ジルのお願い
「「えっ!?」」
プロポーズなんて思いもよらぬジルの言葉に、二人の驚く声が重なる。
子供たち二人……ではない。
あの髪の長い女の子と……遥か遠くの家の屋根からだ。
また移動してたな……あのストーカー。
「わぁっ! ジル兄ちゃん、けっこんするのっ!?」
対して、無邪気なサイドテールの女の子は、我が事のように両手を挙げて喜んでいる。
「おめでとう! お幸せにねっ!」
「あ、ううん。僕じゃなくてね……」
「あ! ぷろぽーずってことは、けっこんしてくださいってお願いするんだよねっ!?」
「うん。プロポーズだからね」
「わぁ~……!」
いやいやジル……そこで話を終わらせたら、本当にお前が誰かにプロポーズするみたいになるだろ。
そりゃこんなプロポーズって言葉に対して憧れ全開のキラキラとした瞳をされたら言いにくいにも分かるけどさ。
「あ、ああ……」
でもほら、そのせいでキラキラ瞳の隣に立ってる子の色を失くした瞳とか、遠くで誰かが落ちる音とかそれに驚いたのであろう小さな悲鳴とか、聞こえてこないか?
「そっか……ジルお兄ちゃん……結婚しちゃうんだ……」
瞳の色を無くした女の子が、小さな声で妙にリアルな確認を口にする。
そしてそれが聞こえていないジル。
……ああもう……。
「違うんだろ。ジルは誰かにプロポーズの手伝いをしてくれって頼まれたんじゃないか?」
「えっ……」
瞳に僅かばかりの色を戻しながら顔を上げる子を視界の端で見留つつ、言葉を続ける。
「わざわざ呼んだってことは、女の人の意見が欲しかったんじゃないの? 頼まれたものの同じ男じゃよくわからないとか、そういうのだろ?」
「ああ、うん。実はそうなんだ。……あれ? リフィアには言ってなかったかな?」
言ってなかったです。
だからちょっと二人が落ち込んだんです。
「でもそれなら、学校で話を聞くだけでも良かったんじゃない? わ……わたし、以外にも、それこそ色々な意見聞けただろうし」
「色々な意見は確かに大事だけど、僕が欲しいのは彼へのアドバイスだからね。僕が誰かに聞くと、どうしてかほとんどの人が自分がされることの話をするからさ」
困ったような表情を浮かべているが、その聞かれた子たちはジルのことが好きだから周りにいる訳で……そんな子たちにジルからプロポーズの意見を聞こうものなら、自分がジルにされたい理想を語るのも致し方ない。
「その点、リフィアなら客観的な意見を言ってくれるだろ?」
「なんでそう思ったのやら」
なんて独り言のようにボヤくが、きっと彼は俺が好意を持っていないことに、無自覚ながら気付いている。
金髪碧眼のイケメンだからな。
ほとんどの女性は彼に対して輝いた瞳を浮かべることだろう。
それこそマリンだってだ。
イケメンは見ているだけで癒されるという話だからな。
ほとんどの女性がアイドル好きだったりするのと一緒だろう。
その上ジルの場合、この外見の良さを自惚れない性格の良さが、柔和な表情に出ている。
見て癒やされた後少し話せばそりゃほとんどの人は惚れるに決まってる。
……まあさすがに、こんな簡単に恋愛感情に発展するかどうかは人それぞれで案外難しいものなのだと思いたいが……。
ともかく、そんな中で彼を真正面から見ても瞳を輝かせず、話をしても惚れない女が現れたとなれば、いつもの女性とは違うな、とは思うはずだ。
皆が皆、彼に好意的な瞳を向ける中……無関心な相手が現れた。
それこそ“俺が入ったリフィア”という訳だ。
まあつまりは「好意を持っていないことに気付いている」のではなく「いつもの女性とはどこか違う」程度のことに気付いている、が正解だろうか。
違うからこそ何か意外性に富んだ意見を言ってもらえるかも、と考えているのかもしれない。
「それじゃあジルがこうして連れてきたのは?」
「そりゃ、直接彼本人を見てもらったほうが、色々と思いつくかと思ってね。いきなり彼の特徴を聞かされてプロポーズの方法を考えてくれと言われても、中々思いつかないものだろ?」
という訳だ、未だ姿を見せぬストーカーさん。
これでこの外出がデートではないことの証明にもなっただろう。
まあでも、それはそれで困ったことになる。
なんせジルは女性の意見を求めているのに、その相手の中身が普通に男だからだ。
「……まあ、とりあえずその人に会いに行こうか」
でもまあ、だからといってここからソレをどうにか出来る訳でもないし……とりあえずその問題は先送りにして、その当事者に会いに行くとしよう。




