ヤバイかもしれない
「はーい、今日のメインを配るよ〜。みんな、並んで並んでっ」
食堂に入ると、シスター・アニーがにこやかに声を張りあげていた。なんだか、いつもよりウキウキしている気がする。
「大きい子たちは、小さい子の分も配ってあげてね~」
「「はぁーい」」
みんなで並ぶと、前の子どもたちの方から歓声が上がった。
「わぁっ!」
「お肉おっきい!」
「すげー! 今日ってパーティー!?」
大騒ぎしながらも、こぼさないようにそぉっと自分の席に戻っていく。
チビたちが持っていく皿の中身を見て、ノギは目を丸くした。
(ホントだ。いつもより、なんか豪華)
大皿には肉の入ったスープ。しかも、ちゃんと“肉のかたまり”ってサイズ感の、めったに見ない大きな肉。
「ふふ、騒がないの」
シスター・アニーが笑いながらスープをよそっていく。
ノギの順番になり、もらったスープをまじまじと見てしまった。
(すごいすごい、ちゃんと肉だ。いつもは“肉の味がする何か”なのに)
「今日は、良い報告があります」
みんなが席についたところで、院長先生が静かに口を開いた。大騒ぎしていた子どもたちは、少しだけ声を小さくして院長先生のほうを向く。
「この孤児院に、支援をして下さっている商人の方がいます」
院長先生は、優しい声で続けた。
「その方が、レオを養子として迎えたいとおっしゃって下さいました」
一瞬、しん――と静まり返って。
「「えええええっ!?」」
食堂がひっくり返ったみたいに騒がしくなった。
「レオが!?」
「すげぇ!!」
「いいなぁ!!」
子どもたちのリーダー格の少年が、真っ赤な顔でパタパタと手を振る。
「ま、まだ決まってねぇし!」
「もう決まったようなものですよ」
院長先生が嬉しそうに微笑む。
「今日のお肉も、その方から皆へのお祝いとして頂きました」
「「うおおおおっ!!」」
歓声が上がる。
近くに座っていた子どもたちがレオの背中をバシバシ叩き始めた。
「英雄じゃん!」
「レオすげー!」
「商人だって! 貴族!?」
「だから違っ……いてっ、叩くなって! あー、もう! お祝いしてくれて、ありがとうございます!」
立ち上がって頭を下げるレオに、拍手が降り注ぐ。
わあわあと騒ぐ声を聞きながら、ノギはぼんやりレオを見ていた。
レオは孤児院の中で、わりと人気者だ。勉強も頑張ってるし、愛嬌もある。「焼き払え!」とか言いながら浄化の魔法ごっこをして遊んでいたのもレオだ。ぱぁっと輝くように笑う顔は、誰からも好かれると思う。
(そっか……)
豪華なご飯にちょっとウキウキしていた気持ちが、すぅっと冷えていく。
私が面倒をみていたレオの方が、私より先に孤児院を出る。
(いやいや! 良い事だよ。レオが選ばれなかったからって、私が選ばれるわけじゃないし!)
ノギはスプーンでカチャカチャと音を立てて、大きな肉のかたまりをつっついた。スープからゆらゆらと立ち上る湯気が、そのままノギの心のようだ。ゆらゆら揺れて、頼りない。
お祝いムードがだんだん落ち着いてくると、今度は肉の取り合い合戦が始まる。
「シスター、おかわりってある!?」
「少しならあるわよ〜」
「よっしゃ、オレ食べ終わったからおかわり〜」
「他のが食べ終わってないじゃん! ズルはダメだよっ」
今度はぎゃーぎゃーと騒ぐ子どもたちの声を聞きながら、ノギは黙々とご飯を食べていた。
「ノギ姉ちゃん」
隣から、レオがひょっこりと顔を出した。
「……なに?」
「えへへ。オレ、商人の息子になるかもしんない」
「うん。すごいじゃん」
「だろ?」
ふんっ、と胸を張る。
でも、そのあと少しだけ声を小さくして
「ノギ姉ちゃんも……がんばれよ!」
と続いたので、ノギは返事をするのが遅れてしまった。たたみ掛けるようにレオは話を続ける。
「だってノギ姉ちゃん、まだ仕事決まってないんだろ?」
「うぐっ……」
むせた。油断していたところに、いきなり言葉の暴力が降りかかってきた感じだ。しかも悪気はゼロ。
「なんか、アレだよ、良いとこ見つかるって!」
レオがニカッと笑う。
ノギはピキッと固まった。
(こいつに、心配されてるレベル……!)
◇
消灯後。
(ヤバいヤバいヤバい……!!)
ノギは小さなベッドに寝転がりながら、睨みつけるように天井を見ていた。
教会の下働き。このまま孤児院に残って、そして教会に行って、ずっと“ハズレの水魔法使い”として生きるのか。
(このままずっと、可哀想だね、仕方ないよね、って顔されるのは嫌だ)
両手で毛布をぎゅっと握って、頭の上まで引き上げる。そのまま毛布にくるまって、ゴロゴロと寝返りを打つ。
(あー、どうしよ。明日、もう一回来るって言ってたし。うー、眠くなってきた)
体が温まるとウトウトしてきて、考えがまとまらない。
(とりあえず会って。お店の話を、もう一度聞いてみよう、かな……)
そうしてノギは、不安をゴチャゴチャと抱えたまま、ゆっくり目を閉じた。




