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そこは異界の騎士学校 ―幕間短編集―  作者: ◆smf.0Bn91U
ジグゼイル・ヴェイルロイド編
10/21

訓練場での素振り

 昨日も更新してないのに明日も更新できないです…ちょっと頻度落ちてるのは情けないな…ジル編はこれ以降休まないようにしたいと思います。

 リフィアの身体になってから、一週間が経過した。


 マリンに色々と教わって分かったことだが、日にちの数え方は俺がいた世界と何も変わらない。

 一年もしっかりと三百六十五日だし、閏年まである。

 時計は簡単に手に入るほど普及はしていないが、この街で鳴る鐘は時計から分かる時間の基鳴らしているものであるため、無いという訳ではない。まだ小型化が完了していない、といったところか。


 こうして話を聞くと、色々と共通項が多い気がする。

 まるで物語の中の世界のようだ。

 下調べの足りない中世時代設定の物語を読まされているような……そんな気さえする。


 しかし逆に、そうした部分に共通があるからこそ、俺がリフィアの中に入ってしまったのかもしれない。


 物語的には、似通っている部分が多いということは、それだけ喚びやすいということになる。

 この世界は天動説で成り立っていたりと大きく違う部分は本当に大きく違うのだが……同じな部分は本当に同じなままだ。

 その同じ部分が多いからこそ、近い世界と見做されて、俺とリフィアの中身が入れ替わった。


 ……もしくは、こうした設定の本なりゲームなりをして寝落ちしたまま見ている俺の夢、とかかな。

 途中だから記憶に残っていないだけで、これは今までの経験なりなんなりがごちゃ混ぜになって見せている夢、という可能性は大いにある。

 尤も、だとすれば痛みを感じるのはどういう訳なのかと聞きたくなるが……しかし夢とはそういうものなのかもしれないし。

 俺はこれまで夢という夢を覚えていない。可能性としてはある。


「ふっ……!」


 細身の剣を振り下ろす。

 その刀身には魔力が宿っているのか、薄っすらと輝きが見えている。

 この世界がどういったものであれ、痛みを感じる以上はソレを極力避けたいものだ。


 だから今、俺は素振りをしている。


 時間は朝食後の自主訓練。

 弓騎士科のマリンも遠くで弓の練習をしているのが見える、この前貴族様と戦った例の訓練場だ。


 基本、剣騎士科の人間は、槍騎士科の人や同学科の人と組手のような訓練めいたものをやっている。

 実力を身につけるのならそこに飛び込むのが一番なのだろうが、現状今の俺はザコそのものだ。


 なんせ自分の意志を外さなければリフィアの身体が動いてくれない。

 それを意図的に起こすため訓練に参加しても良いのだが、もしそんなことをして俺の意識が抜けてしまえば、それこそどうなるのか分かったもんじゃない。


 リフィアの身体に俺の意識や心が完全に定着しているという保証はない。

 どんな力にも対価があるものだと考えるなら、身体に残った記憶に頼りきりになるということは、俺自身が消える可能性があることを意味する。

 身体に残った記憶が、今俺自身を認識している記憶を侵食してくる可能性は大いにあるということだ。


 だから今しているのは、リフィアの身体を自分でも咄嗟に動かせるようにするための訓練。

 俺自身もまたある程度戦えるようになるための特訓、と言い換えても良い。


 無意識に刷り込まれた身体の動きを、意識して行えるようにするための積み重ね。


 まず、己の意識を無にして、リフィアのあの鋭い素振りを身体に発現させる。

 そして思い出す。

 貴族様と戦った時に何度も振っていたあの動きも。


 直前に振るった素振りと、過去に振るった攻撃。

 それらの動きをなぞるようにして、自分でも体を動かす。


 すると違和感が発生する。


 リフィアの記憶にある動きと、今自分が動かしたものとの差が明確に現れる。

 戦闘時、俺が意識して攻撃してしまったせいであっさりと防がれたアレと一緒だ。


 立ち姿・重心の移動・武器の振り方……様々な動きが、戦闘時の正しい動きとは違うと分かる。


 それを修正するように、何度も何度も素振りを繰り返し……その動きに近づけていく。


「もしかして、スランプかな?」


 そんな、無様な素振りをしている俺に、誰かが声をかけてくる。

 声のした方を振り返ると……そこには貴族様との戦いを止めてくれたザ・貴族――ジグゼイルことジルが立っていた。相変わらずの爽やかイケメンだ。


「素振りする姿は気迫があるのに、どうも動きがそれについていっていない。あの時の戦いを思い出すと、雲泥の差だ」

「放っておいて。こちらにだって色々とあるの」


 極力、女性に近しい言葉になるよう意識して返事をする。

 マリンから言われたことだ。

 時たま素で出る“俺”という一人称のせいで違和感がある、と。


 それを指摘された時、確かに、と納得したものだ。

 そのせいである女性の貴族には疑いを持たれてしまった訳だし、その忠告は素直に聞くべきだろう。


 とはいえ、リフィアはそこまで誰かとよく会話をしていた訳でもないし、女性らしい言葉遣いでもなかった。

 どちらかというと無機質な男女どちらとも取れる言葉遣いだったとか。


 一人称を“私”にするのは照れが先行するし、女性言葉だって慣れていない俺が口にしてもイントネーションやニュアンスで違和感が出る。

 そういう意味では本当に助かった。


「それで、何か用事?」

「ああ。実はこれから街に出るんだが、君も来てくれないかと思って」

「……なんで?」

「手伝ってほしいことがあるんだ」

「それが何かって聞いてるんだけど」


 あの大勢に囲まれた状況から助けてくれた相手だ。

 無碍にするのもアレかと思い、向き直って訊ねてやる。


「そんなに難しいことじゃない。街に出て、困ってる人を助ける。それだけだ」


 そうして聞いた答えは、正義のヒーローみたいな意味の分からないものだった。

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