29.嵐の前の静けさ
リアムが魔術師団本部に戻ってから暫く経つ。
けれど、未だにリアムは帰って来ないまま、週末を迎えてしまった。
「……うぅ〜ん――」
と自分の唸り声で目を覚ました。
まだ少しボーッとするので、ベッドの中で微睡む。
右の頬にはダンのモフモフが、左の頬にはユウのプニプニの肉球が。朝から、なんて癒される……幸せ。
「アンジェお嬢様、お目覚めのお時間です」
メイドのリリーが起こしに来てくれた。
カーテンを開けると、眠気でなかなか動いてくれなかった頭が、明るい日差しを受け徐々にスッキリしていく。
うん、今日は良いお天気みたいたいだ……。
「本日は。ライアン様と、王都の街までお買物のご予定では?」
あ――――っ!! そうだった!
ガバッとベッドから飛び起きた。その勢いに隣に寝ていたダンとユウも驚いて目を覚ます。
そう、今日は念願の自分の剣をライアンに買ってもらう日だ。
聖騎士団御用達の武器屋、それもライアンやオスカーなどが信頼している、お抱え鍛治師がいる店で!
うぅ〜……わくわくするっ!
当然、執事やメイドにはただのショッピングと伝えてある。流石に、侯爵令嬢が武器屋に行くと知ったら、止められるだろう。
動き易さ重視の服を選んだら、リリーとハンナに即却下され、ライアンに恥を掻かせると叱られた。
で、結局――。
リリーとハンナが選んだ、街歩き用の可愛らしいワンピースに着替えさせられた。ふんわりとしたスカートに、フリルとリボンが付いた帽子まで。
行き先は武器屋だし。正直、可愛いワンピースって微妙よね。まるでデートするみたい……。
支度を終えると、ライアンが待つ馬車へと向かう。
ダンとユウは残念ながら留守番だ。
「お兄様、お待たせ致しました」
声を掛けると、ライアンは振り返り「ほう…」と呟いて笑みを浮かべた。
「武器屋に行くのに……この服、変ではないですか?」
小声で、尋ねる。
「いや、よく似合っていて可愛いぞ。アンジェは何を着ても似合う」
至極真面目にライアンは答える。
そう言う意味では無いのですが……。まあ、褒められたんだからいいかっ。
◇
――王都の街は。
華やかなお店が沢山あって、馬車の中から見ているだけでも楽しかった。
お洒落で綺麗な店が多い道を抜けると、雰囲気がガラリと変わり、厳つい外観の店が増えてきた。
おおっ! 武器屋さんぽいの見えて来たぁ!
「あそこが、以前話した店だ」
ライアンは、重そうな木で作られた立派な扉を指差した。
扉を開けるとカランコロンとベルが鳴る。
客を知らせる音に、よく日に焼けた逞しい青年が顔を上げた。
「よう、ウィル」と、先にライアンが声を掛ける。
「ライアン、よく来たな! おおっ? その子が、お前の自慢の妹か?」
「そうだ。アンジェだ」
「初めまして、アンジェと申します」
「俺は、店主兼鍛治職人のウィルだ。よろしくな!」
ライアンとウィルは昔からの腐れ縁らしく、身分に関係なく信頼できる友人だ。
ウィルは、私を上から下まで何度か見ると、ライアンに確認する。
「おい、ライアン。本当に、このお嬢ちゃんが剣を必要としているのか?」
「ああ、見た目に騙されると痛い目見るぞ」
ニヤリとライアンはウィルを挑発する。
失礼だな、二人して……と思いつつも、店内に飾られた武器に目が惹かれる。
剣を色々触ってみたいと、自分の希望を伝えた。
「もちろんさ!」
とウィルは、お薦めの剣を幾つか触らせてくれた。
「お嬢ちゃんは、騎士じゃないから馬は乗らないだろ?
なら、小柄なお嬢ちゃんはロングソードよりショートの方がいい。これなんてどうだ?」
ウィル自慢の希少な素材で出来ている、ショートソードを見せてくれた。
ヒルトと呼ばれる柄の部分には細かな細工が施されている。握った感じも、悪くない。
――うん、いいかも!
「そいつは、切れ味も抜群だぞ」
これに決めようとした瞬間……ウィルの後ろの壁に飾られている、ある物が目に入った。
――――あれはっ、日本刀!?
「お、お兄様! ウィルさんっ! あれっ……あの剣は?」
日本刀に似た剣を指差し尋ねた。
「なんだ? 珍しい剣だな? ロングソードでもなさそうだが?」とライアンはウィル聞く。
「ああ、あれは冒険者が持ち込んできた剣なんだ。片刃だし、独特の形だから少し加工しようかと思ってな」
「私っ、あれが欲しいです! 絶対あれにします!」
「「――はああ!?」」
興奮して言った私に、二人は素っ頓狂な声をあげた。
さすがに真剣は、居合でしか使ったことは無いが、この世界では諦めた日本刀があったのだ。
とにかく、欲しい!!
二人を説得する為に、外で正しい使い方を見せると提案した。すると、面白そうだとウィルはその準備をしてくれた。
試し斬り用の木の前で、深く呼吸を整える。
そして、構えをとるとスパッ――と袈裟斬りをした。
繊細かつ美しく、斜めに真っ二つになる木。ウィルもライアンも言葉を失った。
「これは、日本刀と言う刀なんですよ。普通の剣とはちょっと使い方が違いますが、私にはこちらが合ってます」
「よしっ、お嬢ちゃん! それの使い方は分かった。俺が更に完璧な物に仕上げてやるっ。任せろ! いいな、ライアン!」
「はあぁ……ウィルの職人魂に火がついてしまったな。アンジェ、暫くかかりそうだがそれでもいいか?」
「はいっ! ありがとうございます!」
日本刀が手に入るなら、いくらでも待ちますよ!
そして、ウィルに加工を任せて、今日は手ぶらで帰ることになった。
私はご機嫌だったが、ライアンは流石に何も買わずに帰るのは……と、途中でダンとユウに王都で流行しているお菓子を買ってくれた。
――その翌日。予期せぬ嵐がやって来た……。




