2.アニマルBOMB!
『というわけで改めて自己紹介! 私はオンライン部員のココ助で、いま来てもらったのが……』
「二年の南真知子。ゲームはそんなに得意じゃないけど、よろしくね」
椅子に腰かけながら自己紹介してくれたのは、綺麗な茶髪に豊かなお胸を持ち合わせたギャル寄りの女子という雰囲気を醸し出している南先輩だ。
私よりも頭一つ分ぐらい背が高いので女子の中でも身長は高いほうだと思うが、宮本さんと並ぶとなんとなく小さく見えてしまう。
ちなみにココ助先輩は私のスマホからではなく、起動したパソコンのモニターからきれいな声を出して話していた。
外付けカメラで私たちの様子もココ助さんに見える状態になっているようだ。ココ助先輩が話すとモニターに映るハムスターのアイコンがぴこぴこ動いて可愛い。
「ココ助先輩! 南先輩! 宮本歩です、よろしくお願いします! ココ助先輩は何年生なんですか?」
『う~ん、ちょっと事情があって個人情報は出してないんだよね。まぁオンライン部員のココ助ってマスコットがいると思ってもらえれば』
「去年私が入った時には既にいたから、たぶん二年か三年だよ。留年してたら分かんないけどね」
「じゃあ四年目の高校生活ってことも?」
『留年はしてないから!』
宮本さんは先輩二人と早速打ち解けたように話している。
二人とも大人びた体格をしているので、まるで私は迷い込んだ中学生みたいだ。
そんなことを考えながら二人のことを眺めていると、南先輩が私のことをじっと見ているのに気が付いた。
多分、私の自己紹介を待っている。
「あ、ええと、新堂あかりです……。よろしくお願いします……」
「あかちゃんって呼んでいいですよ!」
宮本さんは出会ったときと同じようにがばぁっ!と私に抱きついてくる。
結構な身長差があるので、細腕ではあるもののぎゅーっとされれば逃れられない。
それに甘い香りがして、温かくて、心地良くて、私は思わずほふぅと身を委ねてしまう。
「二人は仲良いの?」
「ついさっき会ったとこ!」
「あんた距離の詰め方終わってない?」
まるでクッションのように宮本さんの腕の中に収まる私。
そんな私の顔を上から覗き込むように宮本さんは問いかけてきた。
「えー、あかちゃんって呼んじゃダメかなぁ?」
――ダメじゃないけどもっ……!
あまりにも純粋で無垢な表情だった。
そんな風にお願いされたら断れるはずもなく、私は「だ、大丈夫です……」と一瞬で陥落してしまう。
「まぁ新堂さんがいいならいいけど……。じゃあ私もあかちゃんって呼ぶね」
『私も~』
南先輩は綺麗な茶髪をかき上げながら呆れたように苦笑いしているが、コミュ障の私としてはぐいぐい来てくれる宮本さんの性格は正直助かる。
中学からの知り合いもいないので、この場を通してゲーム仲間になってくれたら嬉しい。
『せっかく二人が来てくれたし、今日は一緒にゲームしよっか。最近で流行ってるのだとやっぱり「アニマルBOMB!」かな? 二人はやったことある? ここにあるパソコンにはインストール済みだから、もしできるならすぐにでも起動できるけど』
アニマルBOMB!。
いま最もポピュラーで熱いeスポーツタイトルであり、eスポーツ=アニマルBOMB! とされているほどに市場を席巻している人気ゲームだ。
ゲームジャンルは硬派なイメージのある爆破系FPSに区分されるが、アニマルBOMB! はそんなお堅いイメージを払拭したタイトルだった。
可愛い動物のキャラクターを操作してプレイできる『ゆるふわ爆破系FPS』として多くの一般層や女性プレイヤーを獲得し、爆発的大ヒットを記録。
今では全国高等学校eスポーツ選手権大会でも競技タイトルとして採用されている。
「わ、私はプレイしたことあります……」
当然、私もゲーマーの一人としてアニマルBOMBはかなりやり込んでいる。
この部屋にやってきたのも流行りのアニマルBOMBを楽しくプレイできる環境を期待してのことだ。
「やったことないので教えてください!」
宮本さんはビシッと手を挙げて、アニマルBOMBのプレイ経験がないことを高らかに宣言する。
もちろんFPS系のゲームを敬遠するゲーマーも少なくないので、人気タイトルとはいえプレイしていなくても珍しくないだろう。
『普段はどんなゲームやってるの? 今日はお客様だしできるゲームに合わせるよ』
ココ助先輩は宮本さんの得意なゲームで遊ぼうと優しい声で提案する。
しかし、当の宮本さんは苦虫を嚙みつぶしたような顔になってしまった。
「すみません……実は、パソコンゲーム自体をやったことも触ったこともないんです。ごめんなさい!」
頭を下げて謝罪する宮本さん。
けれど、私も南先輩もきょとんと目を見合わせる。
他のスポーツでも高校から始める人もいるだろうし、ここは強豪校でもなんでもないのだから何も問題はないはずだ。
「え? 初心者だって全然いいでしょ。ゲームは楽しむものだし。それなら今日は宮本にゲームを教える会にする?」
『そうだねぇ。初心者ならキーボード操作やマウス操作も大変だろうし。そういうのを一切使わないゲームで遊ぶか、逆にそういうのを教える会にしてもいいし……』
「うぅ……、先輩方あったかい。ありがとうございます!」
先輩らは宮本さんの希望を聞きながら今日遊ぶゲームを決めていく。
宮本さんはつい最近まで祖母と一緒に田舎で暮らしていたらしく、ゲームのできるパソコンが与えられる環境になかったそうだ。
だが動画でeスポーツの存在は知っていて、高校生活からeスポーツにチャレンジしていきたいということだった。
『それじゃあ今日の目標はアニマルBOMB! の簡単な操作を覚えるということで!』
「よろしくお願いします!」
最終的には、宮本さんにこれからゲームを覚えていきたいという強い意欲があるので、今後も触れる機会が多いであろう大人気ゲームアニマルBOMB! をプレイすることに決まった。
私も得意なゲームなので宮本さんの力になれるかもしれない。
「じゃあ早速トレーニングモードで初期設定とマウス感度調整かな」
『真知子ちゃん、私にも画面共有よろしくー』
「はいはい」
南先輩は宮本さんにパソコンの起動方法からアカウント作成、ゲームの起動まで丁寧に教えていく。
私も空いているパソコンを起動して自分のアカウントにログインした。
『あかちゃんはこのゲームどのぐらいやってるのかなぁ?』
「ひゃっ!」
突然名前を呼ばれてびっくりしてしまう私は小心者だ。
けれど、こんなにもきれいな声の持ち主が自分に話しかけてくる経験なんて今までなかったのだから仕方がない。
ココ助先輩の姿が見えないのもあって、とっても素敵なお姉さんとお話しているような気分になってしまう。
私はしどろもどろになりながら急いで返事をした。
「あ、ええと、一応小学生からはプレイしているんですけれど、ここ一年ぐらい触れなかったのでほぼほぼ初心者というか……」
『高校受験とかあったもんね。けどリリースからってことは結構な経験者じゃない?』
「あ、いえ、そんなことないです……」
『えー、少なくとも私よりはやってるよ。私はここ一~二年でちょこちょこプレイしてるぐらいだし。今BiscordにフレンドID送ったから申請しといて。真知子のも置いてあるから』
「は、はい」
私はBiscordで送られてきたIDにフレンド申請を送った。
ゲーム内フレンドになることでチームを組んで一緒にプレイできるようになる。
『あれ、このバッジって……』
バッジという言葉が聞こえた瞬間、私はさーっと血の気が引くのを感じた。
『アニマルズのバッジじゃん! あかちゃんめっちゃ猛者じゃん!』
「え、マジ⁉ アニマルズ何位?」
「アニマルズってなんですか?」
後ろのほうで初期設定の作業をしていた南先輩らも私のほうに寄ってきてしまった。まずい。まずい。まずい。
『このゲームで一番強いランクってことだよ! アニマルズは上位五〇〇人の人数制限があるからプロゲーマー並みの猛者しかなれないんだよ。あかちゃんめっちゃすごいじゃん!』
アニマルズとはゲーム内の実力を示すランクの名称だ。
実力が上がるごとにアイアン→ブロンズ→シルバー→ゴールド→プラチナ→ダイヤ→ハンター→アニマルズとランクの名称が変わる。
私はその中でも最上位ランクであるアニマルズに到達するまでこのゲームをやり込んでいた。
「いや、でも、本当に一年近くプレイしてなくて……」
「それでも十分すごいっしょ。私なんて最高ランクダイヤだよ」
『私はプラチナ! 全然レベル違うよ~』
もちろんそれを見せびらかすつもりなんてない。
むしろ隠したいと思っていた。
けれど久々のログインでランクを示すバッジを外すのを忘れてしまった。本当に大層なものじゃないのに。
あぁ、どうしよう……。
「あかちゃんプロゲーマーなの⁉ すごい!」
「ち、違くて、ランク高いから強いってことじゃなくて、むしろそれ以外が大事で……」
宮本さんは目を輝かせながら興奮した様子で声をかけてくるが、まったくもって凄いものではない。
このゲームは味方との連携が重要なので、個人のランクが高い=実力者というゲームではないからだ。
それを宮本さんに上手く伝えたいが、まだゲームを始めてない人にどう伝えれば良いのかまったくわからない。
「ほーら、宮本はこっち。まだマウスの感度設定が終わってないでしょ」
「はーい」
困り果てた私を見かねたのか、南先輩が助け船を出してくれた。
宮本さんの画面を見るとだいたいの設定は終わっていて、今はマウスの感度を設定するところのようだ。
「照準を右の的に合わせるつもりで、マウスをすっと動かしてみて。実際に合ってなくてもいいから」
「了解です!」
宮本さんは言われた通り、銃の照準を右の的を目掛けて移動させる。
しかし、照準は少し的を通り過ぎてしまった。
「通り過ぎたってことは宮本の腕の感覚よりもゲーム内の感度が高いってことだから、もう少し感度を下げてみて……はい、もう一度やってみて」
「あ、ぴったり合いました!」
感度を調整してからもう一度照準を合わせると、今度はピタッと的を捉えることができていた。
FPSは見つけた敵を銃で打ち倒すゲームなので、エイム……いわゆる照準を素早く敵に合わせるのは基本の技術となる。
たったこれだけの感度調整でピタッと照準を合わせられるのは宮本さんはセンスが良いのかもしれない。
「だいたい設定も終わったね。あとは習うより慣れろだし、とりあえずみんなでチーデスでも行ってみる?」
「チーデスってなんですか?」
「先に相手チームを一〇〇体倒したほうが勝ちっていう、銃を撃ち合うだけのゲームモードだよ。いきなりキャラのスキル覚えるのは難しいと思うし」
チームデスマッチは多くのプレイヤーがウォーミングアップのために使っているゲームモードだ。
キャラクター特有のスキルや戦術などを覚える必要がないので、初心者である宮本さんが練習するにはちょうどいいモードだと思う。
『みんな準備も整ったみたいだし、とりあえずやってみよ~』




