番外編 ベルゼビュートの忙しい一日 ② 華side
――いったい何が起こったのよ!?
突然現れた、円柱みたいな光は煌々と部屋の中を照らしていた。
◇
やっと受験も終わって、ホッとしたら急に淋しくなってしまった。だから、なんとなくお兄ちゃんの部屋に入った。
コルクボードに貼ってある写真を見ると、涙が止まらなくなる。
帰省した巴お姉ちゃんが、ダンの散歩中に橋の落下に巻き込まれて、そのあとを追うように伊織お兄ちゃんも事故にあった。
今でも本当に信じられない。
双子のお兄ちゃんとお姉ちゃん、私に弟。四人もいた兄弟姉妹なのに、私と恭介だけになっちゃった。
足の悪いおじいちゃんは施設で元気にしているけど、おばあちゃんはショックからか、おかしなことを言うようになった。
お父さんとお母さんは、私と恭介のために無理して元気そうにふるまっているけど……。
四人も子供がいたし、施設代はよく分からないけどかなり高いみたい。私が中学に入った頃から、お母さんのパートの時間も増えた。
六年生になった恭介が少年野球チームに入ったし、おばあちゃんのお世話もある。きっと泣く暇もないのかも。
まあ、私たちの見てない所ではわかんないけど。私みたいに、お兄ちゃんかお姉ちゃんの部屋で泣いているのかもしれない。
『いつか、巴と伊織が遊びに来たときに寂しがると可哀想だから、部屋はそのままにしておきなさいね』
葬儀のあと、おばあちゃんが言った言葉。ボケてなのか、お盆とかに霊が帰ってくるとか言うアレなのかは分からない。
だけど、お母さんはうんうんと泣きなら頷いていた。
「私ね、お兄ちゃんとお姉ちゃんと同じ高校受けたんだよ。巴お姉ちゃんはギリギリだったけど、私はお兄ちゃんに似ているから超余裕! お姉ちゃんの制服、……私がちゃんと着るからね」
剣道着のお姉ちゃんに肩を組まれいる、照れくさそうなお兄ちゃんの写真。写る二人に話しかけた。
年齢が離れているせいか、あまり遊んだりしなかったけど大好きだった。
――ゴトン。
私以外いないはずの部屋に、音がした。古い家だから、たまに乾燥で柱とかの木が鳴る。
でも、そんな音じゃなかった。
悪いけど、私はオカルトは信じない方。用心深く、部屋をみまわす。泥棒とかだったら怖いから。
あれは……何?
さっきまで、何も無かった床に微妙に汚い宝箱っぽい物があった。
「え、こんなの無かったよね!? こわっ!」
思わず声に出して突っ込んだ。
すると、カタカタと箱が小刻みに揺れる。まるで、中から出してくれと言うように。
「えぇぇ……変な物、入ってたらどうしよう」
汚い宝箱の向こうには本棚があって、お兄ちゃんの本やらゲームやらが並んでる。『魔法』『異世界』『転生』そんな文字が入ったタイトル。
ごくっと、唾を呑み込んだ。
「まさか……ね」
巴お姉ちゃんなら、こんな時どうする?
写真をチラリと見た。返事はないけど、お姉ちゃんなら100%開ける。それも躊躇なく。で、慌ててお兄ちゃんが止めるのだ。
でも絶対シスコンのお兄ちゃんは、結局はお姉ちゃんに付き合うはめになる。
――うん。開けよう!
私は宝箱の前にかがみ、いつでも飛び退けるような体制で蓋を開けた。
次の瞬間、眩しい白い光が箱の中から出て、目を開けていられなかった。
明るさがおさまったのを感じ、恐る恐る目を開くと、フローリングの床には真っ赤な絵が――。
「なにこれ? 絵……てゆうか模様? 床に落書きとか、私がお母さんに怒られるじゃん」
消さないと。慌てて赤い線を手で擦ろうと、触れた瞬間ゾクっと背筋が寒くなった。
「これ……血? やだ、怖いっ! お兄ちゃん、お姉ちゃんっ、助けてよ!!」
そう叫んだ瞬間、丸い模様から円柱の光の柱がドンッと光ったのだ。
◇
腰が抜けて、動くことすら出来なかった――。
尻もちを付いたまま、その光の柱を見ていると段々に光は収まっていく。
光が淡くなると、赤い円の模様の中心には人影が。
それも、彫刻みたいな外国人風な超絶イケメン。濃紫の髪とかコスプレイヤーにしか見えない。
――そんなことよりっ!!
イケメンの腕の中で、お腹を上にした状態で優雅に抱っこされていたのは、お姉ちゃんと一緒に橋から転落したはずのポメラニアン。
「ま、まさか、ダン!!?」
ありえないと解っていたけれど、ダンにしか見えなかった。
『あ! やっぱり華だった!』
――え? 犬が喋った?
「やはり、勇者と聖女の妹なのか?」
『うんっ、そう!』
――ええ? イケメンと犬が会話してる?
『華、久しぶり!』
「――えぇぇぇ!? 幽霊?」
『ちがうしー。あ、主人も伊織も、ユウも元気だよ〜』
「……は?」
死んだはずのダンが、イケメンを連れて帰って来たかと思ったら、突拍子も無いことを言い出したのだ。
混乱した私に、イケメンは苦笑いをした。
――くっ。私が尊死するわっ!




