29.猫と寝る
「それって、にゃんこ形態で、ですよね?」
魔道学部の女子大生である和坂さんが、黒江さんに確認する。
黒江さんは、何を当たり前のことを聞くのか、と言いたげな顔で頷いた。
「勿論でございます。私がこの姿でベッドに入りますと、ご主人様が横になられる場所が、なくなってしまいます」
「……だよなー」
俺と国包の声が揃った。
和坂さんも頬を緩め、猫語りをする。
「うちのコは、お布団の中で寝るコだったんですけど、夜中に何回も出たり入ったりして、その度に起こされてました。黒江さんは、ずっとお布団の中で寝るんですか?」
「ずっとご主人様の腕の中で休んでおります」
俺は、もふもふ黒にゃんこをだっこして寝ている巴先生を想像し、微妙な気持ちになった。
……う……羨ましくなんかないんだからねッ! どうせ夏は暑苦しくて、寝らんねぇもん。
「うちの猫は、俺が寝ようとしたら、先に布団で枕を使って寝てることがあるんですけど、黒江さんも枕、使いますか?」
「いえ、強いて申しましたら、ご主人様の腕枕でございますね」
「うちのコは、腕枕はしませんでしたね。足の間とか、背中に密着とか、おなかに密着とかでした」
「和坂さんちも、寝返り打てないパターンなんだ」
「うん。未だに」
和坂さんは、猫が老衰で亡くなってから、もう何年も経っていると聞いたが、未だに猫飼いの習性が抜けないらしい。
うちの松太郎は、本当に人間のすることをよく見て真似する。
人間が枕を使って布団で寝ているから、自分もそうするのだ。
で、俺が寝られないから、松太郎をどけると、被害者面で布団の上に移動する。
寝てる俺の腹や胸の上に乗られても寝られないが、曲げた膝の裏部分……ふくらはぎの辺りに乗られると、布団で圧迫されて、寝返りが打てなくなる。
そんな訳で、猫と一緒に寝る猫飼いは、異様に寝相がいい。
「黒江さんって、寝ても覚めても、だっこが好きなんですね」
国包が半笑いで言った。
黒江さんはそれにも大真面目に答える。
「はい。ご主人様の腕に抱かれておりますと、非常に精神が安定致します。知らず知らず、喉が鳴り、いつの間にか眠りに落ちております。普通の猫は、だっこが嫌いなのですか?」
「う~ん……その辺は、そのコの好みによりますねぇ」
元猫飼い和坂さんが、腕組みをして呻った。
うちの松太郎は、だっこが大好きだ。
自分がだっこされたくなったら、力ずくで人間によじ登ってでも、だっこされに来るくらい、だっこが好きだ。
奴は、だっこされる為なら、手段を選ばない。非情の男だ。
だが、だっこが嫌いな猫は、本気で嫌がって、無理に抱き上げた人間を噛んだり引っかいたりする。そうして、ますます、だっこが嫌いになるのだ。
和坂さんが、楽しそうに思い出を語る。
「うちのコは、起きてる時はだっこが好きでした。特に座ってる人間の膝の上で、だっこされるのが大好きで、誰かが座ったら必ず膝に乗ってきましたね」
「ほほう……」
「誰も座ってない時にだっこされたくなったら、『座ってー、座ってー』みたいな感じで、だっこして欲しい人の足下に来て、ニャーニャー鳴いてました」
「成程……そのようにおねだりすれば、ご主人様も……」
「いや、それはダメなんじゃありませんか?」
犬飼いの国包が、すかさず突っ込む。
「何故です?」
「巴先生が忙しい時にそんな、だっこ要求したら、邪魔でしょう」
邪魔と言われ、黒江さんはショックを受けた顔で黙りこんだ。
丁度そこに、電話が掛かって来た。
ランプの点灯位置は外線だ。




