13.告白
帰るとすぐに湯浴みを済ませ、夕食までの空いた時間に一息ついた。
部屋から誰も居なくなった事を確認すると、ダンとユウを呼び寄せギューッと抱きしめる。
ふわふわしたダンの柔らかい毛に、ふにふにのユウの肉球。
あぁぁぁ、もふもふ最高……癒されるわぁ。
『……苦しいっ、主人どうしたの?』とダン。
『何かあったの?』と心配そうなユウ。
「驚かないで聞いてね」
真剣な私に、ダンもユウも息を呑む。
「あのね、伊織に会ったの! この世界に伊織が居たのよ!」
『『えええっ!? 伊織が! 本当にっ??』』
笑顔で頷く。ユウとダンを飼いだしたのは私だから、一番懐いてくれていたけど。もちろん伊織も大事な家族で、ユウもダンも大好きなのだ。
『伊織は元気だった?』
『伊織は一人で大丈夫?』
心配そうな二匹に、今日の出来事を詳しく話した。
取り敢えず、伊織は元気にしていて、ライアンの聖騎士団に在籍していると。大丈夫そうな状況だと伝えると、二匹は安堵した。
「でも……どうして、伊織は聖騎士団に入ったのかしら?」
私自身、急に養女にと言われ侯爵家に来たのだ。
伊織もルイとして、色々な事があったのかもしれない。折を見て会いに行きたいとは思うが、今はまだ家庭教師との授業が詰まっていて、しばらく外出は出来そうにない。
今日の熱りが冷めたら、お兄様に詳しい話を聞いてみよう……。
◇
夕食も終えたので、ライアンの部屋へと向かった。
自分用の木剣が貰えるのだ。嬉しくて自然と足取りが軽くなる。
ライアンの部屋の扉をノックをすると、すぐに返事があった。
中へ入ると、ライアンも湯浴みを済ませたのか、髪も崩れてラフな格好でソファに座っている。ライアンの前の広いテーブルの上には、幾つもの木剣が並べてあった。
「好きなのを選べ。アンジェは騎士ではないから、身体のサイズに合いそうな物を用意した」
「ありがとうございますっ。お兄様!」
ずらりと並んだ木剣。初めて竹刀を買った日のように、嬉しくて仕方ない。
片っ端から手に取り、握ったり重さを確かめたりする。木刀なら居合道で慣れていたが、木剣は木刀より太くて短い。そもそも、片刃の刀と両刃の剣は別物だ。
ぶつからないよう、ブンと振ってみる。
真剣に悩んでいると、ライアンが口を開いた。
「お前は……本当に剣が好きなのだな」
剣を持ったまま、顔を上げてライアンを見る。
――――!
湯上がりなせいか、ライアンの瞳が熱を帯びているように見える。いつもと違う表情にドキリとした。
「は、はい。剣自体も好きですが、私は剣技をするのが好きなのです! あ、その……やったことはありませんが」
まあ……剣道はやってましたけどね。
「アンジェは……変わっているな」
そう言って、私のフワフワしたローズブロンドの髪を触り、ライアンは柔らかく微笑んだ。
経験したことの無い甘い雰囲気。カッと頬が熱くなった。たぶん、顔は真っ赤になっている気がする。
な……なんだか、調子が狂うっ!
「今日、窓からお前とルイを見て……。俺はどうしようもない程に……嫉妬した」
間近にあるライアンの顔。その表情から目が離せない。
「あ、の……お兄様?」
「お前は義妹だが、誰にも渡したくないと思ったのだ」
「ふぇっ……!?」
「アンジェはまだ十三歳だ。今は分からないかもしれないが、俺は待つつもりだ。そして、お前を守ると誓おう――」
真剣な言葉に胸が熱くなる。十九歳だった巴には、ライアンの告白は理解できていた。
でも、彼氏いない歴=年齢の私にはどう返事していいのかが分からない。だから戸惑いが顔に出てしまった。
「……アンジェは、ルイが好きか?」
「え……ルイですか? 弟……みたいで好きですよ」
実際、弟だし。
「では、俺の事は好きか?」
「はい、お兄様も大好きですよ」
これは本心だ。
「そうか、今はそれで満足だ」
ライアンは破顔した。それはもう嬉しそうに。
くっ! お兄様……その表情は破壊力抜群で、ズルいです!!
「と……ところで、お兄様はおいくつですか?」
「俺は二十一歳だが?」
危うく――手に持っていた木剣を落としてしまう所だった。
てっきり二十代後半だと思っていた。これ言ったら怒られるよね、絶対。
「アンジェは、十五歳で成人する。その時にまた聞こう」
そう言ったライアンは、そっと私を包み込むように抱きしめた。
優しいライアンの温もりが伝わってくる。バクバクする心臓を必死で抑えた。
すぐにライアンは離してくれたが、その後どんな会話をしたかよく覚えていない――。
気付けば自分の部屋に戻っていた。勿論、手にはしっかりと木剣を抱えて……。




