目指したのでした。


 王都ターバスを遠くに見る丘の上に、妖魔達は居ました。

「こんな所に冥王様は本当にいるのか?」

妖魔カスピスはウーマーに尋ねました。

「ワルコの城から、ここまでゆがみの後が残っていた。間違いない」

「敵はワルコの僕ではないのか?」

と妖魔グラッシス。

「未だ、正体不明だ。冥王様を攫うなど、大胆不敵。侮っては危険だ。ある意味ワルコ共より始末が悪いかも知れない」

「いずれにせよ、地上支配の邪魔になるのは同じ、ここで始末するとしよう」

妖魔ラングが言いました。

「カスピス、グラッシス。冥王様の在処を探すのだ。そして敵の情報も手に入れてこい」

ウーマーが命じると、二人は足早に、冥王城から立ったのでした。




 登場人物の名前に関しては、この翡翠記はかなりいい加減だ。

たとえば、ワルコの十将と妖魔十鬼については、元ネタが「ダーククリスタル」から拝借したものだ。光と影それぞれの名前を付ける際、ワルコの十将については、神的属性を表すため中国の占星術から頂戴した。この本、中国のありとあらゆる占いが集められた本なのだが、その中の占星術で使う星から、実星ではなく、虚星を採用した。

一方、妖魔十鬼については、陰としての煩悩の象徴として地獄の名称を採用した。

作者としては、妖魔側の名称が気に入って入る。

主人公の名前は御伽話風から「ヘンゼルとグレーテル」の妹グレーテル。文学風から「ファウスト」のグレートフェンをイメージし、合成した名称となった

ワルコの十将については「アルゴ号の冒険」みたいなのりで名付けた。

名前に関しては、本当はAAAAでもMMMMでもよく。たいした意味性もない。

インドみたいな「ジャナメージャヤ」「プラマドヴァラー」みたいな名では、読みにくいので地中海風になっている。

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