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19.横浜対策

 待ちに待った決勝戦がまもなく開始される。


 準備してきた戦略。練習してきた連携。たくさんの出来事を経てこの場所に辿り着いたことに、私は胸を高鳴らせていた。


――このマップは絶対に負けられない。


 もちろんどのマップも負けられない。

 それでも、このアニマルズケイプは特別だ。


 私は数日前に行ったミーティングを思い出す。





 私たちは横浜女子対策のミーティングを行っていた。

 琴崎先輩の画面をみんなで囲むように集まって、横浜女子のデータを確認・共有していく。


「ええ⁉ 横浜ってずっと強かったんじゃないんですか? 伝統的な強豪校だと思ってました!」


 口に手を当てて驚きの声をあげるのは宮本さんだ。

 画面に映していたのは横浜女子の近年の戦績。

 神原先輩が入学した昨年は県大会を優勝して全国大会へと進んだが、その前年度は県大会二回戦敗退。前々年度は一回戦で敗退していた。


「伝統的な強豪校で間違いはないわよ。eスポーツが部活動として普及して以来、神奈川県でずっと高いアベレージを誇ってたわけだし。ほら、過去一〇年単位で見ると一番平均戦績が高いでしょ?」

「ほんとだ……。けど、強豪校でも初戦敗退とかあるんですね」

『他の部活だとそんな感じだよね~』


 確かに運動系の部活では、圧倒的な強豪校が代替わりしていきなり初戦敗退するのは珍しい。

 優秀な人材が集まり、練習設備が整っていて、練習時間も公立校より私立の強豪校のほうがずっと長い。

 練習後の補助食による栄養補給など、お金が必要な部分も強豪校ならカバーできる。


「運動系の部活との一番の違いかもね。eスポーツは他チームの高度な戦略もネットで自由に見れるし、家に帰ってからでも練習できる。強豪校と普通の高校で差が付きにくいからトップを走り続けるのは困難ね」

「なるほどー! eスポーツは運動系じゃないですもんね!」

「優れた戦略を発見して大会で優勝できたとしても、その戦略は全世界に公開される。だから次の大会じゃボロボロとかあるあるなのよ。メタゲームの最先端を走り続けるのは大変」

「ん? メタゲームってなんですか?」


 琴崎先輩の解説に首を傾げる宮本さん。

 『メタゲーム』という単語の意味が分からないようだ。


「メタゲームっていうのは……。あ~、意外と説明難しいなぁ。えーと、例えば『じゃんけん』で置き換えると、チョキが強いって認知された世界があるとするでしょ? これをチョキのメタっていうの」

「主流みたいな感じですか?」

「そうそう。そんなチョキがメタの世界でじゃんけんをするなら、宮本さんは何を出す?」

「グーを出します! チョキに勝てるので!」

「だよね。主流であるチョキに対して、グーを出すのは有効な戦術になる。これを『メタの回答』っていうわけ。けど、時間が経ってみんなが『グー強くない?』って認知するようになる。そうすると何のメタになると思う?」

「みんなが『グーが強い』って思ってるなら、グーのメタってことですか?」

「正解! そしたら『メタの回答』もパーに変わって、それが認知されると今度はパーのメタに移り変わる。こうやって移り変わっていくメタに対応していくのを『メタゲーム』って呼ぶのよ」


 メタゲームの最先端を走り続けるには、強いことが認知される前にメタの解答を見つけ出し続けるしかない。

 それなのに戦略を公開しながら勝ち続けなければならない。

 eスポーツは常に最先端の戦略で走り続けることが難しい競技なのである。


「けれど、メタゲームには穴がある」


 そう言いながら琴崎先輩がモニターに表示したのは、横浜女子二年神原白乃選手のデータ画面だ。

 そこには圧倒的な戦績が表示されている。


「たまにいるのよね。存在自体がメタになる選手が……」

「存在自体がメタになる選手?」


 戦略で常に最先端を走り続けることは困難だ。

 しかし、圧倒的な実力差があれば、それは戦略を凌駕する突き抜けた力となる。


「グーチョキパーのどれにも負けず、グーチョキパーのどれにも勝てる最強のジョーカー。それが神原白乃選手。一個人の選手が戦略級の脅威になって、相手チームにだけ対策を強いることの優位性。どうすれば神原白乃を攻略するか考えさせられてる時点で、もう負けてるようなものなのよね」


 琴崎先輩は頬杖を付きながらマウスホイールをクルクルと回して、神原先輩の戦績をモニターに表示していく。


「はぁ……。数字見てるだけでもため息が出るわ。撃ち合いの勝率。平均KDA。FB率。どれも全国で最上位レベル。たった一人で戦略のメタゲームを変えてしまうゲームチェンジャー。横浜女子は神原白乃というゲームチェンジャーを獲得することで、メタゲームを作る側の立場になった。それが横浜女子の圧倒的な強み」

「それに『横浜スタイル』も脅威だよね」


 南先輩が付け足すように呟いて、私のほうへと視線を移した。

 ここから先はお願いね、ということだろう。

 私は用意していたスライドを琴崎先輩のモニターに表示してもらう。


「そうですね。横浜女子は神原先輩というジョーカーを最大限活かすために、あるスタイルを確立しました。神原先輩が確実に撃ち合いを制するという前提で組み立てられた『横浜スタイル』です。宮本さん、カバープレイって分かりますか?」

「流石に分かるよ! 味方が倒されても、その近くにいる味方が敵を倒してくれることでしょ?」


 宮本さんは腕を組んでふふーんと胸を張る。

 カバープレイの概念は日頃からよく伝えているので、経験の浅い宮本さんも言語化できるレベルで理解しているようだ。


「そうです。撃ち合いには負けるリスクがあります。そのリスクを少しでも下げるために、味方とカバーが取りあえるポジションで撃ち合うのがベターです。けれど、『横浜スタイル』にカバーの概念はありません。何故なら、神原先輩は絶対に負けないから」


 神原白乃は絶対に負けない。

 神原白乃は絶対に勝つ。

 それを前提に、最も優位が取れる戦略をチーム全体で仕掛けてくる。

 圧倒的捕食者側の戦略スタイルだ。


「みんなが資料まで作って説明してくれたから横浜女子の強みがよーく分かったんですけど、結局どうすればいいんですか⁉ なんか勝てそうな感じが一切しないんですけど!」


 狼狽する宮本さん。

 その意見はもっともだ。

 しかし、どんな戦略にもメリットデメリットがある。

 リスクのない戦略なんてないのだ。


「大会で使用される三マップのうち、一つだけ私たちにとって有利なマップがあります。それがアニマルズケイプです」


 アニマルズケイプは動物の棲む洞窟を模したマップで、視界が悪く、一直線に開けた道がほとんどない。

 そのためスナイパーで狙撃できるような空間が他のマップと比べて極端に少ない。

 神原白乃のスナイパー対策は必須だが、このマップ自体がスナイパーを否定しているようなマップなのだ。


「もちろんスナイパーの聖地とも言えるマップもありますが、少なくともスナイパー殺しのマップであるアニマルズケイプだけは絶対に落とせません。そして、見晴らしの悪いアニマルズケイプでのみ、ある戦略が通用します。それを今からみんなに共有します」





 そう、このアニマルズケイプというマップでは絶対に負けられない。

 けれど、神原白乃には敵わない。

 その事実が覆ることはない。

 それなら……。


「神原白乃に銃を撃たせなければいい」


 やることは単純だ。

 敵の位置情報の管理。

 これを徹底的に行う。

 どのキャラクターがどこにいるのか、どの方向に銃口を向けていたのか。

 それを全力で探りにいく。


「このゲームに必殺技やスーパープレイは必要ありません」


 ミリタリードッグのスキル、エネミースメールで前方エリアの敵の数を把握する。

 エージェントホークのスキル、ホークアイで敵の足取りを検知する小鷹を設置して敵の動きを把握する。

 そうして得た敵の位置情報から相手チームの陣形を予測し、神原先輩の居場所を間接的に特定する。

 なぜそれができるのか。


「横浜スタイルが私に神原先輩の位置を教えてくれます」


 横浜スタイルは神原が勝つことを前提とした戦略だ。

 つまり、他の四人の動きは神原の動きと連動している。

 他の敵の位置や動きを確認することで、神原の現在地がを割り出せる。


「A側の洞穴にワニがいる!」

「であれば、中央通路に神原先輩がいる可能性が高いです。他のエリアで仕掛けます!」


 その情報を元に神原先輩を孤立させ、私たちは他のポジションにいる敵を次々と各個撃破していく。

 そして、その銃撃戦に神原先輩のカバーは間に合わない。

 絶対に負けない神原先輩をカバーしない戦略を取るということは、横浜女子の選手は神原先輩からカバーを貰えない位置にポジショニングすることになるからだ。


「よく敵の位置だけでそこまで読めるよね。あかちゃんの指示を受けてる私たちですらよく分かってないもん」

「横浜の全試合を確認しましたから」

『それだけで分かるのすごすぎだよ~』


 そうして横浜女子のメンバーを各個撃破した私たちは、神原先輩のいないBエリアに時限爆弾を設置し、事前に示し合わせた配置へと移動する。


「神原先輩に勝つことはできません」


 ガチャガチャという爆弾解除を始めた音がBエリア内から鳴り響く。


「けどそれは、スナイパーを構えていたらの話です」


 爆弾解除中は銃を構えることができない。

 そのタイミングを狙って、私たちは神原先輩を包囲するように複数の銃口を突きつける。

 そして、あらゆる角度から放たれた数十発の弾丸が神原白乃の操るスパイラビットの体を貫いた。


 私たちは神原白乃に一発も銃を撃たせることなく、このファーストラウンドを勝利した。

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