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アルバート侯爵はキースに同情的だった。
だがキースは生い立ちから懐疑的で無償の優しさなんか信じられなかった。
ーーただゆっくりしてくれたらいい。
アルバート侯爵がそう言っても、キースは神経をとがらせるばかりで十分な睡眠がとれていない様子だ。
そのためアルバート侯爵は自ら悪役になってまで『役割』を与えたのだ。
(キースはそれを知らないんだけどね)
プレイヤーしか知らない裏事情。おまけにこの情報はファンブックにのみ書かれているコアなファン向けの裏知識だ。
(結局、キースのことを考えているうちに朝になっちゃったなぁ)
ベッドで寝転がりながら、こめかみを揉む。
キースは未だに自分の『役割』に縛られている。
わたしと婚約したのもアルバート夫妻が決めたことだからだ。
ゲームの序盤でわたしがキースに婚約破棄を言い渡されるのは『役割』に縛られている彼がそれを放棄してまでヒロインへの想いを貫くという覚悟の表れを示すためのもの。
キースの個別ルート後半にそのことが語られていた。
彼は人を信用しない。
自分が好きになったヒロインにさえ信用できずに試してばかりいた。
生い立ちのせいで中々人を信用できない彼が唯一信じたいと思った女性。それがヒロインだ。
(なるべくならすれ違いが起こらないようにしたかったんだけど……)
この先、ヒロインがキースを選ぶかは分からない。だけどどのルートを選んだとしてもわたしは序盤に婚約を破棄される。そのことは決まっていた。
ゲームでは必ずそのシーンが描かれていたから、ついそういうものだと思い込んでしまったけれど、彼からすれば不誠実極まりないことだった。
(本当にわたしの馬鹿!)
失望を浮かべたキースの顔を思い出すと、悔やんでも悔やみきれない。
わたしが彼を傷付けた。
どれだけ謝っても許されないことだ。それでも直接彼に謝りたい。
まずは昨夜のうちに書き上げた手紙を渡してもらおう。
直接会えるかは分からないけれど、きちんと自分の誠意を見せるべきだ。
そう思って、身体を起こす。ベッドサイドのテーブルに置いてあるベルでメイドを呼ぶと、すぐにやってきてくれた。
「この手紙をキース様に渡してほしいの」
「かしこまりました」
深々とお辞儀をして去っていったメイドと入れ違いに部屋の外からノックをされる。
やってきたのは違うメイドだ。
彼女はわたし宛の手紙を持ってきたようだ。
誰からだろうと思って、差出人を見ればキースの名前が記されていた。
あまりのタイミングにドキリとしながらメイドにお礼を言って一人にしてもらう。
逸る気持ちで手紙を開けると内容はあまりに簡素だ。
――話したいことがあるから、明日の午後にアルバート家を訪ねてきてほしい。
キースからアルバート家に誘うなんて初めてだ。
驚く気持ちが大きい。
一体なにを話すんだろう。
不安と焦りから鼓動が大きくなる。
それでも彼から手紙をもらえたことにホッとする。
心のどこかでもう顔も見たくない、と言われるのではないかと思っていたからだ。
「あ……。手紙出してもらうの止めなきゃ」
もう一度メイドを呼ぶとやってきたのはちょうど先程わたしが手紙を預けた女性だった。手紙の内容に行き違いをあったことを話して、止めてもらう。
そしてキースからの返事を書くため、もう一度机に向かった。
明日行くことへの了承と訪ねる時間。その上でわたしも話したいことがあるとを記す。
彼と会った時に直接謝ろう。
この時は安易にそう考えていた。
しかしその決断は間違いだったのだ。




