第4回 旋風とともに
<登場人物>
ビルトス 主人公の師
グノー 主人公の兄弟子
グレーティア 主人公
プエラ 主人公の幼なじみの娘
ソシウス 斧使いの大男(旋風のソシウス)
ホスティス ヘテロ国魔法宰相
セラペンス ビルトスと死闘した魔法使い
ペコー セラペンス配下
二人は戦場となる隣村に急ぎました。あまりゆっくりして村への到着が夜になっては不味いからでした。森が今までとは違うように感じられました。やはり張りつめた緊張感からでしょうか森の小動物のたてる音に敏感になりました。夕方近くなって村ももうすぐのはずです。ここで彼女は立ち止まりなにやら呪文を唱えました。
「どうしたの?」
不思議そうにプエラは訊きました。
「ビルトス先生のお墓に仕掛けたのと同じもの。僕を中心に二百歩以内に大きな生物が侵入しようとしたら報せてくれるようにした」
「それなら不意打ちなしね」
これで安全でした怪物とはいえ相手は狩りをしているのです。正面から姿を現すより、警戒していないところを背後から襲うのは当然のことでした。もちろん相手は大きいので葉を踏む音とか鳥が逃げ飛び立つ様子で敵の侵入を察知出来はしますが魔法による探査は確実でした。
暫く歩くと青い小さな光が彼女の前で点滅しました。
「来たよ! 左後ろ、密かに背後から機会を狙っている」
「えっ」
思わず振り向きそうになりました。
「動かないで。雷撃の一撃で倒すから。」
「分かったわ」
「君が前を行って。振り向きざま技を放すから」
少しずつ二人は入れ替わりました。二人は沈黙し足音が高まる緊張を押し上げました。鳥のさえずりも聞こえません。
突然背後から小枝が一斉に折られる音がし、地面に地響きがしました。待ちかまえたように彼女は振り向き、怪物の姿をその眼にとらえました。それは大きな狼でした。鋭い牙に凶暴な目、赤色い体は中に舞い此方に飛びかかっていました。獲物を恐怖で動けなくするような低い心臓をえぐるような咆哮が襲いかかかりました。
彼女は印を結び技を放すと稲光が空気を引き裂き真っ直ぐに怪物を貫きました。怪物はは飛びかかった姿のまま彼女らの傍らに地響きを立てて落ちました。土埃が舞い、肉を焼いたような焦げ臭い匂いが怪物から漂ってまいりました。
「仕留めたと思うけど」
注意深く警戒して彼女は怪物の様子を窺います。じっと彼女は怪物を見つめました。
「ブエラ大丈夫みたいだ」
戦いは一瞬にして勝負がついたようでした。
「すいごい。すごい」
プエラは興奮気味でした。
怪物の横たわる姿を見て、こんな大きな生き物が今さっきまで動いていたかと思うと不思議でした。ふとプエラは振り返ると彼女はじっと自分の手を見ています。倒した怪物でなく自分の手を見ているなどとは変でした。どうしたのだろうと少女は訊ねました。
「どうしたの?」
「魔法の威力が増している」
彼女は驚いているようでした。
「そうなの」
「魔法の言葉が変化したんだ。一つ上に上がった感じだ」
「それはよかった」
「もうひとつ変わったことが、直に技を出せるようになった。」
「どういう事?」
「今までは技をかけると何か目の前に障壁があるような感じだったんだ。語られた言葉がいちいち翻訳されて伝えられるような。ビルトス先生を助けようと放った時もそうだった。けれども今は障害がなにも無くなったみたいに言葉がそのまま技となっている。今の方が身が軽い感じなんだよ。これはどうしてなんだろう」
「成長したて事なんじゃない」
「成長?」
「旅をして成長しているのよアナタは」
そうかもしれないと彼女は思いました。
これで怪物は残り四頭です。その前にこの怪物はソシウスという男が倒したという事にしなくてはなりません。かれは大きな斧をもっていたという記憶があったので魔法を使って額に一撃、首の頸動脈に一撃を与え、あたかも斧で斬り殺されてようにみせかけました。そして素知らぬ顔をして村に向かったのでした。
二人が村に到着してみると、そこは異様な雰囲気に包まれていました。村を囲むように柵が作られまるで戦場のようです。その柵は慌ただしく作られたようで木の一本一本が不規則で大小さまざまの木によって作られていました。しかもまだ枝までついた木があるのでいかに慌ただしく作成したのかわかります。柵の外には先を尖らした木が斜めに埋め込まれ外敵の侵入から村を守っていました。村の入り口には警備の兵隊が門を守っています。
二人は砦化した村の門の守衛にソシウスに面会に来たと伝えると、この様な危険な所に娘が二人危険を顧みずやってきたことに驚いた様子でした。直ぐに報せに行くと村の奥から一人の軍服姿の男がやってきました。
「ソシウスを娘が訊ねてきたと聞いたがお前達のことか」
厳めしい顔の人でした。
「はい、ソシウスさんにお話があってやって来ました」
男に人は迷惑そうな顔をしました。
「ここは危険なんだ。女子供の来るところじゃない。とっとと帰れ」
「帰えろと言われてももうすぐ日が暮れてしまいます」
無慈悲なことを言ってしまってようだと男は反省しました。
「まあ、村に入れ」
「有り難うございます」
「儂はこの村の守備を任されている軍の指揮官だ。ソシウスは儂の甥にあたる。お前達の顔は初めて見るが・・」
「伝言を頼まれまして」
「伝言? まあよかろう。ソシウスに会わせてやる、ついてこい」
ぶっきらぼうにいうと男はどんどん村の奥に進んでいきました。見失っては大変と二人は後を慌てて追っかけました。
村の中はあちこちらが壊されていました。このなかで怪物との戦闘が行われていたようです。よくみると壁に黒いシミのようなものが見えます。血の跡です。民家に村人らしき姿を発見いたしました。彼等は疲れ切って怯えたかのように建物の隅でうずくまっていました。村の中は兵隊達だけが村の往来を忙しく動き回っており、子供達が無邪気に遊ぶ姿などは見受けられませんでした。
司令官は町の中央にある一件の家へと二人を連れてきました。ここには軍の旗や槍がたち、どうやら作戦本部の様でした。マーレという平和な町に育ったせいかこの様な軍隊の姿は見たことがなかったので二人には大変珍しがりました。二人を残して男は建物の奥に入って行き、暫くまっていると中から別の男の人が出てきました。
歳は十八歳くらい、背丈が高く大男でした。眉は太く目はぎょろっとして顎は頑丈そうでした。引き締まった筋肉に斧を余裕で振り回せそうな太い腕をもっていました。
「俺に会いに来たてのは、あんた達かい」
彼は気さくに話しかけました。
「初めまして、私共はあなたに内密なお話がありましてお伺いいたしました。お話をお聞き頂ければ大変光栄ですが」
「俺に秘密の話か。ははは面白い」
彼はかわいい闖入者に大いに気に入ったみたいでした。早速、庭の片隅に設けられた席に案内すると向かい合わせに着席しました。
「この度の怪物退治。なかなかご苦労なされているご様子」
「まあ、素早い奴でなかなか捕らえられない。なあにもう少しだ」
嫌なこと言う娘だと彼は思いました。
「あなたは軍の者でないのに何故この捕り物にご参加されているのです」
「あの指揮官は叔父でな。俺は腕には自信があるので手伝いに来たのさ」
「お手伝いですか?」
そうではないでしょうと娘は言いたげでした。
「本当のところは売名行為かな。化け物を倒せば有名になると思ってな。俺は本当は木こりでな勇者のソシウスになりたかったのさ」
「ならば、その夢叶えて差し上げましょう」
面白いことを言う娘だと男は思いました。
「子供に何が出来るんだ」
「私は魔法使いです」
男は意外そうな顔をしました。魔法使いはほとんどが男です。特殊なエリートみたいなものです。もちろん女のそれがいないわけでもないのですが珍しいことでした。しかもこの様な若い娘が魔法使いだなんて信じられませんでした。でも仮にそうだとしても女の魔法使いはもっぱら治療術なので、けが人の手当に便利であるとは思えました。
「信じられんな。仮にそうだとしても俺が怪我したら助けてくれるというわけか」
「いいえ違います一緒に怪物を退治するのです」
「一緒にか。まさかおまえ戦えるのか?」
「はい攻撃魔法が専門です」
娘から意外な言葉が返ってきました。
「俺が信じられる証拠がないか」
「御座います。今来る途中怪物の一頭と遭遇し魔法にて撃退しました。村の直ぐそこですから確認に行かれたらどうでしょう。それを見てお考え下さい」
男は跳ね上がりました。あんなに軍隊が苦労してなんの成果の上げられないのに、こんな娘が容易く怪物を仕留めたなどど信じられませんでした。
「怪物はあなたが斧で斬り殺したように細工しておきましたから他の者には私のことは秘密にしあなたが仕留めたと伝えてください」
「よし分かった。見てきてやる。嘘だったら怪物の餌食にしてやるぞ。ここで待っていろ」
そう言うと彼は馬小屋から馬を引き出し娘の言った所まで馬を走らせました。
話の場所に着いてみると確かに怪物が一頭地面に横たわり死んでいました。証拠を突きつけられても、あの娘が殺ったとはにわかに信じられませんでした。死体はまだ暖かく娘たちがやって来た時と符合します。あの娘本当に魔法使いなのだと彼は思いました。
「いかがでしたか。信じますか?」
娘の落ち着いた問いに、あれだけの戦いをして平然としているとはなんという娘なのかと空恐ろしくなりました。
「信じよう」
「では、あれはあなたが殺ったことになさいましたね」
「約束通り、お前達の名前は出していない」
しかしここで彼は疑念が湧いてくるので訊ねます。
「どうして俺を助ける。軍の指揮官でもいいだろう」
「私が魔法使いである事を多くの人に知られたくないだけです。これは私達とあなたの秘密です」
「分かった。それで俺は得するだけだが。お前達は何の得がある?」
「人知られずここを通過するという得があります。名誉はあなたに。私たちは霧の中に」
この魔法使いの娘は人知れず旅をしたいのだと理解いたしました。その理由は分かりませんが取引は成立したようでした。
「今夜、怪物を退治いたしましょう」
彼女は提案しました。
「では指揮官に報せ、準備しよう」
「お待ち下さい。これは二人で密かに行います」
「二人でだと!正気か」
四頭を相手にたった二人とは驚きました。大胆な事をいう娘です。
「奴等は何処にいるのか分からないのだぞ。どうやって探す」
「大丈夫です。第一に仲間を殺されたことで向こうから復讐にやってくるでしょう。それに私には彼等の居所がわかります」
「そんな事も出来るのか」
怪物は嗅覚と聴覚に優れなかなか捕まえることが出来なかったのですが、それが本当であれば対等に戦えるかもしれませんでした。
夜、上弦の月に照らされていましたが森は真っ暗でした。梟の鳴く声が森に響き渡ります。村は陣内のかがり火によって一晩中明るさを保っていました。今宵も怪物の襲撃を恐れて警戒しています。指揮官は今夜の作戦を練っていました。彼の甥が一頭を仕留めたののでこの死体を利用し一網打尽にしようと考えていたのでした。それにしても甥がこの様な働きを見せるとは以外でした。口では勇ましいことを言うが実がないと思っていたのですが見直しました。これも美しい娘にそそのかされて危険なことをしたのであろうと思えたのでした。
「仲間が殺された事を怪物達はもう分かっているはずです。私の倒した怪物は多分彼等の斥候でしょう。怪物は今夜この村近くにやってきます。死体はこの村に運んでいますので指揮官はこの村の周囲に罠を巡らし捕獲するつもりでしょう。この罠に私たちが引っかかっては笑い者です。罠の位置はご存じですか」
「それは全部把握している」
「結構です」
「それより奴らの居場所が分かるというには本当か?」
するとかの彼女は小さく呪文をと唱えると小さく青く輝くものが現れました。
「探査して見ましょう」
すと小さな光は八方に飛び去りました。初めてみる物に男は興味深くその様子を眺めていました。
「北東の方向に彼等はいます。まだ遠いようです」
男は驚きました、この場でいながら敵の様子を探ることが出来るだなんて全く信じられませんでした。この娘何者なんだ。男には優美な容姿を持つ娘が外見に反して人並み外れた能力をもつことが理解できませんでした。
「風はこの時間はどちらから吹いていますか?」
「確か、東からだ」
「では私たちは風下の西側から迎え撃つとしましょう」
「そうだな」
「その前に、あなたは正面入り口から守衛の前を通って外に出られますが、私が外に出る為のくぐれる位の柵の隙間はありませんか」
「それだったら、あの建物の裏に丁度よく開いている」
「では外で落ち合いましよう」
男は支度に出ていきました。
「グレーティア大丈夫?」
プエラが口を開きました。
「心配しないで。本当は一人でも退治できるんだけどね。彼に倒してもらわないといけないだよ」
「そうならいいけど」
「君はここで待ってて」
「私も行きたい」
「だめだめ。君には此処にいて、僕が外に出たと気がづかれない様にして欲しいんだ」
「自信があるならそれで良いけど」
プエラは不満そうでした。
二人は村の柵の外で合流しました。男は肩に長い棒に大きな斧付いた武器を担いでいました。このような大きな武器であれば怪物も十分倒せそうでした。守備隊に見つからないように注意深く村の畑を横切ると森に逃げ込みました。辺りは暗く洋灯を照らして森の奥へと進みました。
森の中探査の目は走ります。
「敵を補足しました。直ぐ近くです。照明は消しましょう。あの斜面にて様子を窺うとしましょう」
敵の進路方向からいってこの位置に待ちかまえるのは有利でした。不意を襲われて怪物達は混乱することでしょう。男の斧を持つ手が強くなりました。
「なかなか抜け目ないようです。敵は進路を南に変えました此処では離れてしまいます。追いかけましょう」
怪物の突然の進路変更。その前に一瞬移動が止まっていたことがありました。この瞬間、敵は行く手に罠が待ちかまえていることに気が付いたのです。なかなか抜け目ない敵です。
二人は怪物達の背後に回りました。じりしりと敵に近づいていきます。
「攻撃の瞬間、魔法の照明を照らします。くれぐれも同士討ちが無いように」
「そんなヘマはしないさ」
二人が顔を見合わせた時、彼女は顔色を変えました。
「敵は密かに一頭を我々の背後に回らせました。完全に此方に気が付いたようです」
「けっ。なかなかやるじゃないか」
「では私達は敵の罠にかかってあげましょう」
「おいおい降参か?」
「敵は我々に追跡させこの先のすり鉢状の窪みに誘い込み逃げられないようにし、前の敵に警戒したところを背後から襲わせ混乱させてから全員で殺すつもりのようです」
「畜生のくせになんて賢いんだ。これまで手も足も出なかったはずだ」
男は悔しがりました。これでは人間が優秀という誇りが傷つけられてしまいます。
「それを逆手にとります。あえてそのすり鉢状の地形を利用し怪物を逃げにくくし、一網打尽にするのです」
「恐ろしいなあんたは」
男は智慧深い娘にまったく参ってしまいました。
「すり鉢の底に降りたら敵はすぐ背後から襲うでしょう。背後の敵は私が倒します。あなたは前面の敵を相手してください。背後から地面を蹴る足音がしたら一気にかたづけます」
「良し分かった」
「あなたが失敗したときは、すり鉢の地形ごと吹き飛ばします」
彼女は一言付け加えました。
「おいおい恐ろしい事を言ってくれるな。俺を信じろ」
前方に枝の折れる音がします。敵は間近です。
怪物達は気づかぬふりをしてどんどん南へと向かって行きます。もうすぐ村の近くです。怪物は斜面を下って底に降りると再び反対側に上っていきました。ここがすり鉢の地形。決戦の場です。男に武者震いが起きました。
二人は意を決して谷に降りました。
男は正面の敵にカッと目を見開きました。その時です背後から地面を蹴る足音。その瞬間魔法の明かりが点され、辺りを昼のように明るくしました。
背後には口を大きく開き飛びかかる獣の姿がありました。待ち構えたように彼女は転身すると稲光をその怪物に放出したのでした。獣は一撃をくらい一瞬で命を奪われ音を立てて転げ落ちました。前方では獣たちは魔法の強い光に目がくらみ男を一瞬見失っていました。男はその短い敵の隙をついて一瞬のうちに目の前まで詰め寄りました。彼女は後ろの敵を始末した後、前面の敵を相手にしようと振り返ると、男が三頭を相手に戦っている姿が目にはいりました。三頭の動きは激しく、狭いすり鉢の中の土地に旋風が起きているかのようでした。でもそれより驚いたのが男の素早でした。男は大きな体をしていましたがその動きは敏捷で大きな斧を持っているというのに三匹の獣を相手に早さでは負けてはいなかったのです。男の意外な姿でした。彼女は他の獣も自分が仕留めようと考えていたのですが両者に動きについていけず、技を放しても味方に当たる恐れがあり手出しが出来ませんでした。
男の動きに付いけず一頭が背後を取られました。斧の煌めきが空気を切りました。獣は背骨を断ち切られその場に倒れ込みました。側方から別の一頭が襲いかかるのを低く身を落とすと一気に後ろ足をなぎ落とし、大きく翻ると飛びかかって来た敵の額をうち砕き地面に切り落としました。そのあと足を切りとられ前足で這いながら逃げる獣の首をたたき落とすと。最初に背中を断ち切った敵に留めを指しました。
返り血を浴びて男は肩で息をし、やがて地面にへたりこみました。
「おみごとでした。わたしの手は不要だったようです」
彼女は手を差し伸べると、男はよろよろと立ち上がりました。
「いや、これはあんたのおかげさ」
この激闘の場面に平静に立つ少女に男は崇敬の念を持ちました。
「私の倒した敵もあなたの斧の傷を付けてください。それでこの戦いは完了です」
男は血まみれになって村に帰ってくると陣内は大騒ぎ、指揮官はなにごとがあったのかと甥に問いただしました。彼が怪物四頭を始末したとことを告げると、全員信じられないような顔をしました。甥の言葉がにわかには信じられない指揮官でしたが、日頃から嘘をいう甥でないことを知っていたので早速怪物の遺体を検分に出かけました。連絡の様にたしかに獣の死体が四つありました。甥はよく一人で怪我もなく退治できたものであると指揮官は感心しました。その夜は緊張から解き放されてか村人も兵隊もお酒を交わし大騒ぎ。
新しい英雄に話題がもちきりでした。
「魔法使いのお嬢さん失礼するよ」
ブエラと彼女が部屋で話をしていると男がやってきました。すこし酔っぱらっているようでした。今日は彼が主役ですから当然でした。
「あんたの助けがなかったら退治できなかった。礼を言う」
「いえいえ、あなたの働きは鬼神の如くでしたよ。私の手など必要ありませんでした」
「本当は今日はあんたと俺の手柄だ。なのに俺だけがお祝いされては気が引ける。あちらには美味しい料理も出ているし喜びを分かち合って欲しいのだ」
「しかし」
彼女は人前にでるのが恥ずかしいようでした。
「いいじゃないの。いきましょうよ」
プエラは待ってましたとばかりに彼女の手をとります。彼女はしぶしぶ御輿を上げました。
宴席では村中総出で大騒ぎしていました。彼は彼女を連れてくると主賓の席に座らせました。
「ちょいと席を外したと思ったら美人の娘を連れてきたか、さては酒の酌でもさせる気だな。英雄色を好むかな」
叔父ほろよいかげんで甥をからかいました。
「まったく何言っているんだ。お客さんに失礼な。俺がこの娘に酌をするんだ」
「なに、それは奇妙な。主役のお前がなんで世話をする」
「俺がしたいから、するんだ」
彼はぶっきら棒に言いました。
「なるほど、その娘に気に入られようと。危ない橋を渡ったか」
「なに言っているんだ」
「そういう意味では。その娘のお手柄と言うわけだ。そこの席でもおかしくない」
指揮官は大笑いします。
その夜は遅くまで人の笑い声がしていました。
村に平和が戻りました。
村に静かな朝が訪れました。昨日のお祭り騒ぎでみんな朝寝坊でしたが明るく陽気な一日が始まりました。村人総出で村を囲んた柵が壊されていきます。朝餉に準備に女たちは大わらわ家々のあちらこちらから竈の煙が立ち上ります。村の広場には獣の大きな体が五体集められていました。村の男は自分たちを恐怖の陥れた張本物をまじまじよみました。それは本当に大きな生き物で間近で見たら凍り付きそうなしろものでした。
でもそれより感激させたのはこの怪物をたった一人で退治した英雄でした。彼の偉業はこの村では代々語り継がれることでしょう。村の男達だけでなく女や子供の畏敬の念で英雄を見ていました。子供達は勇者を囲むと我先に抱きつきました。一夜にして彼は人気者になってしまいました。
この様子を傍らで彼女はほほえましそうに見つめると、旅の支度を始めました。
「計画通りね。私たち英雄を作り出しちゃったわね」
プエラがささやきました。
「おかげでこちらに誰も気が付いていない」
「で、彼強かったの彼?」
「強かったよ。敵の位置さえ掴めたらもっと早く倒してたろうね」
「そうなんだ」
プエラはやぼったい男だと思っていたのですが、実はなかなかの腕前であることを知りました。
二人はお世話になった村人に簡単な別れの挨拶をすると兵隊さんやソシウスに会わずに村を発ちました。この村の出来事は旅の思いでに過ぎず、何時までも名残惜しく滞在するものではなかったのでした。目的はあくまでも逃避行なのですから。
ソシウスは眠い目を擦り陣屋に戻ってきました。昨日の夜は夜更かしして、子供達相手に大はしゃぎをする元気はあったもののどうも頭がすっきりしません。少々飲み過ぎたようでした。柄杓で水をすくい一飲みすると幾分か気分がすっきりしました。外では兵士達が片付けをしており、叔父の指揮官はあれやこれや指示に忙しいようでした。酒に強いお人だと彼は思いました。
「なかなか人気者になったようだな」
叔父さんが近づいてきました。
「あんなに喜んでもらうと嬉しいね」
「一族にお前のような強い奴がいると鼻が高い」
叔父さんは満足げでした。
「討伐に参加して正解だったよ。叔父貴感謝する」
「なあに。儂も御陰で任務完了だ」
「報告は?」
「もう馬を走らせている。お前の事をちゃんと報告しておいた。賞金はお前の物だ」
「俺の物か・・」
この時彼は一緒に戦った娘の事を考えていました。(俺だけの力でないのだが)
「ついでに旋風のソシウスという大層なあだ名もつけておいた」
「勝手に命名しないでくれ」
「どうだお前軍隊に志願しないか」
「軍隊? 駄目駄目おれは堅苦しいのが苦手だ」
「なんだ、じゃ木こりか」
叔父さんは不服そうにしました。
「俺ぴったりの仕事を思いついたんだ」
「どんな仕事だ?」
興味深そうに叔父さんは訊ねました。すると話を聞かなかったように彼は辺りを見渡しました。
「見あたらないな。あの娘」
彼は一人呟きます。
「なんだ、あの娘捕まえて女郎屋でもやるのか」
「英雄に相応しい仕事だよ」
彼は言葉を荒らげました。
「あの娘なら先ほど村を出ていくのを見かけたぞ」
「なに、本当か!」
彼の狼狽えた様子に叔父さんは戸惑いました。甥が慌ただしく荷物をまとめて走り出したので、道に飛び出ると駆け抜ける甥に後ろから呼びかけました。
「そんなあわてて何をしに行く。賞金はどうするんだ!」
すると一目散に走っていた甥は後ろを振り返ると返事をいたしました。
「あの娘を捕まえに行くんだよ。賞金は叔父貴にやるよ!」
どんどん小さくなる甥の姿をみて叔父さんは呟きました。
「け、あの娘にいれこみやがったか。賞金はお前の婚礼の資金にしてやるさ」
逃亡の旅で先を急がなくてはならなのに、とんだ事件に遭遇しました。こんな時に限って皮肉なことに障害となることはおきるものです。しかし自分たちの住む世界について初めて実感いたしました。マーレの町からは一山隔てただけなのに反対側ではこの様な大騒ぎが起こっていたのです。まだあの町に住んでいたら、この事件は風の噂に聞く程度で終わり、相も変わらず平穏な日々を過ごしていたでしょう。プエラが平和で退屈しそうだといったことももっともなことでした。投げ出され世界の有りようを初めて知ったようでした。
出来ることなら身の危険が迫っている旅でなく、しっかり社会について見聞を広めるのもであったら良かったのですが、今はそのような事でなく身を守ることが大事でした。相手が強ければ逃げる、これは正しい選択でした。自分の命を守ることは単に自分自身のためでなく、命を守ってくれた先生への恩返しでした。怪物騒ぎではこの様な手段を用いず密かによる村を通過してみてもよかったのかもしれません。でも問題なのが怪物と遭遇した場合それを倒したのは誰かとか、次の村でこの騒ぎで人が通るはずもないのに旅人が平気な顔をして入ってきたら怪しむのは道理でした。追っ手がこの道も何れ探索の手を延ばし逃走方向を割り出すということも十分考えられることでした。計画は思惑通りに進みこれ以上の好結果はないでしょう。
もちろんこれで安心仕切ってはいけません、これまでは追っ手がマーレから辿って此方に迫ってくることを前提に考えていたのですが、もう一つの可能性について考えなくてはならないでしょう。すなわちこれから行く先に既に捕り手が待ち受けていることを。
彼女等二人が次の村目指して歩んでいると、後ろから呼び止める声がしました。小さく背後から聞こえる声に振り返ってみると大きな斧を背中に背負った男がこちらに駆けてくるのが分かりました。ソシウスでした。昨日彼は英雄になり、今日の朝は村人に囲まれ人気者でした。人々の興奮冷めやらぬ間にこんな所を走っているとは奇妙なことでした。なにか急ぐ用事でもあったのでしょうか。
二人は何事かとその場に立ち止まり男がだんだん近づくさまを眺めていました。
「やっと捕まえた」
男はやれやれとばかりに斧を降ろすと、それをつっかえ棒のようにして自分の体を支えました。大きな斧は袋に包まれて冷たい金属の部分は見ることが出来ませんが、多分怪物の血糊が残って鈍く輝いていることでしょう。良くこの様な物を抱えて走って来られたものだと感心しました。どうやら彼女達が目当てであることは明白でした。
「私達に何か用なの?」
プエラが迷惑そうに言いました。
「呼び止めて申し訳ない。まさか直ぐ発つとは思わなかったもので」
「質問の答えてないじゃないの」
「そちらの娘と話がしたかったのだけど」
男はなにその体に似合わずもじもじしました。
「この人あなたに用があるらしいわ。私黙っているから」
プエラは呆れたようにすこし離れました。
彼は外套のフードで顔を隠している彼女の前に来て頭を掻ながら申し訳なさそうに口を開きました。
「俺は、あんたの技に惚れちまったんだ」
彼女は無言で返事をしませんでした。
「俺と一緒に仕事しないか」
続けて彼は直に自分の気持ちを伝えました。求愛の言葉で無かったので助かりましたが、仕事のお誘いとはこれもはた迷惑な話です。
「残念ですが。私の技は未熟ですしあなたのお役にたてません。それに先を急ぎますのご期待に添えかねます」
丁重なお断りの文句が帰ってきました。
「そんなことはない、あの怪物をなかなか仕留められなかったんだ。あんたの力によるところが大きい」
「それは少し早まっただけで、放っていても貴方が退治したことでしょう」
「そんなことねえ。俺はあんたの指示のまま動いただけだ」
「村では貴方を皆が讃えているではないですか」
ソシウスは少しだけ睨みました。
「あんたは俺を英雄に仕立ててそれで去ってゆくのか」
「それはお約束でしたでしょう?」
「俺をちゃんとした英雄にして欲しい」
「そこから先は自分の力で切り開いてください。その能力は御座います」
それでも男は食い下がります。
「あんたの技と俺の力があればどんな怪物が出ても怖くない。ここ最近パテリアでは怪物騒ぎが頻発している。シルバの森やムルティ山脈など限られた範囲でしか生息でていないはずの化け物が村や町で見かけるようになった。パテリアになんらかの異変が起こっているようだ。ここみたいに怪物に襲われて村では困っているんだ。そこで俺達の出番というわけさ怪物退治の専門家として」
彼がしたがっている仕事についておぼろげながら分かってきました。
「では他の方を探して見てはいかがです」
「他の奴といってもアテはないし。それにあんたは実力ははっきりしている」
「申し訳有りませんがお誘いはお断り致します」
彼女は背中を向けると歩き始めました。慌ててプエラも後を追いかけます。彼は拒絶されて意気消沈したしまいましたが、直ぐに気を取り直しました。
「怪物退治は世の中の役に立つ仕事だぜ。あんたの魔法はなんの為にあるんだい」
男も後を追いかけました。プエラは振り返り二人のやり取りを交互に追いかけました。
「自分の身を守るため」
少し間が空いて彼女は答えました。
「そんな優れた技を守るためだって! もったいない。もっと社会の役に立てようや」
何も返事は返ってきませんでした。
「あんたが男装で旅をしているものそれなのかい。まあ、女二人旅はぶっそうだしな。俺を仲間に加えると変なのは寄ってこないぜどうだい。それに初夏で熱いのに無理してずきんを被るのはしんどいだろう」
「私に着いてくると、災難に巻き込まれますよ」
彼女は厳しい口調で警告いたしました。
「面白いや。それじゃその災難てやつを、このソシウス様が撃退したら仲間として認めてくれるな」
「好きにしなさい。私は忠告致しました」
彼女たちはどんどん道を急いで行きました。男はフフンを鼻を鳴らすと勝手に彼女たちの後に付いていきました。
「ねえ、あの人付いてくるわよ大丈夫なの?」
プエラは心配そうに囁きました。
「悪い男でないことは確かなんだけど。どこかで引き離そう」
そのチャンスは必ず訪れると彼女は二人を伴って逃走の旅を続けたのでした。強敵の魔法使い達がやってくれば、この男も太刀打ちできないでしょうから隠れるように旅をしなくてはならないのは変わりませんでした。
ペコーは浮かない顔をして道を歩んでいました。背後に五人部下達を引き連れて道を急いでいたのでしたが、今回の仕事については大きな不満をもっていました。自分ほどの魔法使いがこんな田舎のしかも怪物退治に派遣されるなど心外なことなのでした。たかがジェヴォーごときに自分が行かなくてはならないとは信じられないことでした。彼の実力では100頭を一気に皆殺しにしてもよい位だったのです。彼は怒りを込めて現地に到着しだい早々とかたをつけて引き返そうと思っていました。
この国一の噂に名高い魔法使いがマーレに潜んでいるとの情報がもたらされ是非ともその捕り物に加わり敵の技をこの目で見たいと願っていました。セラペンスは彼を非常に馬鹿にしていたようで、ペコーを退けていました。俺の魔法の技がそんなに彼奴等より劣るのかと、彼奴等殺されてしまえば良いのにと思っていたところ、セラペンス達が相打ちになったとの情報を得ました。そらみろと嗤笑したものの、悔しさで一杯でした。次に魔法使い等に命じられたのは、「マーレより十五、六の娘の魔法使いが逃げたので殺害せよ」との指令でした。おそらくはセラペンスの事件と関係した娘であろうことは察しられ、普通女の魔法使いは若くして成り難くあの魔法使いの弟子であるという可能性が高いということは分かりました。
その娘、俺の手で始末してやると意気込んでいたところ、またもやジェヴォー退治という命令を受けてしまい彼の望みはうち砕かれてのでした。早くこの件を片付け復帰しないと他の仲間が娘を始末しそうでした。焦りの心が彼の中に渦巻きました。かくしてペコーは五人の戦士を引き連れ強行軍をして、怪物の出る村にもう少しのところまでやってきたのでした。
夜通し歩いて仲間も少し疲れているようでしたが、程なくして村に到着すればゆっくり休ませその間自分一人でジェヴォーを始末しよと考えていました。森をどんどん奥に進んでいくと、反対側から人がこちらに歩いてくるのに出くわしました。
彼は意外そうな顔をしてその旅人を見つめました。
(ここは既に村近く、怪物が襲ってくる危険性もあるのに何故人が往来しているのだ)
見れば軍隊でも無いようであるし、しかも三人と少人数でした。
ほどなくその姿ははっきりとし一人は少年、一人は娘、一人は大きな青年で有ることがわかりました。
(怪物は何処かに移動したのか?そうでなければ彼等の行動は無謀しすぎる)
ペコー等六人は西へ、旅の三人は東へ、道の反対側からやって来た集団は出逢いました。
「そこの方、お尋ねいたす」
ペコーは立ち止まり三人を呼び止めました。
「なにか用か」
大きな体の男が前に出ました。
「ここに怪物が出るという話を聞いたが今はいないのか」
「ああ、退治されたんだよ」
ペコーは苦い顔をしました。
「村に行ってみれば分かる」
そう言うと三人は去っていってしまいました。
まったくなんと自分はついていないのだろうとペコーは思いました。強行軍でやっと辿り着いたかと思いきや用無しなのですから。あのような旅人が往来するくらいだからその情報は本当であろうと彼はとらえました。どんどん遠くに去った行く後ろ姿を彼は恨めしそうに見つめました。その歩く姿をて彼は思いました。先ほどは気が付かなかったがあの少年は男装の娘だなと。
半信半疑で村に辿り着いてみると、そこは後かたづけの真っ最中でした。村の人々は怪物など何処にもいないような 陽気さに満ちていました。子供達が英雄ごっこで塀の上に上り上がり飛び降ります。一行は軍に司令官に面会に行きました。
「怪物退治にこられたと」
指揮官は気の毒そうな顔をいたしました。
「我々の到着するまえに全て終わったと聞き及んでいます」
ペコーは煮えくる感情を殺して静かに挨拶しました。
「実はそうなんです。昨晩怪物は退治されました。せっかく救援にお出まし頂いたというのに申し訳ない」
「いや、それは喜ばしいことです。貴殿の勝利をお祝いいたします」
儀礼的な賛辞を述べると指揮官は苦笑いをいたしました。
「我々が退治したのではないのだよ」
意外な言葉にペコーは何事が起こったのか興味が起こりました。
「儂には甥がいて、怪物五頭を一気に昨日仕留めたのだ」
「ご親族の方が全部ですと」
「しかもたった一人でだ。狡猾な化け物のなかなか捕まえられなかったのだが、一匹を仕留めたので他の仲間が復讐にきたところと平らげたといったところだ」
普通の者が五頭を相手に完全勝利とは考えられませんでした。
「その怪物の死体を検分したいだが。宜しいだろうか」
「それはかまわん。案内しよう」
連れら行ったのは村の広場でした。その一角に幕で覆われたとところがありそこに死体はありました。赤毛の毛に覆われた獣が五頭大きな体を横たえていました。それは動くことなく目を閉じ肉の塊と化していました。
指揮官の述べたことは本当でした。それでもたった一人で仕留めたとはにわかに信じられません。魔法使いの自分であれば十分可能。あるいは引き連れてきた剣士五人が相手ならこれでも達成は出来るがこちらも無傷とはいかないのが正直なところでした。
ジェヴォーの死体を見ると大きな傷跡。肉が切り裂かれ骨が絶たれていました。かなり大きな得物で切断されているのがわかります。赤毛に吹き出した血がこびりついてさらに死体を赤く染めていました。一頭は首が無く、その隣に口を上にむけ置かれていました。背中を断ち切られた一頭は白い背骨が外にはみ出ており、その近くのものは足が切り取られ別々に置かれていました。頭をうち砕かれ死んだ怪物の顔は一瞬のうちに殺されたかのように此方に目を見開いて死んでいました。
同様に頭を割られて死んだ獣の遺体を見ました。この死体は何処かほかのもの違ってどこかしら綺麗なような気がいたしました。ペコーは食い入るようにその死体を検分いたしました。
(これは雷撃の後。しかも技を押さえて心臓を確実に狙っている。多分即死だ。この額の傷はその後に付けられたものであろう。すると魔法使いがいたのか?)
彼は自分の推理を確かめるべく最後の死体を調べてみました。
(この死体にはあちら此方に雷撃の傷跡が残っている。先ほどと違って技を押さえるこもなく放ったものだ。しかもこの額と首の切り傷が刃物に偽装した魔法の傷跡)
ペコーはこの戦いに魔法使いが関与したことを確信いたしました。
「昨晩魔法使いはここにいましたか」
「魔法使い? それはいないが」
指揮官は本当に知らないようでした。
「では、あなたの甥御さんに会わせてもらえませんか」
指揮官はまた気の毒そうな顔を致しました。
「残念ながらもうこの村にはいない。此処に来る途中に出逢いませんでしたか体の大き男に」
確かに旅の三人と出逢い、一人は何かを背負った大男でした。あれがこの怪物を倒して男だったのかと記憶の中の姿を捉えました。では魔法使いは何処に?
「甥の奴、昨晩訪れた娘にぞっこんでな。その娘の後を追いかけていってしまったのだ。紹介したかったのだが」
指揮官は口惜しそうでした。
「その娘は昨晩この村にやって来たと」
「おおそうだが。娘が二人連れで甥を訪ねてきた。どういう知り合いか分からぬが、甥はその片方の男装の美しい娘にぞっこんでな勝利の祝賀に娘を引っ張り出すと自分の座っていた主賓の席に座らせてもてなしておった。」
男装の娘と聞いて道で出逢った一行の中にいたフードで顔を隠した少年らしき人物の姿を思い描きました。
(勝利の席で娘を上座に座らせただと。これほどの武者男。娘を好きなのではない、勝利者として礼を尽くしたのだ。魔法使いはその娘に違いない。そう考えれば辻褄があう。雷撃の後がハッキリ残った死体は娘一人で倒したもの。しかも傷跡の小細工をして。そのあと男と共同で四頭を退治したのであろう。こんどは確実に雷撃を押さえ男が殺したように見せかけた。それまで彼は怪物を退治出来なかったところに娘がやってき、途端に解決してしまった。あの娘以外考えようがない)
ペコーにはこの怪物退治の裏側が見渡せるようになりました。この戦いは勇者と魔法使いの共同作業によってなされたものであることを。そこで再び疑念が沸き起こりましたこの娘何故、正体を隠す?男の活躍劇に仕立てる必要があるのであろうかと考えました。
(この娘、まさか十五、六なのか。我々が仕留めようとしているのはこの歳の魔法使い。世の中に若い女の魔法使いはいないことはないのだが、技の傾向が違うし仮にそうだとしても貧弱なはず。ところがこの娘の雷撃は若い青年の様な戦気に満ちている。そういえばこの道はマーレより山越えして北に向かう道。十分その可能性はある)
自分の出した結論にペコーは興奮気味になりました。
「その娘歳はいくつぐらいでした」
奇妙な質問をするものだと指揮官は首を傾けましたが
「十五、六ぐらいですかな。自信はないが」
と答えました。
ペコーの眼が輝きました。
不運続きでこんな田舎の雑用を命じられ腐っていたところに、転がり込んだ幸運。このチャンスを逃すまいと彼は思いました。あのいつも見下した眼差しのセラペンスが成し得なかったことを自分が果たせるかと思うと興奮を抑えられませんでした。これでセラペンスという抑圧された石から解放されると分かるといてもたってもおられませんでした。彼は心の中で誓いました。この得物は俺が仕留めると。
「ねえグレーティア。彼て本当に仕事仲間なんて探しているのかしら」
プエラは彼女に肩を寄せると囁きました。
「そうじゃないのかなあ。本人がそう言っているし」
「信じ過ぎじゃない」
「そう?」
「あんた、自分が女の子である事を忘れているでしょう」
「どうして」
「女としての先輩から言わせると無防備しすぎるのよ」
彼女には大男が直に仕事仲間に誘っているとしか思えないのでした。
「ちょっとシャクだけど。あんたは美人の娘なの。変な男なんてわんさか寄ってくるてものよ」
「それで、彼がそれてこと?」
「その可能性ありよ」
プエラは厳しく言いました。
彼女はあまり気にはなりませんでした。それらは払っても払ってもやって来る蠅のようなもので、鬱陶しいことはあっても悩まされるものではなかったのです。むしろ彼女の一番の気になるものは命を奪いに来る魔法使い達でした。このまま見つからずに目的地まで到着出来ないものかと切に願っていました。むしろ何処までも後ろを歩いてくる彼の心配をしていました。彼に関係ないことで危険に巻き込まれては不憫です。どうしたものであるかと彼女は思案いたしました。
師ビルトスの最後の言葉の「仲間が守ってくれよう」と言った最初の仲間が登場です。彼の斧は特大でこれで怪物をばっさりとします。
そもそも現実でも巨大な武器は馬の足を切り落とすとか鎧ごと力技で
粉砕するのに考案されたものです。
かなりの破壊値力があるものの体力がないとだめですね。
怪物のジェヴォーはもののけ姫に登場する狼をイメージして頂ければよいでしょう。この翡翠記では魔法が何でもかんでも出来る様には設定してありません。例えば主人公がワープして逃げるとか変化の術を使うとかです。(ただし終盤の真の敵はこのような敵が登場しますが)
従いましてかなり地味な魔法になっており、アクション優先と言えるでしょう。




