83 最後の執事を召喚
アレクサンダーの耳を私の悲鳴で破壊し続けながらも、しばらくはどうすることも出来ずにただ様子を窺う私たち。
どうやら大型の水棲魔物が船に向かって突進してきたらしい。直撃は免れたけど、避ける時に掠ったとかで大きく揺れたのだ。今も揺れている。
もちろんそれで魔物がどこかへ行ってしまった、というわけでもなく、今もまた襲われ続けているというやばい状況だ。
船の乗組員や腕に自信のある乗船客たちが頑張ってくれているけど……討伐はおろか、逃げ切ることも出来ないでいるみたい。
「ひぇ、触手ぅ!?」
「クラーケンですね。これは厄介な魔物に見つかったものです。遭遇した船は必ず沈むとか」
「アレクサンダー! 冷静にそんなこと言うのやめられる!?」
「今、なんと? 申し訳ありません、耳の調子が悪く……」
私の悲鳴のせいだね、ってそんなこと言ってる場合かっ!
どうしてそんな冷静なのぉ!? 執事は死ぬことなんてないからか!?
でも、アレクサンダーが私を守るように抱きしめてくれているから、一応危機感は覚えているっぽい。素直じゃなさすぎ!
そんなことよりも、このままじゃ船が沈んじゃう……!
「ど、どうしよう? やっぱりチャズを召喚するべきなのかな? でも、でも、大騒ぎになっちゃうよね!?」
チャズに倒してもらって、すぐに帰還してもらえばどうだろう?
あの人はなんだったんだ? どこから来たんだ?
って大騒ぎにはなるだろうけど……命のほうが大事だよね!
と覚悟を決めかけた時。
「最後の執事を召喚しましょう、コトリ様」
「え、最後の?」
「ええ。彼ならあの魔物も簡単に倒せるでしょう」
あんなでっかい海の魔物を簡単に? まだそんな執事が残ってたんだ……。
「そんなに強い執事がいるの? チャズの他に? でもそれって、結局同じ懸念が……」
「大丈夫です、人じゃありませんから!」
人じゃ、ない……?
聞くところによると、最後の執事はカテゴリーとしてわけるなら魔獣に分類されるらしい。
それならどこからともなくやってきた魔獣だと言い張れるかもしれない、か? いや、ここ海の上ぞ?
ま、まぁ、最悪魔獣の召喚士として言い逃れが出来るか。
召喚士、というだけで珍しいのは変わらないけど、精霊召喚士よりずっとマシってことか。
出来ることならどこからともなく現れた野良魔獣と言い張りたいところだけど……。
あーっ! もう! 言い訳も何もかも全部解決してから考えよう!
今は、この危機的状況を脱することが大事だ!
「ここで召喚しても平気かな?」
「全員、それどころではなさそうです」
「よ、よぉし。ならやっちまえ!」
相変わらず揺れの激しい船の上、アレクサンダーに支えてもらいつつ必死で壁にしがみ付くジーノをチラッと見てから集中する。
頭の中で、最後の執事、魔獣の執事と考えて……。
「執事召喚っ!!」
これまでで一番大きな魔法陣が出てきた。驚いてジーノがこちらに顔を向けている。
くっ、他の人も何事かとこっちを見てなきゃいいけど……あまりにも目立つぅ!!
そうこうしている内に、魔法陣からは最後の執事が現れた。
体長は……数メートルはあるな。人が五人くらいは乗れそう。
白銀の毛並み、金色の瞳、鋭い牙と爪を持った──
「でっかい、ワンちゃんっ!!」
「フェンリルですよ、コトリ様」
あ、フェンリルだってさ。私には犬との違いが大きさと毛並みくらいしかわからないけど!
っていうか待って? あーーーーっ!
せっかく凛々しくカッコいいお犬様なのに、額に例のキュートな紋章がーーーっ!!
ま、まぁ、でも、人型じゃないだけ、マシ、か……?
などと色々考えていると、くるっとこちらに顔を向けてきた犬……改めフェンリル。
なんとなく指示を待っているように見えなくもない。よし。
「お願い! 船を襲うクラーケンを退治してきて!」
「ウォォン!!」
犬、じゃなくてフェンリルは私の言葉を聞くとご機嫌に聞こえる鳴き声を残して軽やかにクラーケンの下へと向かった。
すごく大きいのに、ジャンプした時の振動がない。すっごく軽やかな身のこなしだ。
クラーケンと対峙していた人たちは、突然現れたフェンリルに驚愕の表情を浮かべていたけど、どうやらクラーケンと戦っているらしいと見て少しずつ落ち着きを取り戻していった。
フェンリルは風かなんかの魔法を使ってクラーケンを竜巻の中に閉じ込めている。
洗濯機で洗われる巨大なイカ……グロいな……。
しかし何でもありだな、執事。怪獣大戦争だ。
あ、今気付いたけど、首輪に黒い蝶ネクタイつけてる。可愛いな……。
他の人たちと同じように呆然と、現実逃避をしながらフェンリルとクラーケンの戦いを眺めていると、ジーノが言いにくそうに口を開いた。
「あ、あの、コトリさん……」
「ん?」
「フェンリルって、その。伝説の生き物、なんですよ。それで、その。もしフェンリルを召喚出来るって知られたら……」
伝説の生き物? フェンリルが?
犬型の魔物が他にもいるにはいるけど、あの強さと大きさ、そして風を操り空を駆ける魔獣はフェンリルしかいないのだそう。
……えーっと。
つまり、精霊召喚と同じレベルで注目を浴びてしまう、ってこと?
流れる沈黙と背中の汗。
私はジーノに向かってフッと微笑んだ。
「あれは野生のフェンリルです、と言い張ろうそうしよう」
「ぼ、僕も口裏を合わせますね……!」
それでどこまで誤魔化せるかはわからないけど、そう簡単に認めるわけにもいかないしね!
……はぁ。とりあえずフェンリルのステータスでも確認するか。
現実逃避に私はタブレットを取り出した。
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【イシュドル】
タイプ:ビースト
HP:100000
MP:50000
攻撃力:S
防御力:B
素早さ:A
賢さ :A
器用さ:F
運 :E




