第1話 こっそり生還報告。奪われた土地を「乙女原(おとめばら)」と名付ける
さて、無事に帰還した俺がまずやらなければならないこと。
それは、お世話になった人たちへの「生還報告」だ。
できるだけ目立たないよう、頭には深く笠を被り、顔は手拭いで隠す。俺とミチルは「旅の貧乏夫婦」を装って移動する。
前世のグレーの長袖Tシャツ姿でも十分地味だった彼女だが、戦国のボロを纏うと、驚くほど貧乏夫婦の妻役が板についている。
不本意そうな顔をしているが、今は我慢してもらうしかない。
ユキホも「自分も行く!」と言い張ったのだが、目立てば危ないと事情を説明し、なんとか納得して留守番をしてもらうことにした。
ちなみにその直後、ユキホはドーナツのようなお菓子をいきなり具現化させ、不貞腐れた感じではあるが、もきゅもきゅと頬張り始めた。
あれなら大丈夫だろう……。
◇
皆の話を聞く限り、どうやら俺は『橋の決壊事故に巻き込まれて死んだ』ということになっていたらしい。
川に落ちて死んだという点はあっているが、原因は橋の決壊なんかじゃない。
背中に強烈な衝撃を受けて、誰かに突き落とされたのだ。
……おそらく、いや間違いなく犯人は「岩松」だろう。
だが、今はまだその辺りの真相は伏せておくことにした。
「川には落ちたけれど、運よく死なずに済みました。随分と下流まで流されて倒れていたところを、親切な人に助けられましてね」
そう説明しつつ、俺は「川に落ちたのはあくまで自分の不注意で、橋の決壊はまったく関係ない」ということを強く強調した。
というのも、親方が俺の事故を「自分のせいだ」と思い込み、ひどく塞ぎ込んでしまっていたからだ。
俺のその言葉を聞いた親方の、救われたような、泣き崩れそうな顔は……きっとこの先も忘れられないだろう。
嘘の顛末を説明しがてら、俺はこっそりと皆のステータスを確認してみた。
生還報告に回った面々――親方家族、久蔵、五助、権左衛門、お蘭、そして朝秀家族のステータスを覗き見てみると、なんと全員の【信頼/忠憲】が「8」以上を示していた。
いやはや、なんともパラメータ様さまだ。
これだけ数値が高ければ、俺の言葉もすんなり受け入れてくれる。
しかし、喜んでばかりもいられない。
俺たちが切り拓いたあの開墾地は、後から割って入ってきた「辻宿」という集落のものになってしまったということだった。
辻宿は下宿よりもさらに規模が大きく、代官所もあり政治的にも強い集落とのこと。
となると、点と点が線で繋がってくる。
正直岩松の単独犯だとは考えにくい。
俺を消したところで、岩松個人へのメリットが思いつかないのだ。
何か恨みを買った覚えもない。
辻宿が糸を引いているとみて間違いないだろう。
「お願いです。俺が戻ってきたことは、まだ周囲には黙っていてください」
俺は皆に、そう固く口止めをした。
もし俺が生きていると、岩松含めた辻宿の連中に知られれば、奴らは高確率で再度俺を消しにかかるだろう。
なんたって、俺は犯行現場の生き証人なのだから。
具体的な理由までは説明しなかったが、皆何も追及することなく「分かった」と頷いてくれた。
本当にパラメータ様さまだ。
とにかく、今後俺が最優先でやらなければならないことは決まった。
奪われた開墾地の奪還だ。
いつまでも「開墾地」と呼び続けるのも風情がないということで、これから取り戻しに行くにあたって、あの場所に名前をつけた。
その名も、「乙女原」。
なんでそんな名前にしたかって?
カヨ、ユキホ、ツムギ、お蘭。
あの四人の少女(乙女)たちが切り拓いた、清らかで美しい土地だから……に決まっているじゃないか。
待ってろよ、辻宿。
俺たちの「乙女原」は、必ず返してもらうからな。




