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23.大怪獣バトル

『なんと宮本歩選手はスパイラビットをピックしました! これまでエージェントホークで守護神のような活躍を見せていましたが、ここにきて一番攻撃的なキャラクターをチョイスしています!』


 ホール内に大きなざわめきが起こる。

 相模原女子元部長の小清水里香は高鳴る胸を抑えながら目を見開いていた。


「完全に用意してましたよね、これ」


 隣で現部長の園田敦子ことあっちゃんが呟く。

 ここまで温めてきたのは間違いない。

 決勝の最終戦でいきなりやぶれかぶれの戦術を使うわけがないのだ。

 そして、先ほどのマップの練度の低さを思い出す。


――もしかしてこのマップに絞って練習してきた……?


 だとしたら第二マップであれだけボロボロだったことに説明がつく。

 だが、練習したからといって上手くいくわけではない。

 なんせ相手は女子高生最強のスナイパー使いだ。

 生半可な練度ではむしろ返り討ちに遭うだろう。


『宮本選手が大会でスパイラビットを使用したことは一度もありません。由比ヶ浜女子が準備してきた奇襲と言えるでしょう! 解説のヨーコさんとしてはどう見ますか?』


『いや、めちゃめちゃ勇気ありますよ! だってこれ実戦じゃぶっつけ本番ってことでしょ⁉ 練習で上手くいったからって、普通は怖くてこんなことできませんって! しかも決勝の最終戦でそれやる⁉ 頭のネジ何本かぶっ飛んでるって! Fuck! Fuck! Fuckin' crazy!』


『Fワードはもう少し控えてもらえるとありがたいのですが……。間もなく最終ゲームが始まるようです。全国高等学校eスポーツ選手権大会 神奈川県予選。第三マップ ルインズシティでアタッカーサイドは横浜女子、ディフェンダーサイドは由比ヶ浜女子。ラストゲーム、スタートです!』


 会場が未だにざわついている間にもゲームが開始される。

 誰もが由比ヶ浜女子の動きに注目していた。

 一体どんなゲームになるのか。

 宮本さんのスパイラビットは機能するのか。

 皆が期待していたことはゲームの開幕から起こった。


『開幕から宮本選手のスパイラビットがAエリアから突撃します! 当然、アタッカーサイドの神原選手が操るスパイラビットも突撃中! これはぶつかり合うぞ⁉』


 二体のウサギが曲がり角で接敵しようかというとき、その間を遮るように深い霧と毒ガスが現れる。

 両チームのスモークスキルだ。

 しかし、それを前にして立ち止まるでもなく、二体のスパイラビットはスキル『パニックジャンプ』で宙を舞った。


『地上の視界を塞がれようが関係ない! 二人の主戦場はスモークの上、まさかの空中戦! 大怪獣バトルだあ!』

『なんのゲームやってんだこの二人は! ドラ〇ンボールじゃないんだからさあ!』


 画面には宙を舞った二体のウサギが銃を撃ち合うが、どちらもスキル『エスケープダッシュ』で空中を蹴るように弾を避けあう。

 私と同じゲームをやっているとはまるで思えない。


 一瞬だが濃密な銃撃戦が終わり、両者のウサギが地面に着地すると、今度はスモークの中から目を眩ませるフラッシュが由比ヶ浜女子のほうから飛び出してきた。

 それと同時に由比ヶ浜女子の面々がスモークを突き抜けて飛び出してくる。


『着地直後のタイミングを狙ったフラッシュスキル! 日本最強スナイパー神原選手といえども、目が見えなければただの的って、えええぇ!!?』


 由比ヶ浜女子が上手くフラッシュを当てて神原さんを倒したと思った直後、目が見えないはずの神原さんが倒される直前にスナイパーで敵を一人撃ち抜いた。

 やられたのは清流こころさんのエージェントホークだ。


『神原選手、由比ヶ浜女子の鮮やかな連携プレーで倒されてはしまうものの、フラッシュで目が見えないながらも強引に一人持っていきました!』

『画面真っ白なのに弾当てる普通⁉ これ完全に予測だけで当てたでしょ!』


 あまりにもレベルの高すぎる応酬を目の当たりにして言葉が出ない。


「部長、これ参考にならないっす……」


 あっちゃんが顔を引きつらせながら呟く。

 その表情からは「来年もこいつらとやらなきゃいけないの?」という絶望感すら感じられた。


『しかし、これで両チームともに一人ずつ欠けて四対四の人数状況となりました。宮本選手のスパイラビットには驚かされましたが、練習の成果が伺えるプレーだったように思います』


『いや、それどころじゃないっていうか、横浜女子やばいでしょこれ。ここまで神原選手のパワーを活かしたゲーム運びをしてきたのに、この戦闘で一番大きい戦力を失ったわけでしょ? 今大会ここまで神原選手が最初に倒されたゲームってありました? 』


『えーと、確認しますが……。な、ないですね。横浜女子はこの事態に神原選手抜きの四人でどれだけ対応できるのかが鍵になってきそうです』


 このラウンドは神原さんを欠いた横浜女子が攻めきれず、由比ヶ浜女子の勝利となった。

 そして、その後のラウンドでも似たような展開が続き、由比ヶ浜女子がラウンドを連取していく。


『由比ヶ浜女子、このラウンドも序盤の戦闘で発生した人数差を活かしてラウンドを取得します! これで4-0と横浜女子に付け入る隙を与えません! ヨーコさん、これは宮本選手のスパイラビットが神原選手を上回っているということなのでしょうか?』


『うーん、私はそうは思いません。現に宮本選手が神原選手を倒したラウンドは一度もありませんから。むしろ戦い方の差ですかね』


『戦い方の差ですか。どんな違いがあるのでしょう』


『横浜女子は神原選手が敵を複数人倒すことを前提として動く一方で、由比ヶ浜女子は宮本選手を筆頭に全員で神原選手を倒すための動きをしています。つまり横浜女子の神原選手が仕事をしないと勝てない戦略に対して、由比ヶ浜女子は神原選手に仕事をさせない戦略をぶつけているわけですね』


『なるほど。おっと、ここで横浜女子が動きに変化をつけてきました! 神原選手のアクションに合わせて、横浜女子の面々が連動して攻め入ろうとしているぞ!』


 神原さん一人で敵チームを破壊するのは難しいと判断したのか、横浜女子は神原さんとは別の方向から進軍していた。


――流石にそのまま突っ込まれたらきついんじゃ……。


 ここまで神原選手一人に複数人で対応していたのだ。

 そこに人数を集められれば、由比ヶ浜女子にとって厳しい戦いになる。

 しかし、小清水の不安を切り裂くような激しい銃声が会場に響き渡った。


『あまりにも偉すぎる! 由比ヶ浜女子の琴崎選手が壁の裏で待機していました! 数を集めて交戦しにきていた横浜女子は、雨のような弾幕によってまとめて屠られていきます!!』


『由比ヶ浜女子の読み冴えわたりすぎでしょ⁉ しかも手薄になった他のエリアも潰しにいってるし。人数かけさせたとこに罠張って、手薄になったとこを攻めるとか学生レベルのマクロじゃないって!』


 圧巻のカウンター劇だった。

 横浜女子の戦略がすべて後手後手に回っている。


「うちが由比ヶ浜女子相手に七ラウンドも取れたの、奇跡だったように思えてきました」

「もう私たちが戦ったころとは別物のチームになってるね……」


 公式戦を一試合でもすれば、戦略のブラッシュアップなど新たな気づきがあって強くなるのはよくあることだ。

 けれど、由比ヶ浜女子の伸びは異常だ。勝ち進むごとに強くなっていく様子は見ていて面白かったが、横浜女子を戦術で圧倒するほどになるとは思ってもいなかった。


<横浜女子タイムアウト ~残り180秒~>


 由比ヶ浜女子が五ラウンドを連続取得すると、タイムアウトの表示が映し出される。


『横浜女子、ここでタイムアウトです! 圧巻! 圧巻の作戦勝ち! 横浜女子は三分間のタイムアウトで立て直すことができるのか⁉ この時間、横浜女子はどのようなことを話し合うべきでしょうか? ヨーコさんいかがですか?』


『話し合うも何も、用意してた作戦じゃどうしようもないからタイムアウト取ったんでしょこれぇ! 由比ヶ浜女子が完全に上回ったんですよ! 横浜女子の神原選手パワーに任せたアグレッシブな横浜スタイルを打ち砕いたんですから、話し合いも何もありませんよ! ……ただ、ここからの横浜女子は、良くも悪くも今まで見せたことがない姿を見せることになるでしょうね』


『今まで見せたことがない姿ですか?』


『はい。このまま立て直すことができずに一方的にやられてしまうのか……。それとも、新しい横浜のスタイルが見れるのかは分かりませんが、私は後者に期待したいと思います』

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