街へ
「っていうか、この時間に学外に出るのって大丈夫なの?」
「自主訓練の時間、上級生は実質自由時間みたいなものだからね」
見張りとしてそこにる兵士に会釈をして正門を通り抜け、大きな橋を渡って街へと繰り出す。
なんだかんだ言って初めての街だ。
ただその相手が男で、しかも助けてくれたジグゼイルになるとは思いもしなかったが。
「とはいえ、自室で休んでいると言った騎士としても学生としてもダメな態度を取るようなら、減点の対象になるけどね」
「で、街に出るのはダメな態度に当たらないと?」
「困ってる人を助けるんだ。騎士として当然の勤めを果たすと言っても過言じゃないだろ?」
どれだけ真っ直ぐなのだろう、この人は。
ただそのせいで、若干周りを困らせている感も拭えない。
こんなに真っ直ぐ、俺のよく知る騎士としての姿をそのまま体現しているような男だが、貴族は貴族だ。その身体が傷つくのを良しとしない人は大勢いる。
その証拠に門番の兵士も、彼と共に校外へと出る俺の存在に怪訝な表情を浮かべていたし。
街で二人きりになる俺が何をしでかすか・彼をどんな危険な目に遭わせるか分からないからだろう。
しかもその視線とは別に、どんどん学校から離れるよう歩いているのについてくる、妙な二つの気配をリフィアが感じている。
リフィア自身が全く警戒せず、ただ気づいたというのが分かるだけなので殺気とかではないようだが……。
「ジグゼイル様とデートだなんて……!」
「っ!」
バッと声のした方向へ振り返るも、そこにはただの街並みが広がるだけ。
学校自体が街の端っこにあるせいか、大貴族が住んでいるような大きな建物が連なっている街の中心地ではない。それでも学校の近くというせいなのか、スラム街のような暗い雰囲気もない。
中流以下の貴族やお金を持っている平民が住んでいるような地域……というのは、マリンに聞いていたが、まさにその通りなように思う。
ただそのせいなのか、人の数もかなり多い。
橋を渡りきってからしばらくは、遊ぶ子供の声や主婦と思われる人同士の談笑の声ばかりが聞こえてきていた。
この賑やかさを考えると、さっき聞こてきた声が空耳だと言われても納得できる。
が、さっきのあの何やら呪詛めいた言葉……例の貴族様との戦い後、ジルから離れた時に聞こえたものと同質だったように思う。
風に乗って耳に届いたが、そうした魔法があることもマリンに聞いていた。
もしかしてだけど……見えないだけで、付いてきてる……?
「どうかしたかい? リフィア」
「あ、ああ。いえ、別に」
キョロキョロと周りを見る俺を不思議に思ったのか、少し前を歩いていたジルが軽くこちらを見て声をかけてくる。
「そんなに街が珍しいかな」
「まあ、珍しいと言えば珍しいけど……えっと、自分たち以外に学生はいないのかなぁ、と思いまして」
「確かに、不思議だよね」
「え?」
その返しの方が不思議だろうと、つい変な声が出てしまった。
「皆も僕のように先生に進言すれば学外に出ることだって出来るのに。どうして困ってる人たちを助けるための行動に出られないのだろうか。それでどうして騎士になるための学校に入ったのだろうか」
「…………」
……ん~……?
「えっと……ジル。少し聞いて良い?」
「何をだい?」
「この学外の活動ってのは……生徒として当たり前に与えられた権利、なんだよね?」
「ああ。騎士を目指し、民を守ることを目的としているなら、当たり前のことだ」
「じゃなくて……えっと、誰でも勝手に学校の外に出てきて良いものなの?」
「いや、それは確かいけなかったはずだ」
えっ?
「僕の場合も、先生に進言して何とか取り付けたことだからね。だがきっと、これも先生からの試練のようなものなのだろう。ダメと言われていることでも、理に適っていたら上の者に堂々と言って認めさせる。こうして街に出て誰かを助けることに身を投じるということは、そこまでの覚悟が無ければやってはいけない危険なことだからね」
いやいやそれ……アンタが貴族だから断りきれなかっただけじゃん……。
ってあ~……そういうことか~……あの門番の怪訝な表情、俺が出ていくことを不思議がってたってことか~……。
本来なら生徒の外出はダメなのに、唯一認められてるやつと一緒で堂々としてるものだからつい……的なやつか~……。
……コレ、帰ったら俺が怒られるんじゃないか……?




