1.U-18 日本代表選考会
「だからなんで予備選手の手配が済んでねーんだよぉ!!!」
部屋から聞こえてくるのは椅子をぶん投げたであろう破壊音。
そして猛り狂った女性の大きな怒号。
――えぇ……。私、今からここに入らなきゃいけないの?
横浜女子との激闘を制してから二週間後。
私は日本eスポーツ連盟からの招集を受けてここに来ていた。
招集の目的は女子高生のeスポーツ世界大会。
eSports Women's World Cup U-18 -ANIMAL BOMB!-。
その日本代表を決める候補選手の選考会だ。
「あなたも今年の候補生?」
後ろから話しかけてきたのは、昨年の日本代表メンバーの一人だった。
ふわりとした内巻きのボブカットに可愛らしい花のヘアピンを差しているのは、北海道函館女子三年、雪城未菜さん。
鉄壁の守りで日本チームを支えたトラッパー使いだ。
「は、はいぃ……。えっと、新堂あかりです」
「あー! 炎上した子だ! 決勝の試合見てたよー。しのりんぼっこぼこに完封しててめっちゃ笑った!」
「あ、え、はは……」
だめだ。この人は陽の人だ。
とても二人きりではいられない。
陽のオーラに当てられてすぐにでも溶けてしまいそうだ。
「あ? 雪城いるのかぁ?!! いるならさっさと入ってこい!!」
「はいはーい! ほら、行こ?」
雪城さんに連れられて部屋の中に入ると、中には暴れたであろうことが一目で分かる横に倒れた椅子があった。
スタッフさんも忙しなく動いていてピりついた空気を感じる。
「監督おひさでーす!」
「おう、よく来たな!」
にかっと笑って雪城さんを歓迎するのは、U-18日本代表監督 足利祭さん。きりっとした目つき。ロングをハーフアップにした髪の毛をお団子にまとめた髪型。どこか和風で中性的な雰囲気を感じる人だった。
元日本代表選手の一人で、世界大会ではキャプテンを務めたこともある方だ。
熱い心と高い求心力。
長年プロゲーマー界をけん引してきた実績。
感情を大きく露わにして観客を魅了する華のあるプレイスタイル。
日本女子プロゲーマーの顔と言っても過言ではない存在である。
一昨年までは現役のプロゲーマーとして活躍していたが、現在は引退して後進の育成に精を出し、その一環でU-18日本代表監督も引き受けていた。
――あ、神原先輩だ。
私が怖そうな足利監督から目を逸らすと、神原白乃先輩がパソコンの前に座って射撃練習をしているのが見えた。
こんな状況でも黙々と練習できるのはすごい。
「しのりん! 今年もよろしくね~!」
「ちょっと邪魔なんですけど」
「ひっどーい! 久しぶりの再会なのにさ~」
雪城さんは椅子の後ろから抱きつくように絡んでいるが、神原先輩からは冷たくあしらわれている。
昨年同じチームで日の丸を背負った二人だ。
気心知れた仲なのだろう。
「監督ー。夕陽ちゃんってまだ来てないだけ? てか今日って何するの? 去年みたいにAとBで分かれて試合?」
「ほんとに元気だなお前は。もちろん鏑木も呼んでる。ただ……」
例年の代表選考会は、メインのA組6名とサブのB組6名が2チームに分かれ、日本代表選手として登録できる7名の選手枠を目指して試合を行う。
おそらく今年も同じ選考方法を採用することが予想される。
「こっちの連絡ミスで時間通りに来れない選手や参加できない選手が何人かいる。たったの三日しかないってのにふざけやがって……。あーくそぉ!!」
足利監督はその勢いのまま近くにある椅子を蹴っ飛ばした。
部屋から聞こえてきた破壊音は間違いなくこれだ。
そして、とっても怖い足利監督の視線は私へと向かってきた。
「お? お前新堂だよな?」
「は、はいぃ……。し、新堂あかりです。今回は呼んでいただいて――」
「お前A組な」
……ん?
「つーか、いまこの時間に集まってるのは全員A組だ。B組のメンバーはもっと遅れてくる」
「じゃあ夕陽ちゃんってB組なの⁉」
雪城さんが驚いたような声を上げる。
けど、……え?
「いや、あいつはただの寝坊だ。まだ来てないA組のメンバーもいるしな」
「あ、あのっ。なんでA組……。初参加なのに……」
代表選考会に初招集される選手は基本B組スタートだ。
去年の神原先輩もB組スタートで、そこで圧倒的な実力を見せつけて本登録の7枠を勝ち取ったと聞いている。
「別にお前だけじゃない」
足利監督がそう言ったタイミングで、部屋の扉が開かれた。
「ハロゥ! ハロゥ! ハロゥエブリィワン!」
大きな声で元気よく部屋に入ってきたのは、青い目をした薄い金髪の人だった。
山田レジーナさん。昨年の日本代表メンバーの一人だ。
「来たな、英検四級落ちたバカが」
「くっそー。今年はもう通用せんか。去年は見た目と勢いで騙せたんやけどなー」
日本生まれ日本育ち。大阪箕面女子の二年生だ。
去年は騙せたということは、二年連続でこれをやったのだろうか。
そしてレジーナさんの後ろには、私と同じぐらい小柄なツインテールの女の子が着いてきていた。
「あの、すごい音がしたんですけど……。入って大丈夫でした?」
その瞬間、全員の視線がその子に集中した。
東京都花小金井女子一年、兎之山咲。
強者ひしめく激戦区、東京。
その激戦区で弱小チームを優勝に導いた圧倒的主人公。
次世代最強フロントと名高い彼女は、この選考会で間違いなく一番の目玉選手だ。
「今年もイキのいい選手が集まってなによりだよ」
足利監督は私たちを見て不敵に笑っていた。
第二部の執筆を開始しました!
物語は横浜女子との決勝から二週間後を舞台にしています。
時系列的には全国大会も控えているのですが、それまでの物語になる予定です。
もしよろしければ「いいね」また、率直な「評価」や「感想」などをいただけますと幸いです。
執筆の糧とさせていただきます!




