30
ちょうど承諾した頃に彼の屋敷に到着した。
痛いくらいに心臓が高鳴っている。けれどそれはわたしだけじゃないのだ。
そう思うと少しだけ勇気が出た。
彼にエスコートされて屋敷に入る。
屋敷の中では使用人達が出迎えていっせいに頭を下げた。
彼は片手を上げて鷹揚に応える。
「あとで使用人を紹介すると共に屋敷も案内する」
「はい」
お互いに緊張からか会話が短くなっている。無言のまま螺旋階段を上っていると足がつまずいた。
(…………あ)
転びそうになったわたしをキースが腰を抱いて支える。そしてそのままわたしを横抱きにして運び始めた。
「キース様……!」
「転んでは危ないだろう」
「気を付けますから」
「俺が心配なんだ」
だれに見られているか分からない場所で横抱きで運ばれるなんて恥ずかしい。けれど、転びそうになった手前、強く断ることができなかった。
(重くないかな?)
こんなことならダイエットをしておけば良かった。がっしりと鍛えられたキースに運ばれるのは危なげなく、逆にわたしが歩くよりも早く進んでいった。
きっとキースはわたしに歩調を合わせてくれていたのだろう。今になってそのことに気が付く。
階段を上り切ってもキースはわたしを降ろさないでそのまま歩いて行った。
降ろしてほしいと言うタイミングがずれたことで、結局押し黙ってキースに運ばれていく。そして一番奥の部屋に辿り着くとキースは足を止めた。
「カレン、開けてくれないか」
わたしを持っているため彼の両手は塞がっている。わたしはそれにうなずいて扉を開けた。
いよいよ彼に抱かれるのだと思うと緊張が増す。ガチャリとドアが開く音がやけに重々しく聞こえ、身体が強張る。
意外なことに白を基調とした部屋はアンティーク家具が並べられていておしゃれで可愛いものだった。
「気に入った?」
「ええ、とても」
わたしがそう答えると、彼の空気が柔らかくなった。
部屋の中心にあるクィーンサイズのベッドにふわりと降ろされるとそのまま靴を脱がされ、押し倒す形でわたしの顔にキスの雨を降らせた。
「あの、重くなかったですか?」
心配になってそう尋ねる。
もっとムードのある質問をすればいいのに、どうしても気になってしまったのだ。
彼はそれに驚いた様子で目を丸くして、笑った。
「全然。むしろ軽過ぎて心配になったが……」
「そんなことは……」
「だってきみの身体はどこもこんなに細い」
さらりと二の腕を撫でられ、横腹をなぞられる。くすぐったさから身じろぎすると、彼の顔が近付いてきた。
「ん……」
端正な顔が近付くとどこを見れば良いか分からなくて、目を瞑って全てを受け入れた。




