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平成26年③

7月の新宿駅は、暑さと湿気と人の多さで嫌になる。

僕はそんな中、京王線に乗り込んだ。

今日は学芸員ゼミの授業で、博物館見学に行く日だった。

飯田に「一緒に行こうぜ」と連絡したが、

「俺やっぱ博物館無理だわ。眠し」

と返ってきて、結局ひとりで向かうことになった。

最寄り駅に着き、スマホで地図を開く。

大通りをまっすぐ進み、途中で左に曲がるだけ。迷うような道ではない。

左に曲がろうとしたとき、少し先で誰かが迷っているように見えた。

(名波さんっぽい?)

でも距離があってよく見えないし、

「名波さんが道に迷うわけないよな」

と思い、そのまま目的地へ向かった。

博物館に着くと、館内は冷房が効いていてひんやりしていた。

椅子に座って休んでいると、エミリーがやってきた。

「おはよう、高瀬。花音がまだ来てなくてさ。

 “もう先に行ってるよ”って連絡は来たんだけど、来てないんだよね」

「え、名波さん来てないんだ。迷う道でもないのにね」

(あれ?さっきの人、もしかして……)

「ごめんエミリー。もしかしたら名波さん見たかも。

 人違いかと思ってスルーしちゃったんだけど」

エミリーは目を細めた。

「は?人違い?近くまで行って確認しなさいよ。

 どこにいたの?案内して」

僕はさっきの場所まで連れて行った。

エミリーはスマホで電話をかける。

「おはよう花音。今どこ?……うん、やっぱ迷ってる。

 左曲がったところ?高瀬が言ってた場所ね」

やっぱり、あのとき見たのは名波さんだった。

しばらくすると、名波さんがこちらに気づいて手を振った。

「エミリー!高瀬くん!ありがとう!迷っちゃって!助かった!」

満面の笑顔だった。

その隣で、エミリーの顔は見たことないくらい怒っていた。

「ねえ高瀬。花音かもって思ったのに、なんで見捨てたの?

 見損なったんだけど」

「いや、人違いかと思って……ごめん」

「最低」

そう言い残して、エミリーは先に博物館へ戻っていった。

名波さんは、なぜかずっと笑っていた。

見学が始まり、ゼミのみんなで館内を回る。

エミリーの近くに行くと睨まれるので、少し距離を置いて見ていた。

帰り道、気まずさを引きずりながら歩いていると、

前方にエミリーが早足で駅へ向かっていた。

「エミリー!さっきはごめん!」

振り向いたエミリーは、少しイライラした様子で言った。

「高瀬のこと、もう知らない。私このあとバイトだから。じゃあね」

そう言って、あっかんべーをして去っていった。

(やってしまったな。)

落ち込んでいると、後ろから肩を叩かれた。

「怒られてるの!」

振り向くと、名波さんがいた。

「今日はごめん!」

咄嗟に謝ると、名波さんは笑いながら言った。

「ほんと高瀬くんって……許さない!」

「ごめんって!」

「えー、どうしよっかな〜」

「どうしたら許してくれる?」

「じゃあ、ご飯奢りね!」

「分かった」

内心、ガッツポーズだった。

僕らは渋谷駅に向かい、名波さんが前から行きたかったというハンバーグ屋に入った。

15時過ぎなのに、店内は女性やカップルでそこそこ賑わっている。

(女の人とご飯に来るの、いつぶりだろう。)

中学生のときに行った氷見の寿司屋以来かもしれない。

名波さんはメニューを見ながらつぶやく。

「やばい、美味しそう……」

「高瀬くんは何食べる?」

「えっと……おすすめで」

「おすすめってどれ?」

「このチキン南蛮とか」

「それおすすめじゃなくない?端っこにあるし」

「あ、そっか……じゃあ普通のハンバーグで」

「普通のハンバーグってどれ?

 高瀬くん面白いね」

「いや、テンパってるだけで……」

名波さんはくすっと笑った。

「女の子とデートとか、あんまりしたことないでしょ?」

「ほぼない。てか引いた?」

「全然。経験とか関係ないよ。

 むしろ高瀬くんモテそうだけど」

「いやいや、全然だよ。

 名波さんこそモテるでしょ?」

「うん、モテるよ。今彼氏いるし。

 彼氏できる前は告白されまくったよ」

「彼氏って同じ学部?」

その瞬間、名波さんの表情が少しだけ変わった。

「社会人。年上。……そんなことより、早く決めて!お腹すいた!」

料理が運ばれてきた。

小ぶりのハンバーグの上に、とろけたチーズがたっぷりとかかっている。

フォークとナイフではなく、箸で食べるスタイルだった。

名波さんは一口食べて、目を輝かせた。

「やばい!めっちゃ美味しい!」

この人、感情がそのまま出る人なんだな。

そう思った。

その日は、LINEを交換して別れた。

エミリーにどう謝るかという悩みと、

名波さんと過ごした時間の高揚感が混ざって、なんとも言えない気分だった。

それから、名波さんからLINEが来るようになり、

昼休みに一緒にご飯を食べることも増えた。

その日あったこと、サークル、バイトなど。

いろんな話をしてくれて、楽しそうに笑う姿を見るのが好きだった。

その反面、彼氏がいるのに僕に色んな話をしてくれるのは何故だろうと思った。彼氏の話しも全くしないのも何故だろうとも思った。

この状況を誰かに相談しようと思ったが、

エミリーにキレられてから、いつものメンバーたちと少し疎遠になっていた。

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