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こちとら命懸けてねぇんだわ。  作者: もち。
西の国とのつきあい方
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18

大体ざっくりと説明を聞いてもやはりどうにもならんな……と思わず額を抑えてうぅむ、と小さく呻いてしまう。

「……つまり、先ずはその神具とやらを修復する必要がある……と言うのは解りましたが……」

どないすんねん。である。

杯を満たす……ねぇ?そもそもどれくらいの大きさなのかすら解らん。見て初めてアクションを起こせるのではなかろうか。

あとできれば海くん返して下さい。おねーちゃんもう心細くて死にそう。マップを見たら左の建物で何か黄色い点にわらわら囲まれている海の青い点。増えてない?点増えてない?こっちの城はすれ違う人々皆オレンジとか赤だったのに、何でそっち黄色ばっかなの?そっち平和なん?私もそっちが良かった。

どうせ殿下的には持ち運ぶのに海はちょっと重いなぁとかそんなチョイスで私を担いだのだろうが、失礼極まりない話である。

「……祭壇に、ご案内頂けますか。できれば、弟も同行させて貰えると助かります」

「え……?」

私が要望を伝えると、さも意外であると言わんばかりの顔で殿下の弟が声を漏らした。なんぞ、と思って視線をやれば、少し動揺したように口元に手を当てている。

「……何か?」

「い、いえ……あの、先程……馬車の所にいらした、もうお一方、が……その、弟様なのでしょう、か?」

「そうなります」

担がれて走り出された際に、海は私にねーちゃんと声を掛けていたではないか。他にいないだろうに。

「……兄、ではなく?」

そっちかよ!

「弟です。間違いなく、弟です。私は、こう見えて、もう立派な成人で……!ノクト殿下よりも遥かに年上です……!」

何なら殿下の兄よりも年上である可能性すらあるわ!

こんなどう見ても少年である子供にまで子供に見られていたなんて屈辱である……っ!畜生、平均値が憎い!

嘘だろお前、みたいな目で揃って見てくるのほんとやめて……!心底辛い!

いや、でもまぁ今はそんなことはどうでもいいのだ。祭壇に案内して頂きたいのだ。海とセットで。

「失礼だろうウォルテ。いくらソラが小さくとも、大人の女性なのだぞ」

お前が一番失礼なんだわ殿下テメェ。

「ノクト、お前も失礼だろう。腕様の御名を呼び捨てるなど……不敬であろう」

殿下の兄が眉を顰めて殿下を嗜める。

「あ、いえ。そこは問題ありません。むしろそんな敬って貰うようなアレではなくてですね……是非そのままでお願いします」

むしろ妙に恭しく接されても、その、なんだ。困る。

「ええと……そう。そうだ。私はソラと申します。龍の腕という役職は今しがた知ったばかりですので、どうぞ森の一般人として接して頂ければと」

そう軽く会釈をして自己紹介を、それはもうとんでもなく今更ではあるが成す。そうしたなら、あ、とばかりに目を開いて殿下の兄が佇まいを正し、それはそれは美しい礼を取り

「自己紹介が遅れまして失礼を致しました。ロルクェストの第一王子、ディベル・クライ・ロルクェストと申します」

と、名乗ってくれた。

殿下の兄改めディベル殿下……くっそ背が高い。見上げると首痛いわ何なの。180後半あるだろふざけんな。でも筋肉の厚みは殿下程でもなさそう……?いや、殿下と同じく着やせするタイプかもしれない。油断ならない。顔立ちは殿下にやはり似ている。何なの、遺伝子仕事しすぎてちょっと笑える。でも殿下よりはやや柔和な顔付き、か?微々たる違いだわ。

「あ、はい。よろしくお願いします……?お目に掛かれて光栄です……?」

思わず疑問形で返してしまうわけだが。別段よろしくしたいわけでもないし、見たいとか思ったこともないんだが。できれば殿下で王族接触差し止めくらいで丁度良かったのだが。空さんの対人スキルがもう限界を迎えてしまうので許してほしい。森から出て先、出会いが多すぎてもう駄目だ。ストレス過多。テントでいいから引きこもりたいくらいの気分だ。

そして家名込みでの正式な自己紹介を受けたのってそう言えば初めてだな、と。殿下も何かミドルネーム的なものあるんだろうか……?いや、もう覚えられないからいいや。知りたくない。


そこから怒涛の自己紹介ラッシュが始まった。

国王陛下がベルティメント・バルカ・ロルクェスト。王妃様がアリア・リア・ロルクェスト。弟君がウォルテ・ダット・ロルクェスト。妹君がチェルト・リーダ・ロルクェスト……とのことだ。いや、覚えられんわ。え?これ名前だけ覚えたらいい?ミドルネームとか呼ぶことないよね?大丈夫だよね?無理。全然無理。ちなみに別に知りたくなかった殿下のフルネームはノクト・オーネ・ロルクェストだった。

一通り聞いたし何となくふんわり名前だけ覚えた辺りで快癒したての国王陛下を休ませるために部屋を移動することになる。

今度は普通に歩かせて貰えたわけだが、前にディベル殿下、後ろにノクト殿下の殿下サンドで廊下を歩く時にもなんだあいつみたいな視線を感じる……。

ちなみにウォルテ殿下とチェルト姫はご両親と先程の部屋に残った。うんうん、ややこしい話は子供には退屈だもんな。わかる。

一応現在国王陛下が臥せっているので大抵の実務は王太子でもあるディベル殿下と、あと宰相が行っているそうだ。大変だねぇ……若いのに。

通された部屋は応接室のようで、ソファとローテーブルのおかれた品のよい部屋だった。ふっかふかの絨毯がくるぶしまで埋めてくるのを感じながら、森より歩きにくいな、と思う。大きく取られた窓から差し込む陽光はまだまだ昼の明るさを湛え、室内を照らしている。

どうぞ、と促されたソファに浅く腰かけたならその向かいにディベル殿下とノクト殿下が着座した。そうして間もなく、ワゴンを押したメイドさんらしき女性がお茶を運んできて、目の前に並べられる。

いや、和やかにお茶してる場合でもないのだが……。とは言え、祭壇へ至る手続きとか色々あるのだろう。気が急いてもあちらさんの都合も鑑みるべきだ。

並べられたカップをとりあえず鑑定してみれば、普通に紅茶でなんならどっかの国の高級茶葉とか出た。しらんがな。

「腕様の弟であらせられる方をお呼びする為、人をやっておりますれば……少々お待ちください」

あ、海呼んでくれてたのか。

「あ、はい。……ところでその腕様って、弟も腕になるのでややこしいかなぁ……と思うので普通に名前で呼んでいただければ……」

「それは……よろしいのでしょうか。あまりに恐れ多いことで……」

「いや、逆に腕様とか言われても自分の事だと認識できないと言うか……ノクト殿下くらい砕けて頂ければ幸いです」

急な役職なんて対応できないので、森の人くらいの扱いでよろしくどうぞ。殿下も殿下で割と丁寧に接してくれるのではあるが、こちらの王太子殿下よりは余程砕けていて気安い。

そ、とカップソーサーの横におやつを押し出してくるあたりが……もうね。またかと。

「おなかすいてないからね」

「む……しかし、考え事には甘いものが良いと聞いたことがあるのだが……」

「確かに色々考えることは多いけど……そもそも今日だって休憩毎に何か食べてたじゃないの」

「だがソラもカイもそれほど食してはいなかったと思うが……」

「お腹いっぱいなんだって。殿下達と容量が違うんだってば」

もうね。ホントこの若者は。自分が食べられる量は人も食べられると思っちゃいかんよ。

「そう言えば、龍の腕って割と普通に国王陛下は説明して下さったけど、何で殿下聞いたことなかったの?」

「うむ……祭典の折に勉強はしていたつもりではあるが、何故だろうな……?」

こてり、と首を傾げて殿下も解んない、とばかりに答えたなら、殿下の隣でコメカミを抑えたディベル殿下が小さく溜息を吐いた。

「……神具についての詳細は、継承の折に伝えられる事柄だからだろう」

「つまり、兄上もご存じなかったと?」

「そう言うことになる」

へぇ……何か色々あるんだなぁ……。まぁそんなあけっぴろげに神具不具合起こしてるから全国民よろしくね!とか言わんわな。そりゃそうか。

「なのに私が龍の腕だと受け入れられるものなの……?あ、違う。ものなんですか」

「……私に態度を改めろと仰るのであれば、ソラ様もまた、ノクトに対するよう砕けて下さったならと存じます」

「あ、はい。すみません」

思わずしゅんっとしてしまうわこれ。別に叱られたわけではないのだが……。

でも何だかんだで腕様呼ばわりは回避できた模様。よかったよかった。もうね、それ誰やねんってなるからな。

「いえ。お謝りになることはございません。差し出口を挟みました。そして、受け入れられるか、と言うことですが……龍脈に繋がる陛下のお言葉を疑う余地はございませんので」

あ、成る程。私がどれだけ不審であっても国王陛下のお言葉があるから信じるよってことか。

じ、と私を見ながら少しばかり首を傾げて見せるディベル殿下に、私もまた鏡合わせのように首を傾げる。なんぞ。

「しかし未だに信じられないこととして……誠にノクトよりも年嵩であらせられるのでしょうか。私の目には稚い少女に見えるのですが……」

嘘だろお前。稚いとか言っちゃうの。驚き通り越してもはや無だわ。

「ソラは多くの魔力を保持していますので、それが原因では?」

さらっと、殿下が新出情報ぶっこんできた。

「え?魔力多いと何かあるの?」

「ん?それも知らぬ事だったか。うむ。魔力が多ければ肉体は活性化するからな!宮廷充魔師などはもう齢50も過ぎているのに若々しくて驚くぞ!」

嘘だろマジかよ最近妙に肌の調子がいいと思ってたらそんなことになってたのかよ……家に帰ったら母がぴっちぴちになっていたらどうしよう……こわぁ……。

「魔力が多い、とは……?」

「森でソラに魔道具を充魔して頂いたのです。結界と、風の魔道具に至っては二度ほど。それでも随分と余裕があるようでしたので、もしかしたなら宮廷充魔師よりも多くの魔力を有しておられるかと」

あ、そうなん。宮廷充魔師より多いのか。へぇ……それって化け物って言わない?大丈夫?やっぱり人間辞めてた?

「なんと……それは、成る程……それならば、こうも幼い……いや、若々しいのも頷ける」

ほぅ、と感嘆の吐息を吐き出したかと思えばうんうんと頷くように何かしら一人で納得しているディベル殿下。

「幼い身の上であの森を無事に生き抜いてこられたと思えばこそ、不思議に思っておりましたが……成る程確かに大人であらせられるのですね」

どの道幼少期とかあったら死んでるから安心しろよ。あんな地獄で生き抜けないわ常識的に考えて。


そうして話をしていたなら、扉がノックされる音がして三人揃ってそちらに顔を向ける。

ディベル殿下が返事をしたなら、かすかな音を立てて開かれる扉の先にはフォルテさんがいた。

「お呼びと伺い、カイ様をお連れいたしました」

礼を取り、口上を成すその姿は成る程騎士っぽい。

フォルテさんの後ろには知らない騎士が一人いる。……海はどこだ?小さくて見えないとか言わなかろうな。マップに目をやれば青い点が隣接しているので、ここにいるはずだが……?

「どこに、おわすと言うのだ……?」

戸惑ったようにディベル殿下がそう問いかけるのに対して、きょとりと軽く目を丸くしてフォルテさんが肩越し振り返る。あ、そこにいるのか。へぇ……?

あいつもしかして、気配消してる?認識してない状態で接触するとこんな感じなのか……全く見えない。これは凄いな……私もこんな感じだったのかー……

「海、何か言って。見えないから」

「え?あ、すまん。うっかりしてた」

ぱっと、そこにまるで湧いて出たかのように途端その姿が視認できるようになる。その姿を視界に納めてようやっと、ほっと胸を撫でおろした。おねーちゃん一人で割と頑張ったよ。後は任せた。

「ところで俺がいない間に急展開?すげぇ恭しくお迎えが来た件について。普通にびっくりした」

「いや、ほんと急展開。私達の役職が判明したわ」

「マジで?あれだけ放置プレイしておいて仕事あったの俺等。え、理不尽」

「何なら待ち侘びたとか責められたわ」

「いや知らねぇよ。待ってるなら待ってるねって言えよ」

急に現れた海に、殿下はもう慣れたように軽く微笑んでいるが、ディベル殿下はそうはいかない。え?なんで?みたいな顔をしている。確かに初見であれはびっくりするよねぇ……知っていてもびっくりするわ。

「それな。でも文句はさておき、先ず祭壇の神具を見せて貰う事になったから、お前も一緒に見てほしいんだわ」

「ほん?何かそれもややこしいのかよ」

「多分ややこしいだろうねぇ……」

まぁこの世界にきてから先、ややこしくなかった試しがあったと言うのか。いや、ない。

「ディベル殿下、これが弟の海です。ちなみにこいつもノクト殿下より年嵩です、よろしくどうぞ」

「あ、ああ。第一王子のディベル・クライ・ロルクェストと申します……カイ様、以後お見知りおき下さい」

「これは丁寧にどうも。海です。うちの姉がお世話になりまして……」

何で私が世話になった前提なんだよ。失礼な。

ともあれ、海と合流できたならここから神具修復祭壇見学ツアーとなるだろう。できるのかなこれ。全く持って不安要素しかないんだが。上司を選べたらどれほど良かったことだろう……龍の世界的にはこれが普通なの?人間に寄せて考えて頂きたいものだ。

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