この未来は、俺たちが選んだ
世界は救われた——はずだった。
けれどその静寂は、すぐに打ち破られた。
空を裂いて現れたのは、美しき神。かつてイオリを召喚した、女神アルシア。
だがその姿はもう、慈愛など纏っていなかった。
その瞳に宿るのは冷酷な意志。唇が告げるのは、世界の破壊。
「フラグシステムは、秩序を保つために存在する。貴方のような例外がそれを書き換え続ければ、世界は崩壊するのです」
白銀の神衣をなびかせ、アルシアは天空より降り立った。
その手に握られるのは、黒き書板《終焉のシナリオ》
「これより、全ての例外フラグを削除します」
——彼女が削除対象としたのは、まさしくイオリと、ヒロインたちそのものだった。
「やらせないっ!」
リアが咄嗟に前へ出る。槍を構え、女神に立ち向かう姿は、まさに戦乙女。
「イオリが命を賭けて書き換えた未来を、勝手に消させたりしない!」
「哀れですね、ヴァルキュリア。貴女は元々、使命を果たせば消える運命だった。私はそれを、自然な結末として設定したまで」
「ふざけるなッ!!」
ルナの怒号が響く。漆黒の魔力を纏い、天空に魔法陣を浮かべる。
「私たちの生きる未来を、設定なんかで決めさせてたまるかよッ!」
「感情は美しい。けれど感情で因果を捻じ曲げるのは、システムへの反逆。それは——貴女たちが、この世界にとって異物である証です」
「だったら異物でもいい!! イオリと一緒に未来を生きる、それが私の選んだ道だ!!」
「神に抗っても……意味なんてないかもしれない……でも……」
ミナが震える声で言う。けれどその瞳は、確かに前を向いていた。
「それでも……わたしは、イオリさんの選んだ未来を、信じたいんです!」
「コロもコロも! いっぱい食べて、いっぱい笑って、いっぱいイオリと一緒に生きたいっ!」
その声に——イオリは応える。
「お前ら……ありがとうな」
彼は深く息を吸って、女神を真正面から見据えた。
「アルシア。お前の言ってることも、正しいのかもしれねぇ。でもな、それでも……俺は選びたいんだよ。自分で。みんなで。生きる未来を!」
「選択は、可能性を拡散させるだけ。破滅のリスクを孕んだ不安定な分岐点。私はそれを収束させるために存在しているのです」
「じゃあその収束をぶっ壊すのが、俺の役目だ!!」
イオリの《フラグ解析》が、女神の頭上に浮かぶ文字を捉える。
【世界を初期化せよ】
【主人公を消去せよ】
【例外を破棄せよ】
——まるで、プレイヤーが無かったことにしようとするセーブデータみたいなその指令。
「ふざけんな……俺たちは、消されるために生きてきたんじゃねぇ!」
イオリは叫び、拳を握る。
「《フラグ回避》、超過干渉モード……!」
《発動:イレギュラーフラグ干渉》
彼のスキルが、かつてない光を放つ。
「女神のフラグなんざ、全部、書き換えてやるよ!」
リア、ルナ、ミナ、コロが彼の背に並ぶ。
それぞれが己の力を解き放ち、女神に挑む。
「今ここで終わらせるっ! 俺たちの物語を!!」
戦いは、天と地を巻き込む激闘となる。
神の雷。魔の炎。聖なる光。竜の咆哮。
だがそれ以上に輝いていたのは、彼らの想いだった。
生きたい。
一緒に未来を歩きたい。
イオリと、仲間たちと、笑い合いたい。
——その願いが、神をも超えた。
「どうして……こんなにも強いのですか……」
ついに、アルシアが膝をつく。
彼女の身体が光に満ち、ゆっくりと崩れ始める。
「答えは簡単だよ、アルシア」
イオリが歩み寄り、手を差し出す。
「設定じゃない。選択を俺たちは信じた。それだけだ」
女神はその言葉に——微笑んだ。
「……それは、私には決してできなかった選択ですね……イオリ……」
彼女は静かに光となり、世界に溶けていった。
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そして——
世界は、静かに再構築された。
もう、死亡フラグは存在しない。
この世界はようやく、真に生きる物語を始めることができたのだ。
リアは槍を背負い、王国騎士団の新隊長に。
ルナは魔族の和平使者として忙しく飛び回りながら、イオリの部屋にちゃっかり住み着いた。
ミナは聖教の再編を進めながら、日々イオリに弁当を作ってくれる。
コロは人と竜の懸け橋として、学校に通い始めた(主に給食目当てだが)。
そしてイオリは——
今日も、頭の上のフラグを見上げて、ため息をつく。
「……恋愛フラグだけ、異常増殖してるんだけど?」
『さーて、次回は誰がデレるかな〜?』
頭の中でミナティが軽やかに笑う。
「平和になったのはいいけど……これはこれで地獄じゃね?」
そんなぼやきをしつつも、イオリは笑っていた。
だってこの未来は、自分たちで選んだんだから。




