第5回 追跡者との遭遇
<登場人物>
ビルトス 主人公の師
グノー 主人公の兄弟子
グレーティア 主人公
プエラ 主人公の幼なじみの娘
ソシウス 斧使いの大男(旋風のソシウス)
ホスティス ヘテロ国魔法宰相
セラペンス ビルトスと死闘した魔法使い
ペコー セラペンス配下
もう次の村が近くなったころでした、怪物騒ぎでこの道ですれ違う人はなく、前に通過した6人の旅人以外は出逢いませんでした。曲がりくねった森の道を進むと突然森は終わり開けた場所が目の前に広がっていました。森は遙か彼方に遠ざかり草地が見渡せ、道はこの草むらを緩やかに上下し消えていました。この草地はマーレの牧草地を連想させましたが、牧畜が放し飼いになっているでもなくあちらこちらと草が生い茂り深いところでは人の背丈ぐらいになっていました。この草地は放牧の為にあるのではなく森の火災によってもたらされた土地のようでした。その証拠に草地になった平地に黒く焼けた姿を残した木々がまばらに残されていたのでした。そしてそれと入れ替わるように若い木々があちら此方と草むらに立ち枝を広げていたのでした。大地は草で覆われていましたがその姿は草むらから顔を現した多くの灰色の巨石によって伺い知る事が出来ました。表面は木々や草花に覆われていましたが、この土地は石が多く耕作には向いていないのがなんとなく分かりました。森を抜けたせいでしょうか、天井から降り注ぐ光が幾分強くなったようでした。
三人の蔭が地面に蔭を鮮明に落としました。
開けた場所のためか背後から幾人かの集団が追い上げてくるのが分かりました。随分急いでいるようです。度々後ろを振り返ると、その人の姿は大きくなっていくのでした。その装束は見覚えのあるものでした。村を発って暫くしてすれ違った一行に大変よく似ており多分その人々に間違いはないでしょう。彼等は役目が終了し次の目的のため道を急いでいるのでしょう大変な早足でした。もちろん此方は女の足の旅であまり先に進まなかったという理由もあるでしょうが、この調子でしたら程なく追い越されてしまうのは確かでした。
「そこの旅の方待たれい」
後ろから呼び止める声がしました。
一同が振り返るとそこには朝会った一行が横一門になって整列し立っていました。その指揮官らしき男が進み出ると両手を腰にやり、こちらに挑むようなそぶりをみせました。
「なんの用だ」
ソシウスが彼女等の前に立ち男をにらみ返しました。
「なるほど、おぬしがジェヴォーを三頭しとめた男だな」
「そうだ。俺に文句を言いに来たのか」
「お前に用はない。そこの男装の娘に用がある」
男は冷たく言い放しました。
「俺は彼女等のボディーガードだ。それは駄目だな」
「なら仕方ない」
と言うやいなやペコーが意を込めると。ソシウスの大きな体は風に飛ばされる布の如く一瞬にして草むらの中に吹き飛ばされてしまったのでした。この技に彼女等は驚き、目の前にいるのが魔法使いであることを悟ったのでした。
ついに恐れていた魔法使いが目の前にいるのでした。その自信に満ちた姿は幾重にも恐怖を彼女に呼び起こしていました。このまま戦えば完全に破れてしまうのは目に見えています。かといって戦いを避ける方法などありませんでした。この場で出来ることといえば会話をもってこの状態を回避することだけでした。
「娘。お前に尋ねる。ジェヴォーを二頭殺したのはお前だな?」
恐喝めいた言葉が投げかけられました。
「その通りです」
「どちらから来た?」
「ベナールからです」
「確かあそこの門には石像があったが1体だったかな2体だったかな?」
「そのようなものは有りません」
ペコーはフッと笑うと娘をしげしげと見ました。
「なかなか賢いな。ひっかからなかったか」
男はどうやって口を割らせようか考えている様子でした。
「魔法は誰に教わった?」
「ガッリアのサスメンスという方に教わりました」
「知らないな。女に攻撃魔法は修得困難。それは情緒不安定で力を制御出来ないからだ。その技を若い娘に教えたとなると相当の術者のはず。名を知られていて当然ではないか」
「師匠は隠者でしたので」
男は失笑しました。
「お前の歳は幾つだ?」
これは何かあると察した彼女は逆に問い返しました。
「何歳と思われまっすか?」
ああいえばこう答える。この娘に会話は不要とペコーは判断しました。男は火炎の技をいきなり繰り出してきました。
彼女はとっさに反応し技に数字を当てて相殺しようとしましたが、相手が強く適わず外套を炎に巻き取られてしまいました。男の繰り出した技は殺傷目的でなく外套を剥ごうとしたもののようでした。
「やっと。顔を見せたか。なるほど年の頃は十五六だな」
「少し強引ですね」
「目的を達成するためにはな。我らの目的は十五六の魔法使いの娘を殺すことだ!」
もう会話で逃れるのは不可能でした。敵は完全に攻撃体勢に入っていました。
「何故その年の魔法使いを標的にする?」
「知らんな。そう命令が来た」
ペコーが首を振ると背後に控えていた男たちが進み出て剣を抜きました。
彼女は引きつったように立ちすくむプエラに声をかけました。
「君はそこの大きな岩の後ろに隠れて、早く!」
プエラは心配そうにしましたが、足手まといになることを分かってか足早に岩陰に隠れました。
男達の一人がプエラを追いかけようとしましたが、ペコーがそれを制止し列に戻させました。彼等の目的は彼女一人のようでした。彼女は背負った背嚢を静かに降ろすと腰に下げていた剣を抜きました。小手試しに一人の男が挑み掛かってきました。両者一定の間合いをとって牽制仕合ます。剣先と剣先は接触し軽く反応します。お互いになかなか踏み込めません。彼女はビルトスにより剣の技を習得し敵の間合いをとる技術に優れていたものの、敵の男はかなりの使い手で用意に隙を作りません。一人剣で倒すには大変な労力が要りそうでした。これは敵の指揮官のペコーにしても少々以外な展開でした。彼が連れていれいるのは剣の腕に自慢がある者達なはずでしたが、彼等を相手にして若い娘が互角の戦いをしているのでなんという娘だと舌を巻いていました。
彼女がバネのある飛び込みをみせ、男との間合いを詰めました。剣と剣がシャーッシャーッと擦れ会いお互いに剣を流し会いました。お互いに剣先が相手を貫こうと刃が突き出されますが、剣と剣が粘り着いたように離れず攻防が繰り替えされました。やがて男が心臓を狙って踏み込みこむと彼女は身を引きながら流れにそって相手の手首を切りました。男の手から剣が地面に落ちました。男達は仲間が傷つけられたことで娘に対し警戒を強めました。娘一人と侮っていたのが間違いであることに気が付いた男達は4人一度に挑みかかってまいりまました。
これには彼女も防戦一方。一人でもやっとのことなのに4人一度に挑まれては囲まれないようにするだけでも精一杯でした。苦しくなった彼女は魔法の技をもって彼等を撃退するしかありませんでした。男達が魔法攻撃のラインに並んだとき雷撃を加えようと魔法の言葉を発しようとしたところ、その言葉はことごとく相殺され技はその手前で消失してしまっていました。彼女は目前にお起こった現象に目を疑いました。自分の放った魔法の言葉の数字にことごとく補数がぶつけられ無力化させられていたのです。これはペコーの放した魔法数字の変換技でした。彼は娘の捕り物で部下を失っては仲間の笑い者にされてしまうので魔法の技を奪い去ったのでした。魔法が封じられては勝算の見込みがありません。彼女は身を翻すと草むら目がけて走り出しました。草むらは隠れるには最適ですが逃げるには不利でした。彼女は草をかき分け逃げますが、その分けられた後を辿って男達は追いついてまいります。背後の敵を迎えての逃避は困難でした。もう少し手捕まりそうになったところで草むらの中から大きな男が飛び出してきました。それは先ほど魔法によって飛ばされていたソシウスでした。彼が斧を振ると先頭の男は袈裟切りにあって地面に倒れました。
すると草むらのなかから炎が燃えあがりました。炎は勢いをつけて男達の行く手を阻みます。 背後で指揮をしていたペコーは異変に気が付き火炎を封じると炎の壁は消えて黒く焼け残った大地が姿を現しました。男達は娘の姿を見失っていました。
ペコーは巨岩の頂に立つと辺りを見渡しました。黒焦げた大地に立ち上る煙以外動くものの姿は見いだせませんでした。逃げているのならば草が揺れるはずですが、そういった様子もありませんでした。標的はまだ近くにいると察した彼は部下に逃げた方向に広く展開するように指示いたしました。
彼女とソシウスは草むらに潜み追っての様子を窺いました。
「あなたは怪我をしてませんか?」
「不意打ちでおもいっきり魔法をくらったが、この通り大丈夫だ」
「それはよかった」
「言っていた災難でこいつのことかい?命を狙われているとはな」
「だから忠告したはず」
「勘違いするな。ここから俺の出番てことさ」
彼女は呆れたような笑い顔をいたしました。
青い光るものが彼女の回りに生じると四方に飛び去りました。探査の目です。
「この辺りは草がかき分けられた道が出来ています」
「あの村の前がこの草地で怪物退治をしたからだ。縦横無尽に出来ているだろう」
「敵の魔法使いは岩の上にいます。他のものは 横一文に並び散会して此方に迫っています」
「俺達の居場所が分からないということか」
「彼等は魔法使いの援護を受けています。多分あの魔法使いは私たちの背後に火炎を起こし仲間の前に追い込むことでしょう。剣士たちに我々が接触すると魔法使いがやってきます。そこで追い込まれる前に剣士に近づき各個撃破を致します。倒した後草地に出来た道を使って魔法使いがやって来るまえに急ぎ離脱します」
「よし。再びチーム結成というわけだな」
「ここから一番近い敵が二本の道の合流点に近づきます。私は正面の道から相手に姿を見せますが、貴方は側面の道から侵入し背後を襲ってください」
二人が移動をしようとしたところ背後から地面を叩くような大きな音がしてきました。これまで聞いたこともないような音でした。それがなんなのかは分かりませんでしたが、魔法使いの追い込む技が始まったのだと理解できました。
追っての男は警戒し草むらを分け入って行きました。背丈ほどに延びた草は周囲を隠してしまいます。まったく前が見えない状態で進んでいくと切り開かれた道らしきものに出ました。そこで見たものは背を向けて潜んでいる娘の姿でした。音を立てないよう近づいて一気に仕留めようとしたとき背後から草を折る音がして、振り向くと宙に舞って斧を振り落とす男の姿が目にはいりました。
頭を割られ横たわった男を確認するまもなく二人はその場を離れました。異変に魔法使いも気が付くはずです。相手が対応するよりも早く移動すれば、草地という隠蔽生を最大限に生かして優位な戦いをすることも出来るはずです。
「今の異変に気が付き二人が進路を変え、魔法使いが急速に移動しています。一名離れてしまった敵を二人同時に襲いかたづけましょう」
ペコーと二人の剣士が着いてみると、そこには頭を割られた仲間が横たわっていました。彼は二名も仲間を失ったので怒り心頭いたしました。まったくいまいましい娘でした。こんなことなら、つまらぬ会話で遊ばず殺しておけば良かったのだったと甘くみた自分を許せませんでした。そんな思いを巡らしていたところが、またしても叫び声がしてきました。反対の方向、多分仲間が殺られたのだと分かりました。
配下を一枚また一枚と剥がされて残り二人しか残っていないことに、作戦に甘さを痛感しました。これまで魔法においては娘を遙かに凌駕している自身はありました。それを使わなかったのも配下に露払いをさせ留めは自分が刺すという形式にこだわったところがありました。さらに配下を敵に近づけさせていたので、自分の技に仲間に仲間が巻き込まれてしまうのを恐れていたのでした。残ってた部下二名は自分の傍らに控えているので、自らが全力をもって敵を屠る時が来たと判断したのでした。
ペコーは近くにある俵積みのように組上がった岩に登ると仲間の断末の声がした方向を向き大地に火炎を放しました。魔法の火炎は爆発したかのように勢いよく燃え広がり瞬く間に辺りを火の海にしました。彼のねらいは背丈ほどの生い茂った低地の草むらから彼等を追い立て、見通しのよい足首ほどの草が広がる小高い丘に走らせることでした。
「どうやら、魔法使いが本腰をあげたようです。この火の手で岡に走らせるつもりです」
「あんたの力で火は消せないのか?」
「魔法の言葉のレベルが高く聞き取れません。逃げるしかないでしょう」
「 ならしょうがないな。全力で逃げるぜ」
岩の上から眺めていたペコーは岡のすそ野の草地が大きく動くのを認めました。やがて二人の走る姿が現れその位置を捉えることができました。するとペコーは呪文を唱えると、地面に転がっていた小石が沢山浮かび上がり天空に舞うと勢いをつけて雨のように二人に落ちて来たのでした。
逃げていた二人は突然背中を叩かれ思わず地面に倒れました。周囲に小石が無数に落ちる音がして、地面に辺り跳ね返った石は岡を転がりました。ここで彼等は石を操る魔法が使われたのを知りました。幸い当たった石は小さく打撲程度でした、しかしこれが頭を直撃していたら死んでいたかもしれません。まだ魔法使いとの距離があったので攻撃に甘さがあるのでしょう。その技は広範囲に行われたので石の密度が薄くなったことが軽傷で済んだ理由です。しかし音もなく飛んでくる石は脅威でした。魔法使いで近づけばもっと正確に威力をました石の攻撃が行われるはずです。
二人が痛さを堪えて立ち上がると。二手目の攻撃が無数に宙を舞っていました。彼女はその術の数値を書き換え軌道を逸らそうとしましたが、理解出来ない数式でした。再び地面を石が叩きます。今度は不意を突かれるたのでなく待ちかまえてていたので何とか避けることが出来ましたが、石の落ちる範囲は狭まり避ける空間が少なくなっていました。しかも前より威力を少し増したようです。魔法使いは追い始めているようです。
このまま遮るもののない場所にいては何時頭を砕かれても不思議ではありませんでした。二人は近くにある灰色の岩がいくつも飛び出している所を目指して走りました。走る背後や両脇に石の雨が音を立てて落ちてきました。そして二人はやっとの事で巨石群まで走り抜け辿り着いたのでした。気が付けば疲れ切っていて肩で息をしていました。逃げ込んだその場所は飛び出した岩が天井のようになっていて上空からの石の攻撃から不防いでくれそうです。石の攻撃はこの場で防げそうでしたが、魔法使いに追いつかれてしまうのは問題でした。石の攻撃が幾度となく繰り返され二人はこの場から離れることが出来ませんでした。石を受け止める盾の様なものがあれば良いのですが都合良く落ちていることなどないのです。彼女は状況を打開するため放される魔法使いの呪文に挑戦してみました。しかしそれは難解で理解できません。魔法使いがやってくるという現実を目の前に焦る気持ちを静めながら彼女は呪文に集中します。するとその言葉の末尾になんらかの閃きを感じたのでした。
繰り返される攻撃に慣れてきたころ石の攻撃に変化が現れました。いままで上空から降るように落ちてきた石が投げつけられたかのように横から飛んで来るようになったのです。岩蔭から辺りを見渡すと魔法使い達が直ぐここまで迫ってました。急ぎその場を去ろうとしましたが横殴りの石の雨が襲いか掛かり二人を逃しません。隠れた岩に石と石が当たる鈍い音が響き渡ります。石の威力は随分増したようでした。
こうなっては接近戦を挑むしか無いようでした。離れていては石の餌食になってしまいます。二人は意を決して魔法使いを待ちかまえました。岩陰から飛び出すと彼女は渾身のい雷撃を放しました。魔法使いはそれに動じることもなく、それを軽く受け流しました。その間ソシウスが俊敏な動きを見せ魔法使いを捉え斧で切り裂こうとしましたが、敵の剣士二人に遮られ強襲は失敗いたしました。そのまま二人の剣士をあいてにソシウスは果敢な戦闘を繰り広げたのでした。一方彼女は魔法技で攻撃しましたが効果がなく剣技によって多戦おうとしましたが、石の攻撃を四方八方から受け避けるのに必死でした。今までのの石の動きは放された石のようでしたが、間近では石が空中で自由自在の変化をして襲い掛かってきたのでした。魔法使いはその必死に交わず姿をみて楽しんでいるようすでした。彼女が苦し紛れに雷撃を放すと、魔法使いは呆れたような顔をしました。
「これが得意なようだな。では見せてやろう上位者の魔法を」
ペコーはそう勝ち誇ったようにいうと技を放しました。太い閃光を伴った雷撃は悲鳴をあげ彼女の横を抜け背後にある大きな岩を粉砕しました。それは中を電導するのみならず意識を乗せて破壊するものでした。魔法使いは勝ち誇っていました。
一方ソシウスは二人の剣士を相手に戦っていました。彼は大きなな体をもち重い斧を持つにも関わらずその動きは俊敏でした。二人を相手にして動き回り敵の一人を中心に対極に動き常に一対一を保っていました。敵の背後の者は前の者が邪魔で攻撃参加が出来ないのでした。ワザと隙を作ると敵はそこを突いてきました。上手く交わすと右手を切り落としその円運動のなかで首を切り落としました。残った敵は仲間の首が吹き飛んだので一瞬動きを止め棒立ち状態になった所を回転力を伴ったソシウスの斧を腰にうけ上下に切り落とされたのでした。
魔法使いは背後に起こったうめき声に驚き振り向くと二人の部下が倒され返り血を浴び闘志の眼差しを此方に向ける大男に気が付きました。娘に夢中になって只の男を忘れていました。背後でこそこそ悪さしていた男に怒りが爆発しました。今まで娘を襲っていた石は方向を変え勢いよくソシウスを襲いました。魔法使いばかりに気を取られいた彼はそのことに気が付かず攻め込もうとしたところ突然石が空間を埋めたので驚きました。とっさに斧で顔を守ったものの全身に石を受けて意識を失い地面に音を立てて倒れたのでした。
邪魔者がいなくなって魔法使いは気を取り直し、五人の配下を失った礼をこの娘にどうやって償わせるか考えていました。地面から無数の小石が宙に舞い勢いをつけて回転しました。石の唸る音が響き渡ります。
かの彼女は空気を操り石の動きに歪みを生じさせようとしましたが、それも魔法使いによっていとも簡単にうち消されてしまいました。隠れる岩まで少し離れています。このまま切っ先が届くほど魔法使いの懐に飛び込めるか疑問でもありました。得物を仕留めようという目とそれから逃れようという目がにらみ合ったまま時が過ぎました。
空気の唸る音がして右の方から石が襲って来ました。彼女はその方向に両手を向けると必死に耐えようとしました。すると勢いよく飛んできた石は何個かは当たりはしたものの多くの石は素通りして草地を叩いたのでした。この様子に魔法使いは驚きました。
「貴様。俺の技の数を書き換えたな!」
娘の魔法は未熟で自分の呪文が読みとれぬはずなのに、明らかに書き換えたのは事実でした。遭遇してわずか数分というのに技を帰してくるとは恐ろしい限りでした。この娘脅威の速度で成長しているとペコーは実感しました。なるほど上の者がこんな娘を恐れるのもこれが理由なのかもしれないと彼は思いました。
ペコーは試しに火炎を軽く放してみました。すると以前の実力では火だるまになるはずが服を焦がした程度で終わってしまいました。渾身の一撃ではなかったものの確実に技を交わし初めていました。
再び石を飛ばして石を正面と左手より襲うと娘は正面の石は全て軌道を逸らさせ、左手の攻撃は半数は防いでいました。娘は痛さに耐えかね膝をついていました。休む暇もなく三度目の攻撃を四方から仕掛けると、二方は完全に軌道を変え残りの二方は半数が地面を叩きました。娘は苦しみ地面に倒れました。
次第に自分の技が交わされ始めたので魔法使いは、戦い慣れしてしまうまえに勝敗を決しなくては思い至りました。このまま火炎にて焼き尽くしてもよかったのですが、自分を技を破った礼はしなくてはなりません。視点を娘の背後にやると先ほどまで石の攻撃を必死に耐えて潜んでいた辺りの大きな岩が目にとまりました。人が五人縦に並んだような大きさの片方に平たい面をもつ灰色の岩でした。この娘の墓標に丁度良い。この岩の下敷きにしそのまま葬ってやろうと妙案を考えたのでした。
魔法使いは手をかざすと大きな岩は音をたてて地面から抜き取られ、宙に舞い上がりました。まるで重さが無いように漂っていましたが、その岩肌から受ける印象はとてつもなく重いものでした。巨石は魔法使いのところまで引き寄せられると彼の頭上で止まりました。
彼女は石の攻撃を受けて打撲で体が痺れて動けませんでした。伏した状態から魔法使いを見上げると勝ち誇った姿にその上には大きな岩が宙に舞っているのが分かりました。多分この男はこの巨石を地面に叩きつけるつもりであることが分かりました。あれを避けるだけの能力はありませんでした。諦めのような気持ちが起こると最後に男に確かめたいことがありました。
「どうして命を狙う?」
喘ぎながら彼女は言葉を発しました。
魔法使いはセラペンスをもうすぐ越えられることに狂喜し答えました。
「お前が災いの種だからだ。このパテリアが滅ぶんだよ。俺達だけでなくお前の両親や兄弟を道連れにしてな」
魔法使いの笑いが高らかにしました。
彼女は帰された答えに沈黙しこのまま自分が消え去ることを覚悟しました。
巨石が振り落とされようとしたいました。彼女はじっと目を閉じ死の到来を待ちました。
空を引き裂く音がして彼女は思わず瞼を開きました。目の前に映ていたのは刃物で切られた様に真っ二つになった巨石とその延長線上、頭から左右二つに切り裂かれた魔法使いの姿でした。一瞬の出来事でしょうか二つに分かれた顔は喜びに満ちたもののままで、当人にも状況判断をするいとまもなく切り捨てられたようでした。
主を亡くした岩は大地に二つになって地面を揺さぶり土煙りを立てて落ちました。と同時に魔法使いも血しぶきをあげ地面に倒れ右と左は分かれて転がりました。何が起こったのか彼女には理解できませんでした。新たな敵というのでしょうか。暫く体を横たえて痛みを堪えていると痺れは治まり起きあがれるようになりました。彼女は魔法使いの遺体に近づきました。屈強な魔法使いが撫防備に殺られてしまうのだろうかと恐怖にも似たものを感じました。戦いが始まってから仕掛けていた探査魔法には誰もこの場に近づいた痕跡がありませんでした。この探査網をかいくぐり魔法使いに全く気づかれず魔法を技を繰り出しているのです。しかも巨石が果実を切るかのように鏡の様な面を作って切り落とされこれほどの鋭い大業は相当な使い手です。しかしそれらしい魔法使いは姿を現すことがなく静まった大地に鳥のさえずりと日の光が降り注いでいるだけでした。
彼女はソシウス助け起こすとやっと彼は意識を戻しました。石が随分からだを直撃していてまだ体が痺れています。
「あんたは大丈夫だったかい」
ソシウスは彼女の事を心配しました。
「大丈夫。魔法で急所は外したから」
「そりゃ良かった」
彼は辺りを見渡し魔法使いが倒されたのに驚きました。
「あれ、あんたが殺ったのか?」
「いいえ、高位の魔法使いがしたようです」
「顔を見たのか」
「見ていません。私たち全てに気配を消して近づくほどの恐るべき使い手のようです」
自分は何故助けられたのだろうと彼女は思いました。密かに自分を救ってくれる魔法使いがいるのであろうか、その人はどんな人なのであろうか。今思い当たるのが兄弟子のグノーの存在でしたが彼は遠くにあって此処にはいないはずでした。今はどこかの誰かに助けられました。しかし彼女を追跡する魔法使いは一人だけではありません。急いで旅を続けなくてはなりません。二人は岡を下り生い茂る草むらに分け入り程なくして道にでました。脱ぎ捨てた背嚢が地面に転がり焼けこげた外套が傍らの草地に落ちていました。これはもう着れそうにもありませんでした。
プエラの姿を探し求め岩の側に近づくと、その蔭で小さくなって怯えている姿を発見しました。彼女は元気な姿を見せるとプエラは涙を流してしっかりと抱きつきついてきました。あまりにも怖かったのでしょう。なかなか泣きやみませんでした。これにはソシウスも同情し敵は全部やっけたから心配ないとなだめたのでした。
プエラは暫くすると気も治まり、ふたりが傷だらけなことに気が付きました。特にソシウスの服は血糊がついていたので気持ち悪そうにしました。そこで彼は近くの小川で服を洗うことにいたしました。
二人は傷を負い手当が必要でした。ソシウスは次の村を過ぎると町になり、そこに自分の家があるので頑張ってそこまで歩み治療することを提案致しました。彼女も打撲が激しく何らかの手を講じる必要性があったので同意いたしました。
かくして、一行は激戦の傷を負ったまま長い道のりを歩んだのでした。
ソシウスの町は緑の屋根にクリーム色の壁をもつ家々が立ち並ぶ町でした。マーレは海が見える港町でしたが、この町は森の緑深い森に囲まれていました。背後にはアグラチオの一つの岳が青くそびえ立ち、朝には町全体を霞が覆いつくすので森の中にひっそりと隠れ住むようでした。ソシウスが案内したのは外れにある一件の家でした。夜に到着したために家並みや町行く人々に出逢うこともなくただ導かれるまま、今宵の宿に到着したのでした。
玄関に立ちソシウスが戸を叩くと中から女性が出て参りました。
「無事に帰って来たのね」
女性は嬉しそうに彼に抱きつくと家の中の方に叫びました。
「お母さん。ソシウスが帰ってきたわ」
すると年輩の夫人が現れ抱擁いたしました。二人の女性はソシウスの様に大きくはなかったものの、随分背の高い人達でした。何処となく親子であることが分かりました。
「お前が怪物退治に出かけたので随分心配したのだよ。もう終わったのよね」
「もちろんだ。そうじゃなかったらここにはいない」
「ならいいわ。もう危険なことは止めて頂戴」
お母さんらしき人から厳しい言葉が発せられました。ソシウスは困った顔をして返事が出来ませんでした。
するとお母さんはやっと彼の後ろに二人の人が立っていることに気が付きました。夜のこともあり闇にとけ込んでいたので、お客さんの事など思いもよらなかったのです。
「あの方たちは?」
「彼女達は俺の仲間さ」
お母さんには暗くてよく分かりませんでした。一人は女性の服装でしたが、もう一人少年のように見えました。すると二人が玄関に近づいて挨拶をしてきたのでした。よく見ると二人とも若い娘で男装の方は服装に反し綺麗な顔立ちをしていました。まったく女っ気ない息子が二人もの女性を連れて来たのでお母さんは慌てて笑顔で迎え入れました。
「突然の訪問でなのでおもてなしもできないけど、お入りなさい」
「有り難う御座います」
二人が招かれるまま奥に行くとそこにはソシウスに似た男の人がくつろいで椅子にもたれかかっていました。突然に訪問者に驚いた様子で夫人が合図するまで口が開いたままでした。年輩の女性がソシウスのお母さん、椅子にもたれかかっていたのは長男の方で最初に出迎えた若い女性は三女でソシウスの姉でした。父親は病気で何年か前に亡くなっておりその姿はありません。皆背が高く一家であることは良くわかりました。
「傷の治療に帰ってきた」
ソシウスはぶっきらぼうに言いました。
「なんだ治療だ。家は病院じゃないそ。唾でもつけておけ」
お兄さんは煙たそうに言葉を返しました。
「酷い言いぐさだぜ。あの娘も怪我しているんだ」
「なに。何故それを早く言わない。それは大変なことだ」
兄はニコニコ顔になって薬箱を探しに行っていきました。お母さんは息子が怪我をしたことを知り大変心配いたしました。よく見ると息子の体には大きな痣が沢山出来ており腫れ上がっていました。同様に娘さんにも白い体にいっぱい痣が出来ていました。お母さんは二人揃って崖から落ちたのではないか思いました。怪物から食べられてしまうことを考えたら傷は軽いともいえましたが素人目にはよく分かりません。まだまだ二人には痛みを耐えている様子が見受けられました。尋ねてみると怪我をしたまま町まで歩いてきことが分かりました。それでは腫れが治まるはずもありません。
お母さんは筋挫傷や酷いときには内挫傷の心配もあるので二人を医者の所へ連れていったのでした。見立て結果どうやら打撲以外の心配はなく医者は二人を安静にさせ、患部を冷やしました。そして二人は湿布を張られ、包帯で圧迫固定をうけたのでした。2、3週間で治りそうなので一安心して一同は家へと帰ってたのでした。
三日が経ちました。この間安静にしていたのでソシウスの腫れも治まり動き安くなっていました。でもまだ痣だらけでした。
「まったく怪物退治の英雄がだらしねえなあ」
小馬鹿にしたように兄はせせら笑いました。これはこの人の癖のようでした。
「なんだ俺の噂広がっているようだな」
自慢そうに弟は鼻を弾きました。
「一人で五頭を相手だってな。それはそん時の傷か?」
「いや違う。もっと恐ろしい敵との戦いの傷さ」
「なんだ、他にも喧嘩してたのか」
お兄さんはあちらこちらに手を出す弟に呆れました。
「もう少しで殺されるところだった」
ソシウスは戯けました。
「その殺されそうになったのは。あの娘が関係しているのだろう?」
間髪を入れずに兄は訊いてきました。
「そうなんだが」
「あの娘何者だ?」
真顔のお兄さんの顔がありました。
「俺も知らない」
怖くなってソシウスは正直に白状しました。
「あの娘。わずか三日で傷が完治してしまっているぞ普通ぢゃない」
「それは本当か」
「痣もすっかり消えて信じられないとお袋が驚いていた」
ソシウスは黙り込みました。
「お前あの娘とともに旅をしようと思っているだろう?」
「それは・・・」
「図星のようだな。だが止めておけ。災いに巻き込まれれるぞ。あの娘にはなにかある」
厳しく戒める兄の忠告でした。
プエラは上機嫌でソシウスの家の門をくぐって庭を躍り出てまいりました。庭には花壇がこしらえてあって色とりどりの草花が花を咲かせていました。蜜蜂が羽音を立てて飛び交い蝶ははひらひらと舞い賑やかでした。
町を出てから急ぎの旅で歩き詰めで疲れ切っていました。足には豆ができるし膝を痛くなっていって、もうこれ以上歩けないと思っていたのでした。ところが旅は三日間のお休みとなりゆっくりのんびりと過ごすことがせて本当に幸せなのでした。三日目には元気も出てきたのでプエラは町を散策に出かけていたのでした。初めて見る町は新鮮でした。海の見える町しかしらない娘にとって山間の町は落ち着いた趣の町に感じました。
「どうしたのですか?」
悩ましそうに首を傾げるソシウスのお姉さんを見かけたのでプエラは声をかけました。
「あら、プエラさんね」
「服のお片付けですか」
プエラが近づいてみるとしまい込まれた服を整理しているように見えました。
「貴方のお連れの娘。服が焼けこげていて可哀想でしょう。調度いい私のお古はないかと思ってね探していたの」
「それは有り難う御座います」
「でもねえ。私ノッポでしょう。合いそうなのないの」
「そうですか」
「だったら私に良い考えがあります。お手伝いお願いできます?」
グレーティアはベッドに横たわり天井にむき出しになった太い梁を眺めていました。それは木の曲がりくねって姿そのままに加工されており四角い建物なのに中は面白いつなぎ合わせをしていました。追われている身を忘れられるような落ち着き感が何故か得られました。それにしてもあの医者の治療はたいしたものでした。わずか三日で傷が癒えてしまったのですから。痣も全く消え信じられないことでした。その時彼女はふと思いました。それともこれは医者の力以外のものなのか・・・・。師匠が亡くなってからいろんな事が起きるものだと思いました。
彼女は魔法使いとの戦いを思い起こしました。あの男はこれといった手がかりもなく自分を襲ってきました。かれらが特定した理由というのが十五、六の魔法使いであるというそのことでした。確かにビルトス先生のご自宅での戦いで変身の術をかけられ娘の姿になってしまったのは事実でした。しかしこの事を知るのは自分とプエラの二人だけの筈です。誰も知るはずもないことなのです。それでも魔法使いたちは状況が分かっているのです。それともあの場所に誰か他の人物が潜んでいて事の全てを見ていたというのでしょうか。それは信じられないことでした。あるいは死ぬ間際の男のかけた技が他の魔術師が承知のものだったというのでしょうか。これで逃れられないと一言を残して魔法使いは命は果てました。それは仲間が捕まえやすいようにしたという意味でしょう。これも十分考え得ることでした。さいわい人間だからよかったものの獣だったらもっと悲惨な状況になっていたことでしょう。もう一つ考えられるのは自分たちの事件とは別に女魔法使いが追われているという出来事が起きており偶然に結びついてしまっているということでした。とするなら女の魔法使いはどちらにしても狙われるということでした。
石を自由に動かす魔法使いは死ぬ間際にある言葉を残しました。それは何故自分が命を狙われなくてはならないのかの理由でした。勝ち誇った魔法使いの言葉は真実を語っていたはずです。彼の残した事実は自分の存在が災いをもたらす者であるということでした。しかも全ての人を巻き込んでこの国を滅ぼすという恐ろしいものでした。
しかし、何故女魔法使いがいることが災いになるのかまったく理解できませんでした。それは女魔法使いがそういう惨事をもたらすということなのでしょうか、それとも自分自体が災いをもたらすということなのでしょうか。自分は意識して世界の破滅を志したわけでもなく、ましてや、親兄弟を不幸に陥れようなどと思いも寄らぬことなのでした。自分は追ってを恐れていました。しかし彼等はもっとこちらを恐れていたのでした。正体不明のものたちはいったい何に危機を抱いているのかまるで分かりません。しかし一方先生は自分に何らかの期待を抱いてらしたのも事実。命を捨てて自分を守って下さったからには世の役に立つと思われたからに違いないのでした。
片方からは忌み嫌われ恐れられ、もう片方からは希望を抱かされるものとはいったいどんな存在なのだろうかと彼女は空気をつかみ取るように思弁を繰り返していました。
空回りする思いに疲れはて部屋を出ると明るい庭先に向かいました。
庭には椅子にもたれた未だに体を包帯で巻き付けたソシウスの姿がありました。
「大丈夫ですか」
「あんたも大丈夫か?」
声に気が付くと彼は体を起こしました。
「随分酷かったようですね」
「なあに。腫れも引いたしもう大丈夫だ。それより其方は完治のようだな」
「おかげさまで、医者の治療のおかげです」
「そうとも思えないが。まあ、そこに座らないか」
促されて彼女は椅子に腰掛けました。
「あんたは不思議な人だ。その年で魔法が使えるし。傷の治りも早い。普通の人には思えないが」
「いたって普通ですよ」
「ところで、俺を相棒と認めてくれたかな」
「仕事の話ですね」
「それでしたら、魔法使いから狙われたことでも分かるでしょう。私の近くにいては危険です。」
「此方を心配してくれるのは有り難いねえ。なら代わりにこれまでどんなことが起こったのか話してもらえないかな」
「それは・・・」
彼女は躊躇し口をつぐんでしまいました。
「それも叶わないというのかい。それだけの働きはしていると思うが」
不機嫌そうな顔をソシウスはしました。
命を懸けて守ってもらった恩義もあり、彼の願いに背くことは礼を失するようでした。意を決したように彼女はこれまでのことを説明いたしました。それはソシウスにしてもまだ謎だらけの出来事でした。
「なるほど難儀なことだ。女に変えられ上に命を狙われているとは」
感嘆しソシウスは呟きました 。
「ですから私と共にいるのは危険なのです」
「となると、いつまでもここに逗留するのは問題だな」
「私は明日には旅立ちます。プエラはここに残していきますので宜しくお願いします」
「なに言っているんだ。俺も行くんだよ。アデベニオのトゥーリス寺院に」
ソシウスは本気のようでした。
「話を聞いていたんですか」
彼女は椅子から立ち上がり何故という仕草をしました。
「実は女が相棒でのはちと無理があると内心思っていたんだけど、その心配もなくなったし本気であんたと組みたくなってね」
「それは他を探しなさい。とにかく明日は私一人で行きます」
彼女は声をあらげていると近寄ってくる人の姿がありました。
「私を置いて行くだなんて、なによそれ」
プエラが彼女の後ろに立っていました。すごく怒っているようです。
「服が焼け焦げてみっともないから、お姉さんにお店を紹介してもらって買って帰ってきたというのになに、その裏切り」
不意打ち彼女は返す言葉が見つからずおろおろするばかりでした。
「バツとして今日からあなたはこれを着なさい」
プエラは抱いていた包みを彼女に胸に投げつけました。
「さあさあ着換える!」
「まあ、かわいい」
お姉さんははしゃいだように言いました。
「お似合いよその服」
お母さんは感心したように頷きました。
「ちょいと男心くすぐるな」
お兄さんはニヤニヤしていました。
「これが私の見立てた服なの。どう似合うでしょう」
プエラの前に引き立てられたのは無理矢理綺麗に着飾られたグレーティアでした。やたら目立つ服装なので果たしてこれでいいのか非常に悩ましいことでした。プエラの感覚は実用より綺麗さ優先なのでした。
「その服だったら髪はこうね」
お姉さんも加わっていじり回します。彼女は硬直したまま動けませんでした。
やっとお披露目が終わると、ソシウスはそっと肩に手を置くと言いました。
「同情する」
翌日彼女らは旅の支度をしていました。
怪我をしていたとはいえ長くこの地にいてしまいました。町では魔法使い達の遺体が発見され話題になっていました。巨石が真っ二つにされ、その傍らには何人かの切り裂かれた死体が転がっており魔法使い通しの戦いがあったのだということのようでした。
このことは追っ手にも既に知れ渡ってしまう事でしょう。そうすれば追跡の輪が狭まってしまいます。一刻も早くこの地を離れるのが良いようでした。
彼女たちは背嚢を背負って庭先に出てみるとソシウスが一頭のロバに鞍を付けているところでした。鞍は乗るためというより荷物を背負わせる為のようで旅の荷物が地面に置かれてありました。
ソシウスは二人に気が付くと陽気に語りかけました。
「旅の準備は出来たようだな」
「それはなんなの?」
プエラが尋ねます。
「旅の支度に決まっているだろう」
「もしかして、一緒に来る気?」
来て欲しくないというそぶりの言葉でした。
「そうだけど」
「あんた、次は助けてもらえないわよ。確実に死ぬわよ」
プエラに眉がつり上がりました。
「そう言うなよ。こんな俺でも役にたつから。さあさあ背中に背負った荷物こいつに担がせようや」
プエラは彼女と目を合わせどうしたものかと思案し連れて行くことにいたしました。三人の荷物はロバの背中に乗せられ、身軽な旅が出来そうでした。グレーティアは背嚢から解放されたので腰に提げていた剣を背中に背負いました。
ロバの背中にはいろんなものが袋に入ってくくりつけられていましたが、ソシウスの獲物の斧はいつでも取り出せるように剥き出しでした。
三人が旅の支度をしているとソシウスの家族がそのことに気づき引き留めました。しかしソシウスは意志を貫き家族は諦めまたのでした。こうして僅かばかりの休息の日々は終わり逃亡の旅は続いたのでした。
「ここら辺の地理については俺に任せておけ」
自慢げにソシウスは胸を張りました。
「大丈夫かしら」
皮肉っぽくプエラは返しました。
「魔法使いが殺されたので敵はこの一帯に捕り手を集めるはずだ。このまま東に進んではその網にかかってしまう。そこでだ、一旦北東のカーボまで歩を進め西北に進路をとり山越えの道を進む」
「また山越えなの。迷子になったらどうするの」
もう満腹ですとプエラは言いたげでした。
「俺の本職は木こりだぜ。山のことなら任せときな。誰も知らない山道を行ってみせるからな」
彼の言うとおりでした。このまま主要道を進んではみすみす捕まるようなものです。敵を振り切る道があればそれにこしたことはありません。ソシウスの提案に従って山越えの道を目指すことに致しました。
やっと敵との遭遇です。逃げているくらいなので当然その実力には差がある訳で
ここで物語は終わってしまうところですが、謎の者に助けられちゃいました。
主人公達は果たして目的地までたどり着くことが出来るのでしょうか。
ところで、この魔法ものの物語を書いていて疑問に思ったのが「魔法」と
「超能力」の違いです。これってどう違うんでしょうか。
特にこの物語は魔法の技に制約を加えているので超能力と違いがないのです。
例えば主人公は好んで雷撃を使用しますが「とある科学の超電磁砲」の御坂美琴の
技とどんな違いが有るというのでしょうか。
科学用語を使用したのが超能力で、呪術用語を使用して描いたのが魔法てことなんでしょうか。
主人公が雷撃を使用しているのは、作者がRPGで雷攻撃を好んで使用するからでしてもちろん低レベルながら他の技も使用は出来ます。