24
この世のものとは思えない甲高い絶叫で目を覚ました。一瞬の間をおいて状況を把握する。胸に鈍い痛みが走るが、今はどうでもいい。ただ黒木を探した。
絶叫のする方向を見やるとそこには真っ黒い人型の影がうずくまり何かを咀嚼していた。
蒼黒い光を放ついびつな剣を持った黒いヒト型の異形。……その全身のほとんどを覆う獰猛な形状をした外骨格は月に照らされて昏い輝きを放っている。たなびく月色の髪と黒い外骨格の異常な程冷たく美しいコントラスト。そして失われた左腕は俺にそれが一体何なのかを残酷に突きつけてきた。
「黒木……なのか……」
大型アマデウスは既に倒れている。その隣で黒木は、黒木だった黒い人影は時折月を睨み、絶叫する。倒れたアマデウスに喰らい付き、噛みちぎり、咀嚼し、嚥下する。その姿を呆然と眺めていた。
血に塗れた黒木は動きを止め月を見上げた。
そして時折思い出したかのように月に向かい吠える。
ふと気がつくとその身体の周囲にふわふわとした金色の糸のような物が漂っていた。そしてそれは徐々に密度を増して黒木の身体を覆い始めたかと思うと徐々に収束し、周囲に繭のようなものを形成していく。
月色に輝く神秘的な繭と、まるで地獄の亡者の放つような鼓膜に突き刺さる絶叫の対比。
それは美しく、そして恐ろしかった。
今、目の前の黒木に何が起こっているのか理解はしていない。ただ一つ解るのは俺はまた黒木に救われたと言うこと。そして恐らくその代償として黒木はこのような姿に変貌してしまったのだと考えるのが妥当だろう。
黒木に命を救われたのはこれで三度。
だったら、今度こそ俺の番だ。俺が黒木を救い出さなくてはならない。
だが黒木を元に戻す方法とは一体どうすればいいのだろうか。たとえわずかでもその可能性に結びつく何かを必死で思い起こす。混沌とした記憶の中を手探りでかき回し、探り当てるかのように、無我夢中でそれを求めた。
「――――そう、だ」
ややあって俺は以前黒木が口にしていた言葉に思い至る。
『結局どうしても兄さんの死の真相が知りたくてPCの削除されたデータを復元してみた。……解ってる、さすがにちょっと異常だったかもしれないね。ただ、その時の私にはそうしなければならない理由があった』
「ヴォイニッチ手稿の記録がまだ残っていれば……!」
黒木は最後に笑顔で『ばいばい』と言った。それはつまり、自分がこうなることを認識していたという事ではないのか。
もしそうならば俺の知らない情報がまだあるという事だ。それがあれば、この状況を少しはマシなものに出来るかもしれない。その記録を調べる価値はきっとある。
さっき戦闘前に黒木から預かった鍵を握り締めた。
「ちょっとだけ、待っててくれ。必ず、迎えに来る」
誰に対して口にしたわけでも無い。それは自らの意志を奮い立たせるために。
月色の繭に気付かれないようにそっとその場から駆けだした。




