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「璃々様ですね? お久しぶりでございます。もう10年が経ちますか。時の流れとは早いものですね。ご両親は元気ですか?」
「ええ。二人とも海外を飛び回っているので、なかなか帰ってきませんが元気です」
そう言うとロイドはほっとした笑みを浮かべます。
「お元気ならばよかった。そういえば、現世へと繋げる電話がございます。その部屋へとご案内いたしましょうか?」
「電話が? ぜひ、お願いいたします。」
と言い瑠璃が頭を下げました。それを見たロイドは慌てて言います。
「私に頭を下げないでください。案内人として、当然のことをしているだけですから。おや? お連れ様がお目覚めですね。ここでしばらくお待ちください。お二方にはお話ししなければならないことがございますので」
そうロイドが二人に声をかけ、瑠璃を別の部屋に案内します。ここには、扉はないようです。瑠璃が、案内された部屋には黒電話がありました。黒電話を瑠璃は今まで見たことがありませんでした。その黒電話を物珍しそうに眺めているのを、ロイドが温かいまなざしで見守っている一方、現世では灯が夢の森書房に駆けつけていました。
メールを受けてすぐだったので着物のままのようです。彼の家は代々続く呉服屋「橘」を営んでいます。外では洋服の彼が着物のまま来るとは、よほどの大ごとみたいです。人が消えていますから、大ごとですよね。
「瑠香! どういうことだ? なにがあった?」
「落ち着いて、灯さん。姉さんが本に入るのは初めてじゃないんだって言っても落ち着けないよね……その気持ちはわかる。多分これから電話がかかってくるんだその時に夢の森書房の店主代理の徹、あと、最初にお電話ありがとうございますと言って今は何も聞かずに。お願い」
それだけ言うと彼は激しくせき込みました。店主の弟は昔から、病弱でした。何度も入退院を繰り返していることを知っている灯は彼の背中をさすります。しばらくさすっていると彼の呼吸が落ち着いてきました。
「ありがとう。灯さん」
「気にするな。苦しいときは頼ってほしい。いつでもな」
そう言うと灯は屈託のない笑顔を見せます。その笑顔に瑠香が和やかな気持ちになっていると、電話の音が鳴ります。その電話を灯は深呼吸をして取り、彼の言ったとおりの言葉を告げます。
「お電話ありがとうございます。夢の森書房店主代理の徹でございます」
電話口に出た少女の声は瑠璃でしたが、名前は違っていました。そのことを不思議に思いながらもその声に耳を傾けます。
「お電話ありがとうございます。夢の森書房店主の璃々でございます。時間があまりありませんので手短に。私、璃々とリアンそしてレティはあなたの家に泊まっていることにしてください。よろしくお願いいたします」
彼が言葉を発することなく電話は切れます。彼が、首をかしげていると瑠香が話しかけます。
「多分、それは偽名だね。きっと向こうの世界でのルールかな。璃々《・・》は瑠璃、リアン《・・》はリアム、レティ《・・》はレイラだね。人が消えたなんていったら大ごとになるからね。カモフラージュだよ。会わせてほしいと言われても適当にごまかすんだよ? お風呂に入っているとか買い物に出かけているけど、どこにいったかはわからないとか、今寝ているから起こしたくないとか言ってね。ここにいるといってもいいから。というか灯さん、よくここに来れたよね? 迷わなかった?」
そう聞くと、灯は不思議そうな顔をしつつも答えます。
「迷わなかったよ? なんか、ここに導かれている感じがして不思議な感じだったけど……」
その答えを聞いた瑠香は何も言わずに考え込んでしまっていたその頃、本の世界ではやっとリアムが目を覚ましていました。
ここがどこかわからず混乱しているところにロイドがと瑠璃が戻ってきました。
「では、お話いたしましょう。その前にお手数ではありますが、場所を移動させていただきます。」
それを聞くと主はため息をついた。まるでいつまで待たせるんだそんな声が聞こえてくるようです。その雰囲気を察したのか瑠璃が話しかけます。
「では、主様、私がお話をしましょう。どんな物語が良いですか?」
そんなことを話している間に、ロイドは2人を別の部屋に案内します。その部屋は、真っ白で机と椅子以外は何もありません。2人が戸惑っているのに気付いたのか、ロイドが謝ります。