平成26年⑤
夏休み入る直前の週だった。
いつものように名波さんからLINEきて
一緒にお昼ご飯を学食で食べていた。
名波さんはいつも通り笑顔だったが、少し疲れているように感じた。
「ねぇ高瀬くん。今日って夜暇?」
「暇だけど。なんで?」
「少し愚痴聞いて欲しい」
「いいけど。どうしたの?」
「ちょっと色々。いつも通りの愚痴だよ!
バイトのことやサークルだったり色々!
飲みに行こうよ!」
僕は一瞬悩んでしまった。
「名波さん、自分は飲みに行くのはいいんだけど。彼氏さんは大丈夫なの?高瀬との時間が多い気がして大丈夫かなと。」
名波さん一瞬下を向きすぐに顔をあげ
「大丈夫!」と言った。
明治通りの所にある花の舞で待ち合わせをした。
名波さんはお店の前で待っていた。
僕らは生ビールを頼み乾杯した。
「ちょっと聞いてよ。高瀬くん!」
からバイトの愚痴からサークルの愚痴、学生サポーターの愚痴を長々と聞かされた。
「名波さんも学生の子案内したりするんだ。凄いね。実は僕も入学する前に学生サポーター
の方から大学案内して貰ったよ。その方は4年生だったから卒業しちゃったかも!」
「え!高3の時に4年生でしょ?お兄ちゃんと同級生だ。知り合いかな?名前覚えている?」
「名前は忘れた!」
「えー。お兄ちゃんに色々聞けたのに。高瀬くん!飲み足りないでしょ?私ももう一杯頼むからもう一杯いこう!」
と生ビールを追加で頼んだ。
「高瀬くんは面白いよね。聞き上手だし。愚痴たくさん聞いてくれてありがとう。」
「いえいえ、暇人なので。」
「うける。」
と名波さんは笑った。
「あのね。彼氏の愚痴もいい?」
と聞かれた。僕はドキッとしたが
「いいよ。」
と答えた。
名波さんは若干笑顔が消え、
「彼氏の束縛が酷くて困ってるの。常にどこにいて何をするかを把握してないとダメなんだって。
私のこと大事だから多分そんなこと言っているのかもだけど。心に余裕なくて
たまに嘘ついてる。友達と予定があってとか
お母さんと出掛けるととか。本当は家にいるんだけどね。それがしんどくてね。」
僕はその質問に対して、経験値が足りないのか
答えるのが難しかった。
なんて返したらいいか分からず
「名波さん、おかわりする?自分はレモンサワー頼むんだけど。」
と聞いた。
「あ、私少し酔いきちゃったから
どうしよう。GODIVAミルクで!」
と答えた。
「でねぇ。彼氏がさぁ‥‥」
と彼氏の同じ愚痴を2時間ループして聞かされてた。
「名波さん?喋り過ぎて喉渇かない?2時間前に来たGODIVAミルク飲まないの?」
「あ、そうだ。忘れてた。私話しが始まっちゃうとずっと喋っちゃうんだよね。だから話しを聞いてくれる人がいいんだよね。しっかり内容を理解していなくても、向き合って聞いてくれるような人がいい。」
名波さんはGODIVAミルクを飲み
「甘〜い。そしてぬる〜い。」
と言って笑った。
「そりぁ、2時間も放置してたし温くなるよ。」
「高瀬くん一口飲む?」
僕は間接キスか!と思いながら少し迷っていた。
「うん。1口貰おうかな。」
「はい!」
「甘っ!」
「でしょ?」
と笑った。
名波さんは僕が口をつけた箇所でそのまま飲んだ。
「ねぇ高瀬くん聞いて!一昨日のバイトでさぁ。
3時間もキャベツの微塵切りさせられてさ。」
とまた話しが始まった。
ふと、スマホの時間を見ると23時40分だった。
完全に終電を逃した。
この日が人生初の終電を逃した日であった。
「名波さん、終電は大丈夫なの?」
名波さんは満面の笑みで
「私、11時30分が終電だよ!もう逃してるよ!
残念でした。高瀬くん!」
「いや〜残念でしたって言われても‥」
名波さんは笑顔で
「よ〜し、朝までやっている居酒屋に行こう!」
と言った。
僕は困りながら、
「名波さん実家でしょ?帰らなくて大丈夫なの?親御さん心配しない?」
と聞いた。
名波さんは笑顔で
「大丈夫!友達とカラオケでオールって言ってあるから大丈夫!
ねぇ!私頭いいでしょ?」
と答えた。
僕は、はぁと溜息を付いた。
僕らはお店を出て明治通りに出て表参道方面へ歩いた。
深夜12時の渋谷の光景は異様で、酔っ払い集団がたくさんフラフラ歩いており、ヒカリエの前には抱き合ってるカップルもいた。そのカップルの隣には、何かプラカードを持った宗教系のおばさんが立っていたりと異様だった。
富山だと真っ暗で人にばったり会うとビックリする時もある。宮益坂のスクランブル交差点を渡り、
朝までやっているチェーンの居酒屋さんに入った。
個室部屋に案内され靴を脱いだ。
名波さんは「あつ〜い」と言い靴下を脱いでいた。
名波さんは深夜なのにまだテンションが高く
注文するパットを操作しながら
「高瀬くんも生ね! あと、さっきから肉とか魚ばかりだったから野菜頼むね!」
と言った。
名波さんは僕のことを見ながら
「高瀬くんって富山に住んでたんでしょ?
富山に住んでた時のこと教えてよ」
「うーん。そんなに面白くないよ。」
「本当に?高瀬くんの初恋とか家族とかさ!」
「名波さんが教えてくれたらいいよ。」
名波さんは笑顔で
「分かった!」
と言った。
「お兄ちゃんがいて、さっきも言った通り学生サポーターやってて去年卒業したの!
でね、お兄ちゃん彼女さんがいて
もうすぐ結婚するかもなの!
因みに彼女さん、高瀬くんと同じ学科の卒業生!
家族みんな仲がいい!高瀬くんは?」
「僕は、父親も母親とも仲はいいよ。こっち来てから帰ってないけどたまに連絡取ってるよ。」
名波さんは驚いた顔で
「え!!3年生でしょ?1回も帰ってないの?
ご両親も寂しいよ!」
「富山に帰るのに、大変なんだよね。乗り換え多いし時間掛かるし。新幹線か特急電車でもあれば楽なんだけどね。」
名波さんは「そっか。」と呟いてから
「でも、時間かかってもいいから帰ってあげなよ。顔ぐらい出してあげれば?多分、嬉しいんじゃないかな?」
と優しい口調で言った。
僕もそうかなと思った同時に、その優しそう話し方に気持ちが一気に掴まれた。
名波さんは笑いながら
「高瀬くん耳真っ赤!照れると耳が赤くなるの?」笑っていた。
生ビールとサラダが来て
名波さんが生ビールを持って
「高瀬くん!2回のかんぱ〜い」
と言ってゴクゴク飲んでいた。
「あ、私サラダ分けるね!」
「ありがとう!」
名波さんはサッサっと取り皿にちょうど半分ずつ分けた。
「名波さん手際いいね。」
「私ね、サークルの飲み会とかバイトの飲み会とかでいつも率先して分けるの!
てか早く高瀬くんの初恋聞かせてよ!富山での!
チューした人!」
エミリー言いやがったなと思ったが、その話しをまた名波さんにも伝えた。
名波さんは若干アヒル口になりながら
「高瀬くんは都内でその人見かけたら声掛ける?」
僕は一瞬悩んだ。
でも、もう思い出だし。
きっと素敵な人捕まえて楽しく過ごしてるんだろうなと思った。
「いや、声掛けないかな。思い出だし!
名波さんは初恋の人に会ったら声かけるの?」
アヒル口のまま
「声掛けない!」
と即答した。
名波さんは僕の顔を見ながら
「じゃあ、私の番ね!
彼氏いるじゃん。束縛凄くてさ。余裕ないって言ったじゃん。」
「うん。」
「でもね。私のこと凄く好きなんでなぁって思うし、それは嬉しいんだ。仕事忙しくてく
全く会えないから、私と距離が出るのは嫌だから頻繁に連絡くれるんだって。そう思うから根は優しいんだ。だから複雑」
「うん。」
「高瀬くんはどう思う?」
その答えについて言葉がすぐ出てこなかった。
「名波さんが判断することだと思うよ。
名波さんがこの人といて、気持ち的に落ち着くか。
気持ちが不安定の時に、その人を信じれるかじゃないかな?
ごめん‥あんまり恋愛系の相談は疎くて。
でもその彼氏さんも名波さんも自分の気持ちを優先に考え過ぎちゃってるだと思う。もう一度
自分たちの距離感を話し合うことも大事かなと。」
名波さんは僕のことをじっと見つめながら
「高瀬くん。ありがとう。高瀬くんはお人好しだね。」
「そうかも。」
名波さんがだんだんカックンカックンしてきて、
「高瀬くんごめん。軽く仮眠とる。お休み」と言って机に顔を伏せた。
「いや、な名波さん、お店だよ。大丈夫かぁ‥」
取り敢えず、朝の5時までやってるし
個室だし少しの時間は大丈夫かと思った。
名波さんは常に笑顔で、その笑顔が凄く好きだった。本当は自分ならそんな彼氏は良くないかなと言いそうだった。沙優の「弱ってる時がチャンス」の声が脳裏に過った。
でも、名波さんのことを思うのなら
今の彼氏さんと上手く行く方法を考えるのが
ベストなのかなと思った。
僕は、昔から言葉で伝えるのが苦手だ。
僕は名波さんが起きるまで隣に座っていた。
個室の外からトントンと扉が叩かれ
店員さんより閉店の30分前だと伝えられた。
僕は名波さん叩き起こし伝票を持ってお会計に向かった。
名波さんは「高瀬くん痛ーい」と言っていたが
爆睡だったので強めに肩を揺らした。
早朝の渋谷駅は閑散としていた。
夜遅くまで賑やかだったのが、駅前はビックリするぐらい凄く静かだった。
僕は名波さんを田園都市線の改札口まで送った。
「名波さん、寝過ごさないで気をつけて帰ってね。」
名波さんは眠そうな顔で僕の顔を見つめてきた。
「高瀬くん。ありがとう。高瀬くんも気をつけて帰ってね。ねぇ高瀬くん。」
「うん?」
「なんでもないよ。じゃあね高瀬くん。」
とおっとりした表情で手を振って改札口へ向かった。
名波さんを見届けて埼京線に乗り川越へ帰った。
家着いた瞬間布団にダイブして爆睡した。
この夜中での出来事以降、名波さんから暫くLINEは来なかった。




