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(元凶がキース……!)
できれば聞かなかったことにしたい。
ぬるくなったお茶を飲みながらそんなことを考える。しかし現実逃避する時間さえ与えてはもらえない。矢継ぎ早に語られる。
「わたしがどうしても聖女の役割なんかいやだ。元の世界に帰りたいって駄々を捏ねて閉じこもっていた時にキースがやってきて『最速で帰れる方法』を教えてもらったの」
ーーなんていうかめちゃくちゃだ。
だが考えてみれば確かにそれがユイナを帰らせる最速の方法なのだろう。
「閉じ籠っている時にキース様が訪れたんですね」
「ええ。絶対に会ってやるものかと思っていたけれど、帰る方法を教えると部屋越しに言われてね。現金なものでしょう?」
「……いいえ。わたしだって違う世界に召喚されて、急に魔王を倒せと言われたら、閉じ籠りたくなるし、その方法があるならそれに縋りたくなるわ」
わたしがそう言うと、意外そうに目を丸めて、くしゃりと泣きそうな顔で彼女が笑った。
「……初めてわたしの立場になって考えてくれた人を見た」
「それは……」
「みんな『聖女なんだから』の一点張りなんだもの。ただの大学生にそんな大層な役割を急に求められても困るわ」
重たい溜息を吐いて、疲れた表情を見せた。
つい心配になって質問する。
「キース様も?」
「いいえ、彼だけは聖女としての振る舞いを押し付けなかった。ただそれはわたしの立場になって考えてくれたというより、自分の目的のために尽くそうとしていた感じね」
「なんの目的があったの?」
質問ばかりして申し訳なくなる。しかし彼女は気にする様子もなく答えた。
「一刻も早く魔王を倒して、あなたと結婚したかったのよ。キースにとって魔王を倒すのは目的のための手段。私も手っ取り早く帰るための手段として魔王を倒したらどうか、と言われたわ」
「そんなことのために……」
「彼にとってはそんなことじゃないのよ。だから、魔王を討伐すると決めてからも終始私の周りに張り付いた。あれは護衛というよりも、私が他の男に惑わされて出国を遅くしないように見張っていたのだと思う」
パーティーでユイナに付きっ切りだったのはそういう意図があったのか。
ようやく納得がいった。
「でもね私としてもちょうど良かったの。王様は私を他のだれかとくっつけて、この国に住まわせたかったみたいだけど、私は帰りたいし。そうなったら他のだれかが来られてもうんざりじゃない?」
「……確かに」
あっけらかんとした彼女に釣られて笑う。
「その点で言うならキースはちょうど良かった。身分も騎士としての器量も、絶対に私を好きにならないところも」
悪戯っぽく彼女は片目を瞑った。
「王様はずっとキースが私から離れなかったから彼が心変わりしたと思っていたけどね。その逆よ。あなたが好きだから、キースは私の傍を離れようとしなかった」
私も陛下と同じ誤解をしていた。
聖女が召喚されてわたしは用なしになるんだって思い込んでいた。
「いくら格好良い人に言い寄られても、結局その人達は私が『聖女』だから言い寄って、中身の私を見ようとしない。まぁ私も早く帰ることを目的にしていたから、その人達の中身を見る余裕がなかったのかもしれないけど」
今となっては反省している、と彼女が付け加える。
「私は一刻も早く帰りたかったし、キースは一刻も早く魔王を倒してあなたと結婚をしたかった」
キースは魔王を倒す旅の同行者に選ばれてから、私の父に結婚の延期を言い渡された。
魔王を倒す旅は過酷でいつ命を失ってもおかしくはない。そんな相手とは結婚させられないという考えからだ。だからキースはわたしとの結婚を了承させるために魔王を倒す必要があった。
「つまりあなたとキース様は利害の一致のために手を取り合っていたのね」
わたしがそう呟くと、彼女はゆっくりとうなずいた。
だけど最大の疑問は残ったままだ。
なぜ彼女はわたしに助けを求めているのか。
それを聞かなければすっきりとしない。




