4.部活じゃなくて同好会⁉
「えぇ⁉ ここって部活じゃなくて同好会なんですか⁉」
宮本さんは大口を開けて驚いているが、私は同好会であることを知っていたし、そのつもりでここに来ていた。
そもそも学校のホームページにも同好会と記されていたし、一年生が体育館に全員集う新入生オリエンテーションの部活紹介でも登場すらしていなかったはずだ。
『ごめんなさいね。去年の夏ぐらいから休部してて、活動予算の問題もあるから同好会になったの。来年以降活動する予定の人もいなかったし……。宮本さんは何を見てここに来たの?』
「うぅ……。これです」
鞄の中からごそごそと取り出したのは学校のパンフレットだ。
中を確認してみると、確かに部活動一覧の中にeスポーツ部の表記があった。
「あ、これ去年のやつじゃない? 私が入学したときにもらったかも。見覚えあるもん」
南先輩が「懐かし~」と言いながらパンフレットを眺める。どうやら宮本さんは昨年のパンフレットを見てここを訪れたようだ。
『それとゲーム用インターネット回線の契約が七月末までだから、同好会としてもこの部室で一緒にゲームできなくなるかな。各々の家からBiscordで通話してプレイする感じになると思う』
「ええ⁉ どうすれば同好会から部に戻せるんですか?」
『うーん……。うちは私立で部活動の予算も実績主義だから結構厳しいのよね。生徒手帳にもあるんだけど、新しく部を発足させるための条件として記されてるのが「教員等による推薦、もしくは支援するに値すると思われる活動実績」。要は優秀な外部コーチを招いたりとか、大会で優勝するみたいな実績がないと厳しいかな』
「それじゃあ大会に出て実績を残せば、部として復活できるかもしれないってことですか⁉」
「けど、部に戻すメリットってそんなにないと思うよ? それにメンバーだって……」
南先輩の言う通りだ。別にゲームは自宅からだって一緒にできるし、同好会でも大会には出れる。何より、昨年の時点で来年以降に活動する予定の人がいなかったとココ助先輩は言っていた。
ココ助先輩も南先輩もeスポーツ部として活動するつもりがなかったから同好会になったのだと推測できる。
「私、部活動で仲間と一緒に何かに打ち込んだりするのに憧れていたんです! 中学までは周りに全然人もいなくて、それで入学前に動画でeスポーツの大会を見たときにこれだ!って思って。あと私パソコン持ってないから家でゲームできないし……、それにプロゲーマーのあかちゃんがいるのも運命だと思う!」
「わ、私はプロゲーマーじゃないよ⁉」
いつの間にか私も協力する流れになっているが、今の宮本さんの言葉を聞いてとても断りの言葉は口にできない。
「てか大会に出るならもっと人集めないとじゃない?」
「ですね……いま4人だから最低でもあと一人」
「ん? 私も入ってるのこれ?」
宮本さんの中では南先輩も当たり前のようにメンバーに入っていたみたいだ。
『宮本さん。申し訳ないけれど、私はちょっと事情があって個人情報は出せないから大会に出るのは難しくて……。本当にごめんなさい。けどマネージャーみたいなことはできるから。それと協力してくれるかもしれない人に心当たりあるから声掛けてみるね。だからあと一人かな』
「ココ助先輩! ありがとうございます!」
ココ助先輩もしれっと南先輩をメンバーに加える前提で話を進める。
切り捨て方が無慈悲だ。
「はぁ……。別に数合わせ程度ならいいけど、あんまり期待しないでよ。六人目が見つかったらその人と交代ね」
南先輩はしぶしぶという形で了承するが、やぶさかでないような表情をしている。
「まずはメンバー集めですね! うおおおおお!!燃えてきた!」
その後も宮本さんの熱意とハイテンションに圧されながら、数戦チームデスマッチをして最初の一日が終わった。
そして私は、部として活動する気がないことを宮本さんに言うことはできなかった。
◆
学校から家までの道のりは遠い。
電車を乗り継いで50分は掛かるため、ドアtoドアで片道一時間半は要する。
行きは下り、帰りは上りなので電車が空いてるのが救いだ。
「あかり、復帰したの?」
スマホにはBiscordの個人DMで受信したメッセージが表示されていた。
――もしかしてと思ったけど……。
今日のチームデスマッチでマッチングした野良の声には覚えがあり、対戦ログを確認すると中学時代の先輩と同じアカウント名だった。先輩も対戦ログから私だと気づいて連絡をくれたのだろう。
かつて真剣にゲームに取り組んでいた時の光景が蘇ってくる。
そして、自分にとって嫌な思い出も。
――なんて返事すれば……。
何事においても真剣に取り組むというのは楽しいことばかりではない。
反省し、自分を見つめ直さなければ実力は上がらないし、チーム戦ともなれば仲間との衝突だってある。
ゲームをガチでやるが故の辛さもあるのだ。
――だからこの学校に来たのに。
カジュアルにゲームを楽しみたい。
そう思って私はこの学校に入学した。
けれど、宮本さんの姿を見ていて、とてもチームから抜けたいなんて言い出せなかった。
私はいつだってそうだ。
自分の感情と行動が伴わない。
家に帰るまでの間、私は先輩からのメッセージを見つめているだけで、結局、返信することはできなかった。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
『爆破系FPS』と聞くと馴染みのない方もおられるかもしれませんが、近年ストリーマーさんが大会やイベントなどで打ち込まれている「valorant」というeスポーツゲームがイメージ近いかもしれません。
他にも「CSGO」、「Rainbow Six Siege」、「Call of Duty」シリーズも有名ですね。
ちなみに私は「スペシャルフォース」が大好きでした。(もうサ終してますが……)
10代前半から遊んでいたFPSゲームが、今やプロゲーマーという職業を支える一大コンテンツになっているというのは感慨深いものです。
また本作では、ゲームにそこまで明るくない方でも分かりやすくシンプルな構図を意識して執筆しています。
是非、新堂あかりと宮本歩の物語に最後までお付き合いいただければ幸いです。




