第52回 南北同盟
<登場人物>
グノー 主人公の兄弟子魔法使い
メディカス 僧侶(酔遊仙のメディカス)防御魔法、治療魔法、躰術
ホーネス スカラ国戦士(神槍のホーネス)槍の使い手
レピダス 黒虎騎士(銀弓のレピダス)弓、双頭槍の使い手
デュック 元宰相の子(斜行陣のデュック)参謀、双鞭の使い手
アスペル 女盗賊(黒豹のアスペル)スリング、手裏剣、メイスの使い手
ストレニウス 赤鬼騎士(重戦車のストレニウス)双手剣の使い手
ソシウス 斧使いの大男(旋風のソシウス)バトルアックスの使い手
エコー ヘテロ青竜騎士(鎚人馬のエコー)風の魔法使い、ヴォーハンマー
フィディア 芙蓉記伝承者(譚詩曲のフィディア)竪琴
グレーティア 主人公
ビルトス 主人公の師(本名ダーナ)
デスペロ 魔法宰相
コンジュレティオ 軍総司令
紀朱王 パテリア国国王
芥子菜王妃 パテリア大国王妃
歴山太子 パテリア大国王子、嫡子
那破皇子 パテリア大国王子
蘭公主 パテリア大国王女
コレガ 黒虎騎士、レビダスの友
ソダリス 黒虎騎士、レピダスの友
トラボー 反乱軍首魁
ハレエレシス 反乱軍参謀、ブルマの乱首謀者
フィデス トラボー配下魔法使い
ファルコ トラボー配下武将
アミコス 反乱軍参謀、竪琴の使い手、元魔法省官吏
ファクルタス 反乱軍魔法使い、ブルマの乱生存者
アルゴン 反乱軍武将
オティス反乱軍武将
ホルディウム 反乱軍財務
レッジーナ ルースの貧しい少女
アウダック 反乱軍首領(鎮圧される)
オディーマ ベラ家長女、幻術使い
総司令コンジュレティオが大勢の兵を引き連れ、王都フローレオに帰還すると、都は大賑わいになりました。兵士の家族が押し寄せ、無事を確かめようと道の両脇は人で埋め尽くされていました。高い建物からは花がまき散らされ、甲高い女の声が投げかけられていました。兵士達も強敵ヘテロとの戦いから解放されたことの安堵感と、人々の歓迎の声に思わず嬉しくなってしまいい、胸を張り手を挙げ歓声に応え、堂々たる行進をしました。
軍団は王都に入城すると、大広場に整列し、王の登場を待ちました。暫くすると王が高台に現れ、総司令が進み出て王に拝礼すると、王は総司令にその労を労いました。ここで王は兵士に一月の休暇を与え、戦いの疲れをとることにしたのでした。
兵が解散すると、パテリア王紀朱王は宰相デスペロ、総司令コンジュレッティオとともに今後について話し合ったのでした。
「総司令、兵士の休養は一月程度で良かったのか?長い間ヘテロとの戦いで兵士は疲れ切っているはずだが」
久しく病に伏していた王は昨今、体の調子が良いのか、かつての武者としての力強い語り口で尋ねました。
「確かに、一月では蓄積された疲労が完全に回復はしないでしょうが、宰相はお急ぎなのでしょう?」
「その通りなのだが、正直なところその重要性については予としては理解しかねぬのだ」
するとそれを聞いていたデスペロは、恭しく王に言いました。
「陛下、ワルコを侮ってはいけません。あれは成長させればヘテロ以上の脅威となるのです」
「ヘテロ以上のう・・・」
王は半信半疑でした。
「ヘテロの宰相ホスティスとの交渉により、休戦協定を結びましたが、時を置けばヘテロの宰相も心変わりをしかねません。我々はナティビタスを退治した後、ルースの賊どもの始末しなくてはなりません」
「どちらも倒さなくては成らない賊ですから、古都の賊が先でも構いません」
総司令が言うと、王は頷きました。
「先王の二人の子が反旗を揚げているとか」
「はっ。先王の末の双子の王子と王女と名乗っています」
「可笑しなものだな、根絶やしにしたはずが、蘇ってくるとはな。十三年前、前宰相一族を中心とする反乱軍はヒパボラ河で倒し、その残党どもはシルバの森に潜んでいる。その賊共と王子王女が手を結んで大勢力にならないか」
王が懸念すると、デスペロは答えました。
「そのご心配はご無用です。先の反乱軍はシルバの森で変質し、ただの強盗に成り下がっています。しかもその組織は謎の者の襲撃を受けて壊滅状態で御座います」
「ほう、面白い」
「警戒するべきは、真正政府を名乗っている南の反乱軍です。ガメネティオを拠点とし、瞬く間に支配地を拡大しています。この参謀となっているのがハレエレシスです」
「その男何者だ?」
「ブルマの乱の真の首謀者です」
「彼の乱は、我らの手本とも言うべきもの。クーデターは成功するはずであったが、残念ながら失敗した。首謀者は全て抹殺されたはずだが」
「関係を疑われ、幽閉の身ににはなりましたが、無事隠し通し、許されて田舎で隠棲していました」
「それでいよいよ。我らを倒し、理想を実現しようとしている訳か」
「分かりません。ハレエレシスの理想は民主制の実現。王子を頂いて世襲制を復活させようなどと、考えられません。むしろ我々の中央集権制の先にあるべきものを理想としますから、相容れないはずなのですが。長らく私は彼の動きを警戒し、動向を探っていましたが、湖の庵に隠棲し動く気配は微塵もなく、このまま朽ち果てると思っていましたが」
「政治とは可笑しなものだな。主義が似たもの同士が対立しなくてはならないのだからな」
「陛下私は、このハレエレシスに離間の計を施すことにしました」
「そちが申すとなると、すでに着手済みと言うわけだな」
王は薄笑いをしました。
「王子を名乗る、トラボーなる者はおそらく偽王子でしょう。ガッリアより二人の供を連れてパテリアに来たようです。二人の武将であるガッリア人は、おそらくハレエレシスの見事な采配に危機感を抱いているはずです」
「なるほど、仲違いをさせ、頭を奪ってしまえば恐るることもなしというわけだな」
「だだ、陛下。ハレエレシスが何故立ち上がったのかの謎は残ります。もともと王子など切り捨てるつもりであった可能性もあります」
「厄介な奴だな」
王は宰相の言葉に、眉間にしわを寄せました。
「むしろ問題は正統政府の名乗る北の反乱軍に御座います」
「偽王女を頂く奴らだな」
「一都市を支配するに留まっていますが、その城は魔法城。簡単に落ちるものではありません。しかも、身から出た錆とはいえ我々の内部に混乱をもたらしました」
デスペロがこう言うと王は頭を抱えました。
「太子の事であろう。あまりの愚かさに廃位を考えた。后の懇願によって思い直したが、次期王があれでは心配だ。儂が起き上がれるようになったのもそのせいなのかもしれぬ」
「陛下。太子は聡明なお方、廃位はなさいませんように。太子は陛下の血を多く受け継がれたのです。陛下もそうではありませんでしたか?」
宰相の問いに王は昔を思い起こしました。
「確かに、予は先王の后に恋い焦がれたことがあった。このパテリア随一の美女にな。予は何度もその姿を追い求め、なんとしても手に入れたいと願った。だがその望みも、絶たれる時がきた。風流にふける道楽者の兄に奪われることになったのだ。あの無能な王にな」
王は歯ぎしりをしました。
「陛下の理想は中央集権による王権の強化でした。しかしもう一つに恋人を奪われたことに対する恨みがおありだったのではありませんか?」
「そうだったかもしれぬ。結局、クーデターに成功したものの、彼女は愚王の後を追って自害した」
王は力なく言いました。
「太子が密かにお部屋に飾られている肖像画はあの方のものです」
「なんと、あれらの物は処分させたはずだが」
「城の倉庫に残っていたようです。太子が見つけられたそうに御座います」
「これは傑作だ。親子して同じ趣味とは」
「太子は陛下の血を濃く受け継いでおられますので」
デスペロは冗談交じりに恭しく言いました。
「聞けば、太子が夢中になっている娘も美しいとか」
「謁見した使者によれば、年は若いが美人とのこと」
「誠か。ならば太子の惚れた娘がどんなものか見たくもあるな」
「陛下、娘の姿をしておりますが。相手は魔王ですぞ」
デスペロは厳しい顔をしました。王は宰相の真剣な眼差しを受け、クーデター実行時に彼と約束したことを思い起こし、今がその時であると、静かに話を聞いていた総司令に顔を向けました。
「コンジュレッティオ。予はデスペロとの約束を果たさなくてはならない。お前の力で正統政府を名乗る賊共を退治してくれ。狙うはワルコの命。出来るか?」
「ご安心ください。パテリア最強の軍団を引き連れ、一網打尽にしてご覧にいれましょう。陛下の前に、ワルコの首携えて参ります」
「心強い限りだ」
王が満足そうに言うと、宰相が付け加えました。
「陛下、此の戦い、私も魔法軍団とともに出陣しましょう」
「宰相が戦場に赴いて、内政はどうする?」
王は驚いた様子でした。
「部下のウーマーを残しましょう。私の身に何かあっても、あの者ならば安心です」
「お前が、出陣したのは、最期まで抵抗したガニメティオの豪族退治以来だな。本気度がわかるというものだ。ならば許そう。総司令と供に首を取ってまいれ」
「有り難う御座います」
宰相は深く礼をしました。
「陛下、北の賊に全ての兵を回すのでなく、西の守りも考慮に入れるべきかと」
総司令は意見を述べました。
「メディスのことだな」
「左様に御座います。南の反乱軍はおそらく、地下に隠れたアウダックの残党を組織し西よりメディスを攻撃し、南からルースの主力を北上させ襲いかかるでしょう。今メディスは南方の圧力に抵抗していますが、二方面に対抗するだけの力はありません」
「なるほど、ならば兵を回そう。その任務、皇子の那破にまかせてみようと思う」
総司令は驚いた様子でした。
「危険すぎませんか」
「予は皇子に機会を与えてやろうと考えておるのだ。生まれた順番によって決められてしまうのは不憫でもあるからなあ」
「ならば、デスペロ殿の配下よりプロディティオ殿をお借りしたい。殿下は武勇に優れて居るとは言え、南の反乱軍には粒ぞろいの魔法使いだらけ。助けがいりましょう」
「なるほど、デスペロ良いか?」
王が宰相に尋ねると、彼は快諾しました。
「ルーバス地方の東の反乱軍は、どうするつもりだ」
「陛下ご心配なく。あの者達は烏合の衆にしか過ぎません。ハレエレシスの居る南の反乱軍は統制され、組織だっていますが、東の反乱軍は動きがバラバラで上手く統制できていないようです。これまで我々の圧力があり、一塊でしたが、我々が王都に戻ったので、動きに変化が見られるようになりました。これまでの得た支配地をめぐり、取り分でもめ始めたようです」
「大義無く反乱を起こしても、実無くば自滅するといったところか」
「南北の賊を平らげた頃には、力も衰えていることでしょう」
王は安心したようでした。
「そうだ、フォルムの海軍で海からルースを襲ってはどうかな。これで南の反乱軍は北上出来まい」
「陛下、ごもっともの計略に御座いまず。しかしそうなると海の戦いとなり交易の安全が無くなってしまいます。海運、水運はパテリアの経済の大動脈。その点は反乱軍も分かっているようでルースの交易船の出入り、ウンダ河の水運についてなんら規制は執っていません。つまり、反乱軍は土俵の上だけで勝敗を決めるつもりです」
「なるほど、自分たちが真正政府であると名乗るほどのことはあるな」
「海軍は、これまで通り海賊船対策に向けることに致します」
「そうしてくれ。ところで休戦協定を結んだヘテロの件だが、大丈夫なのか?」
王が不安な顔をすると宰相が答えました。
「その危険性は無いとは言えませんが、我らに吉報が舞い込んでまいりました」
「どの様なことだ?」
「ヘテロの王が病にかかったとのこと」
「ほう、予が気力を取り戻したからかな」
「ホスティスの地位はヘテロ王あってのものです。ヘテロの従来からの臣下は、よそ者に内政を牛耳られ、面白いはずが御座いません。いつか揚げ足を取ろうと待ち構えているはずです。当分の間ホスティスと彼らの間に、駆け引きが繰り広げられることでしょう」
「なるほど、運は我々にありと言うわけだな」
王は非常に満足しました。
ガニメティオを本拠地とする真正政府の頭であるトラボーはルースにありましたが、諸将はメディス攻略のため忙しく、自分の出る幕はないとかなり失望していました。本拠地に籠もって退屈な日々を過ごしていたので、積極的な運営に関わろうとしましたが、旗頭とされているためか慎重に扱われ、前戦の様子など見ることなど出来ないのでした。
軍師のハレエレシスが有能で、彼にまかせっきりなのが原因なのでした。奇妙な怪物同士の戦いを見る機会はあったものの、軍師は素早く軍議を開き、指示を与えると、何故か本拠地急行し、トラボーは取り残された感じになりました。そこで彼は仕方なくお忍びの姿に扮すると町に出たのでした。
ルースは西部一の貿易港。帆をを広げた白い商船が行き交い、政府と交戦中であるにもかかわらず平和そのものでした。パテリアにおける戦いのしきたりのおかげか、軍事施設を除き大火に見舞われることもありませんでした。行き交う町の人々の様子も穏やかで、真正政府が新しい支配者になったことを受け止めているようでした。この町の住人が大きな被害を受けたのが、脱獄した魔法使いの一部が町で大暴れした時のことで、以降は郊外での戦闘や軍事施設のものであり、町事態はなんら被害も受けておらず、直ぐに町を再興できたのでした。
トラボーは商人のいで立ちで、町を散策し、かつて通った通りを探しました。すると、どこで間違えたか、どんどん狭い裏路地に出ていき、市場の裏手の水路に出たのでした。
突然行き止まりになってしまったので、彼は仕方なく戻ろうとしたところ、水路に竿を突っ込み必死で何かをしているボロを纏った少女を見かけたのでした。
どうやら、彼女は市場から流れてくる野菜の切れ端を、竿でたぐり寄せ足下の籠に入れているようでした。その真剣さ様にトラボーは暫く見とれていると、少女はそれに気がつき、憎しみの籠もった顔を彼に向けたのでした。
「なんなのよあんた!私のしていることが面白いの!」
彼女は竿を突き立てると、激しい剣幕で叫んだのでした。
トラボーは女の子の声に驚き、手を挙げました。
「道に迷って、ここに来ただけだよ」
「私のこと、こそ泥て思ったでしょう」
「思わない。思わない。拾っていただけだよね」
すると少女は眉を上げて言いました。
「あー。私の事、物もらいと思っているんだわ」
「違う違う」
トラボーは必死に弁明しようとしました。
「いいのよ。どうせ私は乞食ですよ。人の残飯をあさる浅ましい人間ですぅ」
彼女はむくれていました。
「ねえ、そんな一杯の野菜、一人で食べるの?」
「あんた馬鹿でしょう。私が山羊に見える?こいつを塩漬けにして売るのよ」
「なるほど。商魂たくましいね」
彼は感心しました。
「人の事ジロジロと、一体なんなのよ。そんなに私の事が面白いの。なんか、あんたっていいところのおぼちゃまて感じぃ。なーんにも苦労したことないでしょう」
「そう言われると否定は出来ないが」
「とにかく目障りだから消えて!」
そういうと少女は竿を水路に付け、一心不乱に野菜をかき寄せていました。しかし少し遠くを流れてきたものに無理をして竿を伸ばしたものだから、バランスを崩して水の中に落ちたのでした。トラボーは慌てて彼女を水路から助け上げると、大笑いしました。
「欲の出し過ぎだね」
「あんた、私の不幸を楽しんでいるでしょう」
少女は恨めしいそうに言いました。
「そこで休んでいるんだね。その籠一杯にすればいいんだろう。丁度大量に流れて来たようだ」
そう言うとトラボーは竿を水路に突き刺し軽々と対岸に渡ると、次々に野菜を岸に上げたのでした。そうして籠一杯にすると、それを抱えたのでした。
「さて、濡れ猫さんのおうちは何処かな?」
「は、あんた私の家についてくるつもり?」
「もちろん、駄目だというなら、此の野菜、市場に返してくるから」
「なんて厚かましい奴なのっ。いいわよ。ついて来なさい。私のボロ屋を笑うがいいわ」
ぶりぶり怒りながら少女はトラボーを案内したのでした。
着いた先は、先の魔法使い騒動で全焼して、廃墟のままになった跡地でした。僅かに崩れずに残った、煉瓦の壁に廃材を立てかけて作った掘っ立て小屋でした。この土地の持ち主がやって来て、いつ撤去されるか分からない状況でした。しかも柱はひもで結んだ程度の貧弱さで、嵐がきたら簡単に壊れそうなしろものでした。
「これもしかして君が作ったの?」
トラボーはテントみたいな小屋を指さしました。
「当たり前でしょう。私が家なんて借りられるとでも思うの」
少女はかまわず、持って来た野菜を樽に入れました。
「一人暮らしみたいだね」
「そうよ。あんたね。女一人だからって変な気起こしたら承知しないわよ!」
そう言うと彼女はナイフを突き立てました。
「それで刺す気!?」
「何言っているの。漬け物を切るだけよ」
彼女は別の樽を開け、中のものを取り出すと、一口の大きさに切り分けたのでした。
「こうやって、市場に売りに行くというわけ」
「なるほどね」
トラボーは彼女が濡れた服を交換する間、廃墟の周辺を見て回りましたが、声がしたので戻ってきました。彼女はお湯を沸かし始めたようで、トラボーは近くの瓦礫に腰掛けました。
「その服、先ほどの服より似合うよ」
「有り難う。でも私おめかししたのでなく。これとあれの二着しか持っていないの」
「ああ、そうなんだ」
トラボーは返事に迷いました。
「お茶でも出してくれくれるのかい?」
「助けて暮れたお礼。でもこれ私の特製、口に合うか」
「原産地は水路だろ?」
「正解!」
少女は微笑みました。
「そうだ、自己紹介が未だだったね。僕はトラボー。君は?」
「レッジーナよ」
「いい名前だ。失礼だが、君はどうして一人暮らしなの?」
彼女は暫く沈黙の後に語り始めました。
「父親が戦死し母が病死すると、私一人。故郷を離れここに居ると言うわけ」
「身よりは無いの?」
「遠い親戚はいるけど、厄介者扱いよ。そんな連中と暮らすくらいなら、一人がいいわ。それよりあんた、裕福な商人の息子?なんか貴族ぽいけど」
「君と同じようなものだよ。父の財産を伯父が全て奪ってしまってね」
「可哀想に。でも私より恵まれているみたいだけど」
「支援してくれる方がいてね」
「運がいいのね。羨ましいわ」
「そうでも無いよ。大きな博打打ちみたいな商売をしていてね。何時すってんてんになるか分かったものじゃないんだ」
「そっか。そのときは私の所においで。雨をしのげる屋根があるわ」
「屋根ねえ」
トラボーは天井を見上げ、苦笑いをしました。
「伯父さんを憎んでいるの?」
と少女は尋ねました。
「もちろんだ」
「無理も無いか」
「僕はね、奪われた財産を取り戻すつもりなんだ」
「出来るの?」
「厳しいけどね」
「諦めなさいよ」
「な、何を言うんだ!」
トランボーは、怒りの表情を表しました。
「あんた、それに囚われると不幸になりそうだわ」
「これまでも不幸だったよ」
「そうかしら、私なんかより幸せに見えるけど」
「君には分からない」
トラボーはふて腐れました。
「さあどうぞ」
レッジーナがカップを差し出すと、トラボーはそれを受け取り飲み干しました。奇妙な味がしました。
「これいったい何?」
「分からないわ」
「分からない物を飲み物に?」
トラボーは呆れました。
「人生チャレンジよ」
「無茶だな」
「あんたの夢は財産を取り戻すことだけど、私は私の店を持つ事よ」
「なるほど」
「あんたは過去を追いかけ、私は未来を目指すわ」
「こりゃ参ったな」
トラボーは頭を叩きました。
こうして彼は見ず知らずの少女と、短い一時を過ごし庁舎城に帰ってみると、フィデスとファルコが待ち受けていたのでした。
「殿下内密のお話があります」
フィデスが囁くと、トラボーは何事かと別室に彼らを通したのでした。
「どうしたんだ?」
一番古い臣下の二人が改まって、話を持ちかけたので、彼は緊張しました。
「ハレエレシスの件ですが」
フィデスが切り出すと、彼はまたかという顔をしました。
「前から申すとおり、軍師のこれまでの実績をみれば、その忠誠心はわかろうというものではないか」
「殿下、あの老人を信じてはなりません。あの者には別の目的があります。いつ寝首をかかれるか分からないのですぞ」
「考えすぎであろう。我々では、ここまで強い反乱軍は作り得なかった。全て軍師の知略によるものだ」
「左様です。我々は単なる手足でした。今や、この組織は老人を中心に動いており、我々は単なる道具にしか過ぎません」
「しかし、我々が老人を廃し全ての実権を握ったとして、上手く運営出来ると思うか?」
「殿下、老人は現在の政府以上に革新的な社会変革を目指した人物であることをご存じですか?」
「それは知っている。ガッリアに亡命していた時代に、ある人物から軍師を推薦された」
「殿下の目指されている方向は、旧体制の復興。ならば豪族の残党を糾合すべきですが、我らはこれまでそのような事をしていません。此の反乱は何処を向いているのでしょう」
「現政権を倒し、フローレオの玉座に殿下がお座りになるとお思いですか?」
「何を馬鹿な」
「老人の理想は東方の都市国家で、かつてあった民主制国家というものです。その国は国民が投票にて王を決めるのです」
「奇怪な制度だな。成り立つのか?一度権力を得た者は、容易に特権を手放さないはずだが」
「それが現実的ではないとしても、その先に我らの存在などないといえるでしょう。ですから今のうちから、老人の力を削ぎ、我々の制御下に組織を置かなくてはなりません」
「私も何時までも軍師に頼り切っていてはいけないと思ってはいるのだ。とりあえずメディスを落とすまでは、軍師の力を借りることにしよう。良いな?」
「殿下がそう決められるのであれば、臣下の我々としては従わざるを得ません。しかし一言申し上げれば、最近軍師を訪ねて来る政府からの使者が増えています。その中には珍しい品を持ってくる者もいるとか。政府は老人と我々の関係が弱いつながりであることを読んで彼を自分たちの陣営に取り込もうとしているのではないかと思えます」
この言葉を聞いてトラボーは不安を覚えたのでした。確かに、自分は軍師に絶対の信頼を置いているものの、心情的につながっているわけでなく、単なる気まぐれめいたもので道を同じくしたものでした。はたして此の関係は絶対的なものであろうか。
最期の一言が、トラボーに重くのしかかってきたのでした。
ルースに逗留していたトラボーは軍師の後を追って、本拠地ガミネティオに帰還しました。ハレエレシスが怪物騒ぎの後、慌てて本拠地に向かったのかは全くの謎で、怪物に関する仕事が此の地にあるのであろうかと思えたのでした。王子帰還の報を受けた、軍師は喜び向かい入れ、メディス攻略についてトラボーに説明しましたが、王子にとってそれはわだかまりを持ったかのような、重苦しいものでした。
その横顔を見つめながら、トラボーは裏切るなどということがあるのだろうかと自問自答していました。
それから数日後、馬に乗った一人の男がガミネティオの城門をくぐりました。男はレピダスでした。彼はアルゴンの計らいによって関所で止められる事も無く、順調に旅をしてガミネティオに着いたのでした。レピダスはそこで見た兵士の訓練の姿をみて、軍としての形を伴ったものであることを理解しました。大勢力を持つ反乱軍はいい加減な組織では成り立たないのだと実感し、自分たちの軍と比較していました。同盟の相手としては申し分ないと判断した彼は、その足で庁舎城に向かい、番兵に謁見を申し出たのでした。
フィデスの一言が喉に突き刺さったままの、トラボーは浮かない毎日を過ごしていましたが、古都の反乱軍の使者が謁見を求めていると聞き及び、軍師とともに応対することとしました。しかしこの時彼の心は晴れず、疑念が渦巻き、全てがよからぬ企みであるかのように見えたのでした。猜疑心が芽生え始め、使者は何をだましに来たのかと、面会をする前から疑い始めていたのでした。
前王の唯一の生き残りの王子であるという自負は、妹は生き残っていたという事は受け入れがたく、偽姫を担ぎ上げる者達という色眼鏡で覆われていました。それで彼は不遜な態度で対応しようとしたのでした。
謁見の間に行ってみると、一人の男が佇んでいました。男は恭しく礼をすると、真っ直ぐトラボーを見据えたのでした。トラボーは慣例道理の言葉を投げかけようとしましたが、使者の顔に何処で見かけたようで、なかなか思い出せずにいました。
すると、突然ハレエレシスが男に声を掛けたのでした。
「もしやと思いましたが、やはりあなた方でしたか」
「貴方もお元気そうでなによりです」
レピダスは親しげに語りかけました。
「軍師、彼とお知り合いか?」
トラボーは疑問に思い、尋ねました。
「彼は黒虎騎士でしてな。私は要注意人物として彼らに監視されていたのです」
軍師が痛快に笑う姿を見ながらトラボーは、政府の犬と親しげに話すハレエレシスに違和感を感じるとともに、政府の騎士が古都の反乱軍の使者としてやって来たのいうこと、それら全てが怪しく感じたのでした。
「殿下とこの様な形で再会できるとは思いもよらぬ事でした」
レビダスはこの様に言うと、トラボーは首を傾げました。
「私は、そなたとどこかで会っていたのか?」
「お忘れですか、湖にて怪物が現れたとき、お会い致していました」
トラボーは怪しみ、記憶を辿っていくと、確かに怪物シルラスを湖で退治し、岸辺で男女の一団と会話をした事を思い出しました。
「あの時の・・・」
「左様に御座います」
「まさか、お前達だったとは意外だ。まさかあの中に王女が居たというのではあるまいな?」
「その通りです」
偽姫とはいえ、その姿が思い起こせず、トラボーはいらつきました。、反乱軍の者達とさりげなく会話をしていただなんて、彼にとって世界とはなんと狭いものであるかと実感させたのでした。
「それで、遠路はるばる我ら真正政府を訪ねて来た用向きはなにか」
「我らは、反旗を翻したものの、政府軍の力は強大でした。同じ反政府である真正政府の方々と手を結び政府打倒を目指そうと、同盟の申し込みに参りました」
「同盟か」
トラボーはため息をつくと、馬鹿馬鹿しいと心に思いました。
「ここまで来たのに申し訳ないが、それは断る」
「それは何故ですか?」
「第一に、我々は戦力も充実し、他者の力を必要としない。第二に同盟を結ぶとなれば、そち達が危機に陥ると救わなくてはならない。第三に政府は倒れれば、我らは支配権を巡って戦う運命。どこにも我らの利となるところが無い」
トラボーは、こんな、いかがわしい連中など相手にしたくないのでした。
「確かに申される通り一見利が無いように思えます。しかしお考え頂きたい。第一に真正政府殿はルースを得られて財力も増し、南方中部に大勢力をもたれておいでです。しかし、それはコンジュレティオ率いる正規軍が隣国ヘテロとの戦いで動けなかった為。今、両国は休戦協定結び、パテリア国は全力をもって、国内の反乱軍の鎮圧に取りかかります。真正政府殿は魔法使いの人材の豊富さで優位をたもたれておいでですが、政府軍の魔法使いの人材は此の世界随一のものです。能力と言い、数といい圧倒的なのです。それが故に、あのヘテロでさえ国境近辺から奥へとは進めませんでした。お忘れですか、政府軍はパテリアの豪族を全て滅ぼしたのですぞ。此の地にはかつて強力な軍がおり、最期まで中央集権体勢に従わない者達がいました。かれらはガニメティオという要塞都市を中心に強固な防衛力をもっていました。しかし、コンジュレッティオの親衛隊、デスペロの魔法軍の全力をもって攻められ、落とされたのです。決して、安泰とは言えないのです。
第二に古都の我々だけを救うだけの一方的な同盟であるとご判断ですが、それは違います。現在その様な状況であると言うだけです。同盟を結んでいれば、仮に政府軍主力がメディスに布陣し真正政府に圧力を強めたとしても、我々が背後を脅かせば、政府軍としても安心して南下はできません。つまり政府が真正政府を攻めれば我々が背後から、我々正統政府を攻めれば、あなた方真正政府が背後を襲うというふうに、協力し合えます。仮に政府軍が二方面作戦を行えば、我々でも対抗できるというわけです。
第三に、現政府が倒れたあと両者は戦うことになると言われておいでですが。それも確定的ではありません。そもそも殿下と我らが姫君はご兄弟ではありませんか、何を争うのです。お互いにお話し合いをすればよいではないですか」
レピダスはこのように反論し、トラボーの心を揺れ動かしました。
「お前達の主張は分かった。しかし、私の妹が生きているとは信じられないのだ。私の家族は殺され、私だけが生き残ったのだ」
トラボーの声には自信に満ちたものでした。
「確かに、一般的に王家一族は抹殺されたと知られています。それに従えば、誰も王家の者は居なくなりますが」
意味ありげな表現をレピダスはしました。
「私を偽者と申すか!」
思わずトラボーは激高しました。
「殿下、そうではありません。世間では死んだと思われたとしても、生き残っているものであると言うことです。我らが王女もその様なものなのです。妹君が生き残ったことを信じられないはごもっともでありますが、事実としてご信じ下さい」
トラボーはまだ兄弟が生きているという事に納得出来ないでいました。すると彼は脇から短剣を取り出すと、レピダスの前に差し出したのでした。
「これを見ろ、私が真に王家の者であるという証だ。私は赤ん坊の時ガッリアに逃れ、その時所持していたものだ。これと同様のものを王女は所持しているのか?」
差し出された短剣を恭しく受け取ると、レピダスは確かめました。短剣といえど一級品の仕上がりでした。切れ味は良く熟練工が仕上げたもので、飾りも繊細で鮮やかなものでした。その文様は確かに王家の文様でした。
「これは!」
この時、レピダスの顔が変わり、それに気づいたハレエレシスは口を挟みました。
「殿下、偽物であるとか本物であるか良いではありませんか、証拠の品と申しても、戦乱の中、命からがら逃れるだけで証拠の品が必ずしも残るとはかぎりません。むしろ我々がどう生き延びるかを考えなくてはなりません」
こうハレエレシスの諭され、トラボーは問い詰めるのを止めました。
「殿下、使者の申すとおり、まだ戦力は十分とは言えません。我々は主が留守の時、母屋を乗っ取った者に過ぎません、その主が帰宅し、まず我らを狙ったとするならば、単独で抵抗するのは愚かなことです。ここで同盟を結ぶが上策でしょう」
トラボーは意に反し、ハレエレシスが同盟を勧めたので、内心軍師が二股を掛けているのでは怪しみました。自分の地位が危ないと察して、他の勢力への足がかりとしたのではと疑いの心が起こったのでした。
「だが、軍師。彼らに兵力はたかが一都市程度のものだぞ。それが政府軍の脅威となるとは思えないが」
「殿下、彼らを侮ってはなりませんぞ。この者達は四万の兵を相手にたった七騎で戦い負けなかったのですぞ」
「それは誠か?」
「はい。アルゴンの報告によれば。メディスの守備隊で強敵だった弓使いの武将を倒したとあります。これほどの武将は我が陣営にはおりますまい。我が陣営には魔法使いは多く、かの陣営には猛者が多くいる。両者が手を結ばずして政府軍と戦えますか?」
トラボーは自分こそが正統な者である自負があり、偽姫など認められぬという思いはあったものの、強敵を前に、妥協という選択を迫られたのでした。
「分かった。軍師の申すとおりにしよう」
力なくトラボーは言いました。
「では私は使者と細部について打ち合わせしましょう」
ハレエレシスが満足した顔を見せると、トラボーは老人が自分の元を離れ他の陣営に言ってしまうのではないかと不安になりました。軍師に実権を与えすぎても怖い、かといっても他の陣営に去られるのも嫌だと、複雑な気持ちのまま、後はハレエレシスのまかせ自室に下がったのでした。
ハレエレシスの執務室に通されたレピダスは、改めて再会を喜び合いました。
「以前、儂の庵で会ったときは、僅か五人の旅人だったがなあ」
「貴方こそ、彼の地で朽ち果てるとばかり思っていましたが。何か心境の変化でも?」
「騎士殿がとんでもない者達を連れて来てなあ。老人の心に火を付けさせた」
「それはそれは。隠棲のお邪魔をしました」
レピダスは意地悪く言いました。
「そうだ、彼の娘は今でもお前達の中にいるのか?」
「誰です?」
「帽子に花を飾り立てた娘だ」
「あの娘は故郷に帰りました」
「そうか」
老人の顔に安堵の表情が表れました。
「どうかしましかたか?」
「恐怖で硬直したことを思い出してな」
「まあ、騒がしい娘ではありましたが」
レピダスは確かにあの娘なら、此の老人を振り回しかねないと可笑しくなりました。
「殿下の剣のことですが気になることがありまして」
こうレピダスが話を持って行くと、ハレエレシスは笑って相手にしませんでした。
「ところでお主達は、何故、ナティビタスに拠点を構えたのだ。要塞都市は他にあるだろうし、反政府の意識はそれほど高くない場所だ」
「ビルトス博士の指示なのです。確かに古都は周囲を山々で囲まれて居るわけで無く、天然の要塞でもありません。ただ歴史の都市というべきもです。ただ一つ違っていたのは、彼の都市が魔法城であったこと」
「ほう、そうであったか。どおりで政府軍が落とせないはずだ。おかげで少し安心した」
「それはどういうことでしょうか?」
「政府軍が全力で向かうのは、我ら真正政府でなくワルコだと推測するからだ」
「そう思われますか。では何故、同盟を結ぶ後押しをされたのです。益はありませんぞ」
「所詮我々人間の戦いなど前座に過ぎない」
「どうしてそれを?」
ハレエレシスの視野が別物であることが分かり、レピダスは驚きを隠せませんでした。
「見せたいものがある。これは殿下も他の仲間も知らないものだ」
こう言うとハレエレシスはガミネティオ近郊の山へ彼を連れ出したのでした。山々に分け入り進んで行くと、快晴だった空が、なにやら霧に覆われ辺りが見渡せなくなり、断崖に覆われた谷間らしきものを進むと、それはありました。
「見せたいものとはこれだ」
ハレエレシスが指し示したのは二体の巨人でした。見上げるばかりの大きさに圧倒され、レピダスは立ちすくみました。
「これは千年前の使われなかった兵器だ。今現代に蘇った」
「何故、この秘密を私に?」
「ビルトス博士は伝えていなかったのか。この事実を」
そう指摘され、かつて博士がクリスタルにてこのことを伝えたのを思い起こしました。
「以前、紹介したはずだが。もっともその時は肉片にしか過ぎなかったが」
「これは、あの時の肉のかけらですか」
「その通り、巨大すぎて完成までに時間がかかりすぎるのが難点だが」
ハレエレシスは自慢げに言いました。
「真正政府など儂にはどうでもいいのだよ。目指すは冥王の打倒のみ。故にこの秘密は人間だけでなく妖魔にも知られてはならないのだよ」
「では私に明かされるのは」
「保険じゃよ。儂は政治のきな臭い中にある。何時暗殺されんとも限らない。在処を知った者が必要なのだ」
「それで私を選ばれたと」
「儂はお主が、彼の集団を引っ張って来たと読んでいる。この巨人はあと何体も作成しなくてはならないし、これを完全な形で動かすにはワルコの力がいる。頼むぞ」
獣の軍団、魔法城といい巨人といい、瓊筵戦争のありようにレピダスは驚かされるばかりでした。
同盟が締結されると、レピダスはこのことを文章内に暗号化して手紙として報告すると、自らは真正政府の実力を見届けるため幾日か留まり、その後帰路についたのでした。
以前、敵将を倒したこともあり、迂回しメディスを目指しましたが、山中で出くわしたのは自分を敵と付け狙うオディーマという女でした。
狭い山道の真ん中に遮るように女が立ちはだかり、レピダスはどうしかものかと渋い顔をしました。
「邪魔だからそこをどけ。お前に興味はない!」
「私は大ありなのよ!」
女は言い返しました。
「この道を通ると思って待ち構えていたのか?」
「臑に傷があるやつほど、こんな道を選ぶのよ」
「それが分かるおまえも傷持ちか」
レピダスは笑いました。
「今度は前の様に行かないよ」
そう言うと、オディーマは幻術を繰り出しました。レピダスの周囲が瞬く間に暗くなり、彼は闇の中にありました。彼は双頭槍を手に取ると一振りすると、闇は消し飛びました。
謎の力を増した彼には幻術は効かなくなったいたのでした。
しかしオディーマは破られても構わず、幻術を繰り出してきたのでした。そしてその合間になんと攻撃魔法が彼を襲ってきたのでした。攻撃魔法は別の人物の攻撃でした。
オディーマは幻術が破られると分かっていたので、目くらましの瞬間を狙って、魔法で仕留めるつもりだったのです。
この意図が分かったレピダスは瞬間の判断で双頭槍を振るい魔法攻撃をはじき飛ばしたのでした。魔法を武器で吹き飛ばす前代未聞の出来事に、術者は呆気にとられ、オディーマも口を開けたままでした。レピダスは自分力に驚いたものの、かつてホーネスがこの様な技を使っていたので、理解は早かったのでした。
レピダスは相手の動きの止まった瞬間をのがさず、得物を弓に持ちかえ、矢を放すと魔法使いは射殺されてしまったのでした。
一瞬にして状況が逆転したと悟った女は、へつぴり腰になりながら剣を振り回しました。
レエピダスは馬から降りると、女の剣を奪い、女を蹴飛ばしました。オディーマは尻餅をつき、がたがた震えました。レピダスは股の間をスカートごと剣を地面に突き刺し、言いました。
「力の世界で生きたければ、力で滅びることを覚悟しろ。女、それほどの覚悟はあるか!」
彼女は振るえて答えませんでした。
「老師は、人の心は夜叉にもなるが、天人にもなると申された。俺は再びお前の命を見逃すとしよう」
こう言うと、レピダスは馬に跨がると、馬を進めたのでした。レピダスの背後から「私は何処までも、お前を追いかけるんだ!」という女の、叫び泣く声が聞こえました。
レピダスはメディス近くに居たり、思わぬ警戒網に遭遇することになりました。真正政府軍がメディスへの圧力を強めるに従って、滅んだはずのアウダックの残党が息を吹き返し、反乱軍に呼応するように、周辺地域で暴れ初めていたからでした。政府軍は直ちに兵を向け鎮めていましたが、丁度この警戒網に引っかかってしまったのです。
探索の目が大規模であると悟ったレピダスは、知らぬルートを使い北に抜けようとしました。しかし勝手知らない道に迷い、抜けた先で思いもよらない人物と遭遇してしまったのでした。
それは旧友の黒虎騎士コレガとソダリスでした。二人は森を下る不審な人物を待ち構えていたところ、森の中から現れ出でたのがレピダスであったので驚きました。
「こんなところで何をしている」
コレガは厳しい目を向けました。
「道に迷ってな。すまんが北に抜けたい」
「駄目だな。お前はお尋ね者となっている」
三人は見合いました。
「残念だな」
「それはこちらの台詞だ。大人しく縛に就け」
コレガが挑みかかると、レピダスは応じました。両者がぶつかり合うと、徐々にレピダスが優勢になり始め、これに驚いたソダリスが戦いに加わりました。
知らぬうちにレピダスの力量は向上しており、一人では相手が出来なくなっていたのでした。この事態に二人は驚いたものの、協力すればレピダスを捕らえらそうではありました。何合か打ち合うと、レピダスが隙をついて逃げだしました。あわてて二人は彼を追いかけましたが、コレガが一計を思いつき、二人してレピダスの右から攻撃を仕掛けました。
馬上で二人を相手に戦っていたレピダスは、逃げる先が二股に別れ、やむを得ず左に馬を走らせると、道の両側から大勢の捕り手が出現したのでした。
しかしレピダスはこれをものともぜず、得物を使い蹴散らすと、二人を驚かせました。直ちに、ソダリスは笛を鳴らし、警戒を伝えると、レピダスの後を追いかけました。警戒音が鳴り響き、捕り手の数が増えることを察した、レピダスは出口を探し求めました。しかし魔法使い達が魔法を使い始めると、状況は悪くなりはじめたのでした。
後を追いかけていたソダリスとコレガは、次々襲いかかる魔法攻撃をものともせず、レピダスがはじき返す姿を見て、信じられませんでした。このままでは、逃げられてしまうと感じた二人はさらに、一計を巡らせました。ソダリスは得物を捨てると、レピダスにつかみかかり、彼の体にしがみつくと固く放しませんでした。コレガはレピダスの疾走する馬の手綱をとり、そのまま罠に飛び込んだのでした。
三人は大きな穴に落ち、一気に網に入ってつり上げられ、多くの兵士に取り囲まれたのでした。二人の騎士の捨て身の行動にレピダスはどうすることも出来ず、捕らえられてしまったのでした。
南の反乱軍が中心の話でした。このトラボーという人物は脇役というより、主要人物でして、主人公、ローサ、トラボーの三人は当初から、深く関係した設定にしてました。今後の問題はパテリア王とトラボーを如何に自然に戦わせるか、城内に籠もった主人公とローサを無理なく争わせるか難しいところです。
今回は再会の場面がありまして、登場人物の心情を理解するには、第12回を再読されると良いでしょう。ハレエレシスがプエラと会った時どういう反応をしたか、よく分かるでしょう。実際には誰に驚いたか、ぼかしてありましたが。今回はっきりしました。
お話中、証拠の品として短剣が差し出されますが、これは第27回で登場したもので、彼は証拠として産着、短剣、忠臣の証言があると言っています。この中の忠臣が実はくせ者なのですが、それは未だ先の方で登場する人物です。あとあと少女レッジーナとともに登場回数が増えてくるでしょう。
証拠と言えば、ローサもブローチの品を所有していたこと、覚えておいででしょうか。お話があちらこちらに飛ぶので、なかなか記憶できるものではないですが。
さて物語は次第に全容が分かり初めてきました。ハレエレシスは何故巨人を蘇らそうとしたのでしょうか。当初は千年続く組織と関係して語られる予定でしたが、芙蓉記と翡翠記両方に跨がり、お話が長く複雑になるので変更しました。ちなみに組織の創始者はミケーネで、姫との約束、パテリア国存続の契約履行のためでした。以前の設定の伏線の名残は第18回のプロディティオの台詞の中にあります。従ってこれは無しということで。変更でいきなり芙蓉記と結びつけちゃうんで無理が出るかもしれません。




