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わらしべ聖女〜ただし、私の配役は藁(ワラ)のようです〜  作者: まめ まめみ
王国編

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20/20

ミカンから布⑤誰の作品

 少し参考にするだけだ。こんな落書き、作品と呼べる代物じゃない。線は歪んでいる上に、人のバランスもおかしい。

 ただ、発想だけは面白い。だから僕が整えて、使ってやろう。

 

 誰もいない個室で、アーノルドはデッサン帳を広げる。書き直し、形を整え、素材を考える。そうして、現実のドレスへ落とし込む。


 出来上がった作品を見て、ようやく安心した。

 あの落書きとは別物だ。最後まで仕上げたのは自分だ。

 ならば、僕の作品だろう?

 そう結論づけてしまえば、アーノルドの中に罪悪感は残らなかった。



 ベルガモットの作品発表会以降、オランジェールのエントランスホールにはデザイナーのディスプレイスペースが設けられた。

 仮縫いまで仕上がっているドレスが飾ってあれば、それを見た貴婦人たちは「当日はどれほど素晴らしくなるのか」と思いを馳せ、とあるお茶会で話題を攫ったドレスがあれば、そのデッサン画や使用した布地が煌びやかに飾り付けられ。


 ディスプレイの期間はおおむね1週間から2週間程度。どのデザイナーの物が並ぶかは行ってみないと分からないが、それもまた来た者を楽しませていた。


 アーノルドの仮縫いのドレスが展示されたのは、そろそろ雪の気配を感じ始めた頃のことだった。

 床に広げられた白銀の布の上に、何枚もの濃い紅色の布地を重ねた、ボリュームのあるスカートのドレスを着たトルソーが置かれる。お披露目すると、大反響だった。


「雪の中で咲く花のようね!」

「こんなドレス見たことないわ!」

「アーノルド様の新作ですって!」


 大興奮する貴婦人たちの声。


「他のデザインも見てみたいわ」

「次はいつ展示されるの?」


 久しぶりにベルガモットより目立ったことで、アーノルドはようやく充足感を覚える。


(そうだ、評価されるべきなのは僕なんだ)


 ところで、ノギはそのディスプレイスペースの手伝いも行っていた。


 配置そのものは、もちろんデザイナーと見習いが行う。ノギは、シャンデリアの埃を落とし、配置するスペースをチリひとつ残さず掃除し、搬入時に物を引っ掛けないようにあれこれ移動する係だ。


 なので、アーノルドの仮縫いのドレスをノギが見たのは、展示されてずいぶん経ってからの事だった。


 話題のドレスが気になって、開店前のエントランスホールに向かう。ドレスを見たノギは既視感を覚えた。

 

(あ、あれ?? たまたま??)


『あーっ。私のドレスー!』

『お花のドレスだー!』


(だよね)


 全部ではない。スカートの長さも、装飾の配置も。全てが同じでは無い気がするが、夏のある日に妖精たちに頼まれて描いた、あの絵に似ている。


 あの時のメモ帳は紛失してしまった。妖精たちの興味が別の遊びに移ったため、あれ以来描いた事がなかった、妖精たちのドレス。


 微妙な話題だし、なるべく周りの目がないほうが良いだろう。そう思ったノギは、自室にこもるアーノルドのもとへ向かう。


 部屋を訪ねると、扉は開け放ってあった。部屋の中には、淡い金髪を無造作に後ろにまとめ、銀縁眼鏡をかけたアーノルドが見える。机に向かって、何かの作業中のようだ。


「アーノルドさん、あの……」


 アーノルドに声をかけると、いつもの穏やかな表情で振り返った。しかし、声をかけたのがノギと知るや、紺色の目をすぅっと細めて冷めた顔になった。


「あぁ、雑用の子か。見て分からない? 忙しいんだよ」


 アーノルドの机の上には、大量のラフ画や資料が広がっている。


「すいません、あのっ。仮縫いで飾ってあるドレスの事なんですけど……っ」

「あぁ、あれ? これが最初のラフ。こっちが決定稿。何か問題でも?」


 最初のラフは、ほぼあの時の妖精のドレスのままに見えた。


「そのラフに似た絵が描いてある、メモ帳を知りませんか? あの、私が落とした物で——」

「は?」


 低く、冷たい声が聞こえた瞬間、ノギの心臓がドクっと跳ねた。


(怖い……っ)


「あぁ、あれか」


 机の引き出しから、ノギのメモ帳を取り出して見せる。


「それっ。あの、それ私の——」


 言いながら、なぜか目頭が熱くなる。胸が詰まったように苦しい。なんで今、泣きそうになっちゃうの。

 そんなノギを見て、アーノルドは、はぁっとため息をついた。


「だから女性は感情的で困るんだ」

「え?」

「このデザインは自分の物だって言いたいの? 証拠は?」


 証拠と言われてノギは固まる。考えもせずに話しかけてしまったけど、どうしよう。証拠なんてない。


(妖精が着てた服を、私が描いたんです、なんて言えないし)


 妖精が見えることは秘密だ。そうなると、自分で考えたって言い張る? ……それも違う気がする。


「でも、それ——」

「下働きの落書きに価値なんてないでしょう」


 そう言いながら、メモ帳を引き出しに投げ入れる。


「とにかく、忙しいんだ。出ていってくれ」


 ノギを部屋の外に向かってぐいぐいと押し出しながら、アーノルドは話し続ける。


「悪質な言いがかりをするなら、マダム・セドラに言って君の処遇について考えさせてもらう」


 そうダメ押しをすると、馬鹿にしたように鼻で笑って扉をバタンと閉めてしまった。


「な、な……」


(何あれ、何あれー!)

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